海の欠片

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リプレイ外伝_5『少年の詩』(2/2)

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少女の名前はアリス。ワンダーランド家の一人娘で、ビーンズ家のジャックとお忍びで街中を散策していたそうだ。ワンダーランド家もビーンズ家もどちらも名家で、互いに100年来の付き合いがある。2人の関係は幼馴染なのだと、アリスは話した。
二人にとって街中を歩くということは素敵な夢で、綿密に計画を立てて今回の脱走を行った。そのときに見つけた僕が、誰にも邪魔されることなく生きる自由を手にしているようで羨ましく、だからあのような罵倒を浴びせた、っていうけど……まあ、嘘を言ってるよーには見えなかったし聞こえなかったね。
ジャックが機転を利かせてアリスのみ逃がし、東にある小屋の物置に幽閉されている。勿論アリスが逃げたときの話であり、今はどうなっているかまでは分かりそうにない。そのときの場所は、裏口から見てすぐ東の部屋。移動したという可能性も十分あるので、最優先で調べはするが絶対そこにいる、というものでもないということを頭に入れておく。

歩きながら状況を聞いて、僕たちはジャックが誘拐されて監禁されてる盗賊のアジト前までやってきた。アリスは連れていったのかって?道案内に役に立ちそうだし、やばくなったら逃げる時盾にくらい使えるかなって。リスクよりメリットの方が大きいと思ったから連れていった……え、何その表情。そんなに外道なこと言ったかな?やだなー、可愛いカペラ君は我が身が可愛いもん、しょうがないよねー。
表には見張りが2人。呪いの力があるといえど、正面突破は侵入するという意味では危険だ。あくまで最大の目的はジャックの救出。派手なことはしないで穏便に済ませたい。
ということで、僕たちは裏口からの侵入を試みる。裏口には見張りが1人、しかも都合よく寝てるときた。眠っている状態は精神が無防備な状態。つまり、

 

「『深く眠れ』。」

 

抵抗されることなく、バリバリに呪いをかけられちゃうんだよね。立っているのも難しくなって、その場に盗賊は崩れ落ちる。まあ、起こしてもらえたんならきっと今でも起きてるでしょ。起こしてもらえなかったら?まあ死んでるよね、儚い犠牲だったってことで一つ。
扉の前で聞き耳を立てる。人の気配はない。扉の音を立てないよう開け、目でも見張りがいないことを確認する。まずはジャックが幽閉されているという東の扉の様子をうかがう。人の気配はあるが、とても静かな部屋だ。罠は見当たらないが、アリスが逃げたことにより鍵がかけられている。

 

「……誰かが鍵を持ってるってのは確かだ。ってことで、予定変更。鍵を探しに行くよ。」

 

盗賊団の誰かが鍵をかけたのだから、誰かが持っていて当然だ。無理やり扉を破壊する力も僕にはないし、そもそもそんなことをしてしまえば下手に目立ってしまう。アリスに小声でぼそりと伝えると、彼女はこくり、小さく頷いた。いい子だよね。
僕たちはすぐ隣の扉の様子を伺う。声が聞こえてきたので、外からその会話を立ち聞きさせてもらった。声は2人。両方男のものだったよ。

 

「そういやよぉ……女のガキが逃げただろ?あの後、ジョーイが鍵をかけたよな?」
「あぁ、俺がかけたけど……どうした?」
「何かあると良くないから親分が預かるって言ってたけどお前、親分にちゃんと渡したか?」
「勿論渡したよっ!」

 

うーん首領の手の中。厄介なことになっちゃったなぁ。
呪いの力は精神力が高い人、簡単に言うと僕より強い人だと抵抗されて効かないということがある。チンピラ程度だと余裕なんだけどね。

 

「で、その肝心な親分は?」
「風呂入ってるよ。お前、覗きなんて企んだら殺されるぞ!」
「馬鹿、分かってるよ!弁に用があってさ。あの鍵を借りたいと思ってね。」
「あー、そうなんだ……」

 

それ以上は有益な情報が出てこなかったため扉の前から離れる。恐らくベンという盗賊が今ジャックの見張りをしており、施錠された扉の向こう側にいる。盗賊一人くらいならなんとかなるとして、問題は鍵だ。
あまり時間をかけたくないので、直接風呂場へ行って鍵を盗んでくることにする。アリスが微妙な顔をしているが、それはそれ。僕の知ったこっちゃない。ついでに美人の裸にも興味はない。
残りの部屋は、西側に2つ。どちらかが風呂場だろう、ということで両方の扉に聞き耳を立ててみる。すると、南側にあった方の扉から水の音が聞こえてきた。こっちが目的地っぽいね。というわけで扉を開けようとするんだけど、これがまーた鍵がかかってんの。けどこっちは基礎の基礎くらいのピッキングスキルでなんとかなったから、僕でも開けられたよ。

 

「ご苦労様ですわ。」
「……別に君のためにやってないんだけど。」

 

むしろ誰のために今こうして働いてやってると思ってるんだ。ちょっといらっとしたような言葉を返しちゃったけど、アリスは首を傾げていた。分かってないんならいいよもう、ってことで特に追求はしなかった。
侵入すると、勢いよく流れる水の音が聞こえた。誰かが入浴中であることは間違いなさそうだ。

 

「さ、ちゃっちゃと用事を済ませて出るよ。」

 

本当に覗きに対して何も考えてないなこいつ、って言われそうだね。だってどうでもいいし。
というわけで、脱衣所にある衣類や近辺を探したんだけど、鍵は全然見つからない。むしろそれよりも気になることがあった。
衣類や下着を見る限り男物で、青い鉢巻きに赤系のベスト、緑系のシャツにナイフ。
チンピラ量産型の服装じゃんか!!

 

「……今入浴してんの、量産型のうちの一人かぁ。バレると面倒だし、眠らせておこっと。」

 

言霊の力があれば、チンピラなら余裕で眠らせられる。
僕は気づかれないように近づいて、後ろから忍び寄り、

 

「―― 『おやすみ』『眠れ』『いい夢を』。」

 

声を出させることもなく、力の餌食にしてやった。

 

「いっちょ上がり!」
「なるほど!やりますわね。」

 

もっと称えていいんだよ?と冗談をこぼし、少々困った事実に気が付く。
部屋は4室で、ここを含め3室には絶対的に鍵がないことは明白になった。残り1室、そこに首領がいて鍵がある可能性が非常に高い。
このときの自分が首領と相手にして勝てるかと言うと……正直、ゲンゲンみたいに戦う力は全然なかったから、勝ち目は殆どなかったと思う。
どうしよう、そう考えていると、ふと脱衣所の盗賊の衣服が目に入った。

 

「……わんちゃんくらいあるよね?」

 

一つ、賭けに出よう。今着ている服を脱いで荷物袋に入れ、チンピラ量産型の衣服を身に着ける。変装して、鍵を奪うことができないかという目論見だ。
ところでなんか、アリスが凄い目で見ていたような気がするけど気のせいだよね。目の前で着替えたのかって?別に気にしなくてもいいかなって。大体歳も近いし、それに僕ほら女の子みたいな外見してるし。
着替えた結果、かなり服が大きい。大丈夫かなこれ。大丈夫な気がしないぞ。因みに名札があった。マイケルっていうらしい。名前を借りよう。

 

「あの、わたくしは?」
「ん?とりあえず一緒についてきて、考えがあるから。」

 

そのままアリスを連れて、すぐ隣の扉を調べる。こちらも鍵があったが、手に負える鍵だったから開錠していく。

 

「そういう作業は盗賊の恰好も悪くないものですわね。」
「……本気で契約解除します?アリスお嬢様?」
「そ、そういう意味ではありませんことよっ!」

 

どうだか。というかあと2発くらいは蹴りをプレゼントしてあげてもよかったと思う。許してあげた僕の恩情をありがたく思えよあの雌豚。……今だったら許したと思うけどね?
扉を開けると、細心の注意を払い部屋の奥へ奥へと忍び足で進んでいく。と、チャリィンと甲高い音が部屋に響いて、思わずその方向を振り向く。
やばい、やらかした。財布を落としたっ……!!
急いで財布を拾う。心配なのは、盗賊首領が僕に気づいていないかどうか。まあ、案の定声をかけられたよね。

 

「ん……?誰か……いるの……?」

 

寝ぼけ眼で盗賊首領は僕に尋ねた。誰か、までは分かってないし寝ぼけてそうだからごまかせる!いける!

 

「ま、マイケルです!」

 

いけるか!いけろ!いけ!
都合のいい祈りは都合よく通ったみたいで。盗賊首領はふあ、とあくびをしながら言葉を続けた。

 

「あぁ、なんだ……お前か。風邪でも引いたか、声違うなぁ。……あたしは眠いんだよ、用件を手短に言って……」

 

おっしゃあ気づいてない!いけてる!このまま押し通せる!押し通す!!

 

「ベンに用事があるので、物置の鍵を貸してください。」

 

確か今ベンという盗賊が、物置でジャックの見張りを行っている。
首領はもう一度くあ、とあくびをして指をさした。

 

「あー……机の上にあるからもってけ、ほれ……用が済んだら出て行けよ……」

 

びっくりするくらい警戒されることなく扉の鍵をゲットしてしまった。……無防備だしやれそうな気はするけれど、そんな危ない橋は渡りたくない。そのまま戻ってジャックを助けよう。

 

―― それでいいのか?目の前の者の鼻を挫き、己が上に立たなくていいのか?
―― 違うだろう?お前は、全てを従え、全ての頂点に立つ者だろう?

 

突然、そんな声が聞こえた。
あぁ、そうだ。ここで帰っては意味がない。全ての生きとし生ける者を従え、跪かせ、天に君臨する。
それが、この僕の願いであり夢だ。

 

「……カペラ様?」

 

静かに、静かに忍び寄る。相手は寝ぼけている。寝ぼけているなら精神抵抗もされづらい。これなら、やれる。
声を発そうとして……首領はカペラに気が付き、短剣を手に取った。

 

「お前、くせ者だな!」
「……ふっ、」

 

気が付かれた。だから何だ?
やっとわかったのか。本当に鈍い首領だ。こんなに拙い、駆け出し冒険者にしてやられるのだから滑稽もいいところだ!

 

「っはははははは、やぁーっと気が付いたんだねぇ!君ほんとに盗賊の首領?こーんな駆け出し、それも吟遊詩人見習いの冒険者にしてやられて恥ずかしくないの?」
「なっ、てめ――」
「『おやすみ』『深く眠れ』『悪夢にうなされろ』。……気を付けなよ、寝ぼけて怒りなんて抱いちゃったら、心がぐちゃぐちゃになってつけこまれるだけだからね。」

 

にぃ、と笑って舌を出す。
強き者を引きずり下ろし、足蹴にする。蹴落とし地に叩きつける。
ほんの、3言。それだけで、首領は意識を手放していく。

 

「馬鹿……な……このあたしが……こんな、小童一匹に……」
「大丈夫、これは悪い夢。そう、一人の子供冒険者にしてやられる、悪い夢さ。」

 

ぞっ、と、隣の少女が震える。
このときの表情は、今だから言える。きっと、悪魔にも似た、いや、悪魔以上の恐ろしい顔だったに違いないと。
それこそ、アルザスやロゼが見たという、海竜くらいには恐ろしいものだっただろうね。

 

「じゃ、首領を適当なとこに隠してここを離れるよ。せっかく眠ってもらったのに、起こされたらたまったもんじゃないからね。」

 

流石に力はそんなにないので、隠すのにはちょっと時間がかかった。ベッドの下に押し込んで……なんだかこれ、えっちな本を隠す青少年の思春期みたいだね。マジモノの女を隠してるからもっとやばいことしてるんだけど。
鍵も無事入手できたことだし、今度こそジャックが捕らえられている部屋の扉を開ける。情報が正しいのならば、ここにはベンという見張りがいるはずだ。
音を立てず、物置内へと侵入する。辺りを見渡し、アリスが小声で叫んだ。

 

「ジャック!」
「いたいた……それと、見張りが一人いるはず。」

 

情報通り、すぐ傍に盗賊が一人立っていた。下手に躍り出ればジャックを人質に取られ、最悪殺されるかもしれない。動き方を考えていると、とんでもないことに気が付いてしまった。

 

「Zzz……」
「…………」

 

緊張感がない!一人逃げられてるのに緊張感がないよこの盗賊団!緊張感のない代名詞のカモメの翼もびっくりだよ!!
ちょっと引いたけど、好都合だったのでありがたく甘える。気づかれないように傍まで近づき、先ほどまでと同じ手段で盗賊を片づける。だから寝ちゃうのはだめだって、簡単につけ入れちゃうんだから。
見張りを片づけて、ジャックに駆け寄るが、何の反応も示さない。アリスはその様子を見て慌ててジャックを揺すり、思わず顔を青くした。

 

「ジャック、ジャック!ま、まさか……死んじゃった?う、嘘よね……!?」

 

それに対して、僕は冷静に脈を取る。ぴくん、と脈が動くので問題なし。命に別状はなさそうで、ちょっと気を失ってるか眠ってるかのどっちかだった。ちょっと手荒だけどいいよねー、とにぃっと笑って……僕は、ジャックの右の頬を割と力を込めてひっぱたいた。

 

「いっ……!?……はっ!?な、なんだ!?」
「しっ、静かに!……アリスに雇われてここに来たんだよ。」
「あ、アリスに?」
「そうですわよジャック……無事で何よりだわ……」

 

状況がいまいち呑み込めていないジャックに対し、やっと会えたと嬉しそうな表情をするアリス。なんならジャックは更に失礼な言葉を重ねていってくれたよ。

 

「で、でもアリス……!こ、こいつは昼間の……や、やっぱりお礼参り!?」
「ジャック!あなた失礼の度が過ぎてますわよ!実は……」

 

アリスが説明しているうちに、僕はジャックの縄を解く。縄を解くフリをしておーっと手が滑ったーって、3回くらい殴ってもよかったかもしんない。
説明が終わると、頼んでもないのにジャックは自ら土下座をし、地面に頭を付けながら半べそで僕に許しを請った。

 

「僕たちが……悪かった。どうか、どうか許してください、カペラさん……!!」
「…………はぁーーーーーー。」

 

情が沸いた、というよりもあまりにも無様すぎて怒ったり見下したりする気力すら沸かなかった。なんなら場所が場所だし、気絶させた者がいることに気づかれて下手な騒ぎが起きる方がまずい。

 

「……もういいよ。怒る気もなくなった。そんなことより、ここを脱出しよ。僕に感謝するんだね。」
「う……うう、あ、ありがとうございます!ううう……」

 

アルアルより情けなかったねこの人。アルアルはアスアスの尻に敷かれてるけどやるときはやる分まだマシ。というか普通に決めるとこ決めるからアルアルは信頼できる。これはダメだね、もやしだね。
ともあれ、無事にジャックを連れてアジトを逃げ出すことができた。これにて依頼は完了だ。

 

  ・
  ・

 

その後僕たちは一度アリスと出会った場所へと向かった。そこで少し休憩を取って、僕は一つため息をついた。ほら、これ……最後の冒険者としての仕事だと思ったからさ。

 

「じゃ、僕にできることはここまでだね。後は南にいけばいずれ街に出られるよ。」
「カペラ様、これからどうなさるの?本当に冒険者を辞めてしまわれるの……?」

 

アリスの問いに少々考え込む。僕は、意志を変える気はなかった。
と、ここで何やら人の声が聞こえ、しっと声を潜める合図を促す。

 

「お前たちはその辺を探してくれ。私はもう少し北へ進んでみよう!」
「わかった、頼んだぜ!」

 

この声は。

 

「この声は、ヘンゼルですわ!」
「ゲイル!ゲイルの声だ!」

 

思わず、声のした方向へと駆けだした。
え、ヘンゼルって誰って?ワンダーランド家騎士団の団長のヘンゼル・グレーテル。アリスたちを助けにきたんだろうって、アリスが教えてくれた。

 

「お嬢様!ジャック様!よくぞご無事で!」
「カペラ!よかった……よかったよ無事でぇ!!」
「ちょ、げ、ゲイルまってく、くるしっ……!」

 

見つけたなり、ゲンゲンは僕を力強く抱きしめる。馬鹿力の抱擁は、流石に小柄な僕にはきつい。めっちゃくちゃきつい。うっかり骨がきしむ音とか折れかけるやべー音とか響いて焦った。

 

「あっ、わ、わりぃ……全然帰ってこねぇから、なんかあったんじゃねぇかとか、事件に巻き込まれたんじゃねぇかとか思って……」
「あー、それはあながち間違ってないね……ちょっと子供二人ほど助けてきたからさ。ってか何でゲイルがここに居んのさ。」
「あたい?あたいはてめぇがいつまで経っても帰ってこねぇから探しに出たら、子供が行方不明になったって話を聞いてさ。てめぇのことだと思ってそこの騎士団のやつと一緒に探してたんだ。
カペラのことじゃねぇにしても、一切の手がかりがねぇし無関係な気がしなくてよ。同じ子供だし、巻き込まれててもおかしくねぇなって。」

 

そう言って、ゲンゲンは僕をもう一度抱きしめた。今度はちゃんと加減をしてくれた、優しい抱擁だった。

 

「……カペラはまだ冒険者んなって間もねぇし、子供だからって皆舐めたよーな口聞いてさ……むしろ、一人で子供の誘拐から帰ってこれるよーな、つえーやつだってのに皆それを分かってねぇんだ……あたいが悔しいよ、あたいがこいつはすげぇんだ!って……思い知らせてやれねぇのがさ……」
「……ゲイル……」

 

……この言葉だったんだよ。今の僕があるのってさ。
この言葉で。僕がどれだけ救われたか、ゲンゲンは知らなかったでしょ。
新米だとか、子供だからと馬鹿にされる一方で、ゲンゲンは最初から僕を一人の冒険者として見てくれた。あっちは大人なのに、子供の僕にも対等に接してくれた。それで、僕の力も認めてくれた。
それが、凄く嬉しくてさ。同時に、恥ずかしくもなったんだよ。誰かを蹴落として、蔑んで、言いなりにさせて、全生命の頂点に君臨してやろうって、そんな欲がさ。
たった一人の言葉が、その願いをあきらめさせた。愚直で、馬鹿で……けど、だからゲンゲンは強い人は強くて勝ちたくなる。見下すこともなければ自分より上の者を素直に認められる。
そんな、嵐のような人が……誰よりも強くあって、そしてそれを支えていきたいって、思ったんだ。

 

「……どなたかはご存じありませんが、本当にありがとうございました。
 万が一の為に用意した身代金の一部ですが……報酬代わりにお渡ししましょう。」
「報酬なら先ほどアリスから……んっんー、アリスお嬢様からいただきましたので。」

 

ヘンゼルが微妙に気まずさを覚えながら、僕に報酬を渡そうとする。なりゆきだったし依頼料はすでに貰っていたから断ろうとすると、アリスが横から口を挟んだ。

 

「そんな堅い事仰らないで。いいのよ、遠慮なく貰っていただけた方がわたくしも嬉しいですわ。」
「そ?じゃ、遠慮なく貰……いますね。ありがとうございます!」

 

遠慮なく貰ってほしい、と言われたら遠慮なくもらうよね。ピアスと追加で300spを貰い、僕はお礼を言った。

 

「ところで、悪党どもはどこに?」
「今頃、アジトでいい夢見てますよ。」
「……てめぇ、まさか。」

 

何をしてきたのか、言霊のことを知っているゲンゲンの顔が引きつった。それに対して、僕はいい笑顔を浮かべて表情で答えた。

 

「ふむ……自警団も動いておりますので、奴らに関しては任せるとしましょう。
 さて、お嬢様にジャック様、私たちは帰りましょう。皆様が心配されていますから。」
「ちょっとだけお待ちになって、ヘンゼル!……カペラさん!」

 

思いつめたような表情でアリスは僕に駆け寄った。そう、さっきの質問の答えがまだ出ていなかった。

 

「本当に……どうなさるの?と、とりあえず……旅に出てしまわれるんですか?」

 

でも。
こうして冒険者を続けている。そして、さっきのゲンゲンの言葉に対する想いを聞いたらさ。どう答えたかは……皆、分かるよね?

 

 

 

「さーーーあいつらとは一時的なチームだったからなー。いつかてめぇのこと舐めたよーに扱わねぇやつらとチームが組めたらいーんだけどなぁ。」
「僕はゲンゲンと一緒ならとりあえずそれでいーけどね。」
「なんだその呼び方。じゃ、今日も依頼を探しに行くとすっかね。
 おーい親父ー。2人でもできそーな依頼、あるいは一時的なパーティ組めそーなやつっているかー?……うん?カモメの翼?新しいパーティができたのか?」

 

 

 

 

☆あとがき
レベル1で突っ込むべきだったんでしょうがレベル4でやっちゃったわんころですてへ。イメージとしては当時のカペ君のレベルは2だったんですが、つっこんだ後で「あっこれ2の方がよかったな……」と軽く後悔しました。まあいいか!!
ウィンクルムの方々にカペラ君が話をした内容、という前提でお送りしています。なので地の分はパランティア時空だし、会話は全部回想となっております。ゲイル呼びとゲンゲン呼びが混じってるのはそのため。
さて、お分かりいただけたでしょうか。カペラ君は当初、本当にクソガキだったんですよ。割とどうしようもないくらいのクソガキですね。でもゲイル姐の言葉を聞いて改心し、今の穏健で優しい……???男の子になったという過去話でした。……穏健で優しいか???
呪いの代償が支配欲なんですが、この通り無意識に克服しちゃってます。カペラ君強い!!

 

☆所持金
(プレイ時期が花を巡りて…後だったので、花を巡りて…後の所持金を参照してます)
10886sp→11686sp(ピアスは売却)

 

☆出典
庭球様作 『少年の詩』より