海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

小話『魔女「私に頼めば指名した子を召喚してあげるのに」』

※ライト版アルカーナムのくっそさいあくな話だぞ!!!!
※ド直球の下ネタだぞ!!!!
※過去一さいあくな内容だぞ!!!!

 

 

―― 可愛い子とセックスしたい

 

それは男に生まれたのならば誰が抱こうが、どのような理由があろうが決しておかしくはない本能的な願望。人間の三大欲求の一つを更に贅沢にした、例えば高級料理店で美味しいものを食べたいだとか、羽毛布団で10時間ほどぐっすり眠りたいだとか、それと同列の願いなのである。
問題はこちらは食欲や睡眠欲と違い、倫理観が伴ったりお金以上の問題が発生したりと、出合いを求めようにも行動に移すハードルが桁違いであることだ。美味しいものを食べたい! と言えば「行ってくれば?」 の一言であしらわれるが、可愛い子とセックスしたい! と言えば「うわこいつキモ」 と罵られる。
当然、とこれを読んだ人であればそう思うであろう。書いている私もそう思う。

 

「あのー……魔女様、お願いをその……占ってほしくてですね……」
「えぇ、勿論いいわよ。タロットカードを一枚引くだけのワン・オラクルの占い。さあ、願いを抱いてカードを一枚引いてみて。それが、あなたの運命のカードよ」

 

男は願いを口にはしなかった。願いを口にすることは強制されなかった。
そのことにほっとしながら、シャルルが作ったアーティファクト、運命の天啓アルカーナムが置かれたテーブルの前に立つ。なんてことはないただのカード。しかし、そこには数多の複雑な術式が込められており、生半端な魔術師では一切の理解を許されない。
願いに触れる道具に、彼は羞恥心を抱きながら……邂逅を、願った。

 

(頼む! 可愛い子と……セックスしたい!!)

 

……友人が願いを占ってもらうためにここへ訪れた。
友人は得意げにアルカーナムの仕組みについて語った。可愛い子が俺の商売の手助けをしてくれて、お陰で事業が成功したと言っていた。
占い結果が示す通りに引いたカードの付喪神が力を貸す。召喚獣のようなそれは、道具として人に尽くすことが喜びだと語る。道具であるからこそ、使われるためにここにいるのだと。
それを聞いた男はこう思った。

 

なんて都合のいい女なんだと。

 

(あいつが呼んだあのめちゃくちゃ可愛い子……頼む!!)

 

強く願い、男は……カードを、引いた。
呼応するようにふわり、光の粒子が降り注ぐ。サラサラとしたコールグレーの長い髪を後ろで束ね、黒色のコートに身を包み、空のような美しい色の瞳をゆっくり開け、とても顔立ちが整った――

 

「……隠者の、大アルカナ……エヌ………逆位置……呼んだのは、君?」

 

―― 長身のおっさんが、降りてきた。
あまりの惨さに男は泣いて崩れ落ちた。

 

  ・
  ・

 

「じゃあ、私はちょっと森を見回ってくるからごゆっくりねぇ~」

 

魔女がのんきな声を上げて、家を後にする。一連の流れで何かを察して空気を読んだのか、それとも二人きりにした方が絶対に楽しいと判断したからか、善意なのか愉快犯なのかは計りかねないがとりあえずルンルンで森へと出て行った。
魔女は悪意に敏感なので、荒らされない確信はあった。悪意を持った人間が来れば、そもそも魔女の家に到達する前に容赦なく殺している。防犯対策はばっちりだ。

 

「……魔女様、出ていっちゃった。……で、人間、願いはなに?」
「おっさんじゃねぇか!!」
「あ゛?」

 

この大アルカナ、人と関わることが嫌いな上、道具として人間に尽くすことを別に良しとしていない。道具としての存在理由以上に、身勝手に扱う人間を快く思うことができなかったのだ。
そんな大アルカナにとって、願いを叶えることは渋々といっても過言ではない。だというのに第一声がおっさん呼ばわり。すでに好感度はマイナスだった。

 

「帰れ! チェンジ! 俺はそういう趣味はねぇんだよ! 何でお前なんかが出てくんだよ美青年とか男の娘とかならまだしも何でよりによっておっさんなんだよ! いや男とヤる趣味はねぇんだよ!!」
「……引き直しは……受け付けてないけど……なに? 僕じゃ不満? 僕も不満。ていうか人間、願いは?」
「は~~~~ 引き直し受け付けてないって何てシケてんだよアルカーナムってやつはよぉ!! 俺は可愛い子とセックスしたかっただけなのによ……それなのに、よりによってよぉ……」
「…………」

 

二度、三度、目をぱちくり。
男の言葉を分解し、咀嚼し、飲み込んでいく。かぁっと顔を真っ赤にし、ぎゅっと身を縮こませて吠えるように一声。

 

「へっ変体!!」

 

可愛い女の子だったらご褒美かもしれないけど、ここにいるのは29歳のおっさんである。

 

「やめろぉおおおおおお!! 身体をくねらせるな赤面すな!! お前自分が可愛いとでも思ってる!? お前自分のツラ鏡で見たことある!? おっさんだからな!? 可愛いと対極にいるって分かってる!? 寝言は寝て言って!?」
「ぼ、僕だってそんな、そんなケダモノみたいな願いに付き合わされたくない! 勝手にやってよ、いや僕でやるなそういう趣味は僕にはないんだよ!」
「俺にもねぇよ何勝手に勘違いを重ねるんだよ! 何でよりによって引いたのがお前なんだよリアクションが絶妙に女々しいけど体つきもツラも野郎だからバグるんだよ色々とよぉ!!」

 

お互いに酷い罵り合いである。
無理もない。可愛い女の子とセックスしたい、というお願いを叶えてもらうべくまるで風俗のようにアルカーナムを利用した結果、よりにもよっておっさんを連れてこられた男。一方で逆位置なりに渋々願いを遂行しようとしたところ、突然おっさんだと指さされそんな趣味はないと糾弾される隠者の大アルカナ。
ダイス事故、女神が見放した、神様の高笑い。現代においては好き放題言われる運命のいたずらを、誰がここまで酷な事故に仕立て上げることができただろうか。ファンブルNPCが3人死ぬ方が運命に見放された感はあるけれど。こっちは死んだとしても男の童貞だけだ。

 

「……はぁ、で。叶わなかったし帰っていいんだけど、お前はどうやったら帰ってくれんの?」
「アルカーナムが……占いで示した結果通りに、なったら……契約は、終わる」
「オーケー、じゃあさっさと終わらせよう。で、占いはなんて言ってんだ?」
「…………」

 

大アルカナの顔が心底不快そうになっている。そりゃあそうだ、いきなり呼ばれて可愛い女の子とセックスしたかったと怒られてるんだからごもっともだ。
とはいえ、願いを叶えることが占いではなく、願いに啓示を与えることが占いの役割。セックスしないと出られない部屋ないしセックスしないと切れない契約、というわけではないのだ。

 

「……隠者の逆位置は、思慮の浅さとか、頑固さとか、身勝手な考えを示す。
 はっ、よかったね人間、占い通り出てるよ。誇りなよ」
もう示してんじゃん。もうお前が出てくる時点で俺が愚かだったって言われてるようなもんじゃん。分かったから帰れよもう契約終了でいいじゃん」
「そしたらもっかい引くでしょ」
「引くよ」
「僕が出るよ、多分」
「シンプルに地獄か?」

 

引き直し、は禁じ手である。いいカードを引きたいと、占い結果を恣意的なものにしてしまえば、それは最早占いではない。故に、結果を示しこそすれど、引き直しが目に見えている現状は、啓示を与えたとは言い難い。
要するに、『分からせる』必要があるのだ。

 

「……契約を終えるだけなら、僕と……、セ……………しなくても、別に抜け道はあるよ」
そのツラと年齢で初心なの本当にやめて? 可愛い女の子の特権って分かってる? お前は可愛くなって出直して?
 で、だ。その抜け道、というのは?」
「……示せばいいわけだ、占い結果を」

 

逆位置が示した通りの解釈を、この人間に与えて分からせればいい。
隠者の大アルカナの逆位置が示す意味は、ある程度隠者の大アルカナが取るべき行動が決められている。それを、本人もよく分かっていた。
魔女の家の窓を開ける。すぅ、と大きく息を吸って、ぼそぼそと喋る彼にしては大きめな声で、叫ぼうとした。

 

この男ーーーーー!! 可愛い女の子とせっ…………うぅ……
「うわばかやめろ!! 広めるないや広めるにしても途中で恥ずかしくなってやめるな!! せめて言い切れよ何でそこでやめるんだよいややめていいよ!? 堂々と宣言しなくていいからやめていいんだよ、だけどそれとこれとは違うじゃん!!」
「だって……そんな、恥ずかしい……うぅ……」
「もうやだせめて好青年が童貞しろよ! おっさんの童貞拗らせる姿見たくないんだけど!」

 

隠者の逆位置は身勝手さや頑固を本人に示すこと。故に、周囲の人物に本人の行いや心理を暴露し、周囲からのイメージを意味通りに示す、といった動きが彼の定石だ。
もしそう動くのであれば、彼に付き添い、手あたり次第に「この人アルカーナムにセックスを求めてきたんですよ」と囁けば契約終了となるだろう。しかし、ここは魔女の家である。森にいる動物や魔女、あるいは他のアルカーナムに暴露できるが、それがいかに意味のないことかは明白だろう。

 

「……童貞って言うけど……童貞じゃないし……僕……」
「えっ童貞じゃないのにこの初心っぷりなの? っていうかお前もヤってるんじゃねぇか、俺の願い笑えなくない?」
「無節操じゃない……! ちゃんと、決まった人と……う゛ぅ゛ーーーーー!!」
「こいつの獣みたいにすぐ唸るな。獣だったらどれだけよかったか」

 

男は諦めたように溜息をつき、残りのカードを手に取りイラストを……というより、自分の好みの子を吟味する。これは占いではなく絵柄を見ているだけなので、引き直しにはカウントされない。

 

「そうそう、俺の友人確かこの子。めっちゃ可愛いし、めっちゃえっちなんでしょ? いいよなー、俺この子とセックスしたかった」
「何回もせ……そういうこと言わないでよ、聞きたくない……ところで、別にファディは……そういうのに、興味ないけど……」
「え? だってHIEROPHANTだって」
「え?」

 

いよいよもって空気がお前の好きな子誰よ? 俺はこいつ、とノリが男子会じみてきたが、どっちもおっさんだしセックスしたい男とそのために呼び出された男であることを忘れてはならない。
しかしこいつは何を言っているんだ? 大アルカナは男の言葉を聞いて、暫く思案して……カップ麺が1/3くらい柔らかくなったくらいで、あぁ! と気が付いた声を上げた。

 

「いやハイエロファントってそういう意味じゃないから! 『ハイ』『エロ』ってそういう意味じゃないから! 崇高なエロって解釈しないで!? これ今度から僕どういう顔でファディと顔合わせていいか分からないだろ!?」
「えっ違うの? 知人もハイエロの子がーって言ってたから、そういう意味だと思ってたしあとやっぱりめちゃくちゃ可愛いじゃん」
「長いけどその略称は可哀想でしょ! 外の世界で社会的に殺さないでよ! 知らないところで不名誉なあだ名を流さないでよ! 僕のことじゃないけど!」
「でもお前だってさっき俺のこと大声で不名誉な願いを垂れ流そうとしたじゃん」
「僕はさっさと契約終了させたいのー!!」

 

このときアルカーナムでへくちっ、と話題に挙げられている人物がくしゃみをしたがそれはまた別のお話。
すっかり男は開き直り、大アルカナだけがぎゃーぎゃーと騒いでいる状況である。心を開いた、というよりかは完全に諦観の境地である。

 

「因みにお前がヤってるってのどの子? この白と黒の子?」
「ティオールに手出したらエクシスに何されるか分かんないし……」
「あっティオールっていうんだこの人。可愛いね。でもリア充か、リア充は爆発しろ。お前も爆発しろ」
「僕まで爆発させられた。恋愛関係じゃないのに」
「え? 恋愛関係じゃないのにヤってんの?」
「え? …………」

 

ケツ穴ではなく盛大に墓穴を掘った。人はこれを自爆ともいう。
今にも穴を掘って埋まりたくなっている大アルカナと、より詳細が聞きたくなった男だ。これはもう逃がさない。吐くまで聞かれる。契約終了の話はどうなった。

 

「じゃあどの子かだけ、どの子かだけ教えてよ。関係性とかはいいからさ」

「嫌だ!? 嫌だ教えたくない!?」

「えーいーじゃん、聞いても減るもんじゃないんだしさぁー」
「僕の尊厳が……減るけど……うぅ……、…………この子、だけど……」
「あっ教えてくれるんだ律儀だな……って……」

 

一枚カードを選び、フードを被って顔を隠す。表情を見られたくない、のは分かるがもう隠しても意味はない。男ももう動じなくなっていた。
が、流石に選ばれたカードが選ばれたカードだったので大アルカナを3度見した。描かれていたのは、力の大アルカナ。
―― 8歳の、女の子である。

 

「え……子供とヤってんの……え、お前もしかしてロリコン?」
「違う違う違うまってそれは誤解まってロリコンじゃない
「可愛い子とセックスしたいって言ってる俺を罵倒する権利なくない? ていうかロリどころじゃなくてこれペドじゃね? え、ますますやばいじゃん」
「まってペドでもないの違うの話聞いていや聞かないで掘り返さないで追及しないで
「流石に犯罪っていうか……特殊性癖はちょっと……えぇ、おっさんがペドを……引くわぁ……」
「だから違うのぉおおおおおおおおおお!!」

 

さてこの大アルカナ、実は人間として作られたわけではなく人狼として作られた存在だ。更にただの人狼ではなく、魔狼の如き巨大な狼へと変化することができる。

 

「お、お前まて、待て、もしかして、人狼……いや、狼――」
「あぁぁぁあああああああああああッ!!」

 

羞恥心が限界突破した今、人狼変化を通りこし、巨狼変化を行い。
4mほどある巨大な狼が、容赦なく男に襲い掛かった――

 ・
 ・

 

「……ただいま…………」
「おかえ……どうした、随分と落ち込んでおるな。どのような願いだったのだ?」
「…………ケモナーに目覚めて僕で見抜きされた……」
「……えぇ…………?」

 

教訓:可愛い女の子という一般常識に凝り固まっていたら、特殊性癖という無限の可能性を見落としちまうぜ☆