海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_22話『帰巣』(4/4)

←前

 

 

ラドワたちの方で決着がつく少し前のこと。

 

「……呪歌の欠点は、発動の遅さ。そんなこと、私たちが分からないはずないでしょう?」
「ぐ……く、そ……!」

 

あの後。
クレマンもミュスカデも、アスティとロゼの攻撃を打ち消す、あるいは回避するという行動を取らなかった。
ミュスカデは、その身で2人の攻撃を受けた。しかし水砲も弓矢も、彼女の肉の表面を少し傷つけた程度に終わった。
村から事の通達者がアルザスの元へ向かったことを確認できたのなら、後は待ち伏せをして襲い掛かればいい。通過するタイミングは凡そ予測できる。
1人で通過すれば、2人で襲撃した後に片方がアルザスの家へ赴き、暗殺をする。もしアスティのみが残っていれば、そのまま回収。最も面倒な、3人で村を向かうという選択肢を取られてしまったが、それも想定内。
つまり、準備を行った上で奇襲に出ることができた。エンチャントの類をかけておく時間は、いくらでもあったのだ。

 

「魔法の鎧、本当に便利ですよね。死にたくありませんから、念入りに準備をさせてもらっていました。」
「あっちと違って、こっちはロゼにゃんにアスティの回収があるからさー。他は殺しちゃってもいいんだけど、2人は殺すわけにはいかないじゃん?ワタシとしては、アスティはどうだっていいんだけどさー。ぜっくんが欲しがってるからしょーがないんだよねー。」

 

きゃはははは、と笑いながら動けないロゼへと近づいてゆく。
嵐の歌。狂乱の嵐を描写した歌は、肉ある者の四肢を切り刻み、動きを阻害する。殺すな、とは言われていますが傷つけるな、とは言われていませんからね、と淡々と語った。

 

「そこのシーエルフの処理任せていい?ワタシはロゼにゃんと再会の挨拶をしたいな!してくる!」
「人の話を見事に聞きませんね。まあいいです、ではそちらは任せましたよ。」

 

ひっ、と、ロゼから小さな悲鳴が漏れる。
雷の呪縛から抜け出せず、そのままクレマンに抱きしめられる。……不気味なほどに、吸血鬼は満面の笑みを浮かべていた。

 

「知ってる?吸血鬼って、恋をしちゃうと恋をした相手以外の血ってまずくてさ。ずっとずっとずーっと我慢して他の奴の血を飲んでたんだよ?」
「や、やだ……離せ……やめて、やめ……て……、」

 

懇願する声が聞こえているのか、聞こえていないのか。
いただきまーす、と口を開け、翼の首元へと牙を突き立てた。

 

「ぃ゛、あ、あ゛あ゛ァ゛ぁ゛あ゛あ゛ア゛!!
「んー……やっぱり美味しい!この世界で誰よりも美味しい!やっぱりロゼにゃんは最高だよ!」

 

痛みと、理解したくない感覚で身体が跳ねる。
吸血鬼の吸血行動は、獲物を痛みによる拒絶で逃がさないため、快感を伴わせる者がいる。クレマンの吸血は、特に強い快感を伴わせるものだった。本人が意図して得たものではないが、こちらの方が確実に相手を仕留められる分便利だ、とは語っている。
無感情の呪いが、皮肉にも命綱となった。少しだけ、気持ち悪い感覚がする、その程度に留まった。しかし、痛みと少しとはいえ、認めたくない快感からびくり、びくりと震え、口からはだらしなく涎が垂れる。
痛々しい叫びは、アルザスとアスティにも届いた。
無感情の呪いを持ってさえも、塗りつぶしきれない恐怖を孕んだ声だった。

 

「ロゼっ……!」
「あなたの相手はこっちですよ。人の心配をしている暇ありますか?」

 

手に持っていたものは笛ではなく、海の空の色をした宝珠。
呪文を唱えれば呼応し、アルザスに更に雷の追撃が天より飛来する。

 

「が、ぁっ……!」
アルザスアルザス……!」

 

逃げて、と叫びたい。けれど、この状況でどうやって逃げろというのか。
二発目、三発目。確実に、命を刈り取るための追撃を重ねていく。
やめて。もうやめてください。私が連れていかれますから。
そう、泣き言を言おうとして。

 

「―― なるほどこれは、」
「―― ひでぇ有様だな!」

 

一人は、突剣に水を纏いながら吸血鬼へ。
一人は、杖に闇を纏ながら吟遊詩人へ。
それぞれが殴りかかり、けん制され……そして、背中合わせになるように立った。

 

「しかし、本当に転移を成功させたなあいつ。私が保険で再度転移させる気で居たが、これは見事なものだ。っていうか本当に法外だなぁあいつ!」
「叫びたい気持ちは分かるが、今はこいつらをなんとかするぞ!俺はあんまし事情を知らんが、卑怯な手を使う連中だってことは分かった。俺たちが、力になるぞ!」

 

最後の言葉は、この場の倒れている3人に向けてか。
じっと見つめ、まともにやり合わないと見抜く。乱雑に牙を抜き、悲鳴を上げるロゼをお構いなしに地面に放り投げた。
とても、愛する者と思えない扱い。支配し、屈服させる。独りよがりの人形遊びのようだった。

 

「きゃはははは、威勢がいーなぁ。……ちょっと強いからって図に乗ってない?」

 

ふっ、と消える。いつものやり方。視覚から消え、死角から襲い掛かる。
いつものやり方。そうしてこの吸血鬼は何人も葬ってきた。

 

「……を、つけ、て……ぅしょ、ねらっ……」

 

未だ身を震わせながら、微かな声を紡ぐ。
俺に任せろと、それだけを言葉にする。目を閉じて、突剣を構えた。
彼は元々は長剣を扱う剣士であった。魔法の心得などなかった。
されど、遺跡のトラップにかかり、かつての剣が振るえなくなった。
代わりに。

 

「…………」

 

集中する。視覚情報を閉ざす。
代わりに、吸血鬼であり、海竜の呪いにより持っているそれ。
魔法剣士となったから見えるもの。

 

「……―― 」
「そこだっ!」

 

魔力を、視る。
相手が動き出す、そのほんの少し後。
急所を狙うことは、ラドワから聞いていた。
どこから飛んでくるかも視えていた。
ならば、どの軌道を描き、どこを狙ってくるか。予想することは、誰だってできる。
キィン!と金属音が響き、二本の剣が交差した。

 

「……へぇ、よく防いだね。」
「生憎と、視えていたんでな!」

 

ぱきりぱきり、凍てつく音がする。
突剣に冷気を帯びさせ、触れる空気を凍らせる。そのまま彼女の得物の銀の短剣ごと一体化させ、

 

「はぁーーっ!」

 

クレマンごと、地面に叩き伏せる。
子供の身体は軽く、容易く宙に浮く。視界が反転し、咄嗟に手を放し受け身を取る。
そこからすぐに地面を足で蹴り、レンへと接近。

 

「残念だけど海竜の呪い持ちに冷気は効かないよ!」
「冷気は効かなくとも、物理的な氷は効くだろ?」

 

寒さによる運動能力の低下や外傷は期待できない。海竜の呪いは、魔力の性質上冷気に強くなる。
しかし、あくまでも寒気に強いだけであり、身を凍らされれば動けなくなるし、氷で殴りつけられれば勿論物理的な傷は生じる。

 

「そら、受け取れ!」

 

魔力を帯びた剣をやや下にめがけて横に振るう。斬撃は冷気を帯び、彼女の足枷にならんと凍り付き始める。
それを跳んで回避し、そのまま前へと突進する。狙いは短剣の回収。剣へと手は伸ばされ、バキッと氷が砕かれる音と共に回収された。
そのすれ違った瞬間に、レンは服の中から薬を取り出し、それをクレマンへと投げつける。剣を取るために動きが一瞬だけ止まる、その隙に。

 

「……!」
「そら、身体がだるーくなってくるだろ?」

 

ふっ、と笑みを浮かべる。
彼は剣と魔法の他にも、薬学に通じていた。正確には薬の作成ではなく、薬の『扱い』であるが。
問題は、果たして吸血鬼や海竜の呪いを持つ者に効果があるのか、だが。

 

「へぇ……毒も使えるんだ。吸血鬼に毒を盛るなんて変わった趣味だねぇ?」
「変な方向に解釈されてるのが腑に落ちないが……けど、その様子だと効いてない、ってわけじゃなさそうだな。
 無理すんな。吸血鬼、そんで暗殺者。そっから機動力を奪えばアンタに勝ち目はない。」

 

くすり、吸血鬼は平気そうな顔で笑うがどこか引きつった笑みであった。
効き目はさほどでもないようだが、明らかに動きが鈍くなっている。毒薬ではなく、身体の動きを制約する一時的な効果のある薬だ。時間が経てば効果は消えるし、吸血鬼の再生能力と海竜の呪いの力があれば、回復速度もずっと早いだろう。

 

「それよりも、アンタの連れの心配をした方がいいんじゃないか?
 なぁ、ガゥ。『俺と一緒に』戦ってるんだ、そうだろ?」

 

それに応えるかのように、その背へとザッと後ずさる影が一人。
対峙していたミュスカデは随分と追い込まれているようで、地面に膝をついていた。

 

「……いて、ませんよ……」

 

疲労困憊の状態で、声を絞り出す。


聞いてませんよ!魔術師が!杖で殴ってくるなんて!
「誰も魔術師が殴ってはいけないなんて取り決めた覚えはないが。」
「あとすっごい私として近づいてきてほしくない気配がします!この世で最も恐ろしい気配がします!嫌だくるなこっちくるな!」
「死そのものを内包しているからな。」

 

かつて、ファフニールという邪竜を身に宿されたことがある。今はその邪竜はいなくなり、代わりに別のものが代理を務めている。
ともあれ、死を内包していることには変わりない。そして、ミュスカデは最も死を恐れている。そんな彼女は、吟遊詩人にとって最悪の相手と言えるだろう。

 

「魔術師が、」

 

トンッ、と走る。
その瞬間速度は、今のロゼやクレマン達にも劣らない。

 

「全て魔法で戦うと思うなよ!」
「く、ぁ……!」

 

長い竜骨の杖を振るい、くるりと回してもう一撃。
咄嗟に所持している宝玉で一撃を裁くも、もう一撃は鳩尾へとめり込む。
じり、と焼かれたような痛みを感じ、短い呪文で杖に雷を迸らせる……が、杖はその雷を吸収し、己の魔力へと転換した。

 

「……魔力を、喰らっている……!?」
「概ね正解だ。ファフニールというものは、随分と暴食だったものでな。」

 

杖は、そのファフニールと同質の骨で作られている。
ファフニールは、物語を喰らう竜。彼女はこの世界の生まれではなく、とある幻想で構成された世界の出身。
その世界の邪竜はあらゆる幻想を喰らう、天災ともいえる存在だった。その力を有する。つまり、あらゆる者を喰らう性質がある。同質の存在を内包する彼女は無害だが、それに触れれば物語を、存在を喰らわれ、やがて無へと帰する。
因みに本人に触ってもそんな効果は一切ないのでご安心ください。丁寧に封印が施されています。だから他の人の魔力を分けれないんですよね。というかこんな魔力分けたら相手死んじゃう。

 

「……凄い。一方的です……」

 

唯一まともに意識のあったアスティが、ぽつりと呟く。
オルカが一つの能力に特化しているのに対し、駆けつけた2人は随分と多芸であった。
どちらも才能や境遇には決して恵まれなかったが、努力を積み重ね、今を手に入れた。
できなくなったことの代わりに何ができるか。
何もできない者がどうすれば何か成せるか。
そうして2人は、あらゆる術を磨いてきたのだ。

 

「さあ、まだやるか!」

 

殺せ、とは言われてはいない。
殺した方が、カモメたちは安全に己の目的を果たせるだろう。しかし、それでは意味がないことは、彼らも理解している。
因縁の相手は、いつの日か自分の力で決着をつけるべきだ。それが、今ではない。だから、力を貸す。

 

「……、おや。」

 

ここで、ミュスカデが耳に手を当てる。
何かを聞き、了解ですと短く返事。ほっとしたような表情を浮かべていた。

 

「クレマン。ラペルから撤退命令が出ました。作戦は失敗です、戻りますよ。」
「……うーんそっかぁ。っはははは、あーあ、また邪魔が入っちゃったなぁ……今日こそロゼにゃんと一緒になれるって思ったのになぁ。なかなか神様とやらは、ワタシたちを一緒にしてくれないね。」

 

相手から戦う意志が消えたことを感じ取れば、警戒しながらも2人は武器を下ろした。
ミュスカデが転移のための術を紡ぐ。惜しそうな声を漏らしたクレマンに、レンがぽつり、問いかける。

 

「なあアンタ。アンタは本気で、ロゼのことが好きなのか?
 俺はそうは見えない。アンタの求めてんのは、私利私欲に、従順に動く駒じゃないのか?」

 

その問いかけには、きゃははと笑い声をあげて、満面の笑顔で答えた。

 

「愛してるよ。誰よりも、ロゼにゃんのことを。ロゼにゃんもワタシを愛してくれてる。
 だから喜んで血を差し出してくれるし、一緒に強くなってくれるし、ロゼにゃんも嬉しい!って再会の挨拶をしてくれた。思われてるでしょー。」

 

どこまでも無邪気で、どこまでも邪悪な言葉。
それを最後に、転移術が完成したらしい。空気が流れる音が微かに聞こえ、やがて2人は見えなくなった。
どこまでも広い、突然静かになった夜の原を風が駆け抜ける。

 

「……話には聞いているが、狂っているな。」
「珍しいな。レンの不機嫌な顔、久しぶりに見た。」
「あれを聞いて、不機嫌にならない方が無理だろ。」

 

それはそうだ、とふっとガゥワィエは笑った。
武器を仕舞い、次のやるべきことに目を向ける。はっとアスティは我に返り、2人に叫んだ。

 

「……!そうだ、アルザスアルザスは!?ロゼも、無事ですか!?」

 

嵐の歌の効果が切れ、立ち上がろうとする。無理に起きなくていいと伝え、3人の状態を見る。
アスティは比較的軽傷。ロゼは重傷とはいかないが、牙を突き刺された跡が痛々しく残っている。アルザスは重傷で、一刻も早く手当が必要だろう。

 

「応急処置をする。暫く休ませる必要はあるだろうけど、助からない傷じゃない。だから安心してくれ。」
「ありがとう……ありがとう、ございます……ありがとうございます……!」

 

ぽろぽろと涙をこぼし、何度も何度もお礼を述べる。
彼女にとって、大切な人だということはすぐに伝わった。どういたしまして、と答えてからお礼はラドワにも伝えるように、と付け足した。
彼女が遅れて緊急事態に気が付き、躊躇うことなく助力を求めたお陰で最悪の結末を免れた。リューンで飯を食っていたお陰だ、となんともクソみたいな話だが。

 

「しかし。」

 

と、ここで気が付いた。

 

「……どこに……運んだらいいんだ、これ……?」
「リューンに……運……いや……どっかに拠点を作ってる可能性も……ううん……?」

 

困ったぞ。これ勝手に動かせないぞ。
行き違いが怖い。主に、転移術があるとはいえ片道一か月の道のりを行き違いになるのは怖い。途方に暮れながら待つしかない。途方に暮れながら待った。
無事に合流できた、というより向こうに見つけてもらえたのは更に約20分ほど後のお話である。

 

  ・
  ・

 

あの後全員応急処置を行い、アルザスの家へと運び込んだ。ノメァは治療の心得はないとのことで、運び込みが終わると依頼料を受け取り、ここで帰ると申し出た。事情は深く聞かない性格で、襲われた理由や相手のことの質問はなかった。てかプリーストなのに回復魔法の1つも使えないって本当にプリーストなのか。
レンとガゥワィエは残ってもらい、治療の手伝いをしてもらう。特にレンは薬の扱いには長けているため、手当の手際の良さは目を見張るものがあった。
アルザスとカペラ、ゲイルは特に酷い怪我であったため数日は寝かせておく必要があるだろう。アスティとロゼも怪我はそこまで酷くなかったため、次の日になれば動けるようになっていた。ただし、精神的な傷もあるため、やはり休むことは必要だろう。
屑?唾つけときゃ治る。

 

「ありがとう、人手も増えたし後は大丈夫よ。」

 

人手を増やした。ノメァを見送るためと、薬を取りに戻るために一度リューンに戻ったとき、何やら女の人に声をかけられた。
なんと死体。聖北の力による治療が、こんな状態でも使えるそうだ。家主が不在になった後でも要るかなって、と謎の談。そんな軽い気持ちで死体使役をするな。これだからネクロマンサーは。

 

「約束の2000spよ、受け取ってちょうだい。」
「あぁ、それは1000spでいい。カモメの翼にとって、ノメァの分を合わせて3000spはかなりきつい金額だろう。それに、私とレンは同じパーティだから分け前で揉めることはまずないし……何より、お前たちは私が個人的に気になっているパーティだ。報酬が出なくても手を貸しただろう。」
「俺も、2人で1000spで大丈夫だ。俺も理由としては、ガゥが気にかけていたからそれに付き合うことになったろうし、困ってるときはお互い様ってな。」
「そう?それじゃあありがたく1000spだけ支払うわね。」

 

流石屑。遠慮しない。
報酬として、1000spは妥当な金額だろう。拘束期間が短く、すぐに終わる仕事だ。ちょっと相手がこの上なく厄介だが、殺す必要はない。熟練者にとっては、楽で稼げる依頼と言えるだろう。
最も、その後の治療の手間暇を考えれば楽とは言いづらくなってくるが。そこは互いに人見知り割引。

 

「さて、と。私はこの後仮眠を取ったらスノウ=レイに行ってくるわ。片道10日かかるけど、まあ、皆怪我しているし、暫く暇でしょうし、丁度いいでしょう。」
「スノウ=レイは……白銀都市だったか。それはまた何用だ?」
アルザス君が面白いものを見つけて帰ってきていたから、その鑑定。賢者の塔でもいいと思ったけれども、北方地方のものだから北方地方の人に鑑定をしてもらった方が何か見つかると思ったのよ。後はゲイルの斧が壊れているから、これも同じ地方の武器の方が手になじむと思ったから。」
「あと、あんたは一回実家へ帰れ。」

 

会話を聞いていたロゼから真顔で言葉を叩きつける。えぇーって顔をしている。おいこれ絶対一人で行かせたら顔合わせないで帰ってくるやつだぞ。
ラドワの実家は白銀都市にある。家出をして帰るのが凄く気まずい。行きたくない理由はたったこれだけ。

 

「ふむ……それなら私の転移術で送り飛ばそう。帰りはお前が転移術で帰ってくればいい。実家があるのならば、お前の『縁』で送り飛ばせられる。
 あと監視役としてロゼも一緒についていってくれ。」
「えっいや、別に私一人で
「むしろ一緒に行ってくるわ。不安しかないし。」
「えっやだ私信用されていない!」

 

だって一人で向かわせたら挨拶することなく帰ってくるでしょう?当たり前でしょうどうして挨拶する必要があるのかしら。黙ってたらバレなくない?あんたそういうとこよ。
そんなやりとりを交わし、くそでかため息をつきながらも承諾。アルザスの服の中から勝手に奪い取った、海底遺跡の石。魔力の残留があることは、ラドワにも分かった。

 

「これ、ガゥワィエに調べてもらうことはできないのかしら?ほら、物語が見えると言っていたじゃない。」
「私の力は物語を有する者……簡単に言えば、人や生物にしか通用しない。というわけで行ってらっしゃい。」
「肝心なところで使えなかったわ。はぁ……仕方がない。行ってくるわ。明日には帰るわ。恐らく今日は一日泊まれ、って言われそうだし。」

 

再びため息。やれやれとぶつくさ言いながらも諦めた。意を決した。
正午になったら起こしてと伝え、適当に床に寝転がり、寝息を立て始める。それを確認して、ガゥワィエは誰に向けてでもなくぽつりと呟いた。

 

「そろそろ……真実が、暴かれる頃だろうな。」

 

ここへやってきた理由は、概ね分かっている。
アスティが、何者なのか。その答えが出る日は、そう遠くはない。

 

だから、今は。
おやすみなさい、良い夢を。
夢語りは、吉夢を祈った。

 

 

 

☆あとがき
難産!おぶ!難産!めっちゃ苦戦しながら書きました。これが難産すぎたせいで全然リプレイが進まない事態ですよえぇ!!
何で難産だったかってねーーー オルカが登場する理由が全然なかったんですよーーー 最初はソレラ君ラペル様シャトーちゃんの3人を出す予定だったんだけどねーーー いやオルカがこれ出る理由なに?ちょっかい?って。蛇足にしかならず、半年くらい悩んでた気がします。びっくりするくらいまとまらなかったよね!お陰でちょっと内容的に変更があるかも!と思って書き上がっていたはずの狼神の住む村で、のリプレイも公開が遅れる遅れる!
因みに最初はカモメの実力を測るためのアスティちゃん拉致(ラペル様の趣味ともいう)でした。で、とりあえず纏まらないからまとまってるところっまで書こうって、いざ書き始めてふと思いついたの。

「そうだ村を焼こう」

するとなんということでしょう。オルカの行動に、『カモメを殺す』という目的が生まれたではありませんか。
で、アルザスたちが村へ走るとして……あれ?ここでアスティちゃん連れていかない、って選択肢あるな?でも連れていかなかったらめっちゃ拉致れるじゃん。それ警戒しない?というか、その発想をオルカがしなくなくない?
ということで、クレマンさまとばあばも急遽出番。
ぜっくん?あいつはリューンのどっかにいます。ポータル代わり。逃げるための保険だったそうです。

そして、レン君をがっつりお借りしました。借りるとは思ってたけど!こんながっつり戦闘も含めお借りすることになるとは思ってなかった!そもカモメがこんな5人もボロボロになると思わなかった!
そのせいで!ラドワさんだけとんでもなくチートな感じがするというか、一人だけレベル7冒険者って感じがしますね!そんなことな……くない?あれ?こいつほんとにレベル5になったばっかり?

後はガゥワィエとノメァちゃんに関しては、私が定期ゲームに出したキャラクターです。ガゥさんを覚えてる人はまだ多そうだけど、ノメァちゃんを覚えてる人は果たしてどのくらいなのだろうか。そんなこんなで、ちょっとファンサも多めな回でした。