海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

天威無縫 3話「夜明」

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「人のおうち壊しといてよく言うよね」

サヴァジャーとして、すぐにでもモンスターを倒しに行かなければ。使命感は確かに抱いていたが、ララテアもコルテも立ち尽くしていた。アルテはヒーラーであり、サヴァジャーではない。戦いの心得はないが、二人を導く必要があった。それが無謀だとしても、無責任だとしても、アルテは構わないと思った。

「ララテア、コルテ。
 私はあなたの二人がやりたいようにやるべきだと思っています。助けたいと思うなら、助けにいくべきだと」
「……うん。それは、そーなんだけど」

イヌがウサギをのぞき込む。ウサギの耳のような髪が邪魔をしていたが、苦しくなるほどにコルテにはララテアの考えていることが分かった。
迷っている。自分の良心に従うべきか、それがクレアと呼ばれていた彼女を苦しめることになるか。彼女と会話をしたとは言い難い。しかし、自分の受ける理不尽を別の誰かが肩代わりすることを、彼女は許せない性格だと二人とも理解していた。
もし万が一不吉な事象を彼女が引き寄せているとすれば。仮定を考えようとして、ララテアははっとして顔を上げた。

「じゃあ、何であいつは生きてるんだ?」
「……? と、言いますと?」
「不吉な事象を呼び込む忌み子なんだったら、生かしてる理由も、なんだったら村へと無理に連れて帰る理由もないじゃないか」

今回の件は不可解なことが多い。彼女を見つけてからモンスターが村を襲撃したタイミング、そしてカラスたちが彼女を迎えに来たタイミングまで、あまりにも狙って起きている。匿っている場所をすぐに暴いて見せた点も、彼らは保護したときからつけていたと考えていいだろう。
確かに、と納得しながら壁のあった辺りをすんすんと嗅ぐ。憑依型のイヌの野性は、イヌらしく嗅覚をコントロールすることができる。ん? と声を上げて、首を傾げ……バチッ! と雷のフラッシュが発生した。

「うお!? ど、どうした!?」
「なんか、気持ちがぶわーってなっちゃった。ちょっとツンとする匂いがした」

よく分からない表現にララテアも首を傾げる。同じ場所まで近づき、嗅いでみるがよく分からない。二人の概念のような不可解な会話も、医療知識があるアルテはもしかして、と鞄の中を漁り、液体の入った茶色を取り出した。

「これでしょうか。ウオノフの花のアロマオイルです。お酒みたいに気を強くする効果があるので、サヴァジャーが戦う前に嗅いで使用……するのですが、獣という生き物そのものに反応する性質上、憑依型か、あるいは契約型っていうちょっと変わったタイプかにしか使えませんがね」
「なるほど、だから共鳴型のララテアは何ともないんだ」
「まさか匂いすら分からないとは」
「いや、匂いは感じるので非常に薄かっただけだと思いますが」

そもそも野性は精神的な作用が強く、気を強くすることで刹那的に野性を強化させることができる。作用の仕組みの関係上、肉体が獣であるか、獣に変化させられることが条件になるが、比較的安全な薬品として利用されている。
強く作用しないよう、離れたところで蓋を開けてコルテに確認してもらう。すん、と嗅げばこの匂いだったとこくこく頷く。そのたびにバチバチと放電するほどにはばっちり作用している。

「じゃあ、あいつらはウオノフの香を使って野性を強化して、うちの壁をぶち抜いた……か、あるいは憑依型が翼を作るために一時的に強化をしたか……」

基本的に野性を強化させる薬品は身体に負荷がかかるため、安全性が高いものでも連続での使用は禁止とされている。酒を飲みすぎると中毒症状が起きるように、ウオノフの香も乱用すると危険な代物だ。不調で済めばまだいい方で、最悪野性が暴走し制御できなくなり取り返しのつかないことになる。
もう少し詳しく知りたいとララテアはアルテに頼み、解説を促す。彼女曰く、この手の薬は本来の野性が強ければ強いほど強い効果が表れる。それだけ獣という部分に影響を与える香なのだと説明した。

「…………、…………っ!!」

繋がった。同時に、確信を得た。
これは白いカラスがもたらした不吉ではない。最初からこれは、仕組まれていたことだ。
それが分かれば、ララテアはもう迷わなかった。トリによって開けられた穴へと向かって走り始める。

「コルテ! あのコンドルの討伐を手伝ってやってくれ!
 アルテ! 今回の件、村長に全部話してくれ! もしかしたらこれは白いカラスがやったって吹き込まれてる! けど全部あいつら追ってきた人間の仕業だ!」
「ララテアお兄ちゃん!? ……おっけー、なんか分かんないけど、こっちは任せて! バチバチっと痛い目に遭わせておくから!」

夕暮れに染まりつつある空へ向かい、ウサギが跳ねた。少し遅れてイヌも後に続いた。向かう場所は別々に、しかし抱く想いは同じとして。未だに巨体が暴れ、火が飛び交い、暴風が生まれ、水が飛散する。そこに雷が加わり、いよいよ戦いは激化していった。



全て仕組まれていたことだ。
彼らはウオノフの香を、野性を強化するためには使っていない。もしウルナヤから追ってきたのだとすれば、必ず追える人物が駆り出される。ウルナヤからピュームまではかなりの距離がある。彼女を見つけ、連れ帰るまでモンスターに一切襲われないなどあり得ない。ならば、当然飛べる者、かつある程度強い者が追跡者に選ばれているはずだ。使用した過程で彼らにも影響はあったかもしれないが、本来の目的はそこではない。

(だからモンスターがあんなに興奮してたんだ)

白いカラスの不吉を捏造するために。それから誰かが白いカラスを見つけるために。周辺のモンスターに対してウオノフの香を振りまいた。
モンスターが活発になれば、当然そのままにできるはずがなく原因を探る。意図的に彼女をベースキャンプに置いたか、たまたま逃げ込んだから利用したかまでは分からない。一方であの場所に彼女が居たことと、ベースキャンプとして利用できることを追っ手は知っている。あそこを利用したのは、彼らだ。
そして誰かが村に連れて帰ることも彼らの思惑通りだ。最後にウオノフの香を利用し、モンスターに村を襲わせる。村には白いカラスが不幸をもたらしたのだと嘘を伝え、更に彼女の良心に付け込んで抵抗する意志を奪う。逃げたから、平和な村がこうなったのだ。そう見せつけられたならば、忌み子だと言われ続けてきた彼女はどう思うだろうか。
あまりの卑劣な手口にカッと熱くなった。地を蹴れば、土は抉れて草は焼き焦げた。ウサギは飛べないが、跳ぶことができる。それはただ走るよりもずっとずっと速い。トリの翼を穿つための矢が向かうは、あのベースキャンプだ。

あれは、確実にそこに居る。
白いカラスの不吉を伝え、誰もが妄信したと傲慢であるならば。


「お前よくも逃げ出してくれたな! おかげでこんなところまで来るハメになっただろ!」
「う゛っ……! う、げほっ、がっ……!」
「神聖なる地ウルナヤから離れるなど愚かな行為! ただでさえ穢れた身に更に罪を背負おうとするか!」
「ぃ゛っ……あ゛、ぐぅ……っ!」

何度も何度も蹴られ、殴られ、暴力を受ける。身体が傷んで血を流すだけ、彼らは恍惚な笑みを浮かべより痛めつけた。
生まれてから今まで受けてきた痛み。罪の子として生まれた私を清めるためだと、これは罰なのだと彼らは言った。それだけ本来漆黒であるはずの色が白銀であることは許されないことらしい。

「おい、お前も制裁に加われ」
「え、嫌だけど。穢れるじゃん」
「ちっ、潔癖症が」

痛みが意識を手放そうとするのに、痛みが意識を覚醒させる。何度もせき込み、浅くぶつ切りになる呼吸で何とか息をする。じんわりと涙がにじみ始めるが、気に入らないと横たわる白いカラスの腹部に強く一蹴を入れる。

「お前が逃げなきゃ、こうはならなかったのになぁ!」
「か、はっ……!」

強く身体が跳ねる。めき、と嫌な音がする。胃液と空気が無理やり吐き出され、せき込むことすらできない。
村に居ても、逃げても、結局行きつく先は力による制裁。逃げた先の彼らの善意まで利用してくるとは思わなかった。きっと何人か死んだだろう。自分が厄介ごとを持ち込んだせいで、平穏な暮らしが壊された。
自分が逃げなければ、あんなことにはならなかったのに。私などに手を差し伸べてしまったがばかりに。

「そう。君が逃げ出さなかったらこうはならなかった。
 きっと恨んでるだろうね、あの人。君が来たせいで、平穏が壊された。いい人だったね。村の人からも慕われてたんだろうね」

つまらないものを見るような目だった。
小柄なワシは、吐き捨てるように言った。

「君に助けてもらえるほどの価値なんてないよ」
「…………ぅ、あ、」

もしも、私を村へ連れ込んだせいであの人が責められたら?
見捨てていれば平穏のままでいられたのだったら?
私があの人に見つからなければ。上手く逃げていられたなら。そもそも、逃げ出していなければ。
忌み子として、罰を受け続けていたならば。

「……ごめん……、なさい……ごめ…………なさ…………」

鳥かごに囚われた鳥は、鳥かごの中で生涯を終えるべきだった。
それが定めならば、逆らうべきでなかった。
強い罪悪感と後悔が罪意識として心を蝕む。今更の謝罪を、何度も何度も震える言葉で吐き出して。

「―― ここの利用許可を出した覚えはないんだが」

肌を焦がすような熱を感じて、地べたでのたうち回る白いカラスが見上げる。
炎を纏ったウサギがそこに立っていた。


白いカラスは酷く痛めつけられていて、飛べる状態ではなかった。ならば、自力で飛んで村へ戻ることはできない。夜も近いことから、見通しが悪い状態ですぐに村へと戻ろうとするとは考えづらかった。
ならば、どうするか。一夜を過ごすためにも、完全に抵抗する力を奪うためにも、気に入らないそれを痛めつけるためにも、安全な場所に一度向かう可能性が高い。そして彼らはこの辺りで最も近いベースキャンプの場所を知っており、利用もしている。結果、ララテアが向かった先に、それらは居た。
ランクの高い野性でなければ翼は常時発現しない。3人共、彼が現れたときには翼は消えていた。白いカラスの翼は見つけたとき以上に痛めつけられており、歪んでいた。

「……へぇ? お前、こいつを助けにでも来たのか?
 けど言っただろ? 白いカラスは不吉でロクでもないことばかり起こしやがる。お前の村で起きたことだって」
「それをやったのは、お前らだろ」

対話は不要だ。自分にとっても、彼らにとっても。
炎が抑えられなかった。拳を、足をそれが包む。獲物を狩る眼光で、ウサギは目の前の人物を睨んだ。

「お前らが村をめちゃくちゃにした。こいつを連れて帰るために俺たちを利用した。
 それを、あたかもこいつがやったように騙って! お前らはこいつを白いからって理由だけで痛めつけて、苦しませた!」

可哀そうだとも思わない。それが白に生まれた者に対する罰だから。
それが彼らの村では当たり前だった。だから、それを許せるか? 答えは、否だ。
くつくつとトリたちが笑う。この世界では、揉め事は力で解決する。力が全てを決める。ばさり、翼を広げお互いに臨戦態勢となる。

「……俺はお前らを許さない。
 お前らの行いを、俺は絶対に許さない」
「はん、威勢のいいウサギだな。
 ウサギ一匹が俺たちに勝てるとでも思って――」

パン! 炎が、爆ぜた。
言い終わるより先に、一匹のカラスの腹部を燃え盛る拳が貫いていた。

「がっ――」

小柄な身からはとても想像できない力が襲い掛かった。技と呼ぶには何も洗練されていない、ただ怒り任せにありったけの力を込めた渾身の一撃だった。
それは時に下手な技術よりも恐ろしい。自分よりもずっと大きな相手を吹っ飛ばし、壁へと叩きつける。ガン! と音が響けば、固い岩壁が掘削されていた。

「へぇ、やるじゃん」

ひゅう、とワシが口笛を吹く。感心したその次には無数の羽の苦無を展開し、ララテアへと向ける。風属性の力を乗せ、地面へと縫い付けようとする。
それを、ウサギはくるりと宙で一回転し、全身を炎で包む。羽はたちまち焦げる匂いと共に灰と化し、役目を失う。着地と同時にもう一匹のカラスが闇色の弾丸を打ち出す。

「――っ」

そのまま姿勢を低くし、地面へ伏せる。弾丸は肩を掠め、服の布と微かに肉を抉る。血がぱっと散ったが、その程度だ。
痛みが闘争本能を加速させる。跳ね、狙うはもう一人カラス。腹部へと拳へ一打、そのまま身体を捻り炎を纏った蹴りを入れる。

「ご、ぁ――!」

逆に地面へと落とされ、火傷を負う。致命傷でもなければ数日安静にすれば十分完治する範疇だ。それでも、暫くは動けないだろう。
あと一人だと小柄なワシへと向き直る。なおも澄ました表情で、ワシは自分の羽を一本むしり取った。

「ねぇ、正義のつもり? 放っておけなかった? でもさ、変異種ってそもそも不安定な遺伝子で、扱いきれない力で災いをもたらすことが多いんだよ? 助けた後どうすんの? これのせいで今後、君だけじゃなくて色んな人が傷つくことになるかもしれないんだよ?」

毟った羽をふぅ、と吹けば、それは暴風となって洞窟内を襲う。
地面へ倒れているカラスたちは吹き飛ばされず済んだが、小柄なウサギは簡単に宙へと放り上げられる。巻き上がるのはそれだけではない。洞窟内にある備品も吹き飛ばされ、襲い掛かる。

「同じになりたくなかっただけだ。お前らのような下種と」

天井へと叩きつけられるより先に身を回転させる。天井へ着地し、ひっくり返った上下をものともせず、跳ぶ。

「お前らの事情なんか何も知らないし知る気もない。
 けど、こいつはずっと苦しんできた。誰もこいつを助けなかった。誰一人として味方なんていなかった」

直線的な軌道。一回転し、脳天へと足を振り下ろそうとするが、すぐにワシは後ろへと跳ぶ。翼を広げ、着地点へと風の刃を発生し、放つ。

「誰もが敵の世界で! 誰か一人くらい、味方がいたっていいだろ!」
「―― !」

炎が盛る。風の刃を躱すことは考えず、ただ一撃を与えることに注力する。
属性上ではウサギの方が有利であったが、力量はワシの方が高い。攻撃は届くだろうが、ウサギも相応の痛みを覚悟することになるだろう。

「……天照らす偉大なる光よ。
 恵みの空を築きて焔の祝福を与え給へ」

祈りにも似た詠唱。白い翼が神々しく輝く。
清らかな光を放てば、それはこの場を暖かく包み込む。

「盛れ、焔。燃やせ、骨の髄まで」

太陽の力は、炎の力を強化させる。
ワシの狙いは的確であった。祈りにより、そのウサギの一閃が速まらなければ。

「―― 炎兎蹴ラビット・フット!」

獄炎を纏った一撃が撃ち込まれる。
洞窟内に収まりきらなかった炎が溢れ、辺りを焼いた。



気絶している内に3人を縄で縛り、纏めて村へと引き渡すことにする。自分で処遇を決めるより、適切な処罰を与えてくれるだろう。真っ先にやらなければならなかったことを終えれば、ララテアは倒れている少女の方へと向かった。
酷い状態であった。服には血が滲み、殆ど肌が見えなくともその状態を想像させられる。すぐ傍でしゃがむと、頬へと手を伸ばした。

「ごめんな、来るのが遅くなった」

躊躇わずに追いかけていれば、ここまで痛めつけられることもなかっただろう。やるせなさに眉尻が下がる。少女は身体を起こすことはできず、掠れた声でララテアに尋ねた。

「……どうして……助けて、くれたんですか……?」

理由は聞いているはずなのに、訳がわからなかった。
自分をそれこそ討伐し、村へと突き出せば『汚名返上』として許されたかもしれない。しかし、自分を助けてるということは、たとえ真実でなくとも村を襲撃した者に加担したとみなされるだろう。
そもそも、身を挺して己を助ける理由が、どうしても分からなかった。

「だって、嫌だろ?
 そこのトリに好き勝手やられたのに、お前を悪者にするなんて。お前を悪者にしたら、それこそ俺も、村の人たちだって共犯者だ。そうなりたくなかった、それだけだよ」

それに、と言葉を続ける。少しだけ口元が綻んでいた。

「今までずっとこんな風に酷いことされてきたんだろ? それこそ、差し伸べられる手も信じられないくらいに。
 だから、お前が助けてって言える人になりたかった。お前がいつか誰かを信じられるようになるきっかけになれたらいいなって」
「…………なんで、私は……あなたたちに、酷いこと、したのに……」
「だからそれはそこのトリたちの仕業だろ?
 あ、さては逃げ出さなかったらよかったって思ってるな? 逆だよ逆」

生まれてから今このときまで、お前は忌み子なのだと言われてきたのだろう。その言葉に縛られて、己の存在を己が肯定できない。そのまま村で過ごしていたとすれば、それは彼女が忌み子として理不尽を受け入れることを意味する。理不尽に虐げられ、迫害にも似た扱いを肯定するということだ。
しかし、逃げ出したということは、それを否定できたということだ。ちゃんと理不尽と認識し、抗おうとした。村の者らを是としなかったのだ。

「ありがとう、こうして逃げてきてくれて。あいつらに負けないでいてくれて。
 今まで辛かったな。痛かったな。もう大丈夫。大丈夫だからな」
「…………は、」

どうしてこの人は。そんなもの、甘い言葉で安心させて、結局裏切って彼らと同じく自分を虐げるのだ。少女の中で、信じるなと警告が発される。
優しいと思うな。付け込まれる。もしかしたら気を失っている間に追っ手と協力する約束をしたのかもしれない。悪い予想をしていれば、裏切られたときに大きな傷にならなくて済む。自己防衛の言葉をいくつもいくつも並べたけれど、それは意味を成さなかった。

「…………ふ、うぅ……っああぁっ……!!」

与えられた熱で、感情のダムが決壊する。一度壊れてしまえば、もうどうにもならなかった。痛みも、警告も、何もかも無視して声を上げる。与えられた優しさを不器用に感受して、縋るように手を伸ばした。
その手を握りしめてくれた手は、随分と暖かかった。力が入らない分、力を籠められる。力強く、安心できる。


「痛、がった……! ずっと、ずっど、いだ、くて、苦しぐ、で、殴られて……蹴られて、羽も、毟ら、れ、で……痛かっ、た、いだがったぁ……!!」
「……うん。…………うん」

白いカラスにオレンジのウサギが寄り添って、額をくっつけた。
太陽はすっかり姿を消していて、お互いの顔はよく分からなかったけれど、ウサギはそれがちょうどいいと思った。きっと初めて吐露したそれを、誰かに見られたくなかっただろうから。

  ・
  ・

幸いなことに死人はでなかったらしい。しかしコンドル型の襲撃があった家の者は、重傷を負い治療が長引くことになった。負傷者も多く、破壊された家屋の修理も必要だった。
大型のモンスターを持ち帰られるララテアにとって、四人を運ぶことは問題なかった。しかし辺りは暗く、血の匂いに釣られてモンスターが襲ってくるかもしれない。一人で四人を連れて村へ戻るのは危険だと判断し、村の者が見つけてくれるのを待った。
村の者が彼らを見つけたのは日付が変わって真夜中だった。居場所の目途こそ立っていたが、負傷者が多く、すぐには駆け付けられなかったそうだ。少女を追ってきた彼らには監視をつけ、被害の修繕を手伝わせることとなった。その後のことはまだ決まっていないが、ウルナヤへと帰ってもらうことだろう。
そうして凡そが丸く収まり、少女を背負ってララテアは村へと帰還……しようとして、村の入り口で待ったをかけられた。出迎えたのは見張りのサヴァジャーと、村長だった。

「ララテア。今回の件、大変だったな」
「……ありがとうございます」

労いの言葉に含まれる微妙な距離感を、ララテアは感じ取っていた。ピュームの村長はウシ型の60歳を超える老人だ。野性を知らない40代の人間が、ちょうど村長と同じような見た目になるだろうか。見張りのサヴァジャーへ目くばせをし、小さく頷くと腕を組んで高圧的にララテアを見下した。

「そのカラスは村へ入れることはできぬ。連れている限り、おぬしも村へは決して入るな」
「…………」

ある程度予想はできていた。ずっと高くから降り注ぐ深い黒色の奥底を見る。ララテアの腕から小刻みに震えが伝わった。

「せめて、彼女の治療だけでもさせてもらえませんが」
「ならぬ。どうしても助けたいというならば村の外でやれ。そうして捨ててこい、さすれば入村を認めよう」
「彼女がやったことではなく、全ては追っ手がやったことだとしても、ですか?」
「そもそも厄介ごとをそれが引き連れてきたのだ。別の追っ手が来ないとも限らぬ。その都度村に被害が出ることをお前は『仕方のないこと』で済ませと言うか?」

村長が故に、村の秩序を守らなければならない。危険を排除し、民を守り、彼らを律する。秩序を乱す要因を許容しないのは、彼が村長という役目を放棄していない表れだ。
ララテアの選択が委ねられる。白いカラスを見捨てて、村へ戻る許しを得るか。白いカラスを連れて、村から追放されるか。待って、とカラスが首を持ち上げた。

「ま、待ってください! 私のことはどうなったっていいです、捨ておいてくださって構いません、ですからどうか、彼のことは!」
「ララテア。お前は聡明だ。この『チャンス』を無碍にするお前ではないだろう?」

ララテアにとって、村長は常に秩序を重んじる良いリーダーであった。硬派であったがその実、人柄が良くて温厚な人間だった。この瞬間もララテアは、この人が村長でよかったと思った。

「分かりました。暫くすぐそこのベースキャンプを借ります。
 この子の傷が癒え次第早急に去ります」
「!? どうして……!?」
「うむ。お前の両親と、それからコルテとアルテにも伝えておこう」
「何から何まで感謝します」

深く頭を下げて、村に背を向ける。歩き出した足取りは、軽やかなものだった。

「健闘を祈る」

後ろから聞こえてきた声に、ララテアは振り返ることなく腕を上げ、応えた。
空を見上げれば夜明けの時だ。明けの明星が瞬いて、思わず感嘆の声を漏らした。若草に溢れた、早朝の清々しい空気を吸い込む。首元に髪がかかり、ぞわりとする。何事、と思えば、少女がララテアへ顔を埋めていた。

「…………」

何も言わなかった。言える立場ではなかった。
自分のせいで彼は村を追放されることになった。それならば、助けずに見捨ててほしかった、とも言えなかった。目の前の人を信じたわけではないけれど、目の前の人が居なければ今頃ウルナヤへと戻っていたかもしれないのだ。
悪い思考を遮るかのように、目の前の人が語る。

「俺さ。夢があったんだ」
「……夢、ですか?」
「うん。俺、村をずっと出たかったんだ」

別に村に不満があったわけではなかった。むしろ、平穏で幸せな暮らしがあったからこそ、村を離れることを躊躇していた。

「カルザニア王国に行って、サヴャジャーとして自分の力がどこまで通用するのかを試したかった。要するに独り立ちしたかったんだ。
 けど、通用しなかったら? 成功しなかったら? ピュームに居れば、家族皆で平和な暮らしができる。住む場所にも仕事にも困らない。それを手放す勇気がなかったんだよ」

カルザニア王国はここより東側にある、世界最大規模の国だ。サヴァジャーという職業も、決闘という文化も、全てここから始まった。今や世界にとって、この国はなくてはならない場所だ。
ピュームでもサヴァジャー同士が決闘することはあるが、元々戦闘が苦手な者が集う、温厚な村だ。闘争本能が薄い者たちには居心地のいい場所であったが、ララテアにとってはそうはいかなかった。そのことを、村長は理解していた。

「不器用だよな、村長。
 あれ、要するに今回のことを理由にしていいから、外で頑張れってことだったんだよ。勿論村の秩序と平和を守るために、お前を入れるわけにはいかなかったのはそうなんだけど」

家族と会えばきっと揺らぐ。長男として弟妹の面倒を今まで率先して見てきた。サヴァジャーの少ないこの村で、家族を始め村人の暮らしを守るために戦ってきた。その誠実な思いだけではなく、ララテアは闘争を求めていた。
野性を持つ者としての本能だった。本来ウサギであれば、そう強くは持たないそれをララテアは強く渇望した。強くなる努力を惜しまなかった。そして、この日確かにその努力が実ったのだ。

「俺はララテア・ラウット。野性カルテはR3 F-Rabbit。お前は?」
「……私はクレア・クルーウと言います。P5 L-α Crow……光属性ですが、副属性の陽を主としてます」


その日、一匹のウサギが村を追放された。
こうして外に出たことは、むしろ願ったことだ。これからよろしくなとクレアへ声をかける。ここからは白紙の未来だ。不安は村へ置いて、東の空を見つめた。
春の快晴の空。一日の始まり。朝焼けが、穏やかに二人を照らしていた。

 

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天威無縫 2話「予兆」

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「野性カルテ、P5 L-α Crow。
 常時異形化が見られるほどの強い野性。それも、これはアルビノと呼ばれる変異種。今回は珍しい人を拾ってきましたね」
「俺がそんな何度も人を拾ってくるみたいに言うなよ。確かに2回目だけどさ」

村に戻り、自室で少女を寝かせた後。お隣さんであるヒーラー ―― 医学ではなく野性の力を使い、人の傷や病を治す人 ――、アルテを呼んだ。20代前半の女性で、若草色のくるりと巻いた髪の毛が特徴の、羊の野性を持つ女性だ。ゆったりとしたロングスカートをふわりと揺らし、自身の口元に手を当て思案する。

「ランク5の野性は1000人に1人の割合だと言われています。変異種となれば、更にその数は減ります。少なくとも、普通の人と同じ人生を歩むことは難しいでしょう」
「訳アリってのは分かってる。この人の傷、全部人為的なものだ」

モンスターは人間より遥かに大きい。多くの場合はその巨体に襲われた場合、一撃で簡単に致命傷となる。対して少女の傷は全て細かく、無数にある。外傷の様子から人間に傷つけられたのだと推測した。

「私たちヒーラーは、他者の野性を活性化させる、あるいは同調させることで自然治癒力を高め、治療します。ですが、強い野性の人や遺伝子が不安定な人は、これが引き金となり暴走を引き起こしてしまうことがあります」
「なるほど、野性的治療は危険ってことだな」
「はい。ですが、医術であればある程度対処が可能です。ヒーラーでもありますが、医者でもあります。ご安心ください」

柔らかく微笑むと、アルテは肩から下げていた鞄から治療するための薬品を見繕い始める。ヒーラーの治療法は相手を選ぶが即効性があり、医者の治療法は相手を選ばないが即効性がない。どちらにもメリットとデメリットがあり、どちらを選ぶかは基本的に治療される側の人間に委ねられる。薬漬けにされることを受け入れられない人間も居れば、他者が持つ癒しの力を受け入れられない者も居る。
野性を宿した人間は身体能力だけではなく、自然治癒力も向上している。アルテの見立てでは、一週間安静にすれば完治するそうだ。されどララテアの表情は暗く、ぎゅっと拳に力が込められていた。

「ララテアは力が入ると周囲が燃えちゃうので気を付けてくださいね」
「あっ、き、気を付けます……」

慌てて拳を解く。連れてきた怪我人と突然の放火心中にはならなかった。
ララテアという人物は落ち着いて物事を考えることができるが、少し血の気が多いところがある。手が早いとまではいかないが、感情的になりやすい。燃えづらい家具を置いているとはいえ、やはり危なっかしいところがあった。

「……ぅう…………」
「あ、起きた! おい、お前自分が分かるか、名前は言えるか?」

うめき声が聞こえ、跳ねるようにララテアはベッドへと近づき、肩に触れる。ルビーにも似た深紅の瞳がゆっくりと開かれると、心配そうにのぞき込むその姿が映りこんだ。

「―― っ!!」

覗き込まれていることが分かるなり、飛び起きて腕を振り払い、距離を取ろうとした。しかし痛めつけられた身体を無理に動かそうとすれば、それは激痛となって少女に襲い掛かる。ぎゅうと身体を丸め、堪えるように蹲った。
払いのけられた手がじんじんと痛む。ララテアは自分の布を巻いた手を見つめ、それから少女の方へと視線を移した。身をこわばらせながら睨みつけられている。敵意というよりかは警戒や不信といった、自分がこれから何をされるかを疑っている表情であった。それは、彼女の身に受けている怪我を思えば凡そ察しがついた。

「悪い、いきなり触って軽率だったな。俺たちは危害を加えるつもりはないから安心してほしい」
「……そう言って、私をどうするつもりですか? 危害を加えるつもりはないと言いながら、なぜあなたは触っていたのですか?」

あぁ、根深そうだ。触れることすら難しそうだが、このまま放っておくわけにはいかない。ララテアは振り返ってアルテへ協力を仰ぐ。アルテはゆっくりと頷くと、用意が終わった治療道具を携えてララテアの隣へと歩み寄った。

「この子、ララテアがあなたを見つけてここまで運んできてくれたのですよ。触っていたのは、意識がない人へ呼びかけるときの基本ですから。
 それはそうとして、です。ここがどこだかは分かりますか?」
「…………」

口を噤んで、返事は返ってこなかった。返事がもらえずとも構わない。疑ったままでも構わないので、まずは敵意がないことを示したい。この村の者でないことは、ララテアもアルテも分かっていた。ピュームは広く、村人を全て把握できているわけではない。しかし、野性ランクが5の、それも変異種が住んでいるとなれば、この村では知らない人はいなくなるだろう。それだけ、野性ランク5の変異種は特別な存在なのだ。

「ここはピューム村。スドナセルニア地方の最西端にある村です。
 スドナセルニア地方でもトップレベルに治安のいい場所ですよ。行き倒れている人をこうして寝かせて手当しようと思う人が居るくらいにはね」
「あの、そんなに俺が助けましたアピールをされると恥ずかしくなるんだけど」

分かっている、これはお隣さんのいい人自慢ではなく無害アピールだ。ばしばしとララテアは肩を叩かれ、むずがゆさを覚えて顔を逸らした。少し疑い深い人であれば、わざわざ場所を教えて自分がどういった立場にあったかを教えるはずがないと判断できたことだろう。しかし、この少女はそれでもなお怪訝そうに二人を睨みつけているのだ。

「うーん。アルテ、コルテのときとおんなじだと思う?」
「どうでしょう。3年前のコルテは何も覚えていませんでしたが、この方ははっきりとご自身のこと覚えておられるようですし……」

ここで少女が疑問符を浮かべる。自分の知らない者の名前が出てきて、自分が今ここに居ることが人違いだと考えたのだろうか。待ってください、と声を上げた。

「私はその人を知りません。ましてやこれは私の問題です、3年前の出来事なんて何も知りませんし関係ありません!」
「……つまり、訳ありってことは合ってるんだな」

最も、それは分かり切っていたことではあるが。ララテアは一つため息をついて、改めて少女のことを見つめ、思考を巡らせていた。
3年前、モンスターが何かに怯えるように逃げていた日にコルテを拾った。彼女には外傷はなかったが、記憶を失っていた。コルテという名前も、彼女の服の中に入っていたネームタグの名前に過ぎず、本当に彼女の名前かどうかは分からずにいた。モンスターが怯えるように逃げたのは彼女に対してだったとも考えられる。しかし、そう考えられる理由は『見つけた際にモンスターに危害を加えられた痕跡が見つからなかった』点しか挙げられない。
白いカラスの彼女は村の外で見つけたこと以外、状況が異なる。モンスターは興奮状態であって何かから逃げているわけではなかった。記憶もはっきりとしており、人為的な傷についても本人は覚えている。たまたま村の外で人を見つけることが重なった、と考えるのが妥当だろうか。
村の外で人を見つけること自体は珍しくはない。ただし、無防備な人間の大半はモンスターに食われてしまうため、そのような人間が無傷で見つかることは珍しいことだ。目の前の人物は無関係だと言っている以上、無関係でいいのだろう。そう結論付けたところで、ある意味タイミングよくこの部屋にぱたぱたとコルテが駆け込んできた。

「ララテアお兄ちゃん! 調べてきたよー!」
「しぃーっ! 怪我人が居る! 大声出さない!」

おっと、と口に手を当てる。手遅れ感が半端ないが手遅れである。
内緒話にした方がいい? とコルテが耳打ちをする。あまり白いカラスの少女に聞かれたくはないが、下手に聞かれないようにした方が疑いに繋がるだろうと判断した。普通の声量でいいとコルテに伝えると、分かった! と胸を張って報告し始めた。

「知らない匂い、ベースキャンプにあったよ。焦げ臭かったから最近誰かが使ってる。
 あとはそのお姉さんのカラスの匂いと、あと知らないカラスとかワシとか、トリ系の野性の人間の匂いしてた」
「――!」

知らないカラスの匂い、と聞いて少女の表情が明らかによくないものになった。思い当たるものがあるのだろう、息を詰まらせ、冷や汗が流れ落ちる。雫がシーツに吸い込まれると同時に、村の上空で大型の鳥型のモンスターが鳴いて、人間には目もくれずに遠くへと飛び去っていった。


「いけません、早く行かなければ」
「事情は何となく察したよ。良くない人に追われてるんだろ?
 だったら今は外に出るのは危険だし、何よりピュームの外の海路は危険なモンスターが多すぎて危険だ。お前、東から来ただろ?」

どうしてそれを、と目を丸くする。スドナセルニア地方の最西がピュームであり、陸地であればこの辺りのモンスターは倒しやすいものが多い。住みやすく巨大な王国があることから、地方別に人口を見たときにスドナセルニア地方の人口が最も多いのだ。
対して少し海を渡れば凶暴なモンスターが多く、海路として活用するには一人では命を投げ出す行為に等しい。空路を使えばまだマシになるが、今の彼女の翼では満足に飛ぶこともできないだろう。そしてピュームは東にしか陸地が広がっていない半島に位置している。地理やモンスターの生息状況を考えれば、一人の力であれば東の陸地から来た可能性が高かった。

「あとは……あなた、ノルザバーグ地方にある境界の村ウルナヤ出身でしょう?」

確認するようにアルテが少女に尋ねる。ララテアとコルテにとっては馴染みがない地名のようで、首をかしげていた。
アルテの問いかけは正解だというように、こくりと白いカラスは小さく頷いた。

「ララテアたちは馴染みがないと思うので説明しますね。ノルザバーグ地方はスドナセルニア地方の東側に広がる広大な大陸のことです。境界の村ウルナヤは、ノルザバーグ地方とスドナセルニア地方の境界線となる山の中にある、トリ系の野性の人間たちが住む集落です。
 ノルザバーグ地方は広さに対してぽつぽつと閉鎖的な村ばかり。そのため因習村が多い地方でして」
「因習村」
「もうそれが全て物語ってんじゃん」

かつてはウラル山脈と呼ばれていたそこは、ヨーロッパとアジアを分ける役割を果たしていたそうだ。今でも名前こそ違えど、2つの地方を分ける境界の役割は残っていた。その山脈の中に存在するウルナヤは関所としての役割を果たしている、というわけではない。むしろトリ型の野性を持つ人間が築く閉鎖的な村は、よそ者を受け入れず迂回を強制させる。山脈の中でも特に道も標高も厳しい場所にあるため、あえてここへ向かう方が大変ではあったのだが。

「……そこまで把握されているなんて」

諦めたようにため息をついて、両手を挙げる。降参の意思を示し、すぐ傍に面していた窓の外をちらりと見て、強く唇を噛んだ。
外は穏やかで緑が広がっていた。家がいくつも建っていて、決して過疎地域ではない。子供の遊ぶ姿や、近所の人が何人かで井戸会議をしている姿も伺えた。
そうして視線を戻し、改めてララテアたちを見る。それがどうしても悲痛なものに見えて、ララテアは拳を握りしめていた。

白いカラスは、いくら黒衣を纏っても黒いカラスにはなれませんでした。
 忌み子なんです。不吉で規律を乱す、よくないもの。私をここへ置いておこうなど、やめた方がいいです。直に、あなたたちにも不吉なことが起こり――」

言い終わるより先に、カラスの言う通りとなった。



「うわぁ! なんか降ってきた!?」
「おい、これ、火属性コンドル型じゃ!」
「うわぁあああああ助けてくれぇえええええ!!」

大型のトリ型のモンスターの鳴き声が響いても、彼らは人間を食べるために陸へ降りることは殆どない。人間を一人食べるより、小型のモンスターを食べる方が効率がいいからだ。そんなモンスターが人間を捕食するべく、空から一軒家を目掛けて空から急転直下する。翼からは炎が舞い上がり、瓦礫同然となった家に燃え移り、盛る。

「お、お前ら!? 生きているか!?」
「助けに行くな! 食われる前に逃げろ!」
「早くサヴァジャーを呼べ! これ以上被害を増やすな!」

モンスターに襲われ、死ぬ者は少なくない。こうして理不尽に襲われることだってあり得ることだ。
闘える者はすぐに集まり、被害の拡大を食い止めようとする。この村にサヴァジャーは少ないとはいえ、想定できている災害だ。すぐに駆け付け、討伐のために拳や武器を振るう。
その騒ぎは、ララテア達のところからあまり離れてはいなかった。ワシという巨大な弾丸が地面を揺らし、転びそうになるが両足に力を籠め堪える。外へと飛び出そうとした刹那、白いカラスのすぐ傍の壁が破壊される。

「! おい、大丈夫か!?」
「なっ、なに!? 何が起きてるの!?」

こちらはモンスターの襲撃によるものではなかった。砂と木くずが煙となり、辛うじて人影を認識できる状況だった。ララテアは急いで少女をこちら側へと引き寄せようと手を伸ばすが、そこにいたはずの彼女を掴めず、掠めたのは虚空だった。

「ほら言わんこっちゃない。こいつはすぐに人様に迷惑をかける」

一人分の低い男性の声。煙が晴れてくれば、大柄な人間に少女の細い腕が掴みあげられていた。少女と同じく背中から翼が生えており、それは少女とは違う漆黒のカラスの翼をしていた。
他にも男が二人傍についており、一人は同じくカラスの翼を、もう一人は小柄ではあったがタカの翼を持っていた。

「随分と大きな火属性コンドル型だったなあ。
 この村にそんな不吉なものを呼び込むなんて……」
「わ、私は、そんなことっ……!」
「していない、って言えるのか不吉な白いカラスが!」

力がこもり、細い腕が折れると思った。白いカラスを虐げている者がはっきりと人だと判明すれば、ララテアは一歩前へと出た。

「……そいつを離せ」
「あ?」
「そいつを離せつってんだドブ色のカラス野郎が!」

啖呵を切る。拳からは炎が燃え上がっていた。
コルテは数歩引いていたが、意を決したようにララテアに並ぶ。バチバチと雷が音を立て威嚇となる。しかし、炎も雷も、黒いカラスには何のけん制にもならなかった。

「おいおい、人の話を聞いていたか?
 こいつがこの村に居る限り、また良くないことが起きるぞ?」
「例え起きたとしても、望んで起こしてるようには見えない。第一、白色に生まれただけで不吉だって決められてたまるか!」
「威勢がいいけどさ。ねぇ、罪の子クレア、君は助けられたい?」

小柄なワシが、白いカラスに耳打ちをする。

「君なんかを助けようとする優しい人たちが、君のせいで傷つくんだよ?」
「…………っ」

外を見れば、まだモンスターは暴れていた。
コンドル型の中でも大型のそれは、翼を広げれば10メートルはあろうかというサイズであった。自在に空を飛び、人間の反撃を容易く避ける。大型だといえど、空を飛ぶ生き物に攻撃を当てることは難しい。加勢する者こそ増えたが、手こずっていることはここからでもよく分かった。
手を振り払おうと、少しは抵抗していた。しかし見せられた不幸の一幕が、何より関係のない者を巻き込んでしまった罪意識が、その意志を諦めさせてしまった。だらりと手から力が抜ける。満足げに、黒いカラスが笑った。

「……抵抗して、すみませんでした……
 どうぞ、私のことは好きにしてください……ウルナヤへの帰還も……従い、ます」

そうして、連れていかれる寸前に。
一度だけララテアを見て、くしゃりと無理やり笑みを作った。

「……あなたの優しさは、どうか別の人へ向けてください」

ばさり、トリが羽ばたく音が響いた。
残された者は、空へ飛び立ってゆく者をただ見つめていることしかできなかった。



天威無縫_設定

重要なネタバレを含まないタイプのキャラ設定です(少量のネタバレはあり)。
ララテアラフ、アウロララフ、キャラクター絵(CW札絵サイズ)はルルクスさんです。他キャラデザインはわんころです。

 

■1章から登場

メインキャラ

ララテア・ラウット
野性:R3 F-Rabbit(共鳴型ランク3 炎属性ウサギ)
身長:153cm
年齢:12歳
性別:男
一人称:俺
二人称:お前
出身:ピューム村
信仰:獣心信仰

性格:
困っている人を放っておけないお人よし。楽観的で前向き。悩むより行動するタイプ。
状況を把握できる視野の広さと聡明さ、怯むことなく戦いを挑める勇猛さ、ウサギの野性でありながら強い闘争本能を持つ好戦性を持ち合わせる。強くなるための努力は惜しまない。

簡単な経歴:
ピューム村に住むウサギの野性の家族。家族仲は良好。昔からサヴァジャー(獣化世界で闘う者のこと)に憧れ、幼少期から鍛錬を積んでいた。7歳という若さでサヴァジャーの資格を習得(5歳以上が取れる)し、その頃から村の哨戒やモンスター討伐を行っている。

 

 

 

クレア・クルーウ
野性:P5 L-α Crow(憑依型ランク5 光属性カラスの変異種)
身長:142cm
年齢:11歳
性別:女
一人称:私
二人称:あなた
出身:境界の村ウルナヤ
信仰:獣静信仰

性格:
疑い深く、人の善意を信用できないひねくれ者の思考をしている。悲観的で慎重な性格。どこか自虐的な部分があり、自分を大切にできない。戦うことは得意ではなく、補助的な野性の行使を中心とする。光属性ではあるが、副属性の陽をメインとする。

簡単な経歴:
白いカラスとして生まれたため、ウルナヤで「忌み子」として扱われ、迫害を受けてきた。ある日、村から逃げ出したところをララテアにより助けられ、彼と行動を共にすることとなった。文字の読み書きは教えられていたようで、特に古書でしか語られないような神話に興味を示す。

 

 

 

コルテ・ラウット
野性:P4 W-Dog(憑依型ランク4 風属性イヌ)
身長:135cm
年齢:8歳
性別:女
一人称:私
二人称:君
出身:不明
信仰:獣心信仰

性格:
明るく人懐っこい。懐いた人にはとことん懐く。一方でどこか警戒心は強く、臆病な気質を持ち合わせている。戦う以外にも野性を活用することができ、一時的に聴覚や嗅覚を上げることができる。風属性ではあるが、副属性の雷をメインとする。

簡単な経歴:
5歳のときにピューム村の外で倒れていたところをララテアに拾われ、ラウット一家に迎え入れられる。拾われる以前の記憶はなく、いつか本当の両親に探しに行こうとしていた。サヴァジャーの資格は取得済。

 

 

 

サブキャラ

アルテ・シエルマリア
野性:L2 E-Sheep(共鳴型ランク2 土属性ヒツジ)
身長:173cm
年齢:21歳
性別:女
一人称:私
二人称:あなた
出身:ピューム村(移住者)
信仰:獣愛信仰

性格:
心優しく面倒見のいいお姉さん。冗談を言うお茶目さがある。読書家で知識が豊富であるため、ピューム村ではヒーラー以外にも知識人としても頼られている。野性は人を癒すために使う。

簡単な経歴:
ララテアのご近所さん。ララテアが赤ん坊の頃に越してきており、一人暮らしをしている。ララテアのことは弟みたいに可愛がっていた。移住する前の人の縁が今でもそこそこあるらしく、顔が広い。





 

 

 

 

 

 

■2章から登場

メインキャラ

フィリア・バルナルス
野性:R1 W-Rabbit(共鳴型ランク1 風属性ウサギ)
身長:156cm
年齢:14歳
性別:女
一人称:あたし、俺
二人称:あなた、お前
出身:紅闘の都ダオドラ
信仰:獣心信仰

性格:
きゃるんきゃるんしたウサギの野性持ち……と思わせておいて、その実口も態度も悪く、強さを追い求め続ける武闘派のウサギ。使えるものは何でも使う精神のため、自分の可愛さも大いに利用する。が、その実人は良く、面倒見のいいお姉さん。

簡単な経歴:
野性が最低ランク、かつ戦いに向かないウサギと発覚してから親に捨てられた。そこで出会った恩師、タルタニアのお陰でこの世界で生き抜く術を身につける。捨てられた理由もあり、「この世は力こそ全てだ」という弱肉強食を芯とし生きている。

 

 

 

レナータ・ロザナス
野性:P2- E-Frog(憑依型ランク2マイナス 土属性カエル)
身長:165cm
年齢:18歳
性別:女
一人称:私
二人称:あなた
出身:?
信仰:獣静信仰

性格:
ド論理人間。でもうっかりや。とんでもないドジ。野性を利用し人を癒すことを「再現性がない」と主張し、医学を専攻している。重要なところでは頭が冷え切り、ドジをすることなく問題を淡々と対処する。土属性が主属性だが草と毒属性も扱うことができ、メインは草属性。毒に対する耐性がある。

簡単な経歴:
シーランの従者として共にカルザニア王国に来ている。でもどこにあるかは教えてくれない(少なくともカルザニア王国ではない)。少なくとも暗い経歴はないらしい。
実際(強めのネタバレ):ジャニアス地方で王族に仕える名家、イバラの娘。ロザナスだけ偽名。シーランが跡を継ぎたくないからと家出したせいでそれに巻き込まれた。外国の知らない薬学を勉強できるぞ、と説得されて嫌々ついてきた。

 

 

 

シーラン・シャルオーネ
野性:?
身長:190cm
年齢:25歳
性別:男
一人称:私
二人称:お前
出身:?
信仰:獣愛信仰

性格:
思慮深いと見せかけて何にも考えていないことが多い。けど思慮深いのはそう。ぼんやりしているときは大概何も考えていない。悪口を言われても涼しい顔で受け流す、なんなら誉め言葉だと喜ぶことも多い。割と軟派。

簡単な経歴:
自身の経歴を語りたがらない。カルザニア王国へ遊びに来たついでにレナータに薬学の勉強をさせている。
実際(強めのネタバレ):ジャニアス王国の王子、ナルカミの血筋。シーランもシャルオーネも偽名で、本名はラグミツ・ナルカミ。野性カルテはC5 A-Seadragon(契約型ランク5 水属性シードラゴン)。家を継ぎたくないから家出した。それだけのお騒がせ王子である。

 

 

 

サブキャラ

サブレニアン・パレイドル
野性:R2 F-Butterfly(共鳴型ランク2 火属性チョウ)
身長:110cm
年齢:6歳
性別:女
一人称:あたし
二人称:あなた
出身:プロアスタル地方のどこか
信仰:獣愛信仰

性格:
チョウやガの野性を内包する者特融の難病を患っている、カルザニア王国のリュビ区にある『朝の陽ざし亭』に居る女の子。病気のせいで大人しくしているが、本来は明るく活発で行動力のある女の子。動けるときは宿でお手伝いをしている。

簡単な経歴:
プロアスタル地方で両親と共に暮らしていたが、難病を患ってしまった。子の病気が少しでも治る可能性をかけて、決死の覚悟でカルザニア王国へと連れて来られた。モンスターに襲われ手負いでたどり着き、カルザニア王国の入り口で子を託して両親は死去。他の子供については語られることはなかった。プロアスタル地方からの住居者は歓迎されないため、どのようにするか悩んでいたところ朝の陽ざし亭の亭主がたまたまその場に居合わせ、引き取った。
赤子の時の出来事なので、本人は全く覚えていない。親を恨んでもいなければ、あまり気にもしていない。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、まだまだ先に出てくる人&出るかも分からん人たちの設定(ネタバレ有。重要なネタバレはなし)
カードワースやってる垢で話してること以上の情報はなし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スィーヤ・エルーサー
野性:R5 R-Cat(共鳴型ランク5 光属性ネコ)
身長:160cm
年齢:15歳
性別:女
一人称:私
二人称:あなた
出身:常闇の王国サルンナ
信仰:獣愛信仰

性格:
臆病。大変臆病。引っ込み思案とかそういうレベルではなく、知らない人を見かけるとすぐに逃げる。人を傷つけたくないが、野性をコントロールできずに苦しんでいる。光属性であるが、陽と月と星の3つの副属性を扱うことができる。副属性は最大2つとされているため本当に規格外。

簡単な経歴:
サルンナのお姫様。しかし、あまりにも強すぎる野性をコントロールできずにずっとお城の中に閉じこもっている。周囲からは邪険に思われるどころか、大陸のモンスターが弱まっており喜んでいる。

 

 

 

アウロラ・エルーサー
野性:C3+ D-Rabbit(契約型ランク3プラス 闇属性ウサギ)
身長:183cm
年齢:13歳
性別:男
一人称:僕
二人称:お前
出身:常闇の王国サルンナ
信仰:獣乱信仰

性格:
シスコン。スィーヤちゃん大好きっ子。スィーヤちゃんが好きすぎるのでスィーヤちゃんのためなら何だってする。人殺しも平気でする。お姉ちゃん万歳。お姉ちゃん以外どうでもいい。

簡単な経歴:
王族の息子。つまり王子。これが王子でええんか? 王族を務めているというよりかは、王族の側近となって王族を手助けしている立場。だってお姉ちゃんのことを手助けしたいんだもん。地位とかどうでもいいんだもん……

 

 

 

カミール・バルナルス
野性:P4 W-Rabbit(憑依型ランク4 風属性ウサギ)
身長:165cm
年齢:17歳
性別:女
一人称:私
二人称:あなた
出身:紅闘の都ダオドラ
信仰:獣愛信仰

性格:
平和主義で争いを好まない。無鉄砲で後先を考えない節がある。暴力的解決を良く思わないが、自分の野性ランクが高く、天性の戦闘の才能を持つため大変力が強い。暴力で本能を満たすのではなく、別の娯楽で満たせられることの可能性を信じ、アイドル業をやっている。
なお実際は彼女の歌はより本能を刺激し、満たすどころか戦闘欲求を鼓舞させてしまうのだが本人は未だに知らずにいる。

簡単な経歴:
フィリアの姉。妹を捨てた親に失望し、家出した。立ち往生していると何やら古い文献を調べている考古学者とヒーラーがおり、「戦わずとも本能を満たす方法」が記された本の実験台になってほしいと頼まれる。そうして始まったのがアイドル業だった。
家出当初は妹から恨まれており、上手くいっていなかったが今では何だかんだいい関係にある。

 

 

 

タルタニア・イベリアル
野性:P1 E-γ Newt(憑依型ランク1 土属性ヤモリの変異種)
身長:135cm
年齢:34歳
性別:女
一人称:私
二人称:お前
出身:紅闘の都ダオドラ(移住者)
信仰:獣愛信仰

性格:
見た目からは想像できないほど女性らしく、冷静に物事を対処できる人物。一方で性格自体は大らか。サヴァジャーの資格を持つが殆ど自分から戦うことはない。
土属性だが副属性の毒をメインとし、毒に対する強い耐性を持つ。

簡単な経歴:
野性が暴走しがちだったため、安定化させるための投薬を続けた結果変異種となった。現在は薬なしでも生活ができる。
ダオドラにて孤児の保護活動をしている。過去に捨てられたフィリアを見つけ、保護をした。カミールのことも気にしていた。今でもカミールとはよく会っており、街を出たフィリアとも顔を合わせることはそこそこあるらしい。



獣化世界(天威無縫) 世界観

■更新履歴
・項目「詠唱」の追加

■はじめに
この世界観でキャラクターを作り、定期ゲームに投下することを許可しています。その他、この世界観を利用して何かしらの創作をする場合はわんころまでご一報ください。基本おっけー出します。



■ざっくりとした世界観
現代ではあるけど、現代のようにはならなかったお話。
人間をはじめ、『獣性』が発達し、身体に獣を降ろすことで驚異的な身体能力を得た『異能者』たちの世界。元々は動物が突然変異を繰り返し急に進化し始めたが、人間には獣性が薄かったため『動物の遺伝子を身に組み込み、人間も世界に順応しよう』としたことが始まり。今やそんなことも過去の話で、「人間も獣であり、目覚めた獣の本能を振るいかざして生きている」と説かれている。
文明レベルはファンタジー世界観に現代の要素が加わった感じ。水道と電気はあるけどガスはない。電気は人々が戦った際に発生する力を回収+野性動物の素材から錬成。イメージとして近いのはポケモンのガラル地方からビル系の建物を撤廃した感じ。現代にもあるものが、現代ではない物と理屈で流通してるって考えるといいかも。

獣性が強まった結果闘争本能も高くなり、喧噪や乱闘は絶えない。その闘争本能を満たすため、ルールに則り戦う「決闘」という文化が築かれた。闘技場は数多く立ち、ファイトマネーで生計を立てるものも多い。また、戦いを好まないものは他者の闘争を見て満たすこともある。

町の外には突然変異で超巨大化&凶暴化した野生動物の巣窟。流石に野生動物と言えなくなったため、モンスターと呼んでいる(人間に宿した動物の力を「野性」と呼ぶため、野生動物と言うとこの世界では違う意味になるため)。街に来ると被害がやばいため、来ないように町の周辺は討伐が必要。そういうこともあり、この世界では「戦闘できる人」の需要が大変高い。
モンスターに固有名称はなく、「〇属性〇〇型」と呼ぶ(例:火属性犬型)

まとめると、「人間が獣性を爆発させ戦いたーのしー! をしてる」世界。


■血族
身に宿した動物単位で『血族』と括る。例えば犬を宿していれば犬の血族。犬種までは問わず、大雑把な括りでひとまとめにする。血族同士の仲は血族に当たるものや家柄次第(例えば兎は基本的に仲間意識が強いが、猫は縄張り意識が強い故に同族に敵対意識が強いなど。勿論いくらでも例外はあり)。
これが家族単位になると「血筋」になる。血筋のルールがやばいところ、ありそう~


■信仰
主に4つの信仰がある(信仰というか思想)。
何を信じるかは自由だが、信仰の押し付けはNGとされている。基本的に「自分と違う信仰者がいないと生きていけない」事実があるため、8割くらいの人間は別信仰を受け入れられる傾向にある(獣乱信仰は別)。2割は特定の信仰者に過激だったり否定的。
この4つ以外は血筋からの信仰や土地柄なものに由来するため、「土着信仰」というその他の信仰でひとくくりにされる。

・獣心信仰
「汝、獣となりて本能のままに生きよ」
一番メジャーな信仰。信仰というか思想。神に祈らない。己の肉体や野生を肯定し、受け入れる教え。かつての遺伝子操作の忌避感を受け入れるための文句が信仰に転じ、志となっている。
この世界は「闘争」「喧嘩」「決闘」が肯定されているため、本能のままに生き身勝手であることはむしろ善とされる。治安の終わり。

・獣静信仰
「汝、人となりて本能を押さえよ」
要するに「人間として生きよう」の思想。獣心信仰の真逆を行くが、この者らのおかげで文明が終わりきっておらず、独自の文明が築かれ守られているため、意外と他の信仰の者からも肯定されている。というか頭が上がらない。
理性的なものが多いが、本能を抑え込むため異能力は弱いことが多い。

・獣愛信仰
「汝、獣も人も等しく争うことなく愛せよ」
平和思想。他者と協力し生きようとする思想。戦いに向かない血筋の者が属している。獣心信仰から敵視されやすい。しかし医療関係や治癒異能持ちの多くはこの信仰であるため、争いが絶えない獣心信仰の者ほどお世話になる皮肉っぷり。

・獣乱信仰
「汝、世界を脅かす獣を排除せよ」
別名「邪教」。獣性が肯定され、強く信仰される中でそれを悪だと唱える信仰。人間はその獣性により本来の文明を失い、獣によって立場を脅かされたのだと説いている。困ったことに真実だしその通り。
最初からこの信仰を抱いているものもいれば、他の信者が何らかの理由でこちらを信仰し始めることもある。この場合、「堕ちる」と言われる。自身の獣性を殺して無害な思想もいれば、自身の獣性を使って多の獣を殺めようとする過激派もいる。


■野性
身に宿した動物の力を「野性」あるいは「異能」という(基本的に前者を使う。本来の意味の「野性」も使われる)。
野性によって自身の身体能力や得意能力が異なり、人間のそれを凌駕する。また、1つ何かしらの属性を所有している(属性は後述)。
親の野性が子に受け継がれる。親の野性が異なる場合、どちらかの野性のみ所有する。突然野性が数代昔の親のものになる「先祖返り」が起きることもある。先祖返りが起きた場合、突然変異個体であることが多く、強力な野性になる場合が多いが精神的に不安定、力の制御が下手など、何かしらのマイナス要素も付随しやすい。上手く子を成せないことが多い。成した場合、子は安定した強い力を授かりやすい。

野性の内包には3タイプある。

憑依(ポゼッション):身体に宿しているタイプ。肉体変化が起きたり一時的変化が可能だけど、行き過ぎると獣化する。一部身体変化してるタイプもいる。身体から離れると変化が保てなくなり消滅するが、強くなると身体から離れても消えなくなる。
共鳴(レゾナンス):精神に宿しているタイプ。身体変化こそ起きないけれど、属性攻撃が得意だったり獣としての精神を同化させて戦うタイプ。行き過ぎると獣の精神性に成り下がる。
契約(カヴァメント):動物そのものと繋がりを築くタイプ。野生が守護霊のように、霊体のように存在する。行き過ぎると二重人格化したり、その霊体に食われて乗っ取られる。

また、野性には強さによりランク付けがされている。低いほど弱く、高いほど強い。最低は1、最大は5。
弱いほどコントロールしやすく精神的にも安定しているが、戦闘や野生能力の伸びしろが低い。
高いほどコントロールが難しく精神的にも不安定になりやすいが、戦闘や能力の伸びしろが高い。

「憑依と共鳴の差は、獣に変化するかしないか」が10割であるため、共鳴タイプを「憑依の完全下位互換」と考える者もいる。憑依タイプでも属性攻撃が得意な者がいたり、精神が獣のそれに侵されることも多いため。


■属性
火、風、土、水、光、闇の6つ。火→風→土→水→火、に有利で光と闇は相互に有利。主属性が1つあり、対応する属性の副属性が0~2個ある(基本0)。副属性の方が主な属性となる場合があるが、自身の主属性には影響せず、弱点も変わらない。
副属性は主属性とは相性が変わる(例:水or風の派生でで氷の副属性。氷は火と土に小特攻)。
副属性は主属性としては所持せず、技にのみ適用する(氷メインキャラがいても、キャラとしては水属性)。
親の属性を受けつぐとは限らないが、受け継ぎやすい血族はある。
副属性は派生元となる主属性こそあるが、極稀に関係ない主属性から副属性が生まれることがある(主が水であり、副が雷など)。また、野性の性質として影響が変わる場合もある(変温動物の野性に氷が特攻など。個体差が大きい部分)。

一例(実際はもっとたくさんある)
熱:火or水派生。水と風に小特攻。
氷:水or風派生。火と土に小特攻。
雷:火or風派生。水と土に小特攻。
草:風or土派生。土と水に小特攻。
毒:水or土派生。闇以外に凡そ通用。
鉄:土or火派生。風に特攻。
陽:光派生。火を強化。
天:光派生。風を強化。
月:闇派生。水を強化。
星:闇派生。土を強化。



■野性表記(カルテデータ)
カルテ=診療録
病院で調べられ記載されるデータのため、野性動物の詳細データを「野性カルテ」や「野性カルテデータ」と呼んでいる(本能や野生が病的なものという暗喩でもある)。もっと省略してカルテと呼ぶことも。
カルテデータの表記方法は以下の通り。

タイプ記号
P:憑依(ポゼッション)
R:共鳴(レゾナンス)
C:契約(カヴァメント)

属性記号
F:火(ファイア)
A:水(アクア)
E:土(アース)
W:風(ウィンド)
L:光(ライト)
D:闇(ダーク)

特異種記号
α:変異種。アルビノや複数羽など、本来の動物から離れた姿を持つもの。
β:先祖返り。親の野性ではないもの。
γ:薬物や病など、上記とは異なる要因により特異種になったもの。要はその他。

野性表記の後ろに強さを示す1~5数字をつけ、属性記号、野生動物の種類の順で記載する。
特異種である場合、野性動物名の前に記号を付ける。
何らかの理由で能力を増強・抑制している場合、表記は本来通りに記載したのち増強している場合は+、抑制している場合は-をつける。この場合、能力だけではなく精神的なものや思考回路に対しても+-の記号は適応される。ただし外に出すカルテデータの+-表記は自由。野性の強化・弱化の理由も感情も数多であり、明記した結果攻撃されることも珍しくはないため。

例:
R3 F-Rabbit(共鳴型型ランク3 炎属性のウサギ)
P5 L-α Crow(憑依型ランク5 光属性の変異カラス)
P2- E-Frog(憑依型ランク2 土属性のカエル 薬で野性を抑制している)


強さの判断基準
薬の使用を考慮しないものとする。また、本人が不可能であっても潜在能力があると判断された場合、潜在能力に合わせたランク付けが行われる。

・憑依型
P1 爪が伸びる、髭が生えるなど、何の野性か判断しづらい特徴の変化(変化が微細)
P2 耳や手など、野性が判断できる明らかな変化が起きる
P3 毛や羽などが身体から離れても消えることがない。腕や足など四肢の1つ以上の変化が起きる
P4 常にどこかが身体変化している or 身体の5割以上を獣化させることができる
P5 常にどこかが身体変化している & 身体の8割以上を獣化させることができる

・共鳴型
R1 野性と自意識が混濁せず、野性を客観的に観測できる
R2 野性と自己が同化するが、その自覚がある
R3 戦闘や野性の使用時、野性と自己が完全に同化している
R4 戦闘や野性の使用時、自己以上の野性が発現し、意思疎通が困難になる
R5 日常でも野性に自己を曖昧にされる(異常に過激、情緒不安定など)
※R4、R5でも自意識を保てる者はいる。同時に病や野性の暴走で自己意識が曖昧になるものもいるため、あくまでも「野性が与える影響」で判断する

・契約型
C1 視認不可。本人のみ存在を知覚できる。すぐ傍にしか存在できない。
C2 視覚可能。ぼんやりとした霊体のような存在。10mほど離れられる。
C3 視覚可能&対話可能。はっきりとした獣の形をしている。100~200mほど離れられる。
C4 視覚可能&対話、干渉可能。800~1000mほど離れられる。
C5 上記に加え、野性がはっきりとした自由意志を持つ。どこまででも離れられる。

 

 

■詠唱
この世界での詠唱は『一定の効果を安定して再現する』ために使用するものがいる。
野性は感覚的に使う者が多く、結果をイメージすることで野性を行使する。そのため、詠唱を利用することでイメージがブレることを防ぎ、安定した効果を発動することができる。このようにして彼らは『技』を編み出していく。
そのため、詠唱は必須ではない。心の中で唱える者も居れば、無意識に技を使用できる者もいる。



■天候
天候は特定の属性に有利・不利を齎す。雨の中では火属性は野性が弱体化し、水属性は逆に強化される。また、個人単位に「得意とする天候」が存在する場合もある。滅多にないが、火属性でも得意とする天候が雨天であることもある。その場合は火属性であっても雨の中野性の出力が上がる。

属性による傾向
・火属性:天候に左右されやすい 晴天であれば強化され、雨天であれば弱体化する
・水属性:天候に左右されやすい 雨天であれば強化され、晴天であれば弱体化する
・風属性:有利天候が多いが、現在風量に依存しがち
・土属性:天候に左右されにくい
・光属性:光量に依存する(多いと強化される)
・闇属性:光量に依存する(少ないと強化される)


以下、天候の一例である。
・晴天:光↑ 闇↓
・月夜:闇↑↑ 光↓↓
・快晴:炎↑↑ 光↑↑ 水↓↓ 闇↓↓
・雨天:水↑↑ 闇↑ 炎↓↓ 光↓
・風雨:水↑↑ 風↑↑ 闇↑ 炎↓↓ 土↓ 光↓
・砂嵐:土↑↑ 風↑↑ 水↓ 光↓
・吹雪:風↑↑ 水↑ 炎↓↓
・曇り:変化なし
・濃霧:水↑ 火↓ 風↓↓


■モンスター
野生動物が急激に進化し、巨大・凶悪になったもの。モンスターに固有名称や種類はなく、元になった動物+属性で「〇〇属性〇〇型」と呼ぶ(例:火属性犬型)。本来の動物の面影はあるものの、現代でいう架空生物のような禍々しい見た目をしている。ファイターには野外調査や討伐など、国や街の外に出る仕事もある(任意ではあるが、これをやる・やらないでは名声が段違い)。
巨大なものばかりで、大きさは本来の10~1000倍ほど。種類でこそまとめられないものの、属性と元になった動物が一致していれば同一性質の素材が得られる。得られる素材は殆どが暮らしの何かしらに役立てられるので、捨てられる部位は殆どない。
肉は食用になる。人間は同一属性の肉は美味しく、不得意属性の肉はまずく感じる。同一属性は野性強化の恩恵があるが、強化されすぎて暴走の可能性があるので注意(逆に、不得意属性の肉には減退作用がある)。現在では属性を排除する加工法(ミントを加工する肉の不得意属性が豊富な土で育成し、それをハッカ油にして1000倍希釈したもので3時間漬け込む)が発見されたため、無属性の肉が一般流通している。
気性が荒くなった結果、群れる個体は少ない(本来群れを成していた動物はたまに群れる)。人間と熊みたいに、人間が住んでる、って場所は意外と入り込んでこない。それはそれとして危ないから周辺地域のモンスターは討伐するけど。



■職業
野性を利用した職業には専用名称がある。
勿論現代の我々にとっての一般職業もあるため、この世界での固有職を取り上げる。

・サヴァジャー
ジャンル:戦闘
「闘う者」の総称。免許があり、ファイターになるには試験管と戦って試験に合格する必要がある。そこまでめちゃくちゃ難しい試験ではなく、R1の人間でも突破できる。
この免許を持っていれば闘技場に出られる他、戦闘が関与する仕事ができたり自由に街の外に出られるようになる(免許を持っていない者は、必ず護衛をつけて街や村の移動をする必要がある)。
名前の由来はsavage(野性、畜生、残忍な、など)から。本来の意味はかなり過激な意味だったけど、それが肯定される世界となり、今ではプラスの意味に転じた。
闘技場で戦う者は基本サヴァジャーを名乗る。戦闘が関与する仕事が副業になりがちなため。

・レンジャー
ジャンル:戦闘
野外調査の仕事を受けたり、自らモンスターを狩ったり天然素材を売って生活する人。必要物資を取ってきてほしい、と企業や個人の依頼をこなすこともある。戦いの腕ではなく、外で生活する、モンスターを解体する、利益になる野草や鉱石を見つけるなど、知識も必要になってくる。
サヴャジャーたちの中では不人気職。決闘とは違い命がけになることが多く、環境も過酷で数日~数か月帰れないなんてこともよくあるため。

・フィールドワーカー
ジャンル:戦闘
人々の依頼を受けて仕事をする人。所謂冒険者。主に護衛や討伐依頼が多い。レンジャーは野外調査をメインとした依頼が多いが、こちらは人が関わる仕事が多い(いうてレンジャーも依頼をこなしたり、フィールドワーカーがレンジャーの仕事をすることもある)。こなす仕事が違うために職種を分けているが、どちらもこなせる者もいる。
完全に意味が転じた単語。本来はある調査対象について学術研究をする際に、そのテーマに即した場所(現地)を実際に訪れて調査や研究を行うこと。ここでは本来はモンスターや土地の調査のためにあちこち歩き回っていた人たちに、人々が護衛や採取依頼を行うようになり、「フィールド(街の外)+ワーク(仕事)」の意味からも適切だとされこのようになった。

・ヒーラー
ジャンル:医療
野性を利用し人の傷を癒す医療関係者。野性に頼らず薬や物理的処置(手術など)を行う者を医者と呼び、差別化している。医者は怖いがヒーラーは大丈夫、あるいはその逆など、人々の考え方はまちまち。
「だって他人の持つ野性に傷治されるって、お前の力じゃそんなこともできないのかよwww って煽られてるようで嫌じゃん?」
「薬って要するに毒じゃん。そんなもんより俺らが皆持ってる力で治る方が安心じゃね?」

・チューナー
ジャンル:医療
内包する野性に対する医療関係者。身体や精神的な作用をコントロールし、調律する様からチューナーと呼ばれるようになった。現代の精神科に近いが、人間ではなく内包する野性に対して治療を行う。力を制御できない、野性の感情に飲まれそうになる、上手く力が発動しない、などの相談を受ける。野性による病気もここ。
また、カルテを作る、サヴャジャーの健診を行うのもこの人。

・マルチヒーラー
ジャンル:医療
ヒーラー、チューナーの両方をこなす人のことを指す。医学知識の有無は関係ない。この世界だと「万能なヒーラー」といった認識になる。
この他に医者とヒーラーを兼任する者もいるが、多くはどちらかを専攻し専攻している方を名乗っているため、特別な名称はない。


・タクシー
ジャンル:運搬
この世界では車ではなく人。人を別の街や地方に運ぶのだが、外は危険なので基本的に10人~20人のタクシー部隊で構成し運ぶ。人件費がやばすぎるのでかなり高価。この職になるにはサヴァジャーにならなければならない。
定期的に運行するタイプはまだ安価(飛行機の3倍くらいの値段)。といっても多い便でも2日に1回程度。そもそも移動する必要性もあんまない。
不定期便は希望日を提出し、客が多い日に運行が知らされる。知らされた日に、都合のいい人や妥協できる人皆で乗り合わせる。希望日を提出し、行かなかった場合でも特にペナルティはない。
部隊には陸・空・海の3種があり、それぞれ対応した野性を持つ場所へ配属される。

・運送(独自固有名称ではない)
ジャンル:運搬
タクシーの物版。部隊も同じくらい。
大企業が使うため、個人的な配達依頼はフィールドワーカーに頼むことになる。
盗難防止として、送り状に疑似的な追跡機能がある。荷物用のコードをケータイ(その他に記述)に打ち込むと、現在座標を教えてくれる。届いたら配達完了通知もお知らせされる。



■医療
現代医学レベルには発達している。同時に、獣性に影響を与える薬も開発されており、鎮静化させるものから強化させるものまで揃っており、野性による暴走はそこまで起きない(力を求め、活性化させすぎた結果堕ちるということもあるし、万能ではない)。
同時に現代ではなかった、この世界特融の病も存在する。なんなら宿してる野性がかかる病気にかかることもある(鳥の野性持ちが鳥インフルになったり)。
因みに寿命は基本的に人間より短い(亀など長命種は長くなる)が、外見の老いは本来の人間より遅い。老化により力が衰え始めると、一気に弱り果てていく。

以下、一例。

・発狂症
薬剤関係なく突発的に野生が活性化し、調子に影響を与える。別名情緒不安定。
精神的なものから季節的なものまで、原因はさまざま。軽い症状だと好戦的になる程度だが、重い場合無差別に他者を攻撃し、最悪殺害させてしまう。一概に悪とはいえない(条件が分かれば力となりうることもあるため)ため、軽度であれば恩恵と考える者もいる。

・狂獣病
元は狂犬病命名されていたが、獣を宿す人間に同じような症状が出るようになったため、名前を狂獣病と改められた。ワクチンあり。病状が現れれば手遅れなのは変わらず。
戦いで傷を負わせた際に感染させることがある。闘技場で戦うものは必ず事前にこの病を持っていないか病院で診断し、診断書を提出する義務がある。



■歴史
野性を持っていることに対して、この世界の人たちは「人間がモンスターに対抗するために進化した」と教えられるし信じられている。
本来は「野生動物が急速に巨大化・凶暴化し、科学で生きてきた人間はそれに対応できなかった。ある日、人間の間でまるで獣であるかのように思考力の低下、凶暴化する、場合によっては獣のような肉体変化が起きる」といった奇病が流行し始めた(野生動物に起きたことが人間に対しても起き始めた)。
それを逆手に取り、変化する世界に順応するために病を取りいれ、安定化させようとした。結果、成功して人々は野生動物の力を身に内包し、この世界に順応できたとされている。
この事実は古い書物や学者の間では知られているため、調べようとすれば知ることはできる。特に獣静信仰や獣乱信仰の者はこの事実を知っている者がそこそこ多い。
なお、なぜ野生動物がそのように進化したのかは現在でも不明で調査され続けている。その研究よりも日々を生きるための研究や調査に力がそそがれているため、その正体が解剖される日はまだまだ遠い。



■地理
大陸の形は現代とイコール。だけど国名や地形、環境はイコールではない。
陸地こそ広いが街の数は少なく、基本的には巨大化し凶暴化した野生動物たちの巣窟になっている。

〇地方名
・スドナセルニア地方(ヨーロッパ)
でかい国がある、最も人口が多い地方。気候も穏やかで人間が住みやすい(野生動物は極端な場所ほど強いものが多い)。野生動物も一人で太刀打ちできるものが多い。スドナ/セルニア地方で読もう。
名前の由来はなんかヨーロッパの名前を悪魔合体したらこうなった(「ス」イス+「ド」イツ+モ「ナ」コ+「セル」ビア+ルーマ「ニア」)

・ジャニアス地方(日本)
地方っていうか日本。でかめの島。なんなら地方というか、ジャニアス王国。
本来は国や町の中に野生動物は入り込まないようにするが、ここではモンスターが跋扈する中で人が暮らしている。そのため、かなり野性度の高い人間が住んでいる。雨が多く、四季がはっきりしている。
文明レベルは江戸とかその辺。
名前の由来はジャパン+アスター

・サルンナ地方(オーストラリア)
ジャニアスよりもっとでかい島。中心部に国が一つ存在し、後はモンスターが蹂躙している。
闇属性のモンスターがとても多く、その影響で昼でも夜のように暗い。しかし最近R5 R-Catの姫君が誕生し、短時間ではあるが明確な昼が訪れるようになった。これにより、環境やモンスターにも影響が出てきて、モンスターの動きが鈍っただとか弱くなっただとかの報告がある。王国の人にとっては大分住みやすくなった。
名前の由来はサン+ルナ。

・ノルザバーグ地方(ロシア全土くらい)
現実のロシアとは違い、やや寒冷程度で済む気候。大型の動物が多く、スドナセルニア地方よりも強いモンスターが多い。大陸の中に小さな街や村がぽつ……ぽつ……と存在する。そのため無駄に広く、人のいない地方と思われがち。
中には外交をしない街、特定の信仰しか受け入れない村など、閉鎖的な場所も多い。
名前の由来はノーザン+アイスバーグ

・プロアスタル地方(アフリカ)
気温は高めで現在のアフリカと大差ない気候(砂漠やサバンナが大半)。人が住みづらい場所で、ここに住む者は過去に規律を守れず迫害された人間や、守る気がない人間たちばかり。なので治安は終わってる。本当に終わってる。蛮の街や王国はそれでも規律は守ってきた、けどここは無法地帯。犯罪が当たり前に起き、時折結託して他地方の人間へ金品を強奪する者も出る。
名前の由来はプロミネンス+アース


〇国や町
「〇〇地方」の中に主要となる国が一つあり、独立して街や村が点在する。領土としては主要の一国が占めることとなるが、街や村ごとにやり方や中心人物がおり、実質それらも国に等しい。そもそも大陸に対して人が集団で暮らしている場所が少なく、手の入っていないところは野生動物が蹂躙しているような世界のため、領土争いはまず起きない(領土、広げすぎると野生動物に襲われる危険が上がるため、過疎になりすぎないように集落を形成しなければいけない)。
国は全て王国。百獣の王ライオンの言葉をそのまま取り入れたとされている。

スドナセルニア地方
・カルザニア王国(中央都市カルザニア)(元ネタ:ガザニア
おおよそ現在のドイツ。スドナセルニア地方のエネルギー問題どころか隣接地方のエネルギー問題もここが解決しちゃうくらいにでっかい国。世界で最も大きな闘技場がここにあり、名高い大会もたくさん行われる。勿論他にもたくさん闘技場はある。世界の中心になる場所故に「中央都市」とも呼ばれている。スドナセルニア地方の村や都は全てカルザニア領になる。
ここの王族の婚約者は大会で決める。

・ピューム村(元ネタ:綿の学名ゴシピウム)
おおよそ現在のポルトガル。海辺の村で、草食動物が多い。村と言うが人口は多め。勿論海にも巨大・凶暴化した野生動物や魚がいるので泳ぐのは無謀。罠を仕掛けて討伐し、素材を行商することもあるが、基本的には「戦いたくない野生動物が皆と力を合わせて暮らしている」場所なので、戦闘が得意な者は少なめ。

紅闘の都ダオドラ(元ネタ:ジンチョウゲの学名ダフネ・オドラ)
おおよそ現在のポーランド。カルザニアよりも過激派が集い、治安は悪い。獣心信仰が強く根付いており、弱肉強食の街になっている。戦えない者や弱い野性は見下されるため、戦いを苦手とする動物は暮らしていけない……かと思いきや、医療班として需要があるため、戦えない者たちも一定数いる。戦えないかつ医療班でない者への辺りは大変強い。

・静海の街キウム(元ネタ:ブルーベリーの学名バッキニウム)
おおよそ現在のイタリア。穏やかで和やかなピューム村と違い、上品で金持ちが多いセレブ街。獣静信仰が多く、獣に乱されることない上品で人らしい生活をしたい人が集っている。「戦う力がないから協力的」ではなく、「力を持った者が戦うことを野蛮だと唱えている街」が正しい。
「将来キウムに住みた~い」は「将来石油王と結婚して何もせずにだらだらした~い」の意味。


ジャニアス地方
・ジャニアス王国
「竜の血」と呼ばれる者が統制する国。実態はタツノオトシゴの血筋(総じてC5 A-Seadragon(本来はSeahorseが正しいのだが、α変異種が個体として確立され、カルテではこのように綴る))が代替わりで治めている。
簡易的な家しか持たず、文明レベルも高くはないが独自の文化や動植物があり、スドナセルニア地方では治せない病がこちらでは治る、ということはそこそこある。
海か空から国に入るしかなく、ジャニアス地方の海の野生動物は特に凶暴凶悪で入国は大変危険。逆に王はどうにかする力を保有しているため、ジャニアスから外に出るのは(王の力添えがあれば)簡単だったりする。


サルンナ地方
・常闇の王国サルンナ
土地柄闇属性の野性持ちが多いが、思っているほどは多くない。国(というか大陸)は暗いが街の雰囲気は明るく、立場や地位による上下関係が他の地方より甘いため自由奔放なものが多い。自由な国に憧れここまで旅して来るものが時々いるが、たどり着けるのは実力者のみなので街は高ランク野性持ちが多め。
ここの国王はジャニアスのように王族の子が後継ぎになり一つの血筋を守る。ただし『王族の血筋総勢』で国を治めるため、王が複数存在する。婚約者はそれぞれ王族が気に入った者を連れてきて、彼らの身内に認められたら無事婚約。

・漆黒の村クロルリラ(元ネタ:クロユリ
獣乱信仰のみで構成される、サルンナより南西へ進んだ場所にある小さな村。野性に対して反抗する者が、安住の地を求めてここまでやってくることも多い。穏健派と過激派は半々。影に潜むようにひっそりと息をしており、そもそもの存在を知らない者が殆ど。同胞を集めて世界を転覆させる機会を常に伺っている。
それはそれとしてやんちゃしたらサルンナにめっされる。最近はサルンナの王族を拉致る計画がある。


ノルザバーグ地方
・境界の村ウルナヤ(元ネタ:ウラル山脈ナロードナヤ山)
現在のナロードナヤ山らへん。鳥系の野性持ちが住民の9割を占める(鳥系でもなければあまりにも行くのが大変なため)。ノルザバーグ地方とスドナセルニア地方の境界にそびえる山脈であるが、かなり地域性がある村であるため、独自地域性がある街や村を多く持つノルザバーグ地方に属している。
かなりの閉鎖的な村である。その上カラスを始め、社会性を重んじることが多い鳥系の野性持ちが多く住むため、因習も多くよそ者の住み心地はかなり悪い。

・リンガ・ルガリ(元ネタ:ライラックの学名シリンガ・バルガリス)
現在のモスクワらへん。モスクワの気候よりも大分温暖(といっても日本と比べると寒い)。
ピューム村と同じく草食動物で構成された村。ただしこちらはピューム村以上にご近所付き合いが求められ、田舎特融の文化が見受けられる。日本の地方みたいに皆で何かをして助け合う、といった風潮がある。そして肉食動物が立ち入ることも住むことも禁止されている。
こちらはウルナヤと違い、足を運びやすいため村の外から人が来ることは結構ある。ただし草食動物のみ。
めちゃくちゃタリア・ウィス王国(後述)のことが嫌い。

・タリア・ウィス王国(元ネタ:フジの学名ウィスタリア)
現在の中央シベリア(Central Siberian Reserve(中央シベリア自然保護区))らへん。王族は狼の血筋で、婚約者も絶対に狼。狼が治めており、狼国家と言われるほど。草食動物の野性を締め出し肉食動物のみで構成される王国は、獣心信仰が9割を占める。めちゃくちゃ血の気が多い。ダオドラよりずっともっとやばい。蛮も蛮。野蛮蛮ば蛮。
野性に飲まれることをむしろ善としてるし、医者やヒーラーも最低限しかいない。怪我を医者らに診てもらうことは不名誉と考え、自力で野性により向上した自然治癒力で治そうとする。



■犯罪
窃盗罪や器物損害罪などはちゃんとある。
暴行罪など、人に物理的危害を加える罪が甘い(ある場所が少ない)。力で物事を決めることが肯定されており、特に力こそ全ての街ではやられる方が悪いとすら考えられる。あと銃刀法違反的なものもない。
以下の事柄は「この世界特融」かつ「世界共通認識」の犯罪に当たる。

・人体や野性の密売、加工
憑依型の人間から本人の許可なく異形化した部位を捥ぎ、売却や装飾、素材として扱う行為。または契約型の人間の野性を奪う行為。本人の許可がある場合は問題ない。
意図的に野性を暴走させ、異形化させることで素材を得る場合もあり、大変悪質。

・薬物乱用
野性を強化する薬を医師の判断なしに、あるいは過剰に摂取する行為。危険な薬は使用禁止とされているが、これまた密売が行われている。
使用すると大体人間として戻ってこれなくなるので実質死刑になる。
盛られることもある。

・宗教の押し付け
主に獣乱信仰者に対する制約。それ以外にも信仰は野性の扱い方に影響が出ることも多く、押し付けて揺らぎ、野性が不安定になることもあるので禁止行為。宗教活動(別の宗派の者に自身の思想を解き、勧誘する行為。意見として話す行為はセーフ)もだめ。特に社会レベルで影響が起きる大きな活動は規制対象となる。



■細かな世界観詰め(メモ書き)
・ケータイ→通話手段はある。風属性ハト型の嘴には通信能力があるのでそれを加工したもの。嘴に任意のコードを持たせ、任意のコードを持つ者と通話が可能。なので、アプリとか検索とかそういう機能はないが、ラジオはある(闘技場の実況とか聞ける)。
・テレビ→こっちは風属性ハト型の目を使い、映像を映す装置がある。音声は流れないため、ケータイで音を持ってくる必要がある。大変お高いので、一般的には普及していない。
・パソコン→ない。そもそもあまり必要とされていない。
識字率→高くない(地域差が激しい)。最も高い中心都市でも65%くらい(読めるけど書けないが多い。読めないも珍しくない)。
・ファンタジー生物→野性としては存在しない(野性や血筋をファンタジー生物で例えられることはある)。
スラング→あっていいと思うんだよな……ネットスラング、はないだろうけど。腐っても現代世界の派生かつ未来のお話なので、「エモい」だとか「推し」だとか、そういう現代的な言葉はあっていいと思う。
・ランク人口は 1:30% 2:40% 3:20% 4:10% 5:0.1% 程度。
 内包タイプは 憑依:35% 共鳴:55% 契約:10% 程度。
・人口は世界で3億人ほど。人の住んでいない土地、めちゃくちゃ多い。
・スポーツはあることにはあるけど、あまりにも身体能力差がありすぎて明確なルールが設けづらく、そこまで盛んではない。
・学校→義務教育がある方がレア。基本的には10歳までに3年間通学(有料)し、一般教養を身に着ける。この中には戦闘知識や野外活動知識も含まれる。
・成人は10歳から。寿命が短いこともあるが、野性の影響で成長が早い(寿命の長い野性はゆっくりになる)ため10歳で成人。
・三大社会性を重んじる野性 カラス、狼、ハチ(他にもいるけどやばいと有名な3種族)
・牛乳は似たようなものに加工できる植物で代用している。3種類くらいある。
・卵も植物で代用するが、本物の卵(モンスターの卵)を利用した方が美味しい。本物の卵は貴重なため高級品。

自創作『天威無縫』 一覧

この世界観を定期等で使うことをOKとしています(定期は報告任意、他にこの設定を使用する場合は一報ください)。
そのため用に世界観設定を置いているだけなので、読まずに本編に入っても問題ありません。同時に先に読んでも本編のネタバレにはなりません。でもちょこちょこ改訂されます。

※本編の挿絵はうつぎさんに有償依頼で描いていただいています。感謝!!
 現在9話まで実装

 

設定

・世界観 ver1.21(2023.11.19更新)

・キャラクター設定

・キャラクター術一覧

・イラスト置き場

 

本編

1章「夜明けに旅立つは」

・1話「邂逅」

・2話「予兆」

・3話「夜明」

・4話「準備」

・5話「旅路」

 

2章「はじまりの場所カルザニア」

・6話「方針」

・7話「強欲」

・8話「価値」

・9話「憧憬」

・10話「天風」

・11話「兎闘」

・12話「神話」

・13話「雨翔」

・14話「追憶」

 

3章「野性を宿す人々の」

・15話「変調」

・16話「診療」

天威無縫 1話「邂逅」

西暦2800年と少し。
この世界には、かつては何の力の持たない人間が暮らしていた。人間は優れた知恵を持っており、それを武器にすることで爪や牙を持つ野生動物を狩り、弱肉強食の理から外れた動物として君臨していた。
しかしある日、魚や虫といった生き物も含め、野生動物が急激に凶暴化・巨大化した。原因は今だに解明されておらず、解明する以上に野生動物への対抗策や生きる術の模索に力を注がれた。知恵だけでは対抗することができなかった人類は、今では世界で約3憶人ほどしかいない。
そうして人間は世界に順応できず、野生動物に淘汰され恰好の餌食となったのか、というとそうではなかった。彼らは野生動物の本能や能力を身体に取り込み、彼らの持つ武器と同じものを手にした。そうして彼らはかつての文明をほんの少しだけ残しながら、現代では考えられない形で再度繁栄したのだった。
野性の本能を力として、時に仲間同士で競い合い、時に野生動物に立ち向かう。それは動物の身体能力だけではなく、炎や水といった魔法のような力も持っていた。その力を『野性』と、そして身体に内包される野性を利用して闘う者たちのことを、この世界では『サヴァジャー』と呼んだ。


昔のヨーロッパこと、スドナセルニア地方。大陸からいくつかに分類される地方の中では最も栄えており、世界人口の2割がここに集まっているとされている。野性を利用し生きる人間には闘争本能が宿るようになった。それを満たすためにサヴァジャー同士の闘技場を一番始めに作ったのが、この地方に属するカルザニア王国であった。
今では野性を持たない人間はいない。そのような人間は、移り変わる世界の理に順応できず死に絶えた。今を生きる人間の全てが闘争本能を所有するわけではないが、獣の力を有する人間にとって戦闘は娯楽では済まされない。闘争は、必要不可欠な文化となっていた。

「さぁやってまいりました、ヴィーナス杯! 予選を通過したサヴァジャーは全員で16人、ここからは1対1のぶつかり合いだ!」
「あ、ヴィーナス杯の本戦って今日からだっけ? ララテアお兄ちゃんずっと楽しみにしてたもんねぇ~、あの人も出るの?」

スドナセルニア地方の最西端にある村、ピューム村。かつてはポルトガルと呼ばれていた辺りに存在する、海に面した村だ。村と呼ぶには活気があり、土地も広大で多くの人が住んでいた。人口の多くは草食動物の野性で穏やかな気質の人間が多い。
ピューム村はカルザニア王国の西側に位置し、距離も他と比べると比較的近い方だ。王国は活気あふれると同時に、血の気が多く闘争本能が強い者も多い。世界で最も闘技場が多く存在するそこに居心地の悪さを覚え、移住をする者を受け入れるための村でもある。村と言いながらも人口が多く、野性を内包していながらも人間らしい穏やかな生活を送れる理由がそれだった。
そんなピューム村の海に近い平野に、ウサギの野性を内包するラウット一家が住んでいた。両親共にウサギの野性の5人の子供もまた、ウサギの野性を内包していた。両親の野性が異なる場合はどちらかの野性を持った子供が、同じ野性の場合は同じ野性を持った子供が生まれてくる。稀に先祖の野性が子に現れる先祖返りが起き、その場合は親とは異なる野性の上強力な力であることが多い。
その一家の中に、異質な子供が一人居た。5人のウサギの兄弟の中に、1人イヌの野性を持った子供がいた。数年前、この家族の長男が村の外で見つけ、家族は彼女を受け入れた。異なる野性、ましてや血のつながらない子となればお互いに溝が生まれることも多いが、この家族は仲睦まじく暮らしていた。

「ん、コルテか。むしろ、あの人が出るからラジオを付けたんだよ。テレビがあったらよかったんだけどなぁ」
「あれはお金持ちの道楽だもんねぇ。私も隣で聞いてい~い?」

勿論、とララテアと呼ばれた少年が首を縦に振った。オレンジ色の短い髪をしているが、ウサギの耳のように横から伸びた長い髪の途中からは白色になっている。夕焼けの終わりのような瞳の奥底に、沈まない太陽のような明るい色の瞳孔が特徴的であった。
その隣にちょこんとコルテが座る。イヌの野性を内包する、血の繋がらないララテアの妹であった。明るい黄金色の髪に黒いメッシュが入っており、犬耳のように毛が跳ねている子供だった。草原の緑を閉じ込めた瞳が、満足気に目の前のウサギをとらえていた。
母親から借りたケータイの電源を入れ、コードを入力すれば実況が始まる。彼らにとってケータイは連絡手段だけではなく、ラジオを聞くためのツールでもあった。かつて人々が持っていたそれと比べると使用できる機能はごく僅かであったが、彼らにとってはそれで充分であった。
野生動物が凶暴化し、巨大化したこの世界のそれはモンスターと呼ばれ、人間に危害を加える一方で素材や食料を得ることができた。また、モンスターと野性には属性があり、モンスターに対しては固有名称が存在しない。種と表現できるほど姿や能力が統一されていないからだ。代わりに所有する属性と大本になったであろう野生動物の特徴を合わせてそれらを呼ぶ。例えばイヌが元となった火属性のモンスターであれば、それを火属性イヌ型と称した。
属性と大本の動物が同じであれば、同質の素材を得ることができる。ケータイやテレビも、風属性ハト型から取れる素材が持つ特徴を利用しーから得た素材を加工して作られたものだ。利用価値が高く比較的狩りやすいモンスターは、人間も積極的に討伐を行うようになっていた。

「女性サヴァジャーのための祭典! 今年の最強の女性サヴァジャーを決める戦いが始まります!
 一回戦はP3 F-Rhinoceros、炎纏いし一本角ことホドローア・サイアル! 対するはR1 W-Rabbit、天駆ける兎、フィリア・バルナルス!」
「あっちゃあ、火属性のサイの野性の人が相手かぁ。フィリアさんって風属性のウサギの野性だよね、厳しい試合になりそう」

『野性カルテデータ』を聞いてコルテが頬杖を突いて呟く。それからじいとララテアの燃えるような瞳を見た。
野性カルテデータは内包する野性を示す文字列で、始めの2文字が野性の内包タイプと強さを示している。Pは憑依型と言われ、身体を変化させ野性を振るう。対するRは共鳴型と呼ばれ、精神的に野性と同調することで身体能力を底上げするタイプだ。次に型の記号の後ろにアルファベット1文字で属性を示し、ハイフンの後に野性の元となった動物を記す。属性には相性があり、風は火に弱い。他に属性は水と土、光、闇の合計6つがある。
応援している者は風属性でランク1の共鳴型のウサギ。対して火属性でランク3の憑依型のサイとなれば、野性の力としても属性としても相手の方が優位だ。これだけ聞けば、とても勝てる相手ではないだろう。

「……いや、勝つよ、フィリアが」

その言葉は、強さの信頼からでもなければ偶像崇拝の意識からでもない。ララテアは静かに、合理的に判断をしていた。

「相手は戦闘向きな草食動物。だけど重戦士、ってタイプだったはず。風属性のウサギにまず攻撃を当てられない。それに、相性は野性が強ければ強いほど相性の影響が出る。向かい風には変わりないけど、勝てない試合じゃない」

ケータイから聞こえる音の殆どは実況の声だ。そこに雑音のように混じる、地響きと獣を彷彿とさせる咆哮。獣ではなく人間のものだと分かっていても、それは闘争本能を燃やし、衝突する獣と大差はなかった。
聞いているララテアの顔の口端が上がり、目を閉じる。冷静に聞いているようで、身体はうずうずしていた。瞼に焼き付く戦いの景色はない。実際にその人の試合を見たことがない。全てが想像でしかない。強く握られた手からは、微かに炎が渦巻いていた

「ララテアお兄ちゃん、火、火出てる!」
「え、うわあっぶな!」

ぱっと手を解けば、同様に火も宙に吸い込まれるように消えていった。幸い家具や身体に被害はなかった。念のため焦げた場所がないか確認すると、わぁっと歓声が上がった。

「流星のような空からの一撃ー! これはホドローア選手、一たまりもありません!
 そしてフィリア選手、ここで一気に畳みかける!」
「わ、ほんとだ、お兄ちゃんが言ってる通りになった」

ウサギの野性は機動力に特化する。対して身体はさほど頑丈にはならず、力も強くはならない。モンスターから逃げるための野性といっても過言ではないほどだ。故に物理的な戦闘は不得意な者が多い。だというのに今戦っているウサギは肉弾戦を主体とする。野性のランクも最弱であり、現在ではかなり注目を浴びているサヴァジャーであった。

「フィリア選手の圧勝!
 不利な相手に難なく勝利! 我々はR1に対する考えを改めなくてはなりません!」
「凄いよなぁ、R1で、それもウサギの野性でここまでやるんだから」

ケータイの電源を切ると、ぶつりと賑やかだった音声が鳴りやむ。ゆっくりと数回腕を回し、トントンと軽くステップを踏む。それに合わせて小さな火の粉が宙に舞い、落ちる前に輝きが消えた。

「ちょっと身体動かしてくる。コルテ、夕飯までに帰るって母さんに言っといて!」
「はーい、気を付けてね!」

送り出すために手をぶんぶんと振ると、パチパチと静電気が音を立てる。飛び出した際に舞った火の粉と火花が混じり、バチッと一度大きく弾けた。コルテがケータイを手に取ったときには、もうララテアの姿は見えなくなっていた。

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人口が減り、野性による自然エネルギーが利用されるようになったこの世界は、かつての世界の姿を残しつつも美しく広大な自然で構成されるようになった。街や村の外は巨大かつ凶暴なモンスターが跋扈し、弱肉強食の世界となっている。スドナセルニア地方のモンスターは弱いものが多く、気候が安定しており人間が最も暮らしやすい場所であった。どこまでも広がる草原に、変わらないままの森もあれば巨大な生命をも多い隠す大木の森に変貌した場所もある。かつては人が栄えていた場所も、跡形もなくなり自然と一体化した場所が大半だ。
モンスターは元々は野生動物だったからか、獣としての本質が残っている。おかげで人が群れている場所を縄張りの境界線と認識した。それでも小型のモンスターは十分に食料になると人間を襲い、大型のモンスターは人間の存在に気づかずに街や村に侵入し被害を齎すこともある。
サヴァジャーはサヴァジャー同士で戦い、娯楽やエネルギーを生み出し貢献する。一方で安全を約束するためにも、食料や素材を得るためにもモンスターの討伐も行う必要があった。最も義務ではなく任意で請け負うものであり、彼らは小金稼ぎのつもりで仕事をこなすのだ。

「ふっ――、」

火属性ネズミ型が3匹。体長は1メートルほどの、モンスターの中ではずっと小さいものだ。飛び掛かってきた一匹にめがけて突き上げるような蹴りをお見舞いする。メキメキと骨が砕けると同時にゴウッと火が燃え盛り、ネズミは炎に包まれた。炎のダメージこそ殆ど入らないが、物理的なダメージは十分だ。
それに臆することなく、残りの2匹は前歯をガチガチと鳴らして威嚇をする。牙に等しいそれを剥き、襲い掛かる ―― より早く、一歩を踏み込み、ボールを蹴るように1匹を吹っ飛ばす。ギッと悲鳴が上がった頃には20メートルは吹っ飛ばされており、熱のある泡を吹いて痙攣していた。それのすぐ傍に、5メートルほどの土属性ウシ型が1匹。モンスターとなったそれは、食性も変わっていた。

「ブオォォオオオオッ!!」

ウシが咆哮を上げ、ネズミを食らう。肉食獣のそれと全く同じだった。骨も肉も等しくすり潰し、ゴリゴリと生々しい咀嚼音を上げる。うわ、と思わず小さな声が漏れたが、ネズミが1匹残っており気にする余裕はない。

「くそ、せっかく火属性の肉が手に入るとこだったのに! 勿体ないことしてくれてさあ!」

残ったネズミはなおも逃げず、最も近くに位置するララテアへと体当たりを仕掛ける。巨大な弾丸となったそれは焔を纏うが、ララテアは掌を突き出し、真向から受け止めた。ジュ、と肉が焦げる音は、ネズミのもの。ララテアからも同様に、獄炎が掌から放たれていた。

「―― 盛れ、焔。燃やせ、骨の髄まで」

目を瞑り、ネズミを止めたもう片方の手で心臓を抑える。言葉に応えた熱が、心臓から腕を、身体を、足を包んでゆく。ウシは次の獲物をすでに捕らえていて、ウサギへと猛進する。土を抉り、巻き上げ、暴力の砂嵐が舞う。
頭を下げ、角で突き上げようとした動作の刹那、ウサギは目を開いた。





「―― 炎兎蹴ラビット・フット!」

ゴウッ! と、炎が爆ぜた。
ウサギの野性は、高い瞬発力が武器だ。対して筋力に対する恩恵はなく、戦闘には不向きな野性だとされている。しかし、それは一般論だ。
彼らが持つ、高い脚力から放たれる蹴りは容易く岩を砕く。鍛えられた身体から放たれた一撃は、ウシの頭を砕き、ぐるんとあらぬ方向へ捻じ曲げた。巨体は地に沈み、残り火は今だに肉を焼き焦げた匂いを漂わせる。仕留めたことを確認すると、溜めた息を吐き出した。

(モンスターの気が荒くなってる)

手に持っているネズミを見る。元々凶暴で獰猛なモンスターだが、勝てないと分かった相手に歯向かうことはさほど多くない。ましてや小型モンスターとなれば大型モンスターからの捕食から逃れるためにより顕著になる。だというのに、このネズミは仲間がやられても逃げず、ララテアへと攻撃をしかけた。生存本能に反する行動を取ることに、違和感と既視感を抱いた。
凡そ3年前、まだサヴァジャーになって2年目のことだった。他のサヴァジャーたちと村の近隣を哨戒していた際に、モンスターが随分と騒ぎ立てていた。まるで何かから逃げるように人間を無視して走り去り、サヴァジャーの静止をよそにその正体を暴きに行った。結局そのときははっきりとした正体は分からず仕舞いだったが。

(でも今回はあの時とは違う。恐れて逃げているんじゃなくて、明らかに興奮して見境がなくなっている)

すぐに思いつく可能性としては、何者かが負傷し血を流したまま逃げ出した。獲物の香りに当てられ興奮状態になっている、と考えればあり得なくはない。村を出たときに失踪者の話を聞かなかった。となれば、別の街や村の者か。
血の痕跡を探すが、それらしきものは見つからない。そもそも広大な大自然の中で人間から零れ落ちた赤褐色を探すなど、砂漠で水を探すような行為だ。

「……?」

何かの気配を感じ、地面を蹴る。それは探していたものではなかったが、重要な手がかりであった。

「白い、カラスの羽……?」

モンスターのものにしては随分と小さい。本来のカラスより一回り大きなそれは、随分とボロボロに傷んでいた。野性を内包している副次効果として、動物の一部分を見ればそれの元となっているのか理解できる力がある。それがなければ、羽を見てハクチョウだとかシラサギを連想していただろう。
一つ見つければ、また離れたところにもう一つ。居場所を示すように点々と続いていた。よく見ると、血の跡も地面に残っている。滴り落ちた程度の小さな跡だったが、一つの結論に至るには充分だった。
負傷者が居る。モンスターの獲物にされかけたのだろうか。胸がざわついて、自然と足が速くなる。羽に対して気配に似た何かを感じ取れるため、辿ることは容易かった

(俺が作ったベースキャンプにいる)

村から人間の足で15分ほど離れた場所。切り立った崖に作った人工的な洞窟がある。自分が外で活動する際に作った修行場だ。スドナセルニア地方を始め、基本的に村の外から別の街や村までは距離がある。そのためサヴァジャーが道中で休息するためのベースキャンプがいくつも存在するのだ。勿論モンスターに荒らされるため、最低限の場を整え辛うじて人が休める程度の場所でしかないが。
確信を持って中へ入る。つんと鼻を刺す血の香り。散乱する傷んだ白い羽。それから、黒い衣服とは対照的な、白銀の翼と微かにブロンドがかった銀の髪。ララテアと同じ、12歳程度の少女が地面へと倒れていた。

「おい、大丈夫か!?」

駆け寄り、肩を叩いて呼びかける。状態を確認すると、浅くとも呼吸はしており、細かな傷や打撲跡がいくつもあった。どこか折れている様子はなく、適切な治療を行えば助かるだろう。特徴的な白い翼も、かなりの羽を毟られ痛々しいものになっていたが、身体変化が起きる野性の場合すぐに元通りになる。
最悪な状態ではないことに胸をなでおろすが、少女の怪我の様子から違和感を覚えた。洞窟の中央には最近使われたであろう焚火の跡がある。自分自身が焚火の代わりになれるため、ここに火を灯すことは殆どない。火を共有する場合に使うことがある程度だ。村の者も、ここは村から近すぎて使用することはまずない。
すん、と部屋の香りを嗅ぐ。まだ新しい、木の焦げた匂いがした。
引っかかることこそあるが、このままにしておくことはできない。適切な処置を行うならば、村の者に協力を仰ぐ必要がある。ララテアは意を決して少女を抱きかかえ、洞窟を出て村を目指した。

 

 

自創作 運命の天啓アルカーナム 一覧

多分そのうちコンテンツが増えるかもしれない。

 

―設定等―

・運命の天啓『アルカーナム』あらすじ

・運命の天啓『アルカーナム』キャラ容姿

・運命の天啓『アルカーナム』キャラ設定
  

 

―小話―

・小話『人の心はからくり仕掛け』
(2022年11月シマ後日談の後日談。オクエヌ)

・小話『魔女「私に頼めば指名した子を召喚してあげるのに」』
(ライト版アルカーナムのさいあくな小話)