海の欠片

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リプレイ外伝_5『少年の詩』(1/2)

※17話『解放祭パランティア』でカペラ君がアトリアさんマイラさんゲイルに話したときのお話で、話自体はカモメ結成前です
※綺麗なカペラ君が好きな人は回れ右推奨

 

 

僕としては、このお話はちょっと恥ずかしいからあんまりやりたくなかったんだけどね。でも、ゲンゲンとウィンクルムって冒険者のアトリアさん、それからマイラに聞かれて話さざるを得なくなっちゃったんだ。ま、丁度いい機会だし、お話してもいいかなって思ったからするね。

 

―― これはカペラがリューンに来てから一月ほど経ったある日のこと

 


「……とうとう、来ちゃった。これは『家出』?……ううん、これは、これこそが、『旅』だ!」

 

僕はゲンゲンとゴブリン退治の依頼を終えて、宿に戻ったんだ。打ち上げ時は何にも思わなかったんだ。
このとき、僕はゲンゲンと、それから一時的に冒険者パーティを組んでた他の仲間が居たんだ。丁度今と同じ6人。そのうち1人がすっごい人使いが荒くてさあ。戦いで消耗した薬を補充してこいって、最年少の僕に命令してきたんだ。皆酔っちゃってて誰も反対しなくてさあ。あ、ゲンゲンだけは僕のこと心配してくれたっけね。一人で大丈夫か、明日でも大丈夫だって。
正直、ちょっと腹が立ったんだよね。僕を甘くみないでって。子供扱いしないでって、それから他の奴らには指図しないでって。でも歯向かっても勝てるわけないからさ、仕方なくリューンの道具屋に一人で向かったんだ。そこで、こんなことが起こったんだ。
道具屋へ向かおうとすると、クスクスって笑い声が聞こえたんだ。ほら、僕耳がいいからよく聞こえてさ。声が聞こえた方向を見たら、僕を見て指さして笑う、同い年くらいの男の子と女の子が居たの。

 

「ねぇ、アリス……あの子を見てよ。あんな汚いカッコして普通に街中を歩いてるよ?」
「あれが噂の冒険者ですわね、本当、汚らわしい!しかも、あの年で冒険者?くすくす……馬鹿みたい。
 そういえば冒険者って、依頼人に媚売って金を貰うのよね?路上で男に身体売って金を貰う娼婦と同じ汚らわしい生き物……
 名目上、街を守っていると言う役立たず自警団よりも役に立たないゴミね。」
「なるほどね……もしかしたら、あの年で身体も売っちゃってるんじゃない?娼婦のようにさ。」
「あはははは、やだぁ~!ありえるけど……汚すぎる。死んでしまえばいいのに!!」

 

―― 言わせておけば
ざわり、心の奥に燻る何かに気が付いた。怒りであり、牙であり、頭である、それに。
誰に向かって指図をしている。僕を誰だと思っている。君たちなんて存在、たった一言でどうにだってできることを君たちは知らない。
あぁ、腹立たしい。だけど、僕には力がない。手を出して、言葉のまま言うことを聞かせて、その後どうなる?……駄目だ、手を出しちゃだめだ。まだ僕には、あれの上に立つ力がないんだ。そう、悔しかったけど自分に言い聞かせて、我慢した。
それがきっと、出てたんだろうね。指さして、また笑われたよ。

 

「図星なのかな、体震えちゃってるよ~。ま、汚物を見てても面白くないし、どこかいこうよ、アリス!」
「そうね、汚物にもそれなりの生き方があるんですものね。行きましょう、ジャック!」

 

2人は高笑いをしながら街の中へと消えてった。ただ僕は、歯を食いしばって拳を作ってその場にただずむしかできなかった。
気が付いたら、その手からいつの間にか血がにじんでた。じんわり、痛みが心に響いて、それは僕の中の、ある意識をより覚醒させた。

 

何故、僕は指図を受けなければならない。言葉一つでどうにでもできてしまうお前たちの言うことを、何故聞かなければならない。
何故、僕には力がない。言うことを聞かせられる力はあるのに、そのまま上に立つ力がない。幼いから、経験が浅いから、冒険者として駆け出しだから。
耐えなければ。耐えて、耐えて、いつか見返してやる。だから今は、耐え忍んで……

 

―― 何故、耐える?力がないとは、言い訳ではないのか?

 

……そう、いつも僕は変な目で見られてきた。
僕は知らなかった。冒険者は、変人のような目で見られることが多い。それに加え年端も行かない子供が冒険者をしてるってなったら、余計に好奇な目で見てくるんだ。
村では、そんな風には見られなかった。神に選ばれた子だと、もてはやされた。いずれ世界を救う子だと、偉大なる力を持つ者だと。そう、村の人たちは言った。勿論、ちゃんと一人の子供として接してくれたことには違いないよ。
でも、ここではそんな風には見られない。冒険者という肩書から、奇異的な目で見られて、笑われて。人として対等にも扱われず、冒険者としても子供だからといって舐められた扱いを受ける。ここで、僕は思っちゃったんだ。なんで、冒険者をやってるの?こんなに嫌な思いをしてまで、どうしてこんなことやってるんだろう?って。

 

僕の本当の居場所はどこか、僕の為すべきことは何なのか。

 

それを探すために、僕は海鳴亭には戻らない事を覚悟で旅に出ることを決意した。
……あ、ゲンゲン思い出した?そうそう、あの日のことだよ。あー待って、落ち着いて話をとりあえず最後まで聞いてって、あのときの冒険者をしばきに行かなくていいからさ。ほら、終わったことなんだよ、これは。

 

「……ゲイル、さようなら。面と向かって言えなくて本当に……ごめんなさい……」

 

リューンの方を振り返って、そう呟いてからリューン近くの森に入った。ただ黙々と歩いた。夜だったし、当時は本当に駆け出しだったから全然出口も見えない。だからといって、弱音を吐いて戻ることもできなかったから、ひたすら前に前にって、進んだんだ。
そしたら、東の方から音が聞こえたの。誰かがいる!そう思ってタンバリンを手に取って臨戦態勢を取った。
出てきたのは、薄汚い男2人。ボロボロの上着に青いバンダナ、まあよく言うチンピラだとか、盗賊だとかって言ったら何となく伝わるかな?

 

「……なあ。こいつが逃げ出したガキの一人か?」
「さあ?でもまあ、ガキが夜中に森をうろつくわけもないし……とりあえずこれを連れて帰ろうぜ。」
「とりあえず、そうだな。ガキがこの森をすぐに抜けられるとは思えないし……こいつをまずは連れて帰るか!」

 

迫りよる2人。殺すんじゃなくて、捕まえようって魂胆だったんだろうね、だから殺すための武器は持ってなかった。あ、威嚇のためかナイフは持ってたけどね。
よく一人でなんとかなったねって?まあ、そりゃあね、相手は人だったからさ。

 

「……るな。」
「あ……?」
「『抵抗するな』『従え』『動くな』。」
「ッ――!!」

 

舌を出し、強く強く言い放つ。額の竜印が蒼く輝けば、それは力の発動の合図。
3言ほど命令を下せば、すっかり動かなくなって抵抗の意志を見せなくなった。抵抗しなくなればこっちのもの、盗賊二人を近くの大木にまとめて縛り付けた。
大まかな見当はついてるけど、何が起きてるのかを尋問することにしたんだ。

 

「はい、『もういい』よ。じゃ、逃げ出したガキって誰か、教えてもらおーじゃんか。」
「えっ……えっ、なんだこれ、え、いつの間に!?あれさっきまでこのガキを捕まえようとして……」
「ごたごたうるっさいなぁ。僕の機嫌をあんまり損ねない方がいーよ?いつでも僕は、君たちを殺せるんだ。そう、たった一言、命令すればね……?」

 

死ね。
その一言で、この2人は自らの武器で己の胸を貫く。僕は悪くない。だって僕の命令通りに動くのは向こうで、僕は一切手出ししてないんだから。
……改めて考えると、本当に僕の力って怖いなって思うよ。たった一言で、心ある人なら大体言うことを聞かせられちゃうもん。

 

「ひ、ひいい、こ、殺さないでくれっ……か、可愛いお坊ちゃん、頼む、頼むから……」
「だからぁ、言ってんでしょ?逃げ出したガキが誰か教えろーって。」

 

あぁ、そうだ、この表情だ。
従う、この表情を見たかったんだ。これこそ、僕の求めていたものだ、僕の求めていた光景だ!

 

「そ、その、実は2時間前くらいにお坊ちゃんくらいの年齢のガキ二人を誘拐しましてね……だけど、俺らの見張りを掻い潜り一匹だけ逃げたんすよ……俺たちは別室の見張りだったんスけど、こうして連れ出し役として駆り出されたというか……ハイ。」

 

2時間くらいで1人逃げられてるって大丈夫なのかなこの盗賊団。
こうして僕一人にしてやられてる時点で、あんまり大した腕のない盗賊団だったんだろうね。知らないけどロゼロゼの居た盗賊団とくらべものにならなさそう。

 

「ふぅん……じゃあどんな顔をしてたのか教えてよ。」
「実はよく顔は知らないもんで……えぇ、それでお坊ちゃんを襲ってしまったんスけど……あぁそうそう!そいつら貴族のガキどもで、誘拐して身代金を頂こうと言う話になったんス。」

 

流石盗賊、やることが汚い。
それで子供に出し抜かれてるんだからほんと笑っちゃうよねー……っと、あんまり笑っちゃったらあの盗賊団が可哀想か。でも駆け出し冒険者にここまでされる盗賊団も盗賊団だったと思うんだよね。これは今だからこそ言えるけど。

 

「ふぅん……じゃ、次。一番偉いやつ……首領について、教えて?」
「……首領、っスか?」

 

首を傾げる。知らないフリをされてる。他にも仲間がいることは、話から十分推測できたからね、駆け出しの僕でもとぼけられてるってことは分かったよ。

 

「とぼけたって無駄だよ。君たちの他に仲間が居ることは分かってるんだ。
 雑魚が10人集まったって、意見なんて纏まるはずないでしょ?だから、それを支配する人……誰か、君たちを纏める人間がいるとしか思えない。そー思っただけだよ。」

 

僕みたいにね、とにぃっと笑って舌を出す。声で好き勝手出来ると察してもらえれば、それがいかに恐ろしい行動であるか、分かってもらえた。そもそもすでに聞いてるし、その身を持って経験してくれたし、ね。
だから、ほんっと面白いくらいに怯えてくれて、歯をガタガタ鳴らしてくれて。ラドラドが楽しいって言っちゃう気持ちも、よーくわかるんだよねぇ。

 

「あ……その……こっ……ここから、東に小屋がありまして……そ、そこがアジト、です……」
「規模は?」
「ひ、ひぃ……俺たちも含めて下っ端は9人……それに親分が……ち、因みに親分は美人っスよ、あは、あははははははは……」

 

その情報は割とどーでもいいんだけど、聞きたいことは聞き出せたしとりあえず一度、僕は『武器』を仕舞った。
それにしても、随分と怯えた表情をしたなぁあの盗賊たち。僕まだ10歳だよ、ちょっと怖がり過ぎだと思うんだよね。とんだ小心者で、都合がよかった。

 

「……これで聞きたいことは全部聞いたかな。」

 

冒険者としての経験は少ないから、ヘマをしないようにと気を付ける。もう一度聞いた内容を頭の中で整理して、僕は尋問を一旦終了した。

 

「……ま、まさか……話を聞いて殺したりは……しないっすよね……?」
「えっ、そうしてほしいの?やっちゃおっか?」

 

にぃ、と笑うとひぃっと悲鳴を上げる。
―― 楽しい。そんな感情をかみしめながら、僕はけらけら笑いながら、盗賊たちに優しい言葉を投げかけた。

 

「だーいじょーぶ、僕もそこまで腐ってないから。」
「ひ、よ、よかっ
「『眠れ』『おやすみ』『いい夢を』。」
「た―― ……」

 

言霊を並べる。事が終わるまでちゃんと眠ってもらえるよう、三重に重ねて意識を奪う。
流石にまだまだこの力も今ほど強い作用があるわけじゃないから、三重にかけたところで永眠とまではいかないよ。次の日のお昼ごろまではぐっすりだと思うけどね。今やったら?三重にも重ねちゃったら、あいつらだったら起こされるまで起きないんじゃないかな。
さて、弱かったこいつらはいいんだけど、他にも音がしたんだよね。耳がいいから、ちょっとした物音でも十分、僕にはわかった。

 

「もう大丈夫だよ。そんなとこに隠れてないで出てきなよ。」

 

僕に促されると、茂みの中から少女が出てきた。金髪で紅の眼の……2時間くらい前に、僕を罵ったあの子だった。
そのことは覚えてるって顔だった。事態が事態だったからか、あのときのような嘲笑はなかった。

 

「……ずっと気づいてたのね?」
「まぁね。音がしたから。後は殺気とか狂気とか、そーいった感情じゃない何かの気配があるなーって。だから、ザコどもじゃない誰かがいるって。
 それにしても。誘拐されたのって君たちだったんだね。」

 

ざまぁみろ、とこのときは思ったよ。
僕を罵ったバチが当たったんだ。自業自得だ。はっと鼻で笑ってやったら、あの子こういったんだ。

 

「……助けて……くれませんか?」
「はぁ?」

 

あまりにも虫がいい話に、思わず嘲笑がこぼれちゃった。だって何様のつもりって思うじゃん。思うよね?……いやまあ、当時の僕が凄く生意気だった、っていうのはあるけど、今の僕でも同じことは考えたと思うよ?

 

「日中の事は謝ります。だから、だから……ジャックを助けてください!」
「断る。」

 

勿論即答。そりゃそーでしょ、何でこんな頭お花畑な頼みを聞かなくちゃなんないのさ。助けてあげて、仕返しはしないでおいたげようって考えた僕を誉めてほしいくらいだよ。

 

「う、即答ですわね。でも、そうよね……そうだ、冒険者でしたわ!わたくしとしたことが大事なことを!」

 

そう言うと、少女は髪を掻き上げた。そこから現れたのは、高価そうな宝石が輝く一対のピアスだった。
ピアスを耳から外すと、僕の前に突き出して必死そうに言ってきたんだ。

 

「このピアス……1000sp程度の価値がある高価なピアスです……わたくしと契約してくれるなら、先払いでこれを渡すわ……」
「……はっ。」

 

もう一度、僕は鼻で笑った。それから威圧的な態度で、少女に強く言い放った。

 

「お金の話なんて二の次だよ。僕が断る理由はそこじゃない。
 君さぁー、娼婦みたいに汚れてて死んだ方がいいって思ってるよーなヤツに頼んでるんだよ?頭おかしーんじゃない?藁をも掴む思いとはよく言うけど、あんまりにも都合がよすぎない?
 それに、僕は冒険者はもうやめるんだ。」

 

そう、僕はもう冒険者はやめる。僕の望んだ世界じゃない。僕自身が虐げられる、舐められる、そんな世界で生き続ける必要なんてないもん。
やめる、と言えば少女はぎょっとした。それから慌てて、縋るように言葉を繋ぐ。

 

「そ、それはわたくしのせいですか?わたくし、そんなつもりは――!」

 

君の言葉はあくまで発端にすぎない。元々不満はあったし、考えて気が付いたんだ。僕が冒険者にこだわる理由は何一つないって。
あんまりにも自分のことだったから、その胸の内は言わないで目を逸らした。……それでもあの子は、食い下がった。

 

「……あなたが望む事はなんですか?わたくしの土下座ですか?いいえ……何でも致します。だから……お願いします……」
「ふぅん……」

 

気高い彼女なりに譲歩して助けを求めている。
滑稽だった。それからやっぱりこう、ぞくっとしたよね。僕のことを見下してたやつが、頭を下げて必死に頼んでるんだ。その姿に思わずくすくすと哂っちゃったけど、懸命で健気な姿を見たら気が変わった。

 

「じゃ、言った通り土下座してよ。」

 

けらけら、嘲笑う。数時間前とは逆の立場になる。

 

「わたくし達が悪かったです、許してくださいませ、冒険者様……!」
「っふふ、っはははははは!!あっははははは、いーねぇいーねぇ、この無様な姿!僕を見下したやつが、頭を下げて必死に助けを乞う姿!あっはははははは!!」

 

ガッと、上げない頭に足を頭に置く。追い打ちをかけるかのように、美しい金色の髪を泥で塗れた僕の靴で踏みつけた。

 

「きゃあっ!」
「くくくっ、傑作だねぇ……あーあ、きれいな姿が台無しになっちゃったねぇ、かーわいそっ。2時間くらい前だったら考えられなかったよねぇ、君の言う汚らわしい存在にこうして泥を塗られるなんてさぁ!!」

 

あははははは、とひとしきり笑って僕はその足をのけた。……ちょっと、ドン引きしないでよ。一応今はちょっとやりすぎちゃったかなーって、ほんのちょっとだけは反省してるんだからさ。

 

「ま、僕は悪人でもないからこのくらいで許してあげるよ。感謝しなよ、世間知らずの雌豚さん?」
「ううっ……は、はいっ……!!」

 

頭は上げない。否、上げさせない。靴をのけず、見下すようにしながら僕は手を出す。先払い、と聞いたからここは譲れない。

 

「こっからはビジネスだからね。じゃ、先に前金をもらっとくね。ほら、差し出しなよ。」
「……ピアス、ですわね。」

 

土下座の姿勢のまま、靴を乗せられたままピアスを取り外す。姿勢が姿勢なので大変取りづらそうにしていたが、やがて外すとそれをなんとか掲げた。手の位置は地面から目線を外せなくて分から無さそうだったから、ちゃんと僕がその手から取り上げてあげたよ。褒めて。

 

「……お願い、します。」
「ま、ちゃんと報酬に見合うだけの働きはやるよ。持ち逃げは僕のプライド的にもナンセンスだからね。じゃ、そろそろ行くよ。歩きながら状況を教えて。」
「わ、分かりました。」

 

足をのけて、頭を上げるように促す。少女は慌てて頭を上げて立ち上がり、泥を払うこともなく僕の後についてきた。
よくやったよね、駆け出しの僕。もし今こんなことになったらロゼロゼは呼ぶよ。いや、でも駆け出しの僕がなんとかなったんだから、今だったらもっと余裕でこなせたかな。

 

 

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