海の欠片

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リプレイ_22話『帰巣』(2/4)

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「お帰り。進展は……その様子だと、アスティは何か思い出した?」

流石に留守にしていた間誰もいなかったため埃がひどかったらしい。家に戻ると、掃除をしているロゼが2人を出迎えた。ラドワの姿が見えないので場所を聞くと、転移術の試運転中だそうで問題なく術が発動しているのなら今頃リューンだと伝えられる。
なお、転移術はそんなに簡単に行えるものではない。いくら目印を作ってポータルを設置しても、覚えたさあやろう!でできるものではない。
ロゼと会話をする前に、アスティをベッドに寝かせる。意識はあるので、ありがとうございますと小さく弱々しくアルザスに呟いた。暫くは動けそうにないだろう。


「多分、そうだと思う。海底に遺跡があって、二人で探索していると急に取り乱して……俺が付いていながら、こんなことに……」
「湿っぽい鬱陶しい。記憶探しは前進したってことでしょ、むしろ喜びなさいよ。」
「なっ……お前、可哀想だとは思わないのかよ!?辛いことがあって、それを思い出して……酷く、苦しかっただろうに……」
「過去を思い出したいとはアスティも願っていたはずよ?それに、いくら同情したところで過去は過去。今には関係ない。……そうよ、今はもう、関係ないのよ。」


最後の方の言葉は、どこか震えていた。自分に言い聞かせるようにも聞こえた。
呪いによる無感情は、完全に感情が消えたわけではない。抗う以上は、強く抱いた心はしっかりと表面に出る。
そうだ。彼女は竜災害で両親を亡くした。生きるために盗賊になり、そこで裏切られた。望んで得た呪いではない。濡れ衣と共に与えられた、竜の呪い。
北海地方での出来事は、ロゼにとってあまりいいものではない。こちらに来て思い出すこともあるのだろう。話したがらない程度には、無感情になってからも気にしている。そう思い出し、すまない、と小さく謝った。

「あんまり自分を蔑むのはよしなさい。アスティが余計に悲しむわよ。記憶の手がかりを探すためについてったのに、それをあんたが否定すりゃどう思うかくらい分かるでしょ?」
「そう、だな……喜ぶことはできないけど。アスティは戦って、前に進もうとしているんだもんな。それを、支えてやるのが俺なんだ。」
「……よくそういう恥ずかしいことを口にできるわよね。」


自覚はなかったらしい。げほげほと咽て、そういうのじゃないからと必死の講義。どういうのなのだろう。
相変わらずこのシーチキンエルフは重たい。向ける感情が大変重たい。

「しかし、ラドワはともかく。カペラとゲイルが遅いな。」


日はほぼ沈もうとしている。ラドワは仲間内の時間の打ち合わせには少しルーズだが、カペラはきっちりと守る方だ。ゲイルも、カペラと共に村に居ると考えると、必ず2人で戻ってくるだろう。
それだけ家族との再会を喜んでいるのだろうか。夕食を何人分作ればいいんだろうか。ラドワ辺りはリューンで食べてきた、とか言いそうな気はする。


「まだ集まらないなら、俺は魚でも獲ってくるよ。携帯食にもそろそろ飽きてくるだろ?」
「あたしは何でもいいけど……アスティ辺りは喜びそうね。えぇ、それじゃあたしはここで待ってるわ。ラドワがいつ帰ってくるかもわかんないし――」


バァン!と、突然勢いよく扉が開かれる。
噂をすればやっと来たか?と思いきや、現れたのは見知らぬ男性。村の者だろう。
男は大粒の汗を流し、息を切らしながら叫んだ。


「たっ、助けてくれ!む、村にっ、村が……燃えてるんだ!
「―― !?」
「しらねぇ野郎と、変な魔術師と、獣みたいな女がいる!今ゲイルとカペラが戦ってるんだけど、でも、あいつら、アスティを出せって、それで、それで、」

血相を変えるアルザスに、このような場でも決して動揺しないロゼ。
男はカペラが出した指示によってここに向かったらしい。馬を連れているなら馬に乗って。室内からは分からなかったが、話によれば一匹の馬が外に待機しているらしい。


「一個聞かせて。村にいる、『ヤバイ奴』はその3人?他にはいた?」


それは、今村にいる2人も察していることだろう。後をつけられていたのか、それとも先回りをされていたのか。分からないが、アスティを狙い、手段を選ばない者といえば。


「い、いや、他はわかんねぇ!で、でも3人は、3人は確実だ!」
「分かった。アルザス、行くわよ。きっと、オルカの背鰭のやつらが来てるんだわ。」
「―― 、」

判断を、迫られる。
アスティの方を、ちらりと見る。話を聞いて、疲労困憊の身体を起こし、アルザスをじっと見つめていた。
村への道は分かっているから、男をここに置いていく。代わりに馬を借りてゆく。片道30分の道を、少しでも短くできるように。ロゼに関しては、普通に走って速いのでそれで。


「……アスティ、行けるか。」
「行けます。……行きます、アルザス。」


ふらつきながらも、立ち上がる。無理させてごめんな、の言葉にゆるゆると首を横に振った。
男には、この場に留まってもらい屑が帰ってきたときに村に向かえと伝えてほしいと伝えておいた。しかし何でこんな大事なときにいないんだあいつは。
いつかの日のように、アルザスとアスティは馬に乗る。用意ができたことを確認し、全速力でロゼは走り出した。それに続くように馬を走らせる。現在ロゼの方が馬よりも少し遅い。
歩いて30分は、概ね2.4km。ロゼの速度に合わせても2、3分程度でたどり着く。できる限り急ぎ、目的地へと向かった。

「……ほんと、判断力はいいわね、あんた。」


淡々と、されど賢明な判断だとロゼは語る。


「あの説明だと、明らかにクレマンがいないわ。あいつらのことだから、ここでアスティを残して2人で向かう、あるいはアルザスだけを残したところをクレマンが襲ってくる、なんて可能性も高い。
あの特徴。ゼクト、ミュスカデが該当するのかはわかんないけど……『獣みたいな女』に関しては、こないだの3人の中に含まれてないはず。だから襲ってくるとしたら
「―― アスティを1人に、あるいはアルザスと2人にしたところを他の人が狙ってくる。だからできるだけ大人数で固まった方がいい。」
「――!」

きゃはは、と甲高い声が響く。
それが聞こえた頃には、すでに馬の心臓には短剣が突き刺さっていた。嘶くこともなく、そのまま足を絡ませて崩れおち、すぐに動かなくなる。

「がっ――!っ……、……やっぱり、お前らが、」


馬から前に放り投げだされ、受け身を取れないまま地面に転がる。すぐさまアスティに背を向け、守るようにアルザスは立ち上がった。
ご名答、と言いたげに銀色の髪を揺らしにんまりと笑う吸血鬼。深紅の瞳の奥に、蒼色の光を宿した少女、クレマンと……そのすぐ隣には、2人を見下すように、白色の法衣を身に纏い、ぼんやりと虚ろな瞳をした女性、ミュスカデが立っていた。

「んもー、逃げちゃうから逆に手間んなっちゃうじゃーん。えへへ、でもロゼにゃんお久しぶり!元気だった?今日こそワタシたちと一緒に帰ろう!そして二人ぼっちの世界を目指すの!」
「そんなもの、お断りよ!誰があんたなんかと一緒になんか……もうあんたの顔も見たくないの、消えて、あたしの前から消え去って!」

無感情のせいで、本来であれば感情的になれないロゼが、明らかに動揺している。
短剣はすでに構えていた。機敏さだけでいえば、クレマンよりロゼの方が上手である。しかし、的確に急所を狙う技量に関してはクレマンの方が上だ。
何よりも、精神的な面でクレマンの方に部がある。だからといって、そこにアルザスが加わったところで、的確な攻撃を防げず無駄に命を散らすことになる。
分かりたくないが、分かっている。この場で殺される可能性があるのは、アルザスだけだ。

「私としては穏便に済ませたいのですが……アスティさんさえ渡してくれましたら、こちらも命までは取らないのですが。」
「ふざけるな!誰がお前らなんかに渡すか!絶対にお前らなんかにアスティを渡さない!」
「交渉決裂ですね。残念です、では死んでもらいましょうか。」

笛に口をつける。激しい旋律が響くと同時に、辺りにこの場の者にとって、よく慣れた香りが漂った。
魔術的な呪歌。精神干渉の術が多い呪歌だが、呪文の代わりに歌や演奏を行うことにより、魔法を発動させるものもある。魔法と違い、術式が単純であり、歌や演奏の技量により精度や威力が異なってくる。魔術と違い、術の内容を改変しやすいことが特徴的か。
しかし、演奏に気を取られすぎると場の状況把握やコントロール力に欠け、演奏が疎かになるとそもそも術が発動しない。実戦で扱うには相当の練度が必要となる。

「させるかっ!」


魔術も呪歌も、欠点は発動までの遅さである。立ち上がり、発動させるまでの隙を突いてしまえば十分勝機がある。
……そんなことは、相手も分かっている。

「きゃははははは、のろまだねぇ!」


キン、と金属音が一つ。
アルザスが発動までに斬り込もうとした一撃は、あっさりとクレマンが受け止める。
吸血鬼になることで手に入れた速度。それは翼の呪いより下回るものの、クレマンという人物は力を手懐け、己のものとしていた。
だから。

「――、」
「――、」


癒し手は、倒れた位置から水砲を。
翼は、その場ですぐに弓矢に構え直し。
守人が、銀を食い止めている間に。
呪歌を発動させまいと、同時に放った。

 



「……くっそ、強ぇ、なぁ……!」


村の火の手は、止まることを知らない。
ごうごうと燃え上がり、人が暮らしていた証を灰に変えてゆく。
止めなければ。どうやって。アスティが来てくれれば。雨を降らせば。
彼らは村の者らが目的ではない。あくまでも、アスティを連れて帰ること。その目的のために、この村を燃やした。
あまりにも非道な行為だ。しかし、それを責めるには力で証明しなければならない。


「……」


暴風と、黄土色の髪の男が対峙していた。
男は武器も防具も持たない。殆ど動かず、ただ飛んでくる攻撃に対して的確にカウンターをねじ込んでゆく。
それだけなら。男だけなら、暴風の方が勝利を得ただろう。しかし。

「くふふふふ、そんなに遊んでてよいのかえ?ほぉらほぉら、村が燃えてしまうぞ?」
「ね、ねぇ、もうやめようよ……もう、十分だよ……」


蝶が舞う。赤色の蝶に、黄色の蝶。
それはひらひらと、歌と暴風の近くに羽ばたけば、炎と、雷となりて2人に襲い掛かる。
狼の耳と尾を生やした少女は、どちらに対してそんな言葉を吐いているのか。今のところ攻撃こそしてこないが、男や女につけた傷は、彼女の法力ですぐに治ってしまう。治癒魔法を唱えていることは瞭然だった。

「――! 『治れ』『強く』『守れ』!」


すぐに言霊を放つ。が、叫んだ刹那、げほげほとその場でむせ返った。
場所が圧倒的に悪かった。海竜の呪いを持つ者は熱に弱い。燃え盛る村の中で戦闘を行うことは、自殺行為だった。
特にカペラは、発声することで力を発揮する。煙が喉を焼き、声が潰れかけていた。支援を行うも、もうあと1度2度が限界だ。

「ほぉーら、妾たちから逃げてもよいのじゃよ?くふふ、まあそんなことをすれば、村の者がどうなるか、じゃがのぅ。くふふ、皆殺しかえ?うんにゃ、皆殺しはつまらぬ、いたぶっていたぶって、遊んでやろうぞ。のぅ、ソレラ、シャトーよ。」
「……ラペル、お前の趣味に俺たちをつき合わせるな。」
「できるわけないでしょ!そんなの、可哀想だよ……それに、今回のだって、こんなひどい事をしなくたって……」
「勝てた、とでも言うつもりか?ならそちが一人でカモメのやつらを皆殺しできるようになってから言うんじゃな。」

ふん、と魔術師風の女、ラペルと呼ばれた者は鼻を鳴らす。ソレラと呼ばれた男は表情一つ変えず、ゲイルの相手をする。シャトーと呼ばれた女の子は、比較的善良な心がありそうだがそれでもオルカの背鰭と共に行動をし、従っているようだ。

「くっそ……やらせるかよ……ここはあたいたちの故郷だ、あたいたちの家族が居るんだ!誰一人としてやらせるもんかよ!」
「そう、だよ……げほ、げほっ……お母さんも、お父さんも……村長も、皆も……やらせ、はっ……!」

勝敗はすでに見えていた。それでも、自分たちの生まれ育った故郷には違いない。それを、失いたくない。
この村は、竜災害が起きてからできた村だ。各地の僅かな生き残りが集い、協力して村を作った。
まだ歴史の浅い場所だった。けれど、そこで暮らしていた。故郷には違いなかった。

「……あきらめろ。もう、限界だろ。」


一歩踏み込み、拳をゲイルに突き出す。
気孔により、炎を纏った拳。気の使い手の、真っすぐな一撃。


「ぐ、ぁ ――!」


それを、斧で受け止める。重く、衝撃が伝わり身体がしびれる。
ばきり。音がした。
金属の、割れる音がした。

 


「ごちそうさま。うーん、久しぶりの親父さんの料理は美味しかったわ。」
「いやお前何で一人でここで飯を食っているんだ。そこは皆でアルザスの家で食事じゃないのか。」
「どうせ食料は現地調達でしょう?あるいは保存食でしょう?それなら、海鳴亭で美味しい料理を食べるわ。勿論ツケで。」
「人の心と協調性が相変わらずないな。そこは到着祝いだとか、実家へようこそとか、絆を深めるイベントが行われるもんじゃないのか。」

一人転移術の試運転のため、北海地方どころかリューンに居る屑。皆が大変なときに、一人優雅にディナーである。屑だ。屑そのものだ。手を合わせてぐっと伸びをした。している場合じゃない。村一つ燃えてるんですよ!!
向こうで何が起きているかは全く知らないまま、それじゃあそろそろ向こうに戻るわ、と荷物の整理を始めた。完全に手遅れだが大丈夫なのだろうか。

「うーん。そのまま帰るのも面白くないわねぇ。ポータルを利用すれば確実に帰れそうなのだけれども……」
「ポータルを利用しない転移術に手を出すタイミングがおかしいというツッコミをしたいんだけどだめだろうか。」

後ろから声をかけられ、だあれ?と振り返る。そこにはいつか少しだけ顔を合わせた、灰色髪にポニーテールの男……に見える女と、銀色の髪で女性的な体……の中身は男と、それと見慣れない銀色ポニーテールの女が居た。

「えーと……えーと……わんわんお、だったかしら?」
「ガゥワィエだガゥワィエ。確かに種族は人狼だが!狼だが原型がなさすぎるだろ!」
「あ、因みに俺はレンな。そもそも前回名乗ってなかった気がするから名乗っておくぞ。」
「私は完全に初対面のノメァよ。時々そこのわんわんおと依頼を受けるのよ。今回はたまたまさっき会ったから一緒にご飯食べてたんだけど。」


もう全員初対面でよくない?と屑の言葉。こいつ本当に人の顔覚えれないな。いっそ清々しいな。
ガゥワィエとレンの2人は、海鳴亭の亭主からの納品依頼のためここに立ち寄ったそうだ。ノメァに関しては、リューンを拠点としているが宿は一つに決めていないらしい。また、リューンに居ないことも多いため、そう顔を合わせる機会はないそうだ。
レンとノメァは今回初対面だが、ガゥワィエとノメァはたまに共に依頼を受けるらしい。一方的に気に入られているというか、ガゥワィエが振り回されているような気がするが。

「ごほん。で、だ。転移術自体がそもそも高難易度なんだけど、もう安定して発動させれるのか?」
「えぇ。だって転移魔法は戦闘中に発動するのはともかく、こうして落ち着いた場所で発動させるじゃない。むしろどうして安定しないの。」
「なあ私これ10年は練習したんだけど。」

転移術は空間魔法に当たり、時の属性の魔力が求められる。
時の魔力は亜属性とされ、基本の属性とは違い独自の性質を持つ魔力のため、特に扱いが難しいとされている。少なくともさあやろうはいできた、とはならない。

「転移術、俺の記憶を頼りにしても相当むずいってイメージがあるんだけどな。特に、ガゥがすげー練習してたような気がするぞ。」
「私も難しいって印象ねー。というかポンポンできちゃいけないやつでしょ。はーーーこれだから天才は。」
「褒めても何もでないわよ?恐らくは海竜の魔力の中に、時の力もあるのでしょうね。でなければそもそも転移術なんて使えないでしょうし。ベゼイラスさんに見てもらったのは基本の属性と複合属性だったから、こういった見逃した魔力があっても何も違和感はないわ。
ふふ、流石私。そんなよく分からない力をもこうも使いこなすなんて。」

あっいらって来た。殴っていいかしら。
思わず数回素振りをし、カウンターにゴンッッッといい音を立てて手をぶつけてぎゃあ、と悲鳴を上げる銀髪ポニテ。何してるんだろう、と思いながらもそうだ、と手を叩いて屑が声を上げた。

「そうだわ、仲間の呪いをポータル代わりにしましょう。海竜の呪いならこの上なく分かりやすい目印になるし、自由に使えるようになれば離れていてすぐに合流、なんてこともできるわ。うん、便利ね。さっそくやってみましょう。」
「わぁ もうそんなレベル。
 確かに海竜の呪いはいい目印になるとは思うが、ここから目的地はかなり遠いだろう?たどれるのか?」
「ポータルを設置しているから、そこからたどればいいわ。すぐ近くにいるってわかっているし、丁度いい練習になるでしょう?」


理論的には何も間違いではないのだが、何度も言うが転移術に手を出してすぐにできることではない。
ポータルと違い、海竜の魔力への転移はどこに誰が居るかを大まかに把握している必要がある。世界地図を広げ、仲間の位置を絞り、そこから座標を割り出し転移する。
また、ポータルへの転移は2点間を繋ぐ操作だけで済むが、座標特定への転移はその座標へ正しく転移する技術も求められる。前者がどこ〇もド〇に対して、後者はグー〇ルマ〇プから検索を使わず目的地を的確に選ぶ必要がある、といったところか。
今回はその的確な一点のすぐ近くに目印があるのでその周囲から同一魔力を持つ存在を探し出し、座標を割り出しそこへ転移しよう、という代物だ。
因みに英雄クラスの冒険者ならできるね、くらいの技術。

「……、…………?」


ラドワが転移術をここまですぐに習得できた理由。
それは、海竜の魔力に時の属性が含まれていること以外にももう一つあった。
珠の呪いの副次効果。それは、竜が生まれ、死ぬまでの長い時間、人間では考えられないような時間を紡ぎ、保たれること。
竜の知識と記憶力。物事を忘れづらくなる。それは本人も意識しない部分で作用し、無意識のうちに蓄積されている。
―― 例えば、仲間の魔力の質だとか、訪れた街の位置だとか。


「おかしい。呪いの数が合わないわ。合計で3つのはずなのに、えーと……5つと、少し離れたところに2つ。位置的に、離れたところは……これ確か、カペラ君とゲイルの居た村……、…………」

すぐに察した。しかし、違和感はある。
『あれ』がいるのなら、呪いの数が9つになれば不自然。では、その2は?

「……そもそも、何故あそこに私たちが向かうと知った?つけてきた?いえ、魔力の気配はなかったわ、だからつけてきているはずはない。」
「?お、おいアンタ、急にどうした?」
「いえ、つける必要はないわ。もし向こうにも同じ術があるのであれば、海竜の呪いから探知すればすぐに転移できる。
一か月以上いない。里帰りしている、なんて話はこの宿の誰かに聞けば分かること。あるいは盗賊ギルドか。向こうだって私たちと同じ北海地方の出身がいる、だからどのくらいの時間がかかるかも分かる。」
「あ、あの?」
「そして、ことが終わって帰る。転移をするのならば、海竜の呪いを持った者が一人、帰る場所に立っていなければならない。……別にどこかにポータルを作ればいいと思うけれども、そういえばあれの拠点はそもそも存在しないのだっけ。前にロゼが盗賊ギルドで聞いていたわね。」

はぁ、と一つため息。まずいことになっているわ、と3人に伝える。
急がなければならない。向こうの状況は、分からない。
分からないから、最悪の事態を避けるように動く。けれど、すぐに動かなくては。
出した答えは。

「……お願い。1人1000spの報酬を出すわ。」

 

 

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