海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

運命の天啓亭 8~14

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8.ゆずきち様作『幸せの日記帳』

 

 

 

長い時間、随分と眠っていたらしい。
目を覚ましたときの、心から安堵し喜んでくれたエナンの顔も、凄く泣きわめいて抱きしめてくれたトゥリアとテセラの顔も、よく覚えている。

すっかり鈍ってしまった身体は本調子とはいえず、少しでも感覚を取り戻そうと思って簡単な依頼を探して。

 

そして。
この、幸せの日記帳という、胡散臭そうな依頼(正直ちょっと期待してた)を見つけた。

結果的には、身体を軽くする魔法がかかっていて一ヶ月で効果が切れるという代物だったけど。
助けてもらえた、ということでいいのかな。

 

エナンから貰ったお礼は、今でも大切に持っている。

 

……本当に、目を覚まさないままにならなくてよかった。
私はまだ、こうやってみんなと一緒にいたい。

 

 

―― 著者『ファディ』

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9.ask様作『賢者の選択』

 

依頼を終えて帰ろうとして、騎士に声をかけられて。
助けなきゃ、と彼に連れられ、村について、デュマデュオの罠に嵌められた。

洞窟に閉じ込められ、老人と出会い、デュマデュオを殺すよう命令され、地上に戻された。

そして、デュマデュオに眠らされ……そこからは、覚えていない。
それどころか、目が覚めた時には馬車の中で、倒れていたところを助けられた。村について聞いても、村などなかったと告げられた。

 

夢だった、のだろうか。
いいや、そんなことはない。

 

アンデッドに追われ、仲間が傷つき、癒し、襲われ、いつしか魔力も法力も尽きて、一人、一人と意識を失っていく。
このままだと、皆帰ってこなくなる。いなくなる。失ってしまう。俺も、例外ではなく。
は、突然理不尽に訪れる。

 

……俺は、あの恐怖を、鮮明に覚えている。

 


―― 著者『エナン』

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10.ask様作『墓守の苦悩』

 

これは喜ぶべきかどうかわかんねぇけど。
トゥリアが些細なことじゃ怯えなくなってきた。
流石に墓からゾンビがうぞうぞ出てきたときは数歩引いたけど、そんだけだった。

 

冒険者になる前なら、嫌だ怖い、帰ろう、わたしには無理だよ、そう泣き言を言っていたのに。
今ではトゥリアが凄く逞しく見える。おれたちはあいつの魔法に支えられている。

 

きみは役立たずなんかじゃない。ずっとずっと、すげぇんだ。そう喜ぶ気持ちが半分。
過酷な冒険が続き、嫌でも慣れてしまい感覚がおかしくなってしまってんじゃ、と恐怖が半分。

 

……おかしくなってしまわねぇよーに。
俺はずっと、これからも、トゥレラの傍で、繋ぎ止めよう。

 


なんて。

そんなおれも。
やっぱり死体くれぇじゃ嫌悪感程度に収まっちまうんだから、壊れかけてんのかもしれねぇな。

 

 

―― 著者『テセラ』

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- ask様作『旧き沼の大蛇』

 

- 発狂道化師様作『夢は南海を駆ける

 

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11.夜月様作『凍える森のファシア』

 

ファシアという男性が森で暮らしていて、かつて森を守るために猛吹雪を起こし、街の者は彼に吹雪を止めてもらうために生贄を捧げた。

 

ファシアは生贄を哀れみ、吹雪を止め森で生贄と生きるようになった。
そのうちに生贄のことが好きになったが、寿命が違うためいつか別れは訪れる。彼は失わないために、彼女を氷漬けにして永遠を共にしようとした。
けれど、ファシアの魔力が限界を迎え、氷が解け始めていた。

 


エナンの言葉を隣で聞いていた。
生贄……ソフィアが消えるときを受け入れる日が来たと。
共に生きる時間が違う。永遠に共にはいられない。

そう語るエナンは、とても苦し気な表情をしていた。

 


私が目を覚まさなくなったとき。
私の立場になったときのことを考えたのだろう。
こんな状態であれば死んでいると同じだから、いっそ殺してくれと。
ソフィアの口にした、何もできないことが悔しいと。
会話しかできないこと、表情が作れないこと、動物や妖精を頼らなければ何もできないことが、悔しくて無力さを思い知らされるのだと。

 


彼は、優しいからソフィアの意見を尊重した。
本当は、ファシア側の意見だったろうに。

 


―― 著者『ファディ』

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12.大根おろし炒め様作『ホーム・スイート・ホーム』

 

ゴミ屋敷に足を踏み入れた清掃局の者が帰ってこない。
魔術師は幻術の使い手で、自身に幻術をかけ夢に逃げたというのが大筋だ。

 

どれだけ夢で取り繕うても、現実ではあのあり様だ。
ああはなりたくないものである。冒険者である以上綺麗な終わりにはならぬだろうが、せめて民のため、仲間のため、死力を尽くしてからこの世とお別れしたいものだな。

術者の魔力のせいでエヌの具合がよくなかったが、よく働いてくれた。術を解いたのもエヌであった。
帰ったとき、随分と疲れた様子であった。ゆっくり休んでほしいと思う。

ところですまぬな、鼻栓売りの男よ。余は強く生きる。
いつかこの借り(100sp+鼻栓)は返すからな。

 


ああそうそう、またうちに新入りが増えたのだ。
姉弟で前線を共にしてきたセヴェンタとヴェレンノ、シスターのティカに、トレジャーハンターのルジェ。
彼らの冒険にも、幸があらんことを。

 


―― 著者『オクエット』

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13.藤四郎様作『深山の帝王』

 

村が、燃えた。
村を、救えなかった。

 

黄昏時と夜は危険だから、何かあったときに対処できるよう全員で見張りをして、活動時間ではない朝に休もう。
……活動時間ではない時間も、警戒すべきだった。
何人か見張りをさせていればこうはならなかった。

 

ファディは、首を横に振った。

 

「全員が疲れていました。あなたの判断で、皆さんを休ませてくれたから。
もし、無理をしていたら、ミーシャを討てなかったかもしれません。誰かが死んでいたかもしれません。」

 

そう落ち込むのは結果論ですよ、と笑った。
震えていて、無理にでも作った笑みだって嫌でも伝わって。
たった一言だけ、ごめん、としか言えなくなった。

 


俺は、ただ、困ってる人の力になりたくて冒険者になったのに。
俺は、また、何も助けれなかった。
自分の無力さだけを思い知らされる。

 

初めて受けた依頼も、魔術師が居たあの村も、ファシアたちも、そうして今回のことも。
それから……ティオールも、エクシスも。

 


剣が、やけに重く感じた。

 


―― 著者『エナン』

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14.藤四郎様作『マールの火竜』

 

今にも死にそうな竜だったとはいえ、僕たちは竜殺しの称号を得ることになった。
王国は竜との約束を破った。では、いずれ竜は我々に牙を剥くかもしれない。あまり乗り気ではないが、討伐することにして。

 

子竜がいた。傷つけられ、ボロボロになった子竜だ。恐らく国が子竜を攫い、竜の血を得る道具とした。そして、親竜はそれを助けるために国に攻め込んだのだ。

あまりにも可哀想だ。リーダーは子竜を見逃そうとして……オクエットが待ったをかけた。

 


「ここで殺してやらぬか?
ここで、村人に見つけられてみろ。また同じように血を得る道具にされる。反抗する力も残されておらぬ。

もう……この子竜を、楽にしてやらぬか。」

 


東方の薬は、竜との戦いに使ってしまっていた。
オクエッタにそれを預けていた。竜との戦いは壮絶で、トゥレラもファディも立ち上がれなくなり、使わなければ死ぬと判断し、使った。

―― もし、薬が残っていたならば

 

 

宿に帰って、彼女の部屋に入ろうとして。
……泣いていた。助けられなくてごめんねと、こんなことしかできなくてごめんねと、ボロボロと泣いていた。

 

ああ、あの人も泣くんだな、と思った。
そういえば、いつか竜に乗ってみたい、竜と仲良くなりたい、でも戦ってもみたい、なんて言っていたっけ。
そもそも。……そもそもオクエッタは、まだ8歳の子供だ。あの振る舞いから忘れそうになるが、トゥリアたちよりもまだ幼いのだ。
決して弱音を吐かない人だと知っている。それを許さない人だと知っている。だから、ここで僕が部屋に入ればその言葉を飲み込んでしまう。

 


そっと、部屋を後にした。
あの日の助けてくれたお礼をすることすら僕には叶わない。
……僕には、そんな資格はないのだと言われているようだった。

 


―― 著者『エヌ』

 

 

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