海の欠片

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リプレイ_20話『雨宿りの夜』(3/3)

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「……開かない。開かない開かない開かない。きっと鍵が要るんだ。」
「……うーん。」

 

3階の寝室の、開いていなかった方の鍵を開け中に入る。
そこには鍵のかかった箱をカリカリひっかいているラドワが居た。それを見たカペラとロゼは、互いに目線で会話をする。
あれはロゼロゼ的にどう?
頭壊れてるっぽいけど元からラドワって頭壊れてるし……

 

「ねぇ。」
「うぇっ!?」

 

大変失礼な相談をしていたら突然真顔で声をかけられた。完全に油断していた。

 

「鍵を持ってきてよ。これを開けて。兄さんがきっと待ってる。」
「…………」

 

うーん傲慢。我儘。それでいて冷静。
おおっとこれは初めての解釈合致、というか見てて違和感がないタイプなのでは?
ラドワの掌に乗るほどの小さな箱。頑丈にできており、壊すことは容易ではなさそうだ。ゲイルの開錠(物理)も使えそうにない。
鍵穴のような穴はあるが、形状を見ただけでは普通の鍵穴にはとても見えない。何かをはめ込むタイプのもののようだ。

 

「これは……流石に、鍵じゃねぇか。うーん、はまんなさそうだなぁ。」
「鍵ってか発条じゃんこれ。発条が鍵だったら流石に笑うわよ。」
「発条の使うよーなもの、何かあったっけ……あった気がする……ちょっと待って思い出すから……」

 

うーーーん、と両手の人差し指を立て、こめかみに当ててうんうん唸る。1階にあったもの、浴室、ダイニング、書斎……噴水、礼拝堂、汚水、オルゴール……

 

「……!ダイニングにオルゴールがあった!そこだ!」

 

オルゴールから鍵が出てくるとは考えづらいが、オルゴール以外に発条を使う場所も思いつかない。狙いが外れていたのなら別の場所を探せばいい。
1階に戻り、オルゴールのあったダイニングに入る。発条を挿して回すと、オルゴールから音楽が流れだす。優しく、心が温まるような、明るい旋律。

 

「……綺麗な音楽だね。」

 

ぽつり、カペラが呟く。音楽が3周ほどして、音楽は鳴りやんだ。
からん。甲高い金属音が響く。オルゴールから何かが転がり落ちたようだ。

 

「……指輪だね。」
「ちょっと見せて。……これ、飾りの縁に傷がついてるわ。で、指輪を嵌めて使った形跡はなし。これでもう分かるわね?」
「……指輪を汚れ取りに使ってたとか?こう、飾りの部分で窓のサンとかがりがりって
「そうそう、案外隅っこの汚れを落とすのに使えって何でそうなんのよ。ってことで戻るわよ。さっさとあの人の身体を返してもらわなきゃ。」
「うーん。生き生きしたボケとツッコミがいない。平和な世界だなぁ。」

 

あんたも和んでる場合か、と真顔のまま入るツッコミ。はーい、とのんきな返事をして、3人は再びラドワ達の居る部屋へと戻った。
戻るなり、箱をラドワから借りる。指輪を鍵穴部分に当ててみると、がちゃり、鍵が開いた。どうやらこの指輪自体が鍵になっており、装飾品理由で使われていなかったため飾りの縁にのみ傷がついていたようだ。

 

「中身は……またなんか、一段と豪華な鍵が出てきたね。後鍵がかかってた場所は礼拝堂の地下の、一番奥の扉かな。」

 

金色の、豪華な装飾の鍵だ。箱が開いたことを確認すると、ラドワはどこか安堵を、ほっとした様子を見せた。

 

「……やっと開いた。ありがとう。それを持って兄さんに会いに行ってあげて。兄さんは僕をここに隠してたった一人で悪魔を倒そうとしてたから。
 君たちが手を貸してくれたら嬉しい。」
「何でこの家の幽霊共は揃いも揃って人を無視して話を進めるんだろーね。」
「それだけいっぱいいっぱいだったってことじゃない?」

 

お人よしが居ればまだ友好的に話が聞けたのだろうが、ここには過激派しかいない。ゲイルが辛うじて人がいい、と考えられなくもないかなってところだ。カペラも悪くはないのだが。

 

「えーと……兄さんだの悪魔だの、話が見えないんだけど。もっと分かるよーに話してよ。」
「……僕はこの家の次男であるフェーゴ。君あちはこの屋敷の惨状を知ってるのかな。」
「ある程度は分かってっけど、全貌はまだだな。」

 

母親が死んで、死霊術で生き返らせたらゾンビかレブナント化して家族を喰いました。
分かっている話はこのくらいだ。それを伝えると、ラドワ……に取り憑いたフェーゴは、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「父が亡くなった母を生き返らせる為に悪魔と契約をしたらしい。そして母は化け物として蘇った。兄は母と悪魔を討つために、僕を逃がして行ってしまった。
 そんなところだよ。出来の悪い三流小説みだいだよね。」
「なんだろう。冷静なせいか、どことなく無頓着なせいか、比較的見てられるわ。」
「大丈夫?その人の身体わぁいやったー殺すー!!って、何でもかんでも短剣で掻っ捌こうとしちゃう人だよ?こんな大人しくていいの?」

 

人を殺さないラドワは果たしてラドワと言えるのだろうか。アイデンティティは完全に失われている。

 

「まあ、僕は自分の死を疑いもなく受け止めてるし、僕は自分が死んだときのことを覚えてるからさ。」
「じゃああんたは何に未練を残してるわけ?
 その身体、早く返してもらわないと困んのよ。さっさと出てってほしいのだけど?」

 

未練、と問われて何で?と言いたげなリアクションを返される。未練があるから仲間に乗り移り、成仏できないでいるのでは、と。

 

「未練ね……一人、悪魔へ向かっていった兄さんはどうなったのか。その結末は知りたかった。だからこの箱に執着してたのかもしれない。」
「聞きてぇんだけど、悪魔ってどんな奴なんだ?」
「分からない。僕は実際に見てないもの。兄さんが言ってただけだから。」
「悪魔と契約したあんたの父親はどうなったのかしら?」
「それも分からない。屋敷で騒ぎが起こってからずっと隠れてたから。
 ……ま、結局、母様に見つかって食べられちゃったんだけど。」
「…………」

 

結局肝心なことは何も知らないんじゃないか。
思わず口にしそうになって全力でお口チャック。そのことは、フェーゴも自覚はあるのだろう。どこか遠くを見つめながら、それでも冒険者に謝罪の言葉を投げる。

 

「役に立たなくてごめん。でも、兄さんなら知ってるんじゃないかな。」
「なら、もうあんたに用はないわ。さっさと往生してその身体から出てってくれる?」

 

口調が強くなる。当然だった。ロゼにとってラドワはカモメの中でも常に共に行動する大切な仲間だ。
翼の言葉を聞いて、暫くの沈黙。やがてゆるゆると口を開いた。

 

「……君たちが事をちゃんと解決してくれたら出ていくよ。」
「なんですって?」
「怒らないでよ。こっちだって必死なんだ。
 外の様子が知りたくても何故だか外に出ることができないし……」

 

聞いたことがある。その場に縛られる地縛霊。大体は自分が死んだことを受け入れられなかったり、この場から離れたくないという気持ちが強くなった結果離れることができない幽霊となった場合が多い。ただ、この者は死への自覚もあれば別の場所へと行くことを望んでいるため、例外なのだろうが。

 

「君たちに頼るしかないんだ。兄さんを見つけて、助けてあげて。お願いだよ。」
「しゃーねぇな。あたいらに任せろ。大事なやつがどーなったか気になるもんな。」
「こっちに拒否権もないしね。ほんっと、いつまでも恨むわよラドワの身体に取り憑いたこと。」

 

にっと笑う暴風に、どこか不機嫌そうに睨む翼。
どのみち、元凶をどうにかしなければ仲間は帰って来ない。ならば、引き受けるしかないだろう。

 

「ありがとう。お礼にこれをあげるよ。
 こっちの事情に巻き込んでこめんね。よろしく頼んだよ。」

 

手渡したものは、聖なる焔を宿す魔道具だった。独特の形状をしており、敢えて表現するならカンテラに一番形は近いだろう。
ゆらゆらと炎が揺らめいているが熱はさほど感じない。魔を浄化する、神聖な効果がメインだった。

 

「これ、中に入ってくるよーなやな感覚を消してくれるね。こんな状態だと満足に戦えないから助かるよ。
 でもさ。これ、誰が使う?神の奇跡とかいうやつだよね?」
「…………」
「…………」

 

ロゼもゲイルも、仲良くカペラに肩ポン。不心得者とバカは諦めが早かった。
あぁーーーうん分かってたよ分かってたともーーー いやいいんだよ僕も別に神様が嫌いだとかそういう心はないから問題ないけどあんまりにもあきらめ早くないかなーーー
無言でにこやかに会話をしながら、部屋を出て礼拝堂の地下の、最奥部へと向かうのだった。

 

  ・
  ・

 

最奥部の扉を開け、暫く進んでゆく。こつこつと歩く音が地下通路に響き渡る。それ以外の気配はなく、何があるわけでもない。
何事もなく奥へとたどり着くと、

 

「……!アルアル!」

 

そこにはアルザスが扉の前に立っていた。こちらに気が付くなり、アルザスは必死に声を紡ごうとする。
だが。

 

「ア……ア……、ウア……」
「アルアル?」

 

これまでのことから察するに、恐らく目の前のアルザスアルザスではないだろう。それは分かっていたのだが、ぎこちない挙動を見て思わずその名が口をついて出た。
やがてアルザスは、気落ちした顔で首を左右に振る。呻き声が口から洩れるばかりで、何を口にしているのかは分からない。

 

「カペラなら分かんじゃねぇのか?」
「流石に言葉から言いたいことを読む力まではないよ。てかそもそもこれ、話せないんじゃない?」
「……!!」

 

当たりだった。めっちゃ嬉しそうな、伝わった!!って顔をしてきた。

 

「め、めんどくさ……なんでこう残念なところをがっつりしっかり解釈合致させてくるわけ。アルザスそういうとこよ。」
「しょうがない。こっちの質問にはいかいいえで答えてもらお。」

 

意志疎通はできるようなので、どうとでもなるでしょ。
カペラはんー、と悩んでから、落ち着いた様子で質問を投げかける。

 

「君がこの家の長男?」

 

頷く。

 

「で、化け物として蘇った母親と父親が契約した悪魔をぶっ倒すためにここまで来た。」

 

頷く。

 

「でもぶっ倒せなくて残念!長男の冒険はここで終わってしまった!と。」
「…………」

 

微妙な顔をしている。ちょっと違うらしい。

 

「じゃあ殺せたの?」

 

首を横に振り、目の前の扉を指さす。
その意味は、できることなら理解したくなかった。

 

「どう思う?」
「そりゃ……奥に居るんでしょ。」
「ですよねー。」
「大方、封印まではしたってとこなんだろーね。」

 

頷く。あぁもう当たっちゃったよ。

 

「とりあえず、君たちをそんな風にした輩はこの奥にいる、と。」
「っしゃあ、戦いだ戦闘だ!ずっと探索探索で暴れ足りなかったんだ。やってやろーじゃねぇか!」
「だね、もう僕たちでやっつけちゃお。アスアスだけいないし……それに、この身体を侵す嫌な感触が、一般人の幽霊程度にどうこうできるとは思えない。」

 

悪魔がまだ生きているということで喜ぶのは流石ゲイル。しかし、ロゼは無表情で口元に手を当て、思案する。

 

「その悪魔、あたしたち3人で手に負える相手かどうか分かんないわよ。ラドワをあんなことした元凶である以上ぶちのめしたいけど。」
「一般人が封印できる程度なら何とかなるんじゃない?」
「おいバカやめろよあたいのやる気がなくなるだろーが。」

 

強い相手だと思って張り切ってんのに、と文句。まあまあ、と宥め、それからカペラはアルザスの方を向いた。

 

「と、いうわけで母親と悪魔は倒してきてあげるよ。そしたらその身体から出ていって。僕たちの大切な仲間なの。……ほんとは、ゲンゲンをこんなにしたことだって許してないんだからね。」
「ウア……」

 

ありがとうと、そう伝えたように感じた。アルザスはカペラに近づき、一本の短剣を手渡そうとする。意図が分からずくれるの?と尋ねると、静かに頷いてそれを手に握らせた。

 

「ちょいと見せて。……家紋みたいなのが彫ってあるわね。あれかしら、先祖代々の~とかいうやつ。」
「ちょっと重たいもの貰っちゃったね。ってかこれ僕がもらっちゃったけど、短剣なんて使えないよ。ロゼロゼ使わない?」
「えぇーあたしパス。なんか手になじまなさそうな気がするそれ。なんかこう、嫌な感じっていうか、嫌いな感じっていうか。ほら、教会でミサで人を眠りを誘うようなそんな感じ。」
「神聖な感じって言おうね?神様を嫌ってるのは知ってるけど、ここまでくると凄いね。」

 

この場には神聖なるものの力を読み取る者はいない。一応癒身の方を会得するためにほんのり触れたことがあるカペラが辛うじて分かる程度だ。ある意味ロゼも直感的に理解しているが。
手渡した後、アルザスは扉を指さすと、続いて銀の剣を同じように指さした。

 

「……扉を開けるにはこの剣が必要、かな?」

 

頷く。よく分かるなぁと、2人が関心する。やはり普段からよく人を見ていて、人を理解しようと努めているだけある。

 

「あ、ゲンゲン、ゲンゲンは短剣を使ったりは
「あたいもパス。折りそうだし、もっと大型の豪快に使える武器じゃねぇとなじまねぇ。ってことで、それはてめぇが持ってろ。それに、今回はてめぇから始まったよーなもんだしな。だったら終わらせんのも、てめぇの方がいいんじゃねぇか?」
「うぅーん全くもって謎理論だね。でも、ま。何でか僕だけが無事で、最初から振り回されたんだ。」

 

短剣を握りしめる。武器は、握ったことがない。握る必要がなかったから。命令を下してそれで終わり。仲間にも、敵対者にもそうしてきた。
されど、今回は自分がこの武器を握るのが一番適任だろう。覚悟を決めたようにぎゅっと握りしめ、剣を扉の前に翳す。がちゃりと重たい音が冷たい地下に木霊して、扉がゆっくりと開いた。

 

「―― 大丈夫だぜカペラ。あたいが居る。」

 

中へと、進む。こつん、こつん、足音が響く。

 

「―― 大丈夫だよゲンゲン。僕が居る。」

 

一言ずつ、言葉を交わす。
重い扉の先は一際広い造りで、中央には祭壇のようなものが置かれていた。
そして、そこには、

 

「…………」

 

虚ろな目をしたアスティと。
明らかに異質な存在が二体、アスティの傍に佇んでいた。片方はローブを纏ったスケルトンのような存在、もう片方は金色の髪をした女性のグールのような存在。

 

「GRRRrrrrrr……ニク、ニク……」
「あぁ、マリア……お腹が空いたのかい……ならば、私のニクを君にあげるよ……」
「はい解釈違いーーー!!アスアスは自分の身を誰かに捧げたりしませーーーん!!」

 

手に持っていたタンバリンをアスティに向かってシューーーッッッ!!見事顔面に直撃、シャァァアアアアンと大変やかましい音を立てながらタンバリンは落ちた。ついでにドッチボールなら確実に外野送りセーフになっていたアスティもその場に倒れ伏した。

 

「ふー、いい仕事した。まさに間一髪。」
「なんでアスティの方をぶっとばしちまうんだよ。」
「うっかり。」

 

このカモメの翼という冒険者、やはり緊張感がないな。

 

「と、とにかく。あの骸骨野郎が推定悪魔で、その隣が推定母親だね。」
「……
 先程カラ 随分ト 騒ガシイ……何ダ オ前タチハ。何故 人間ガ ソウモ 普通ニ シテイラレル……?」
「ふつーに、ね。つまりこの気持ち悪い感触は君の仕業ってわけか。」

 

やってくれるよ、と呟き、ふんと鼻を鳴らす。かつかつ歩いていって、倒れた、というか倒したアスティの傍に転がったタンバリンを拾い上げた。

 

「我ガ 浸蝕ノ 魔術ニ 耐エルカ。……ム?」

 

ふと、相手の落ち窪んだ真っ暗な眸が、先ほど受け取った銀の剣へと向かう。

 

「オオ……、ソノ輝キ、ソレコソ 我ガ 戒メ ヲ 解クモノ
 何故 オ前ガ ソノ剣ヲ 持ッテイルノカ 知ラヌガ ソレヲ 我ニ ヨコセ サスレバ オ前ノ 浸蝕ハ 解イテヤロウ。」
「……はっ。」

 

無表情。小さい身体で、己より大きな身体を見下す。挑発するようにべっと舌を出し、冷酷な視線で言い放つ。

 

「言うことを聞く義理はない。ゲンゲンを、仲間を危険に晒した。よく分からないそっちの事情につき合わせた。
 全員平等に冥府に還す。例外なくお前もここで死ね。
「…………」

 

零度の冷たさで、悪魔を射抜く。翼へ強いられるそれよりも凍てついた感情を振りかざす。
悪魔は、怯むことはなかった。

 

「ナラバ、容赦セヌ。オ前ノ魂ヲ 根コソギ 喰ラッテヤルワ。」
「上等。死人に口なし。お前らは、いくつもの罪を犯した。
 一つ、人の命を弄んだ。
 一つ、僕らに手を出した。
 一つ、己が強き者だと錯覚した。
 さぁ……亡き命を差し出せ。僕らに手を出したことを、『地獄で泣きわめくほどに後悔しろ』!

 

浄化の焔を掲げる。聖なる炎がロゼとカペラ、ゲイルを包む。
浸蝕されゆく気配が消え、神聖なそれが力となる。その力に呼応するかのように、呪いが蒼く、輝く。
嫌な輝きではない。どこか心地よい、高揚感にも似た、それ。

 

「さあ皆!『この手に勝利を』!!」

 

命令を下す。竜の呪いを持って、仲間の力を底上げさせる。

 

「任せなさい。あたしだって、まだラドワを返してもらってないんだから。
 あたしから大切な人を攫った。その罪も、忘れてもらっちゃこまるもの、ね。」

 

弓で、ゾンビを射抜く。対アンデッド用に仕込んでいた、銀でできた矢じりで額をぶち抜かれた。
叫びにもならない叫びを上げ、ゾンビがのたうちまわる。

 

「覚悟できてんだろーなぁ!?
 あたしは強ぇやつが好きだ、けどこそこそねちっこいする奴ぁ嫌ぇなんだ、真っ向勝負と行くぜ!」

 

腐肉を、斧で薙ぎ払う。あっけなく吹っ飛ばされ、壁にグチャァッ、と粘質な音を立てて叩きつけられる。そのままずるり、形を失いながらゾンビは動かなくなった。

 

「……!」
「相手が悪かったわね。一般人程度ならなんとかなったのかもしんないけど、生憎うちは皆、血の気の多いやつらばっかりでね。」

 

銀の矢じりを、

 

「思ったより強くねぇな。じゃ、カペラや仲間を巻き込んだことを後悔しながら潔く逝け。」

 

邪を払う力を帯びた斧を、ねじ込む。

 

「グウッ……!!コノ、人間風情ガ―― !!」
「終わりだよ。」

 

距離を詰め、銀の短剣を心臓部分へと突き刺す。

 

「後悔しな。
 ―― 悪魔より恐ろしい海竜の呪いに絶望し、後悔に溺れながら『死ね』。」

 

白く、光が輝いた。

 

  ・
  ・

 

「―― そんなことがあったんですか。」
「全く、大変だったよ。」

 

あの地下での戦いから数時間後。彼らは陽の下を歩いていた。
あんなにも黒々としていた空は、今や抜けるような青空で。ともすれば、ほんの数時間前のことが夢だったのではないかと思えるほどに、今は清々しい。

 

「まさか私がそんなことになっていたなんてね。まるで覚えていないのだけれども。」
「あんたは気楽でいいもんね。あたしたちは必死だったってのに。」
「ほーんと。こっちは地獄絵図を3つくらい見せられたんだからね。少女の振舞いをするロゼロゼに、しおらしくて上品なゲンゲンに、自分の肉を捧げようとするアスアスに。」
「地獄絵図だ。どんな怖い話よりも怖すぎる。」

 

はぁ、とため息をつく。カペラが頑張ってくれなければ、カモメの翼はここでアルバム行きだったことだろう。皆僕に感謝するんだよ、と小さな吟遊詩人見習いは腕を組んでいた。
そういえば、とゲイルが口を開く。

 

「結局、何で身体を乗っ取られたんだ?」
「あの屋敷の住人達が無意識にやったのか、それともあの悪魔の力なのか……今となってはさっぱりね。聞く前にシメたし。」
「じゃ、カペラだけが無事だったのは。」
「……人数不足だったってこと?たまたま僕が貧乏くじを引いた?えぇー勘弁してよ。」

 

カペラだけ無事だった。呪いの副次効果で、支配に関する耐性が強く、幽霊や洗脳の類に強い抵抗がある。のだが、まだそれらを知る由はなかった。
とりあえずは、皆こうして無事だった。過ぎたことはいいだろう。

 

「よし。じゃあ今日中に街へ着くためにきびきび歩くぞ!」
「はい!」

 

アルザスの号令に、カモメの翼は羽ばたいてゆく。晴れ空の下、元気に、どこまでも。

 


「……武器、持つつもりなかったのになぁ。」
「いいじゃねぇか。てめぇが居なけりゃ、あいつらは今でも悪魔に支配を受けてたってことになんだぜ?あいつらの想いだってことで、受け継いでやろーぜ。」
「えぇーやだ……僕そういう重たいのは置いていきたい派なのに……」

 

結局持って出てきてしまった短剣。初めて握って、初めて何かを殺すために振るった剣。
それは人を傷つけるには向かず、遠距離からでも届く攻撃を放つことができる。不浄な者へはよりダメージを与えられる、フィネン家の家宝。ある意味カペラが扱いやすい武器ではある、のだが。
うーんと唸るカペラに対して、けらけらとゲイルが笑う。

 

「いいじゃねぇか、お守りになって。死んだやつって大抵てめぇの声は届かねぇだろ?そーなったら、てめぇが苦戦しちまう。
 だから、あたいのエゴだって思ってくれ。その剣が、てめぇを守ってくれますよーに。それに、普段誰かを傷つけるわけでもねぇし、やっぱりてめぇにぴったりな剣だよ。」
「……なるほど、ね。」

 

そんな考え方もあるかぁ、と納得する。
……武器を持たなかった理由。それは、必要がなかったから。死ねと命令をすれば、自分の手を汚さずに相手が勝手に死んでくれる。それが優越感でもあり、呪いからくる支配欲の一つだった。
が、今回のように通用しない相手というのもいるわけで。そんなとき、対抗できる手段は持っておいた方がいい。

 

「なら、しょうがない。持っておくよ。これからもお願いします、なぁんてね。」
「持っとけ持っとけ。あたいらの冒険は、まだまだ続くんだからな!」

 

いつどこであっけなく死ぬかも分からない。
自分たちが死なない保証なんてない。
今はまだ、こうして皆で仲良く冒険していたいから。
置いていくぞ、というリーダーの声を聞いて。すぐに行く、とカペラとゲイルも駆け出した。

 

 

 

☆あとがき
Riverさんにリクエストいただいた『雨宿りの夜』のリプレイでした。始めカモメでプレイしたときはもっとマシだったはずなんですけどね。今回凄いですね。地獄絵図でしたね。なのにザス君とラドワさんだけはちゃんとそれっぽいポジを持って行ってさすがやってなりましたし、最終決戦にちゃんとゲイル姐がいるのもさすがやってなりました。そしてラストはまさかの2ターン。君たち、大切な人が変な風にされて溜まってたのかな……?
因みに明かしましたが、呪いにはそれぞれ副次効果があります。カペ君と、あと定期の方でラドワさんの副次効果は明かされてます。呪いの効果に基づいたおまけ効果、みたいなものですが!

 

☆その他
所持金は変動なし
破魔の剣、呪いの人形 入手

 

☆出典

98様作『雨宿りの夜』より