海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

孤児院組邂逅話『ごくありふれたはじまりのどこにでもあるものがたり』

※他のアルカーナムの読み切りと比べるとかなり短い
※邂逅話というか前日譚かも

 

 

冒険者としてパーティを組むなら、できる限りそれぞれの役割をバラバラにするんだ。魔術に携わるやつ、器用で技量に優れるやつ、傷を癒せるやつ、敵を力でねじ伏せるやつ。俗にいう魔術師、盗賊、聖職者、戦士だな。
お前さんたちは、魔術師、盗賊、戦士は揃っている。後は聖職者が一人欲しいところだな。ただ、冒険者になる聖職者はなかなか見つからんのだ。ん、それは何故かって?そりゃお前さん、教会という本職の仕事場があるのに、わざわざ冒険者になるなんざよっぽどの物好きだろう。名を上げたい、一攫千金を夢見る、未知を知る。戦士や盗賊、魔術師には冒険者になるその一般論が通用するが、聖職者にはあまり適用されん。そりゃそうだ、神を信仰し、その教えを説き人を救うことが彼らの一般論。わざわざ危険を冒す必要はどこにもない。
だから、新しくパーティを作るってときに一番苦労するのは聖職者の勧誘だ。最も、知り合いが居れば話は別だが……

 

おや、いらっしゃい。おお、あんたは荷物を届けてくれたこの間の――

 

 

親が居ない。私は生まれてすぐにリューンの孤児院に捨てられた。
親が居ないことが私の当たり前だったから、不幸だとは思わなかった。親に憧憬すら抱かなかったし、恨むこともなかった。孤児院の皆と暮らす毎日が幸せで、私を育ててくれた神父さんに恩返しをしたいと思った。
孤児院から独り立ちすることはなく、恩を返すために聖北教徒となり、教会と孤児院の仕事を手伝うようになった。とはいっても、それまでの暮らしが大きく変わるというわけではなかった。
暮らしに何の不満もなかった。ここに居るだけで幸せだった。
子供たちからは姉のように慕われて、皆で仲良く暮らした。
新しい子が来れば迎え入れて、成長した子の独り立ちも見届けて。そんな日々がこれからも続くのだと思っていた。

 

 

「ファディ姉ちゃん!出かけんの?おれも連れてってよ!」

 

ある昼下がりのこと。神父さんにお使いを頼まれて、孤児院から出かけようとしていた。孤児院で面倒を見ている双子の子供の弟、テセラに声をかけられて足を止める。弟の後ろで彼の服の裾をきゅっと掴みながら、姉のトゥリアがこちらを見つめていた。
翠色の髪に、金色に煌めく瞳を持った双子は、2歳頃にこの孤児院に預けられた。生まれつき魔力を持った訳ありの子供であり、姉は拙いながらも本能的に魔術を扱うことができる。弟は魔術の適正はないが、自身の魔力で身体強化を行っているらしく、子供でありながら大人が負けるほど力が強かった。
姉の方はかなりの引っ込み思案で内向的。弟の方は気さくでよく気が付き、姉をフォローするように行動する。いつも二人は仲良しで、微笑ましいものだった。

 

「ちょっとお使いを頼まれただけですから、すぐに戻ってきますよ。
 冒険者の宿までお届けものをするだけですので、お留守番していてください。」
「そっかぁ、じゃあしゃーねぇなあ。重いもん持つんだったら、荷物運び手伝うぜーって思ったんだけど。」

 

子供を連れていく場所ではなければ、大勢でぞろぞろと行くような場所でもない。テセラがついて来るとなれば、必ずトゥリアもついて来る。テセラは平気かもしれないが、トゥリアには刺激が強く、苦手な場所であることは明白だ。

 

「ふふ、気遣ってくれてありがとうございます。テセラはお姉さん思いのいい子ですね。」
「わ、わたしも……ファディお姉ちゃんが困ってたら、お手伝いするもん……」
「分かってますよ。トゥリアもお姉さん思いのいい子です。」

 

よしよしと二人の頭を撫でると笑顔を返してくれた。実際にこの双子はよく私の手伝いをしてくれる。
親に捨てられて、自分がダメな子だから捨てられたと思い込んでいる。だからその思考から少しでも開放されるように、だめじゃないと伝えるためにこちらの仕事を手伝ってもらった。気が付けば、すっかり慕われて率先してやってくる。本当にいい子に成長したな、と暖かい気持ちになった。
それでは行ってきますと、もう一度二人の頭を撫でてから他の子どもたちをお願いしますと伝えて孤児院を出た。いってらっしゃーいと元気で明るい声と、控え目で可愛らしい声が背を押してくれた。

 


冒険者が呪いのアイテムを教会に持ち込んだ。その解呪が終わったので、私が届けることになった。珍しくともなんともない、よくある話だ。
見た目はただの、緑色のトルマリンがはめ込まれたペンダントだった。金銭的な価値はそこまでないのだろうが、曰く集中力を高めるルーンが刻まれており、閃きがよくなるのだとかなんだとか。解呪する前は一度身に付ければ手放せず、魔法に弱くなるというおまけつきだったが。
一度道の脇で立ち止まって、かざしてみる。魔術の知識は皆目なので、綺麗だなあという感想しか出てこない。装飾品とも無縁な暮らしをしているので、物珍しさが勝る。

 

「よう綺麗な姉ちゃん、いいモン持ってんじゃねぇか。」
「―― !」

 

不意に見知らぬ男に声をかけられる。こちらを見てニヤニヤと笑い、悪意を向けてくる。あぁ、よくないものに絡まれた。不用意にこのようなところで装飾品を観察していた私の落ち度なのだけど。
こうして声をかけられることは時々あった。しかしよりによって依頼の品を届けに行く最中に目を付けられるとは運が悪い。私物であれば逃げるために手渡すところだが、人の物である以上これを渡すことはできない。

 

「これは冒険者が教会に解呪を依頼し、これから届ける物です。あなたに渡すことはできません。」

 

正直に事情を話す。相手が馬鹿でなければ、これを狙うことが無謀だと理解できるはずだ。
冒険者の持ち物、教会絡み。一般人の私物と比べ、紛失すればどちらかが必ず動く。報復されるリスクを掲げれば、手を引くかもしれない。

 

「へへ、逃げるための嘘かぁ?嘘はいけねぇなぁ。
 なぁ姉ちゃんよぉ、それをこっちに渡せないんだったら身体で払ってもいいんだぜ?すげー好みな顔だしよぉ。」

 

しかし、相手は頭の悪いタイプのチンピラだった。手を引くどころか下衆な代替案を提示してくる。こういう場合、大抵どちらかではなくどちらも要求し、好き勝手行ってくる。
こうなると、逃げるしかない。冒険者の宿までそれほど遠くはない。すぐに駆け出そうとしたが、相手の方が速くこちらの腕を掴まれた。

 

「くっ、離して……!」
「いいじゃねぇかよぉ、ペンダントを寄越して、ついでにちょいと遊んでいこーぜ?」
「最初から代替案のつもりではないじゃないですか!」

 

振りほどこうにも力が強く、逃げられない。
焦燥が募る。周囲の人は見ないフリをしてこちらを助けようとはしない。巻き込まれないよう保身的になる。
最悪、ペンダントだけでも無事であれば。満足させて、ペンダントだけどうにか回収して逃げることができれば。なんて、極論を考え始めたとき。
その人は、私の前に現れた。

 

「こら! 嫌がってるじゃないか!」

 

私の腕を掴む男の腕に、もう一人横から腕が伸びる。
怯むことなく真っすぐと男を睨む。腰には剣が携えられているが、自警団の恰好ではない。
冒険者だと、すぐに理解した。

 

「んだてめぇ! 邪魔しねぇでくれる!?」
「邪魔も何も、お前が無理やりその人を連れていこうとしてるだろ!」

 

引かないのなら武力行使するぞ、ともう片方の手で剣を抜こうとする。
それを見てようやく怖気づいた男は私の手を離し、くそ!と一言怒鳴ってから逃げ去っていった。
乱暴に捕まれた腕が少々痛いけれど、そんなもの気にしている場合ではなかった。交戦にならなくてよかった。身を犠牲にしなくてよかった。安心して気が抜けたのか、私はその場にすとんとへたり込んでしまっていた。

 

「わ、大丈夫!? どっか怪我した!?」
「あ、あぁいいえ、大丈夫です。ほっとしたら気が抜けてしまって。」

 

困ったように笑って返す。本気で心配した様子だったから、それならよかったと浮かべた顔も、心底安心したといったものだった。赤の他人に手を伸ばして、ここまで本気で感情が揺れ動くのだから、彼は相当なお人よしなのだろうななんて考えて。
じんわり、胸の内が熱くなった。

 

「立てそう?」
「な、なんとか。」

 

手を借りて、立ち上がる。
改めて目の前の人物を見る。それなりに背があり、夜の訪れを待つ真紅の空のような瞳。錆浅葱色の髪の、まだまだ若く自分と同じくらいの年齢の男性だった。

 

「改めて、ありがとうございました。
 依頼品を届けに行く最中だったので、奪われるわけにもいかなかったのです。」
「どういたしまして。
 いやー、初めての街でいきなりあんなことが起きててびっくりしたよ。リューンって治安いい方だって聞いてたんだけどな。」
「おや、リューンは初めてでしたか。他の街の冒険者でしょうか。
 治安はいい方ではありますが、ああいう輩は時々見ますね。」

 

他の街と比べると治安がいい方であることは間違いないが、それでも面倒な輩は潜んでいる。裏通りに足を踏み込めばそれは顕著になる。
言動から察するに、まだ冒険者になりたてなのだろうか。そんな疑問が浮かんだが、すぐに解答が返ってきた。

 

「あぁ、俺はまだ冒険者じゃないぞ。
 冒険者になるためにリューンに来たところだ。お前は依頼品を届けると言ってたけど冒険者なのか?」

 

冒険者だったらさっきの男を軽くあしらえそうな気がするが。
教会の関係者だと答え、冒険者の宿に荷物を届けるところだったと伝える。するとどういうわけか、ぱあ、と顔が明るくなった。

 

「そりゃちょうどいい!軽い迷子だったんだよ。
お礼を要求する、ってわけじゃないんだけど、よかったらそこまで案内してくれないか?この街のこと全然知らなくて、どっちに行けばいいのかわかんなくてさ。」
「え、これがお礼でいいんですか?
 私としても、届けるまで護衛していただけますし、助かりますが……」
「じゃあ決まり!
 俺の名前はエナンだ、お前は?」
「ファディといいます。よろしくお願いしますね。」

 

といっても、宿まですぐにたどり着くのだが。雑談を交わしながら、歩き、依頼品を届けたところで彼とは別れた。
彼はこれから冒険者になるらしく、パーティを作るところから始まるそうだ。ちょうど同時に魔術師と盗賊らしい人が冒険者志願をしていたので、彼が冒険者生活を本格的に始めるのもそう遠くはないのだろう。

 

―― 思えば、これが私にとって、『運命の天啓』だったのかもしれない。

 

  ・
  ・

 

孤児院に戻り、神父さんに一連の出来事を報告する。途中で男に絡まれたことと、助けてもらって無事に届けられたことも話した。
大変だったね、無事でよかったと肩をとんとんと優しく叩かれる。ただこの話を双子が聞いていたのでちょっと大変なことになった。

 

「ファディ姉ちゃん悪い人に捕まったって本当!?」
「大丈夫!? 酷いことされてない!? 怪我はない!? ほんとに平気!?」
「大丈夫ですよ、助けてくれた人がいるので……いや本当に大丈夫ですって待ってくださいトゥリア泣かないで、泣かないで本当に大丈夫ですから!?」

 

心配で泣き始めてしまったトゥリアを宥めるため沢山よしよしした。テセラはテセラで一緒だったらやっつけれたのに、と怒りを露わにしていた。連れていっていれば危ない目に遭わせてしまったかもしれない、と思うと連れていかずによかったと心底思う。
その日の夜。子供を寝かしつけた後の、随分と静かな時間。ぼんやりと外を見ていると、唐突に神父さんに声をかけられた。

 

「……君のことだから、心残りがあるんだろう?」

 

何のことですか?と問いかける。
神父さんには全て見透かされていた。赤子の頃から育てられ、今でもお世話になっている。君の事は孤児院の子供たちの中で一番分かっているよ、と神父さんは笑った。

 

「知ってるよ。君は、恩人には身を尽くして恩返ししたいタイプだからね。私に対しても、そうだったように。
 ……助けてくれた冒険者さんに、お礼をしに行きたいんだろう?冒険者になるという形で。」
「…………」

 

神父の方に向いていた視線を、再び窓の外に向ける。
街はまだ眠っていない。遅くまで経営している店の明かりの眩しさに目を細めた。月がなくても、この街の夜は明るい。

 

「……冒険者。危険を冒し人々の依頼をこなし、自由を謳歌する者。常に死と隣り合わせの世界で生きる者。
 私には、無縁の世界だと思っていました。関与されることも、することもないと。」

 

チンピラに絡まれているところを助けてもらった。
恐らく何百、何千とあるありふれた物語。感謝こそすれど、身を投じて尽くす必要性なんて恐らくどこにもない。
それでも。誰もが見て見ぬフリをする中、あの人は助けてくれた。本気で心配してくれた。これから始まる一つの物語の始まりとして、ほんの少しだけ綴られる程度の、そんな出来事だけど。

 

「ファディ。」

 

無駄死にするだけだ。ここに居れば幸せな日々が続く。
自分には居場所がある。恩返しをしても足りない人が目の前にいる。
神父さんは、優しく語り掛けた。

 

「私はもう、君に十分助けられたよ。」

 

多くの人は、命を無駄にするなと引き止めるだろう。
それを、背中を押して、応援してくれた。

 

「だから私の恩返しを考えるなら。
 あなたのやりたいようにやって、あなただけの物語を、後悔のないように過ごしなさい。
 それが……育ての親にとって、一番嬉しいことだよ。」

 

生まれてすぐに親に捨てられた私にとって、親とは心底どうでもいいものだ。
いないことが当たり前だから。どれだけ親の話を聞いても、親子が並んでいる姿を見ても、何一つとして実感が沸かない。経験がないのだから、比べるための物差しを持ち合わせていない。
目の前の人間は確かに自分を育ててくれた人物だ。しかし孤児院を経営したくさんの子供と過ごす以上、親から子へ注がれる愛情とは別種だと感じていた。

 

「……ずるいですね。
 神父さんにとって一番嬉しいことと言われてしまえば、私は行くしかないじゃないですか。」

 

それを、私は不幸だと考えたことはない。
だからこうして育ててくれた人に、恩を返したいと思った。

 

 

「ファディお姉ちゃん、行っちゃうの……?」
「うぅ……元気でね……しんじゃやだよ……」
冒険者になるなんてかっけぇ!また戻ってきて土産話聞かせてくれよ!」

 

2日後、門出の準備が終わりついに孤児院を離れる日が来た。雲一つない晴れ渡った空は、神様も祝福してくれているようだった。
子供は大きくなればここを出て、自分だけの人生を歩みに行く。あるいは引き取られて家族を築き、別の場所で成長する。
私は少しここを出るのが遅くなった。安定しないし危険と常に隣り合わせの冒険者という選択肢。転機はいつも突然で思いがけないものだ。

 

「必ずまた顔を見せに来ますよ。リューンの宿で過ごすことが多いでしょうし。……もしかして、あまり変わらない生活になるのでは?」

 

冒険者がどのくらい休みがあるのか分からないが、仕事がないときは手伝いに来てもいいかもしれない。子供たちの頭を一人一人撫でて、挨拶をして、気が付く。
トゥリアとテセラの二人がいない。あの二人なら必ず見送ってくれると思ったのだけど。

 

「神父さん、トゥリアとテセラは?」
「あぁ、二人は見送りなんてすると、絶対にファディお姉ちゃんを困らせるからやらないって。」

 

あー、と思わず苦笑してしまった。泣いて引き留めて困らせてくる姿を、申し訳ないけれど想像できてしまった。思い切った決断だと思いつつも、二人の気持ちを尊重しよう。
後で無事に旅立ったと伝えてくださいね、と神父さんに伝えて、扉を開く。

 

「―― それでは、行ってきますね!」

 

惜しむ心が足取りを重くする。それを乾いた風が背を押すように吹いた。
沢山の子供と、育ててくれた人に見送られながらここを出る。何人もの声が届く。
とても恵まれていて、幸せ者だと思った。

 


エナンが冒険者となったのは3日前。その間に聖職者が仲間になっていませんように、と申し訳ないことをお祈りする。
役職が被ってしまえば、同じパーティに入れてもらえるとは思わない。否、あの人ならそれでも入れようとしてしまうだろう。
冒険者について、詳しく知っているわけではない。ただ、得意とする分野はそれぞれ異なり、物事に多様に対応できる方がよい印象はある。自分は人の傷を癒し、祈りで霊を成仏させることこそできるが、前線に出て戦うことは不得意だ。それこそ聖書で殴るしかない。罰当たりにもほどがある。

 

「―― ファディお姉ちゃん!」

 

などと考えながら歩を進めていると、後ろから慣れ親しんだ幼い声が聞こえてきた。耳を疑うことなく、反射的に振り返る。
見間違えるはずなどなかった。トゥリアとテセラが追いかけてきていた。

 

「な、あなたたちどうしてここに!?」
「抜け出してきちゃった。だって、ファディお姉ちゃんとはずっと一緒がいいもん!ね、だからわたしたちも連れてって!」
冒険者になるんだろ?こないだも大変な目に遭ったって言ってたじゃん。もっと危険なことしに行くんだったら、おれたちも連れてけよ!」
「いけませんよ、冒険者とは危険なお仕事です!あなたたち二人はまだ子供です、そんな命を粗末にするようなことは……」

 

ここで疑問が脳裏を過る。
神父さんが果たして二人が抜け出したことを気づかないだろうか。見送りはしないと彼に嘘をついて、皆が見送りに出ている間に孤児院を抜けた?恐らく、それはない。二人のことはよく分かっている。どちらも嘘をつくことは下手くそで、心優しい。勝手に出て行くことは良心が咎めるはずだ。それから何も言わず抜け出したとして、二人が神父さんが心配して捜索する、という可能性を考えないとは思わない。
つまり、この二人は私についていくと神父さんに話しており、彼はそれを認めている。そして私にこの件を話さなかった、連れていきなさいと伝えなかった。それは連れていくことも、追い返すことも、どちらの選択肢も私には許されているということ。どちらの意志も感情も肯定するからこそ、私たちに選択を委ねたのだ。

 

「わたしは普通の子供と違うよ!まだ下手だけど、魔法が使える!だから危険なことがあっても大丈夫だから!」
「おれもこの腕っぷしがある!殴り合いになっても負けねぇから!だから頼む、おれたちも連れてってくれよ!」
「だとしても、あなたたち二人に何かあったら私が耐えられません!私の我儘に二人が付き合うことは何もありません!お願いですから、笑って見送ってくれませんか……?」
「わたしだって、ファディお姉ちゃんを守りたいの!危ない目に遭ってほしくないの!この前だって、無理してついていけばよかったってわたしたち、すっごく後悔したの、もう……もう、子供だからって、力になれないのはやだよ!!」

 

危険な目に遭ってほしくない。わざわざ危険を冒しに行く必要はない。
それはお互い様だ。私が冒険者になるという我儘を振りかざせば、二人も私について行きたいという我儘を振りかざす。そこに差異はない。
私の訴えに二人は食い下がり、首を横に振って裾を掴む。俯いて、絞り出すようにしてファディが呟いた。

 

「……やだよ……やだぁ……お願い、捨てないで……」
「っ……、」

 

捨てられた理由は、自分が親にとって必要がない、ダメな子だったから。そう思い込んで常に自責して、悲観的な子になった。
そんな姉を気遣っていつも傍に寄り添う、自分を捨てた親に対して怒りと恨みを抱く子になった。
そんな声を聞いてしまえば。そんな心を突きつけられてしまえば。
二人にとって、本当に幸せなこととは何だろう。なんて、考えてしまって。

 

「…………よく聞いてください。」

 

ここで手を振りほどいてしまえば、この双子はどうなるだろう。
私に対して抱いてくれた信頼も、結局捨てられたのだと裏切られたと傷になってしまうのだろう。
それを果たして、本当に彼らの幸せを願うと言えるのだろうか。
特に二人共、普通の子供ではない。魔力を持ち、それを扱う力がある。それならば、普通ではない選択肢だって選ばせてもいいはずだ。
なんて、とんでもなく甘いな、と自分で自分を笑った。

 

「私はとある方に冒険者志願をしに行くつもりです。その方が、二人を冒険者として認め、行動を共にすることを許可するとは限りません。そもそも私もその人と共に冒険者として過ごすかどうかも、まだ確約されたわけではありません。
 それ以上に。危険が付きまとい、これまで以上の恐怖も暴力も、命の危機も経験するでしょう。それでも……私についてきてくれますか?」

 

日常から非日常へと足を踏み入れる。
私にとっても不安はある。暴力の世界を私はまだ知らない。テセラはまだしも、トゥリアは特に内向的で臆病だ。この選択を取って、後悔はしてほしくない。
独りよがりな恩返しに二人を巻き込んで、もし二人が死ぬようなことになれば私はきっと耐えられない。だから追いかけないで、戻ってほしかった。

 

「……怖くない、っていうと嘘になっちゃうけど。きっとたくさんたくさん、怖い思いもするし、後悔もするんだと思う、けど。」

 

あぁ、でも。
そんな真っすぐな瞳をこちらに向けられてしまったら。

 

「わたしはきっと、やり直せたとしても何度でも同じ道を行くよ。」
「躊躇うことなく駆けてくよ。トゥリアの傍にも、ファディ姉ちゃんの傍にも居たいから。」

 

無謀だと分かっているのに。
きっと後悔するのは自分だと分かっているのに。

 

「……そう、分かりました。」

 

振り払うことなんて、できないじゃない。

 

「トゥリア、テセラ。
 ―― 行きましょうか、運命の天啓亭へ!」

 

そうして私たちは3人で冒険者の宿へと向かった。
二人の手を繋いで足取り軽く向かうその姿は、きっとどんな冒険者よりもらしくなかっただろう。
その始まりも、思い返すと恥ずかしくなる話ではあるのだけれど。

 

だって、助けてもらって惚れてしまったから、だなんて。
それで恩返ししたい、力になりたいだなんて、今でもどうかしていると思う。

 

きっと沢山の後悔をする。考えの甘さに、冒険者になったことに、2人も冒険者として同じ道を歩ませたことに。
それでも、私たちは普通ではない選択肢を選んだ。悔いても、最期にはその選択肢が良かったと言えるようになりたい。
さあ、扉を開けよう。すぐにやってくる、初めての冒険と未知の世界に心を躍らせながら。まるで神様が私たちに授けた運命の天啓を受け入れて。

 

 

 

 

☆あとがき
あのですね。辛いんですけど。オクエヌ邂逅話とか後日談とか双子の話とか以上にこれ辛いんですけど。
だってこのふわふわっぷりですよ。めちゃくちゃ和やかな冒険者デビューですよ。平穏そのものですよ。なのにさあ……なのに、さあ……

>>初手『迷い花』<<


比較的短い邂逅話です。わんころさんは王道が好きなので王道をしました。出自が暗い冒険者ばっかりになるのはあんまり好きじゃないので、私は結構ライトな出自も多めにするタイプです。幼稚園組は特にそう。
その結果とんでもない地獄になり終わったはずの今凄く胃がぐずぐずしてます。たすけてくれ・・・・・・どうしてあんな地獄をさせたんですか・・・・・・こんなにほのぼのふわふわ可愛い子たちが・・・・・・うううううううう

 


話は変わるんですが、純癒し手の人数って少なくなりません?
アルカーナムは

勇将型:5
豪傑型:4
知将型:2
策士型:3
万能型:5
標準型:3

になります。改めて見ると偏りすごいな……そして癒し手じゃないんですが、純聖職者ってファディちゃんとテラートちゃんだけなので……少ないな???