海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

小話『海鳴りが聞こえたら』

※ハロハナ後のお話です。ある意味カモメの番外編なとこもある
ソララドだよ。というか大分ソラさん捏造してると思うこれ

 

 

島を去って、ラドワと別れて随分と経った。
あの後、闘技場から空へ飛んで外へと旅立ち、アイツの言う冒険者というやつになった。知らねぇ景色見て、知らねぇもン知って。なるほど、アイツが楽しいと言っていたのも分かる気がする。
時々仲間を組んで冒険に出ることもあった。大体は一度か二度組んで、そのまま別れて別のヤツと組む、というやり方になっていた。オレから離れることもあるし、向こうから離れていくことも多い。
正直、どうでもよかった。どいつもこいつも、つまらない。
オレに呪いを齎したあいつとの一週間が、あまりにも楽しくて、暖かくて。他のヤツではこれっぽっちも満たされない。たまにちょっと面白ぇと思うヤツがいたとしても、結局物足りなさを覚えちまう。
普通、と表現するのが一番近ぇか。一緒に居ても、全員が同じに見えちまう。戦うことが好きなやつが居たとしても、好き好んで人の命を奪うようなやつじゃねぇ。性格がよくないやつは、捻くれていて卑怯者ばかりだ。

 

―― いちいち殺すやつの顔なんて覚える?だから同じなのよね、お気に入り以外

 

そう言っていたのを思い出して、今更なるほどと思った。呪いにより快楽殺人鬼となった、想い人。自分の意志で呪いを手にし、その衝動を楽しいと言い、よく笑ってよく泣いて、たまにどっから出してんのか分かんねぇ声を上げて。
……覚えていられない。再会を果たしたとき、告げられた。だから、オレがどれだけアイツのことを想ったところで、今アイツはオレのことは一切記憶にない。緑の花は残ってると聞いたが、それが何を意味して何を繋ぎとめているのかは分からねぇそうだ。

 

「……なぁ、ラドワ。」

 

時々海に来ては、言葉を漏らす。
代わりに覚えている。決して忘れない。お前が忘れた分もオレが覚えてる。
呪いは、健在だ。忘れられるわけがねぇ。忘れたくもねぇ。後悔もねぇし、オレが決めたことだ。

 

「今日、雪、見たぜ。樹氷はなかったけどよ。
 寒ぃなって思ったら、降ってきたんだ。白くて冷たいあれがよ。お前が島で見せてくれたよりもちょっとしか降ってこなかったんだけどな。」

 

微かに散る白銀の結晶。
確かに空に輝いた雪。
けど、物足りないと思っちまった。綺麗だと、すげぇと2人で見たあの光景には全然届かねぇ。
大事なやつが、傍に居ねぇんだ。

 

「本当に……今日は寒ぃな。そっちは寒いのか?つーか、寒さだけで言ったら今日の方があンときよりずっと寒ぃ。……ラドワがいねぇからよ。」

 

海が、言葉を攫う。
雪は、今は止んでいる。冷たい風も吹かなければ、舞い降りる零度の花もない。それでも冬の厳しい寒さは健在だった。

 

「……会いてぇよ、ラドワ。」

 

叶わない。分かっている。
アイツには、アイツの住む世界があって。仲間が居て。きっと今も変わらず楽しく過ごしてる。
それで、いい。それで、いいと。何度も言い聞かせて、変わらず過ごしているのなら、アイツが元気にやってんのならそれ以上に嬉しいことはねぇって。

 

「……会いてぇ、声が、聴きてぇ、よ、」

 

例え隣に、オレがいなくても。
オレのことを、覚えていないとしても。
それでも。……それでも。

 

「……い、てぇ、よ……なぁ、ラドワ……!……なぁ、……声、聴かせて、くれ、よ……なぁっ……っ!!」

 

時々、どうしようもなく溢れ出た。
叶わないと分かっていても、止められなかった。
独り海で泣いて。吐き出して、終わればまたオレは変わらず

 

「―― ソラ?」

 

不意に、声が、聞こえた。

 

 


「はー……全く、アルザス君もだけど、アスティちゃんも無茶をするわ。」
「ほんとねぇ。ま、もう暫く海辺のこの街に滞在なるわ、ゆっくりしましょ。」

 

私たちはマーマンの退治に来ていた。依頼は完了したが、マーマンの一撃でアルザスが深手を負って海に放り出され、それをアスティが身を張って助けに行った。
今はつきっきりで介抱している。邪魔になるだろうからと私たちはアルザスのことをはアスティに任せ、そっとしておくことにした。彼女は無理はしない子なので、ちゃんと休むときは休むだろう。

 

「3日くらい滞在することになりそうかしら?場所が海辺でよかったわ、退屈しないもの。」
「ほんとね。せっかくだし、後で海辺に散歩に行きましょ。カペラとゲイルはもう向かったし。」
「賛成。呪いの欲も満たせたから、3日くらいどうってことはないわ。」

 

部屋の一室で、ロゼとたわいもない会話をする。
窓からは海を眺めることができた。天気は曇り空。寒さも厳しくなり今にも雪が降りそうな天気だが、海竜の呪いのお陰で冷気には強い。
窓から外を、海を眺めていると、じーっとロゼがこちらを見て声をかける。

 

「……あんた、その緑の花を持ってからほんとに丸くなったわよね。必要以上に人殺しをしなくなったっていうか。いや、殺すときはそれはもう楽しそうに殺すんだけど。」
「え?うん?それはまあ、殺すことは楽しいもの、やめられないわ。……ただ、この緑の花を見ていると落ち着くのよ。とはいえ、殺人衝動が消えるわけじゃあないから時々は殺さなくちゃいけないけれどもね。」
「でも明らかに頻度が落ちたでしょ。それこそ、依頼で魔物や人の討伐を行うだけで満たされるようになったくらいには。」

 

理由を尋ねられても、私にはよく分からない。
目が醒めたら手に握りしめていた、緑色の花。魔法の品で、どこかに対になるものがあり、何かしらの繋がりが保たれているということと。魔力で咲いており、魔力が枯渇しない限り枯れることはないということと。何故か魔力は自身の海竜の呪いの魔力が混じっているということと。
自分で調べて分かったことはそのくらい。その後、夢に詳しい者に尋ねたところ、どうやら夢の中で強い想いが為した一つの奇跡なのだという。
あまりピンとは来なかったが、夢が現実となった。私が見ていた夢から生まれた花で、他にもこの花の持ち主が居る、ということらしい。

 

「そんなよくわかんないもの、よく短剣に合成したわね……」
「何となく手放したくなくて……あと、過剰な魔力を吸ってくれるから魔法を使いやすくなったのよ。今まで使ってた短剣も、すっかり魔法の補助アイテムだわ。」
「何だかんだ殺すようの短剣を新しく調達してるのは流石だけどね。」

 

だって趣味なんだもの、と私はくすくす笑った。
……穏やかな時が流れる。アルザス君には申し訳ないけれども、ロゼとこうして二人きりで居られる時間を作ってくれたことに感謝する。今日も分かりにくい表情をしているけれども、私に対してはどこか自然な表情を浮かべてくれる。
それがたまらなく嬉しくて。同時に決して伝わることのない想いに歯痒く思って。

 

「……?ロゼ、何か言ったかしら?」
「え?何も言ってないけど。特に何も音もしてないと思うわよ?」
「え、嘘。何かしら、こう、海鳴りみたいなものが……、」

 

違う、と、声が漏れた。
声だ。呼んでいる声がする。
私を、呼ぶ声が。私は、この声を、知っている。

 

「……ラドワ?」
「―― !ソラ!!」

 

どうして忘れていたのだろう。
あんなにも大切で、忘れたくないと願って。
でも、やっぱり私はこの人を裏切ることなんてできなくて。
それでも、声が聞こえたから。
呼ぶ声が、聞こえたから。

 


「ソラ!ソラ!聞こえる!?」
「聞こえるぜラドワ!あぁ、声が、声が聞こえる!!」
「ソラっ……また、声が、聴けた……あなたのことが、分かる、の……」
「……キヒヒ……やっぱ……声だけでも……あったけぇな、お前は……」

 


海鳴りが聞こえたよ。
さあ、どんなことを話そうか。

 

 

 

「……それで、リューンに戻った後ガゥワィエに聞いたわ。
 海辺に居て、あたしたちとの繋がりが薄いときだけ、あぁして思い出すんだって。そんでそのときだけ、緑の花の持ち主同士会話ができるって。」
「また不思議な現象だな……夢のデジャヴで一時的に思い出すとか、そういうのか?」
「さあ?ま、よっぽど仲良くしてたってことじゃない?そのもう一人の花の持ち主とやらと。」
「……行かせてよかったんですか?ロゼ、ラドワとは親しいじゃないですか。それにラドワって……」
「あぁ、いいのよ。だってラドワはあたしの元に戻ってきたでしょ?ってことは、あたしを選んでくれてるってことよ。ラドワって人は、楽しいか楽しくないかで生きてるのよね。だから、ここを去らないってことは、この場所を選んでくれてるってこと。」

 

だから、それで十分だし、それに。
純粋に興味があるわ。ラドワに、ここまで言わせる人っていうのが。

 

 

―― 海鳴りが聞こえたなら浜を目指そう

 

「ラドワ、久しぶりだな。なぁ聞いてくれよ、この間さ――」

 

 

 

☆あとがき

いつかやる予定のリプレイの余談として書かせていただきました。多分そのリプレイを書くときが来たらそっと外伝入りさせます。結構遠いからね!!
かなりソラさんを独自解釈で書いているため怒られそうですね。よその子を動かさせていただくときのこの恐れ多さといったら。
あんまりにもソララドが美味しすぎたせいで、ロゼラドとソララドを両立させることになりました。ソラさんもラドワさんに相手がいることはいいらしいし、ロゼちゃんも自分の世界に居るときは自分のものだし世界移動してさよならとかしないから実質自分のもの、とか言ってますね。お前らそれでいいのか。

 

PS:CDのソララドの海鳴り最高すぎた