海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_22話『帰巣』(1/4)

※オリジナル回だぞ

※割とファンサ(?)なところある

 

 

「……私が……神として祀られていた可能性、です、か?」
「えぇ、狼神の一件で全部確信に至ったから話しておこうと思って。」


狼神討伐の依頼の後。海鳴亭に帰り、皆が自室に戻る前にラドワは全員を呼び集め、アスティの正体へと繋がる話を行った。
属性の話、可逆性のある魔力を持っていること。それから狼神が言った、1人自分と同じ存在がいるということ。消去法でアスティがその1人になるということ。
ここで、人狼の言葉を思い出す。厄介な過去を持っている。アルザスではなく、アスティに向けられた言葉。待ってください、とアスティは恐る恐る口を開いた。


「でも、それならば……私は信仰を受け、神へと昇華した存在ということになります。しかし、ウィズィーラの、北海地方には神の信仰というものがなかったはず。
 『万物の生命は海より生まれ出て、死した魂は海に還る。海は万物の母であり、我々は海への感謝を忘れてはならない。』この教えこそ根付いていますが……あえて、神だと称するものがあるのならば、海が神ということになる?」
「だから、海竜と同じ魔力を有している、という可能性は高いわ。ただ、1つ分からないことがある。
 海竜とアスティちゃんの因果関係。この北海地方の教えから生まれた神だとすれば、海竜は一体どこから来たのか。そもそもあれは何なのか。……後はこれさえ分かれば、全貌は見えてきそうなのだけれども。」
「…………」


うーん、と推測をしようにも、材料がない。突如発生した海竜が何なのかの正体が掴めない限り、この話は次には進まないだろう。
と、ここであ、とアルザスが声を漏らした。


「そういえば……海の、北の方には行くなと言われていた。正確には北の海の底だな。何でも怪物がいるだとか、二度と出られないだとか。」
「え、初耳。そんな場所あったの?」
「あぁ、ウィズィーラに伝わる禁止区域エリアよね。理由や詳細は一切語られないまま、口伝で残されたルール。実際に魔物が居るのかも、二度と帰ることができないのかも不明。
 まあ、今なら誰も咎める人はいないと思うわよ。ウィズィーラって滅んだし。」


気遣いのない残酷な言葉。思わずアルザスが言葉を詰まらせ、アスティがラドワに対して睨みつける。全く悪びれる様子もなく、ふむ、と短い声を漏らした。


「行ってみてもいいかもしれないわ。
 ヒントがあるという確証はないけれども、どうしてウィズィーラがそこを禁止区域にしていたかは気になるじゃない。それに、竜災害とも無関係だとも思えないわ。海竜が現れた場所も一致しているもの。」


まあ言われるまですっかり忘れていたのだけれどもね、と台無しの一言。その意見に対して、すぐに肯定の意見を出したのはロゼだった。


「行きましょ。呪いに関する情報は多い方がいい。どんな手がかりでも欲しい。むしろあたし一人でも行くわ。」
「リーダーの決定権を無視しないでくれ。いや、俺もいいとは思うし、場所も分かるが……海の中だぞ?俺だけで行くのも構わないが……」


気乗りはしない、といった様子だ。それもそうだろう、例え手がかりがあるとしても、真面目で堅苦しいアルザスのことだ。言い伝えを本気で信じているし、街のルールを破ることに抵抗があるのだろう。
数時間は探索することになると考えると、人間の力ではとても無理だ。それに、立ち入ることを禁止にするくらいだ、危険が伴わないとも考えづらい。そのような場所に一人で行かせるのは流石に残りの者らも反対だ。
と、ここでおずおずとアスティが手を挙げる。


「あの。私、多分同行できます。」
「え、なに。もしかして、水中移動できるようになる魔法があるとか?」
「いえ。この前、子供と遊んだのです。たらいに水を張って、いつまで息を止められるかって。あまりにも苦しくなかったので、子供に死んでいると思われました。」
「……因みにどんくらい?」
「5分。その後、気になって試したら1時間止めても苦しくない、どころか水中で息ができることに気が付きました。」
「……」


  ・
  ・


そんなこんなで、カモメの翼は里帰りをすることになった。
カペラやゲイルも村にそろそろ顔を出したいということもあり。ラドワはせっかくだから新しく転移術を習得したからアルザスの家にポータルを置きたい(転移の際、転移場所の目印となるもの。これがなければ『基本的には』転移術は行えない)し帰ることができるかも試したいと。リューンの自室にポータルは設置した。
呪いの手がかり探し以外にも目的は多いがそれはそれ。亭主へは1か月半ほど留守にすると伝え、リューンから馬車に乗り、20日くらい経ったところで残りは徒歩。一か月かけて、彼らはかつてウィズィーラがあった場所……から30分ほど離れた小さな村へとやってきていた。


「これはこれは懐かしい。お帰りカペラ、ゲイル。それからロゼにアルザスも久しぶりで。」
「やっほー長老、久しぶりー!」


ここはカペラやゲイルの故郷でもあり、以前ロゼがアルザスを訪ねる際に宿泊させてもらった場所でもある。目的の場所へ向かう前に、何かと縁がある長老へのあいさつへと向かった。アスティとラドワは訪れたことがないため初対面だ。


アルザス殿も、過去と決別できたようで何よりです。独り浜辺で暮らす姿は痛々しかったですからなあ。」
「あの頃は本当にすまなかった。気にかけてもらっていたのに、好意を無碍にしてしまって。」
「いやいや、あのようなことがあっては仕方ありませんとて。ロゼ殿、アルザス殿を冒険者へと導いてくれてありがとうございました。」
「それはあたしからもお礼を言いたいわ。長老の紹介がなかったら、今も一人で行動してたかもしれないもの。」


皆さん面識があるんですねぇ、とほほえましく眺める癒し手。特に思い出も何もない雪は、それをふーんと言いながら眺めていた。とってもどうでもよさそう。


「あぁ、そこの者は……確か、セリニィ家の者でしたな。家出をしたと聞きましたが、まさか彼らと一緒だったとは。」
「あら、私のこと知っていたの?あなたとは会ったことがないと思っていたのだけれども。」
「ご両親が一生懸命探しておられました。草色の髪に、琥珀色の瞳。背丈が高く、人の心がなく傍若無人で人に対して全く興味がなく黙っていれば大人しいと
「お前家を出る前からそんなだったのかよ。」


思わずアルザスのツッコミ。てへぺろ、と可愛らしく振舞うが27歳のそれはちょっと見苦しい。


「てかめっちゃ探されてんじゃん。ラドラドも一回家に帰って親を安心させてきなよ。」
「えぇーーー今更行くのすっごい気まずいんだけどーーー というか村長が私の代わりに話を付けてくれれば
いいから行け。今すぐ行け。同じ北海地方だろ言うほど遠くないだろどのくらいだ?」


ラドワの住んでいた街は、白銀都市と呼ばれており北海地方の中で一番二番を争うほどの都会だ。南の方にあり、海からは離れている。故に、竜災害の被害は殆どなく、故にリューンから馬車が通じていた。


「これは……帰りですね……」
「めっちゃこっち来るときにに通っただけに腹立つな……」
「誰か逃げ出さないか見張ってろ。ロゼがいいな、そうしよう。」
「え、あたし強制任命?言われなくてもするけど。」
「うわーーーん皆が私をいじめるーーー」


本当は今すぐにでも向かわせたい。しかし思った以上に遠かった。
北海地方はほぼ自然そのままの地と言っても過言ではない。交通も不便が多く、小さな村が多い。竜災害のせいで人口も少ないのだ。

「それじゃあ、そろそろ俺はアスティと禁止区域に行ってくる。何かあったらすぐに戻るよ。」
「りょーかーい。じゃ、僕たちはお母さんお父さんに顔見せに行ってくるね。」
「あたいも行ってくるな。ロゼとラドワはどうすんだ?」

 

うーん、と互いに悩む。ロゼの帰る場所はない。彼女の住んでいた場所は、竜災害によって滅ぼされている。里帰りの話が出たとき、本当に何の情もなく両親は死んだとロゼの口から放たれた。
それに対して、皆はそうか、としか返せなかった。その言葉に悲しさも、寂しさも、何もなかった。だから、言葉を何も紡げなかったのだ。
それに対して、ロゼも何も言わなかった。もしその言葉の違和感を伝えても、きっと本人も、事実を言っただけよ、としか返さなかっただろう。

 

「あ、じゃあ私はアルザス君の家に行くわ。ポータルの設置に行きたいし。」
「じゃ、あたしもそこに一緒に行くわ。用事はアルザスたちの持って帰ってくる情報だけで暇だし。それならラドワと一緒に居るわ。」
「俺の家にポータルが作られるのは変な気分だが……いや、理には適ってるか。北海地方にもし戻ることがあるのなら、一番設置しやすいのはうちだよな。
 分かった。今日の夜には一度切り上げて戻ってくる。日が沈んだら、一度俺の家に集まってくれ。」

 

了解、と短い返事を返す。長老の部屋で解散し、それぞれはそれぞれの目的の地へと赴いた。

 

 

「さぁて。ふふ、楽しませてもらおうぞ、のぅ?」
「……まだ。……夜まで、待て。」
「やらなきゃ……お兄ちゃんの、ためにもっ……!」

 

  ・
  ・

 

禁止区域へは、アルザスの家から北へ泳いで45分程度のところだった。
海は深く、100メートルほど潜る必要があった。シーエルフは精霊との親和性が高いため、無意識のうちに加護がもらえ水圧をものともせず潜ることができる。アスティも、理由こそ分からないが上手く泳げる上水圧も問題なく、更には種族的に速く泳げるアルザスにもついていけた。
アルザスは夜目が効かない。松明ぼ代わりに、ロゼが持って行ってと手渡したペンダントで辺りを照らしながら海底へと進んでゆく。こんなものをどこで手に入れたのかと問うと、内緒と微笑んで誤魔化されてしまった。聞いていた屑がこほんと咳払いをしたが、偶然だろう。

「それにしても酷かったな。最悪アルザスは死んでもいいけどそのペンダントだけは何が何でも返せって。逆だろう。最近人の心の無さが移ってきたんじゃないか。」

文句をぶつくさ言うアルザスに対して、アスティは真剣な表情で何も言葉を返さない。
様子がいつもと違うような気がして、アルザスはアスティ、と名前を呼んだ。声は聞こえていたようで、ぽつり、アスティは呟く。

「……何故でしょう。この場所、覚えがある気がするんです。」

声が、少し震えている。その理由を、彼女は分からなかった。
恐怖の感情は理解できた。だが、一体何が怖いのか。何があったのか。それは、何も分からない。何も、思い出せなかった。

「アスティ、大丈夫か?もし怖いのなら一度戻って……」
「いえ、それでは意味がありませんから……私は、知りたい。私が何者であるのか。私が何であるのか。きっとそれは、私にしか分からない。だから、お願いします。連れて行ってください、アルザス。」

連れて行って、と表現する。それは、独りでは決してたどり着くことができないから。
独りで行動することができない。他の者らは、海の中に長時間潜ることはできない。頼れる者はアルザスだけ。
深い深い、普通の人なら何も見えない暗闇を。夜の帳に包まれたかのような海を、共に泳ぐ。

「アスティの願いを、俺が断るわけないだろう?」

ぐ、と手を引く。決して離さないように。はぐれないように。

「何かあったら、俺が必ず守るから。思い出したくないことがあったら、俺が傍に居るから。
 お前が前に進むと決めたなら。俺は何が何でも、お前を前に連れていく。……俺たちはもう、一人じゃないからな。」

穏やかに、安心させるように微笑む。夜目の効くアスティには、それがはっきりと分かった。
その言葉が嬉しくて。それから、どこか既視感にも似た感覚を覚えて。

「―――― 、」

暫く言葉を失ったまま守人を見ていると、顔を赤くしてゆっくりと目を逸らしていった。気恥ずかしさとシーチキンっぷりに負けたようだ。
そんな姿が面白くて、思わず小さく噴き出してしまった。ぶくぶくと、笑い声に合わせて泡が零れる。何か言いたげな姿が余計に面白くて、恐怖も一緒に泡となって消えていった。

「ありがとうございます、アルザス。あなたは人を和ませる天才ですね。」
「どういう意味だよ!……でも、まあ……安心できたのなら、よかった。」

そのまま泳いで海底へとたどり着く。場所としてはこの辺りなんだけどな、と辺りを見渡すが何も見当たらない。
が、アスティは何か見つけたのだろうか。多分こっちです、と今度は逆にアルザス手を引き泳いでいく。深海では方角は分からなかったが不思議と『ソレ』のある場所が分かった。
目的の場所までは、更に5分ほど泳いだ場所だった。

「これは……遺跡、か?」

人工的に削られた岩がいくつも落ちている。装飾のような何かが刻まれたものから、柱のようなもの。何かの像なようなものから、階段のようなもの。
崩壊した海底遺跡。宝の類は見つかりそうにはなかったが、魔力の残骸をアルザスやアスティは感じ取った。どこか懐かしくもあり、親しみもあり、心がざわつく何かが、それにはある。
この魔力はよく知っている。アルザスの持つ魔力であり、アスティの持つ魔力であり、海竜の呪いの魔力である。全て、同質のもの。

「海竜は、ここに居たんだろうか。俺やアスティが海竜と同一の魔力を持っているのがどうにも理解できないが……」
「多分、難しいことじゃないんだと思います。アルザスも、この海の生まれ。海竜も、この海の生まれ。シーエルフですから、海の魔力を有する。同じ海の、同じ魔力を。……ただ、アルザスと海竜の繋がりが理解できても、私と海竜の繋がりが分からないですが。」
「……、」

違う。否、違わないが、それだけではない。
何か、まだ知らなくてはいけない。
そんな気がした。……そんな気がしても、その正体までを、直感は教えてくれない。

「とりあえず、ラドワから言われたように魔力的なものがあったならその場のものを持ち帰って……」

適当な石を拾い服の中にしまう動作をして。
かがんで、目の前にある傷のついた岩を見つけた。大きな爪で削られた場所を見つけた。オーガがつけた傷よりも、ずっと大きい。

「……あぁ、なるほど。居たんだな、ここに。」

それから、気が付く。これは、ほんの少し掠っただけだと。大きすぎて分からなかっただけで、あちこちが『巨大な衝撃や打撃で砕かれている』のだ。自然に崩壊したのではなく、巨大な生物が残した暴力の跡地。
岩には生物は寄り添っていない。浸食も殆どしていない。まだ新しい状態だった。恐らくは、最近まで遺跡を守護する効力があったが、それが崩壊により守護が消え、少しずつ浸食され、魚の棲家と変わりつつある頃なのだろう。

「海竜は、ここに存在していた。どんな状態かは分からないが……封印か、棲家にしていたか、もっと他の理由か。
それが、暴れだした?それが突然現れた海竜だった?」
「……――、」

守り人の言葉。
とある単語が、癒し手に何度も響く。
『封印』されていた。
何度も身に響くたび、不快感が沸きあがる。
記憶にない。何も知らない。そのはずなのに。
怖い。嫌だ。助けて。
そんな感情を、思い出す。

「……アスティ?」
「ぅ……あ……」
「おいアスティ!?どうした、大丈夫か!?」

どうして、どうして、どうして、どうして
痛みが、恐怖が、苦しみが、悲しみが、

「ぃやだ、やだ、出して、ここから、違う、私じゃな、私じゃない、違う、皆、何で、信じて、まって、お願い、出して、やだ、ちが、ちがぁ―― !!」
「アスティ!大丈夫だ、俺が居る、俺がここにいるから――!」

耳をふさぎ、蹲り、わめき、叫ぶ。
声が響く。水中だというのに陸にいるようにはっきりと聞こえた。何が起きたのかは分からない。何も起きていない、少なくともアルザスはそう判断した。
ここで、何かがあった。それを、アスティは知っている。
それは、アスティにとってのトラウマで、思い出したくないことである。

「掴まれ!一度離れよう、急いで思い出すことはない、だから、な!?」

判断を下す時間は短かった。
乱暴に手を引き、錯乱した状態の癒し手を抱きかかえ急いで海底遺跡を後にする。腕の中で暴れ、抜け出そうとする姿はとても痛々しかった。

「大丈夫、大丈夫だから……誰もお前を傷つけないし、いなくなったりもしないから……
 ごめんな、ごめんな……苦しかったんだよな。そうなるくらいに、嫌なことがあったんだよな……無理させてごめんな……」

誰も悪くはない。突発的な出来事で、仕方のないこと。誰も彼を責めることはないだろう。むしろ引き返すと判断した速さを賞賛するべきだろうか。
手放さないように、しっかりと抱きかかえる。強い力の前には、少女の力は抑え込まれるしかなかった。
……陸に着く頃には落ち着いていたが、精神的負担が大きかったのだろう。意識こそあったが、ぐったりした様子で守り人の腕の中でなすがままになっていた。

 

 

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