海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

運命の天啓亭 幕間1

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ネムリヒメ(春野りこ様作)内でのお話です

 

 

ファディが目を覚まさなくなり10日が経った。
報酬が安くともリューンから離れたくない。リューン近郊での依頼を中心に受けてばかりでロクな収入はなかった。
明日食うに困る、ということはないが、新たな武器や道具の調達ができない、といった状態だ。

 

「……ファディお姉ちゃん……このまま、起きないのかな……」
「馬鹿、そんなこと言うなよ。死んでねぇんだ、ぜってー目ぇ覚ますから。」

 

ティオールとエクシスが帰ってこない。未だに死んだという知らせは入ってこない。
だから、ファディもこのまま。すぐに悪い方向に考えてしまうトゥリアを励ますテセラの姿を見るのも何度目だろうか。

 

「でも、だって……ティオールさんたちは、帰ってこなかったから……」
「どっかで遊びふらしてんだろ、あいつらのことなんだから。いっちゃんこっちの世界を知ってるやつらだったろ。だから大丈夫だって。」

 

―― 分かっている。もう2人は戻ってこない。きっとどこかで死んだのだろうと。
それでもあきらめきれなくて、きっとどこかで生きている。あり得ないと分かっているのに、そんな希望を捨てきれずにいた。

 

「ただいま。」

空が赤色になれば、エナンが戻ってきた。
戻ってくれば、決まってトゥリアが起きた?と泣きそうな顔でエナンに尋ねる。それを、きっと明日になったら目を覚ますさと伝えて頭をなでてやる。
それが、いつもの流れだった。

 

 

 

「なあ、エナンよ。」

 

夕食を終えれば、くいっとオクエッタがエナンの服の袖を引いた。
少しだけ余と話してくれぬか、と相談を持ち掛ける。晩酌にはエールとホットミルク。余はまだ子供故酒は飲めぬからなと笑った。
田舎育ちで動物が好きな彼女は寝る前にはよく飲んでいたそうだ。

 

「待つ側というものは。何もできないというのは。辛いな。」

 

同情か、それとも。
オクエットはエヌと共に後からパーティに入ったため、ファディとの面識は浅い。故に依頼も落ち着いてこなせたし、人をまとめる力があるため何度か代わりにリーダーを務めてもらった。
だから、同情の、慰めの言葉だと思った。

 

「……でも、いつか絶対起きるから。だから何の心配もないしへっちゃらだぞ。オクエットもいつもありがとうな。」

 

と、エナンは笑った。
オクエットは笑っていなかった。

 

「余は、辛かったぞ。」

 

ここで、あっとエナンは気が付いた。
ファディが目を覚まさなくなる少し前。エヌが魔法生物に寄生され、酷く痛めつけられ衰弱することになった一件があった。
オクエッタが違和感に気が付いたから助けることができたが、気が付かなければ今頃彼はこのパーティにはいなかっただろう。
ずっと傍に付き添っていた。
大丈夫、じきに回復する。オクエッタはエナンたちにそう振る舞っていた。

 

「…………あぁ、」

 

分かったら。
止められなかった。

 

「辛いよ……」

 

生きている。
ちゃんと、生きている。分かっている。
けれど、俺が助けたあの人が恩返しにと冒険者として支えに来てくれて。
癒しの力で怪我を治療し、パーティを支えてくれて。

何よりも。

 

優しく、いつも笑ってくれた、あの人が。
目を覚まさなくて、笑ってくれなくて、名前を呼んでくれなくて、それに対して待つことしかできなくて。

 

「あいつ、トゥリアも、テセラも、心配してるって……ゎかって、ないだろ……なぁ……皆待ってるのに……俺だって、ずっとずっと、待って、て、起きてこいって、言ってんのに……
 なあ……んで、起きてきて、くれないんだよ……ファディっ……!!」

 

こらえきれなくなって。
泣いて、涙をこぼして、弱音を吐いた。
オクエットは隣で、その言葉を聞いていた。
うむ、と何度も首を縦に振るそれは、同情というよりは。

 

つい最近得た同じ辛さを、自分だって辛かったのだと。
弱音を吐けない分、照らし合わせて吐き出しているようだった。

 

 

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