海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

教会組邂逅話『茨抜く鳥、歌ったならば 第0節』

※教会組の過去話です。読み方は『シンフォニア オブ クックロビン』
※長さが恐ろしくばらっばら
※途中でグロテスクな描写が出る場所があります
※完結までに突然書き直しが発生する可能性があります(長すぎるのでちょっとずつ掲載中。書き終わり次第この注意書きは消します)

 

 

―『第0節 教祖の生誕』―

 

育てられなくなった子供を孤児院に託すか、教会に託すか、それとも路上に捨て去るか。あるいはいっそ殺してしまうか、遠くの地へ捨ててしまうか、別の人に売りつけるか。どれも、この世界では『よくあること』である。
彼女の親は、『遠くの地』にある『教会』に託すことにした。金持ちの両親であったが、跡取りとして男の子を欲したため彼女の存在は都合が悪かった。
育てる気がなかったため、母親の次の子供の妊娠が分かるとその子供を手放した。子供には何も告げず、眠っているところを教会の人間に託した。間違っても子供の願望で両親を探すなどならぬよう、事情を伝えて金も一緒に。
教会の人間は金で動いたわけではない。金持ちを敵に回すと、何をされるか分からない。だから仕方なく受け取り、面倒を見ることにした。

 

決して捨てられたことを伝えるな。
決して捨てられたことを悟られるな。

 

んな無茶な、と教会の人間としては言いたかった。
でも相手金持ち。お断りされればなんか報復してきそう。怖い。
神の僕を目指す人間だって命は惜しいので仕方ないね。

 

「あれ……ここ、どこでしょう。お母様とお父様は?」
「あ、あぁ、おはよう。……そう、君は今日からこの教会で暮らすんだよ。僕はここの神父だよ、よろしくね」

 

もうちょっとどうにか言えなかったのか。
目を醒ましてきょろきょろと辺りを見渡す女の子に、約束をゴミ箱にダンクシュートするかの如く捨てられたと察されそうな一言。
5歳の小さな女の子と言えど、流石にこんなにドストレートに言われてしまわれれば

 

「まあ! 今日から教会でのお勉強になるのね、とってもすてき!
 じゃあじゃああなたが神父様なのね? 私テラート、よろしくお願いしまーす!」

 

ううーーーんプラス思考ーーー!!
あまりにも聞き分けがよかったーーー!! これは両親に捨てられたどころか両親を心から信じて自分のために教会に送り込んだって信じてる発言だーーー!!
育てる気がなかった、とは言うがちゃんと教育されている。もしかしたら教育されずに放置されていたかもしれないが、あまりにもできた子供すぎて何も分からない。
それなりに大きくなって独り立ちしてくれたらいいや、と神父は思っていたが、随分熱心に神の教えを聞いてくる。興味あるの? と聞いたらない! と元気のいい返事。ないけど教会に来たからには、教会の教えを学ばず帰るのはもったいない! とのこと。あなたの帰るおうちなくなっちゃったんですよ。

 

「ねぇ神父様、神様ってどういう存在なの?」
「そうだねぇ……いつでも私たちを見守ってくださり、時に試練をお与えになさるが決して見放したりはしない。無理だ、見放した、そう思うこともあるだろうが、それはその時が大変なだけなんだ。必ず私たちを導いて、お救いくださる。それが、神様なんだよ」
「ずっと見守ってるなんてすごーい! 神様ってすごいのね!」

 

教えをいきなり熱心に聞き始めたな……と、勢いに押されつつ子供はふんふんと首を縦に振る。目の前の子供もだけど、自分にもとっても大きな試練を与えられちゃった。とりあえずご飯にしようか。教え以前にお腹空いたでしょ。
そのうちいつお母様帰ってくるの? とか聞き始めそうだなあそうなったら誤魔化せないなぁ元々誤魔化せてなかったのを都合のいい解釈してくれたけどー、とトオイメをしながら神父は子供の面倒を見た。そのときは素直に話すか……と覚悟を決めた。すでに諦め体勢とも言う。

 

 


聖北の教えを強制する気は神父にはなかった。捨てられた子供なのだから、子供らしく外で他の子供と遊び、夕方になれば帰ってくる。そのような生活をテラートもすればいい、と思っていたのだが。

 

「そっかぁ……お兄さん、大変なんだねぇ。
 うん、たっくさん頑張ってえらいえらい。よしよし!」
「うっうっ……誰も認めてくれない……誰も俺のことを嗤いやがるんだ……畜生っ、俺が金のねぇ貧乏人だって……」
「お金の有無なんて関係ない。あなたは一生懸命その不条理に抗って頑張ってる。皆が分かってくれなくても神様はちゃんと見てる。
 それに、今ここで私が聞いたもん! お兄さんがいっぱいいっぱい頑張ってるって、私が胸張って自慢しちゃうんだから!」
「ううぅぅぅ……っああぁぁあああああっ……!」

 

なんか……懺悔、聞いとるな……懺悔というか愚痴かな……しかも、自分が聞くよりも凄く救われてる感がある……
テラートは何故か一生懸命聖北の教えを勉強した。理由を聞いても、だってお母様たちが連れてきてくれたのだもの! としか答えない。多分あまり考えていない。でも大変勤勉だった。
更に彼女は教会のやり方を学びながらも、すでに得る知識に対して独自の見解を持っていた。改まった格好だと誰も寄り付かないと思うの! とシスター服は着ようとせず、普通の女の子の恰好を貫いた。神父の真似をするのであれば、それこそ衣装から入ると考えそうなものなのだが。
聖句や祈りはまだまだ難しいだろうから仕方ないにせよ、己の言葉と感情で人に寄り添い、赦しを与える。拙い方法だが、形式がないからこそ救われる者がいると目の前で何度か見せつけられた。というか進行形で見せつけられている。
懺悔に来た(愚痴かもしれない)男が帰れば、神父はテラートの頭をぽんぽんと撫でる。それからしゃがんで、目を合わせてにっこりと笑って語り掛けた。

 

「すごいね、テラートは。
 僕よりも神父に向いているかもしれない。」
「? どうして? 神父さんはいつももっとたくさんのお話を聞いてるじゃない」

 

心底不思議そうにする彼女に、神父はふるふると首を横に振る。
謙遜ではない、純粋な疑問。彼女にとっては、ただのお手伝いなのだろうけれど。

 

「君は一人一人、ちゃんと目の前の人の話を聞いてあげられる。苦しんでいる人の声を聞いてあげられる。
 君は君の言葉で誰かの支えになってあげられる。それはね、誰にでもできることじゃないんだよ。僕だってできないよ、君のようには」

 

例えば周囲にとっては馬鹿らしく笑い話になることでも、テラートは決して笑わず真剣に話を聞く。
寄り添ってくれる。聞いてくれる。それだけで、人というものはいくらか救われる。話を聞くことしかできないと、それを無力だと説く者もいるが神父はそうは思わなかった。
だから、その力を大切にしてくれと。

 

「……何で神父さんはこんな当たり前のことできないの?」
「…………」

 

願ったら、なんかとんでもない言葉の刃物で傷つけられちゃったな。やめて、そんな純粋な眼でこっちを見ないで。痛ましいだろ。僕が。

 

「君にとっては当たり前かもしれないけれど、皆にとっては当たり前じゃないんだよ」
「え、でも神様は皆を平等に、どんな人も見てくれるんでしょ?それで救ってくれるなら……神の僕たる私たちも、お手伝いしなきゃだめなんじゃ……」

 

その通りなんだけどそう上手くいかないんだよテラート。
例えば烏にフンを落とされてびっくりして野犬の尻尾を踏んで追いかけられてその先にあったバナナの皮ですっ転んだら神父してても笑っちゃうんだよ。平常を装えずに汚く噴き出して反感を買う絶対な自信しかないんだよ。

 

「テラート。その感性を、大事にするんだよ」

 

無理やりまとめた。そういうことにさせておいた。
納得していない様子だったけれど、はぁーいと返事が返ってきた。将来大物になりそうだなあ、と思うけれど、子供の好奇心は飽きやすいっていうし、いつかはこの教会から去るんだろうなあ。そもそも神の教えを教わるために教会に来たわけじゃないので……

 

 


……そうしてたら、なんということでしょう。なんかそのまま3年の月日が流れたではありませんか。流石の神父もびっくりだよ。
テラートは成長するにつれて、控え目で大人しくなっていった。だからといって暗い性格ではなく、明るくふわふわした性格のままであった。聖北の教えも熱心に学び、祈りの捧げ方も法力も己のものとしていた。
神父曰く、習得するまでにかかった時間が恐ろしく短かったという。特に法力は霊力で、心の在り方が大きいため才能の良し悪しは魔法以上に影響する。テラートには天性の才能があると言っても過言ではなかった。
法力を扱うために必要な心は、信じる心である。それは神という存在を疑わず、人の心を良く想うこと。
つまり。この子、馬鹿正直で何にも疑わない!! ちょっと神父さん心配になっちゃうよ!!

 

「それにしても……お母様もお父様も、全然お迎えに来ないねぇ」

 

ついに来たか、その疑問が。
むしろよく3年も隠し通せたよ。全然捨てられたこと疑わないからちょっとどうしようかと思ってたんだよ。気づかれるなよって言われてたけど無理だよ。
性格的に、捨てられたことを恨むことはなさそうだけど……いや、どうだろう。今まで騙されたこともなかったし、こうして信じ切っているだけあって逆に凄く恨むかもしれない。えぇ、言い出しづらい……
と、色々考えていると両手をぽん、と合わせて声を上げた。

 

「そう!お母様とお父様は、ここで私が成長し、一人前になることを望んでおられるのね!」

 

そう来たかーーー
この子、誰かの負の心を全く疑わないと思ってたけど、ここまで来ると純粋を通り越して天然なんだよなーーーでもこうやって勘違いしてる間は確実に親のことを恨まないし平和な心で居られるんだよなあって思うと、このまま黙ってた方がいいような気もしてきちゃうんだよなーーー

 

「……もう祈りも聖句も完璧だよ。法力だって使える。
 君はもう、君の自由にしていいんだよ。この教会に縛られる必要もない」
「あら、私はまだまだ未熟者よ。学ぶことも知らないこともいーっぱいあるもの。教会でお勉強してきたことを生かしてこそだと思うのよ。
 力と知恵を身に着けたとしても、経験がない。それってもったいないじゃない」

 

テラートの言葉を聞いて、神父はため息をつく。
勉強意欲が旺盛だったため教会の教えを授けたが、別に教会で一生を過ごしてほしいとは思わない。彼女は神の教えを授かりにここへ来たのではなく、親に捨てられて来たのだ。彼女の未来は彼女が決めるべきだ。
本音を言うと才能が凄いのでこのまま神の僕の道を歩んでほしいけど!

 

「だからこそ、だ。
 君はここに来たくてここに来たわけじゃない。親の意志も、私の気持ちも考えなくていい。ちょうどいい機会だから、君がどうしたいかを考えてみるといい。神様も、君の意志を認めて応援してくれるよ」
「……私の意志。」

 

考えたこともなかったなあ、と胸に手を当てる。
彼女にとって、教会という場所は『通過点』でしかない。捨てられ、預けられ、神の教えを習得した。
教会でシスターとなることも勿論選択肢にあってもいい。けれど、それが本当に自分の望みなのか。望んでこれからも神の僕になることを選ぶのか。
未来を思い描く、ちょうどいい機会だ。

 

「……私ね」

 

目を閉じて、テラートは語る。
穏やかな声で、祈りを捧げるような声で。
今もはっきりと覚えている。
まるで、本物の神様のような美しさと穏やかさを持っていて。
思わず、見惚れてしまった。

 

「神様はね、人間を裁けないの。神様にとって、人間って皆大事だから、平等に救おうとするの。
 命の重さは皆平等。けれど、そこから死ぬ人も、生きる人も出てくる。神を恨む人も居るけれど、それは違うわ。
 全部人間の心が決めるのよ。だから神様がお決めになった命の長さより以前の生死は、人の感情が全てを決めるの。
 生きるか、死ぬか。それは、人の感情で全てが決まる。……これが、私の考えよ」
「…………テラート」

 

その言葉を聞いて。
彼女の心からの言葉を聞いて。
ぽん、と優しく肩に手を置いた。
それが彼女の考えで、彼女の出した答えだったから。

 

「……異端審問官に目を付けられかねないから、普段はしまっておこうね……」

 

心の中にしまっておけば平気理論を教えることで何も見なかったことにした。
誰か助けてくれ。というか僕の聞きたかったことはそうじゃないんだよテラート。

 

 

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