海の欠片

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リプレイ_19話『惨劇の記憶』(2/5)

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次の日。村長とは1200spで今回の依頼を受ける、村の者には必要ない心配をさせないために今回の件は黙っているということを約束する。朝食にオムレツとパン、サラダ、紅茶をいただき、カモメの翼はまずは聞き込みを行った。
この村は田舎というのに図書館が存在する。膨大な数の文献が積まれており、リューンの市営図書館をも思わせるほど書籍は充実していた。

 

「……そいやラドワ。あんた何も思い当たらないわけじゃない、って言ってたけど。今回の黒幕、もう検討はついてんの?」

 

手がかりになるものはないか。それぞれが文献を漁る中、ロゼがラドワに尋ねる。因みにゲイルが文字を読めないため、カペラとゲイルは別の場所へ聞き込みに行ってもらっている。

 

「えぇ、まあ。確信に至ってはいないのだけれども。ユリンからは微かに魔力を感じた。更に記憶喪失で、行商人も記憶を操作された可能性が高い。太い刺し針のような跡が、恐らくは記憶干渉を受けた跡ということなのでしょう。物理的に何かを刺して、そこから記憶の干渉を行った。
 ……あぁそうこれ。一つの可能性として思いついたのがこれだったのよ。」

 

司書であるメイアに借りた本をぱらぱらとめくり、該当部分を指さす。ついでだからアルザス君とアスティちゃんも来てーと、ちょいちょいと手招きをした。
指で触れられた部分には、忘却の毒と書かれていた。忘却の毒は、非常に珍しい毒であり、一世紀以上を生きた、ある魔物より分泌される。

 

「これですよ!きっと、その魔物によって引き起こされた事件なんですよ!」
「そう決めるのは早計よ。人為的な事件である可能性だってあるわ。あくまで可能性の一つとして考えてちょうだい。」
「しかし、モンスターの名前は載っていないな。魔力を持っていて、物理的に何かを刺して記憶に干渉してくる……そう多くはないと思うが。」

 

判断材料が少ない。人為的かそうでいないか、それが判明するだけでも大きな進歩と言えるのだが。
と、ここへ別の場所……青年団へ聞き込みに行っていたカペラとゲイルが図書館へと戻ってくる。きーてきーてと、いつもの人懐こい調子で図書館組に話した。

 

「なんでもね、村を通りかかる旅人が言ってたって話なんだけどね。悪名高いゴブリン盗賊団がこの村の近くに移動してきたって。盗賊団には2000spもの賞金がかけられてるんだって。それ以外は特に何も聞かなかったね。」
「えっなにそれ今すぐ殺し……討伐に行かなきゃ。そんな楽し……怖い存在がこの村の近くに移動なんて、あーあー村の人たち怖いだろーなー、怯えてるだろーなー」
「お前は相変わらず嬉しそうに血祭に持って行こうとするな!あと依頼優先だからな!行かないからな!賞金首を狙いに来たわけじゃないからな!本来の目的を忘れんなよ!」

 

えーーーと、心底残念そうな顔をする。この屑は本当に放っておけば何をしでかすかわかんないな。当たり前だからと総ツッコミを受けるのも最早見慣れた光景である。

 

「流石に今回の件とは関係ねぇかな?」
「流石にないとは思いますが……無関係、と証明するものもありません。
 ……やはり一度、オーエン村に行ってみないと進展はないんじゃないでしょうか。」

 

どうします?と、リーダーに問いかける。実際村の中のみで調べられることには限界があり、アスティの言う通りこれ以上は何も見つかりそうにない。
行きたいか、行きたくないかといえば行きたくない。目の前で街が滅ぶ様を、アルザスは目の当たりにしたことがある。場所こそ違えど、光景としては大差がない。
惨い、どこまでも広がる紅色。力なく横たわる人々。あの日の出来事を、見に行かなければならない。
……アルザスにとって、それは実はさほど大きな問題ではなく。

 

「……分かった、一度オーエン村へ行ってみよう。ひどい光景が広がっているだろうが
やったーーー!行くのね、真っ赤なお花畑へ赴くのね!人が咲かせた真っ赤なお花だからそこまで胸は躍らないけれども、それでも大量殺戮の跡なんてラドワちゃん大好きやったーーー!!」
だからだよ!!だから行きたくなかったんだよ!!冒涜になるから!!
 どうするんだよ俺たちが行ったら絶対不謹慎になるだろ!!わかってたんだよ!!だから行きたくなかったんだよ!!でもラドワを置いていくという選択肢は悲しいがないんだよ!!賢いから!!頭いいから!!こんなあっぱらぱーでも頭脳者で一番推理が得意だから!!なんてひどい話だ!!こんなの絶対おかしいよ!!」

 

自分たちが行けば、殺戮現場がご覧の有様状態になってしまうことが大問題であった。
しかし行かなければ事は進まない。これからきっと冒涜を振りかざします。いきなりから揚げにレモンをかけるような冒涜になります。そう、死者へ追悼をしてから彼らはオーエン村へと向かった。

 

 

 

「あぁ、なんて酷い光景……生きた者の気配が誰一人としてないわ……可哀想に……一体誰がこんなひどいことを……」

 

村は、すでに焼け野原となっていた。あたりは静寂に支配され、人っ子一人いそうにない。
つんと、鉄のにおいが、それから焦げた匂いが鼻を衝く。何度か惨劇の跡は見てきたが、やはり慣れる光景ではない。

 

「あぁ、可哀想だわ、とても可哀想……死体を漁って証拠を集めて……敵の、正体を、暴きましょう……どんな些細な情報も、漏らしてはいけないわよ……この、可哀想な人たちの、無念を……晴らす、ために……」
「本音は?」
「意外と手口が堂々としているし、いい感じに襲った跡もあって思ったよりは好感が持てる。」

 

きゃっきゃとはしゃぎながら手あたり次第の建物を調べていく。うーん流石屑。こんな地獄絵図の中で大変生き生きしている。おかしいな、普通は胃から物がこみあげてくる人とか少なからず居るはずなんですよ。

 

「……だめね。根こそぎやられてるわ。豪華なシャンデリアも、羽毛のベッドも、皆灰屑。んで、こっちの酒場はどす黒く変色した血が店内のいたるところに飛び散ってるわ。」
「変色してしまっているせいで美しさはないのよねぇ。やっぱり時間経過には抗えなかったようだわ。」
「これは頭が屑。」
「酷くない!?」

 

失礼しちゃうわ!とぷんすこお怒りの屑。正当評価どころかまだ優しい評価のような気がする。

 

「この木、村のこの大木。この木の下を中心に死体が折り重なってるよ。村人はここに集められて処刑されたのかな。」
「ひでぇ光景だ。……こんなちっせぇ子が、犠牲になんなきゃいけねぇなんてよ。」

 

やりきれない思いを吐露する。どれだけ嘆いたところで、誰にも言葉は届かない。
淡々と調査する者。やりきれない思いを抱く者。せめて冥福をと祈る者。大変楽しそうに死体を漁る屑。
それぞれが、それぞれの想いを抱きながら調査を進める。

 

「っ―― なんだ、このっ!」
「どうしたアルザス!?って、あ、アンデッド!?」

 

民家の中から出てきた生ける屍。生きる者を食らおうと、アルザスにそれは牙を剥く。
守人は咄嗟にスライプナーを抜き、その屍を灰へと還す。死した者を浄化する聖なる剣により、あっさりとそれらは崩れ落ちた。

 

アルザス、大丈夫ですか!?」
「このくらいどうってことない。皆、気をつけろ……負の念が強いからか、アンデッド化した村人もいるようだ。俺たちが負ける相手じゃな――」
「いいえ。負の念だけじゃないわ、これは……!」

 

刹那、腐臭ではない別の香が漂っていることに気が付く。真っ先に気が付いたのはラドワだった。
先ほどまでの表情はなく、真剣なものへと変わっている。服の袖で鼻で覆いながら当たりを見渡した。

 

「毒ガスよ、腐臭じゃない。それも自然発生のものではない。誰かが意図的にこの毒ガスを発生させているわ。」
「ちょ、ど、毒ガス!?そんな中居たらそれこそゾンビ取りがゾンビになっちゃうよ!?」
「いいえ、対処できないことはない。アスティちゃん、解毒はできるわよね?
 逐一癒していたら持たないから、後で纏めて解毒する。手がかりはここしかない、毒ガスを撒いた理由は恐らくは証拠を探られたくないから。なら、多少は無理をしてでも材料集めをする。……いいわよね、リーダー?」

 

こんな時、リーダーと口にする彼女は彼を信頼している証拠だ。
誰も無理をさせたくないが、ここで引いてしまえば黒幕の思惑通りだ。分かった、手短に終わらせよう。それだけを告げ、口と鼻を抑えながら調査を続行する。
首が分断された死体。抉られたような傷を持つ死体。殆ど原型をとどめていない死体。十字架を持ちながら死んでいる死体。
―― 子供の、死体。

 

「……おい、この子供の死体んとこ、地面になんか書いてあんぞ!」
「読んでみる。……ご・ぶ・り・ん……ゴブリン!?村を焼き尽くしたのはゴブリンだって……そんなことあり得ないよね?」
「あり得ないわ。そこまで器用なことができる魔物ではないわ。……カペラ君が言っていた、ゴブリンの盗賊団。それと黒幕が絡んでいる可能性があると見ていいでしょう。」

 

手がかりが一つ。ここでふと気になったことが出てきたアルザスは、死体をいくつか念入りに調べる。
……ない。あの特有の傷跡を持つ者が誰一人としていない。

 

「なあ。例の、太い針で刺した跡はないのか?」
「今のところありません。……殺すときには利用しなかった、ということでしょうか。」
「…………」

 

考える。考えが、読めない。
一体何を思って村人一人を生かした?何のためにあえて村人一人に冒険者を寄越すような文句を伝えさせた?
目的が分からない。何を思って、村を一つ滅ぼしたのか。それよりも、記憶を消して一人を生かすという手間とリスクとメリットが分からない。最も引っかかるのはそこなのだ。

 

「……さん……母さん……」
「……!ゴースト!」

 

ふらり、ふらり。今にも消えてしまいそうな、儚げな声が聞こえる。そちらを見れば、ふわふわと子供のゴーストが漂っていた。
泣いている。怯えている。ゴーストやウィスプは、嘘をつかない。その人から見た真実のみを、口にする。

 

「母……さん……こわい、よ……ばけも、の、が……
 助けて……!黒い翼のばけものが、ぼくを追いかけてくるんだよ!コウモリのおばけだ!
 母さん!……そこに、いるの……?たすけて……助けて、よ……!母さん……なんで、何で何も言ってくれないの……なんで……体が、冷たいの……?母さん!母さん……助けてよ……かあさ
「はいはいさっさと死者は死ぬ。」

 

雑に!聖水を!投げた!
屑が!雑に!聖水を!投げた!!
あまりにも雑すぎる幽霊対象消去である!流石にあまりにも人の心がないムーブに、幽霊が怖くて守人の後ろに隠れていた癒し手もおこだ!

 

「……あなたそういうところですよ!?どうして今人生を強制終了させたんですか!?子供泣いてたじゃないですか、何で優しい言葉の一つ二つかけてあげないんですか!?」
「既にゲームオーバーでしょうが。母親を失った悲しみを受け入れられなくて現世に留まって、何かいいことある?ないでしょう?」幽霊は悪霊になって私たちに牙を剥く。私幽霊は嫌いなのよ、血が出ないから。殺しても美しくないから。殺し甲斐がな
「だからそういうときずっと死んだ母親を待ち続ける姿が可哀想だとか!そう言いながら聖水を投げたのであれば私は何も言わないし優しい人だなって感心するのに!どうしていつもいつもそう人の心がない方向へばかり走るんですかねぇ!?」
「人の心がないからでしょ。」

 

ロゼのごもっともな一言である。悔しいくらいにごもっともな一言である。否定できませんよねぇ、さぞかし悔しいでしょうねぇ。
そういうことだから、とにっこりと誤魔化す屑。こいつら本当に緊張感がないな。

 

「……ところで。これは、刃物の傷ではないわね……鍵爪の跡だわ。蝙蝠の翼……鍵爪……刺した傷……忘却の毒……。……なるほど。ありがとう、調査は十分よ。犯人像は分かったわ。」
「……!本当かラドワ!人の心はないが知識面としては信頼できるお前を信じていいんだな!」
「それ素直に信じろ、って言いたくないのだけれども!?
 ……こほん、とにかく。犯人像はさっきも言った通り確信したわ。ただ、目的がどうしても分からないのだけれどもね。」
「最悪そこは、犯人をとっ捕まえて吐き出させるってことになるかな。とりあえず、犯人像が浮かんだんならさっさと戻ろーよ。流石にそろそろ毒がきついよ。」

 

こくり、頷く。流石にこれ以上の滞在は命に関わる上、アスティにも負担がかかる。
カモメは紅に染まった海を旋回し、崖へと戻る。風をよけ、静かに翼を休めるために。
……戻る前に、何者かが村に戻る。不気味な笑い声を上げながら、冒険者を見送り、呟いた。

 

「くくっ……なかなか骨のあるやつらじゃないか。気に入ったぜ。
 今度は、こいつらに手伝ってもらわねぇとな。クククククッ……」

 

幻聴だろうか。オーエン村の人々の、悲痛な叫びが聞こえたのは。

  ・
  ・

「……ん?ねえ、あそこにいるのユリンじゃない?」

 

纏めて毒を癒し手に治してもらい、村へと戻る帰り道。ユリンの姿を見つけ、冒険者たちは彼女に近づく。まだ薬草を採っていたのだろうか。

 

「どうしたんだ、ユリン?もう日が暮れる頃合だ、早く家に帰らないと。」
「……待ってたの。」

 

返ってきた言葉は予想外の一言。悲しそうな、憂いを帯びた紅の瞳で冒険者を射抜く。
一歩、二歩と近づき、震える声を紡いだ。

 

「見たでしょ?あの村……炎に包まれて、もう何もない村。けど、何故か大切な場所。
 わたし、あの村で、独りぼっちで座ってたの。何も思い出せずに……けど、本当は一つだけ、一つだけ覚えていることがあるの。とてもこわくて、とても嫌な声……顔……」

 

頭を抱え、蹲る。恐怖で、畏怖で、がたがたと震える。
思い出したくもない記憶なのだろう。それを掘り起こすべきかどうかと問われれば、きっとそっとしておいた方が彼女のためだろう。無理に思い出さなくてもいい、そう言おうとしたアルザスを止めたのは合理的な考えを持つラドワではなかった。

 

「何か、知っているのですか?でしたら、私たちに教えてください。事件を解く手がかりになるかもしれません。」
「……アスティ、お前……」
「思い出させようとしている記憶は、もっと惨いものです。村が滅ぼされた、家族を殺された、そんな記憶を思い出させようとしている。だから、無理に思い出さなくていい。それは、甘えの言葉になってしまいます。
 ユリンに対して、ではなく。私たちに対する甘えに。」

 

そう、アルザスを見る表情は笑っていた。無理に、微笑みを作っていた。記憶がないことはやはり辛いんですよ、と。そう付け加えて。
その様子に、何か思うものがあったのか。ユリンは立ち上がり、大丈夫だよと一つ深呼吸。落ち着けば、じゃあ話すね、と語り始めてくれた。

 


現実じゃないみたい、悪夢のような記憶。黒い大きな影が、わたしに囁きかけるの……
顔はぼんやりとしか覚えてないけど……声ははっきり覚えてる。キンキンがなり立てる、しゃがれた声……

 

「娘よ……全てを忘却せし娘よ……汝はいずれ、我が元へ来ることになろう。失われた記憶を探しに……
 じゃが、汝の記憶を手繰ること、そは汝が決めるにあらず。よいか。汝の運命は、二つに分かれる事になろう。己の思惑に関係なくな。
 そして、そを定めるのは、異邦の地より来たりし勇士なり。汝は、その者たちの意志に身をゆだねるのだ……」

 


「……異邦の地より来たりし勇者?それってあたいたちのことかな?なんだかすっげぇかっけぇな!」
「いやいや、そんなお気楽リアクション取ってる場合じゃないよね!?めっちゃ喜んでるとこ悪いけど割と大変なことになってるからね!?
 考えても見てよ、それが黒幕だったとしたらさ。僕たちがこうしてユリンの記憶を取り戻す手伝いをするのは相手の思惑通りってことになるんだよ?それって大問題でしょ。」
「私もそれは考えたわ。黒幕は、冒険者に依頼が出ることも、ユリンの記憶を追いかけることも、全部何かの目的のために必要だったことなのでしょうけれども……やっぱり、分からないのよ。その目的が。一体何を考えているのか、さっぱり。」

 

やれやれ、と肩を竦める。自分と同類だったら面白いからだとか、人の不幸で飯が上手いだとか、そういうことを考えるのだけどもねぇと苦笑する。もしそうだったらお友達認定待ったなしだ。屑曰く、やり方が卑怯なので同意しかねるとは言っているが。

 

「ねぇ、冒険者さん。
 わたしの記憶を取り戻してくれるって、約束してくれたよね?昨夜の夜……どうしてわたしに優しくしてくれるのかな……?」

 

唐突な質問。わたしには縋るものが何もないから。そう質問するユリンは俯き、木々の揺れる音にその声はまぎれてしまいそうだった。
どうしてか。それに対する回答は、簡単だった。

 

「同じだからですよ。私も、記憶喪失ですから。私はそれこそ、昔の私に関して何も思い出せませんが……縋る人は、ここに居ます。目を覚ましたとき、アルザスが私を助けてくれた。縋ることを許してくれた。それが、何よりも心強かったんです。
 それから、絶対に記憶を見つけ出すと決めていますから。例え、もし辛い記憶があったとしても逃げ出したくないから。今の自分は、本当の自分と言えるかも怪しい。その気持ちもよく分かるから、どうしても助けてあげたいんです。」

 

単純に、他人事には思えないんですよと。そう、アスティは優しく微笑んだ。
それはどこまでも穏やかな、蒼く澄んだ海のようだった。

 

「あたしも、他人事には思えないクチなのよ。あたしは感情を奪われて、無感情に抗ってる。いつか奪われた感情を取り戻すために、あたしは冒険者になってあちこち情報を集めてるの。だから、自分が自分でないって感覚はよく分かる。
 それと、あたしにとって真実は絶対。記憶を取り戻す、真実を知ることを願うのなら、その力添えをしたげたい。ま、そういう理由ね。」

 

あたしもアスティも、とんだエゴの塊だわと鼻で笑う。
そういうわけだ、とアルザスも言葉を続けた。太陽の瞳で、紅色の瞳を見つめながら。

 

「俺は、街を滅ぼされた経験がある。竜災害で、目の前で大切な思い出を全て滅ぼされた。守りたかったものは、全て海へと還った。その辛さは、俺もよく分かっている。
 だから……放っておけないんだよ、お前のことが。同じだからさ。」

 

一度は折れて、長い間一人で暮らした。10年の孤独な時間は、思えば随分と長い時間だったと思う。
今、立ち上がって仲間とこうして冒険をしている。竜災害について、呪いについて、それからアスティの記憶について。そのために冒険者となった日々は、苦しいときもあるが確実に充実していて、それ以上に救われている。
だから、立ち上がってほしいと思った。乗り越えられると、そう思った。

 

「そう……なのかな。そっか……なんだか、ほっとした。」
「それならよかった。……さ、早く帰ろうか。夕飯を食べて元気を出して、明日を迎えなきゃいけないからな。」
「うん……」

 

カモメ達は、ユリンと共に帰路へと着く。途中でアスティが、アルザスの手を握りぽつりとつぶやく。

 

「……あのとき、何も分からなかったとき。本当に心細くて、不安で……もし起きてあなたがいなかったらどうなってたんだろうって、時々思うんです。そんなイフを考える趣味はないんですが。
 考えたら、あぁこの人に拾ってもらえてよかった。出会えてよかった。そう、思うんです。私はとても、運がよかったです。」
「アスティ……俺だって。お前と出会えてよかったって思ってる。きっとお前と出会えなかったら俺は、ずっとあそこで独りで暮らして、こうして冒険者になることなんてなかったから。俺の前に現れてくれたこと、本当に感謝してるんだ。」
「村送りを考えたのはどこのどいつだっけ?」

 

ロゼの冷酷な一撃!大ダメージすぎる一言!そう、最初は独りで居たいと村に引き取ってもらおうと考えていたのだ!大変後悔している部分のせいで、思わず顔を覆ってしまった!

 

「あ、あれはその、アルザスだってまだ心を開いていなかったわけですしほら。」
「いいんだ……見捨てかけたことは事実なんだ……俺が……最低なやつだったから……」
「おいおいロゼ!どーすんだよアルザスがネガティブスイッチ入っちまったじゃねぇか!こーなっちまったらネチネチと陰湿で鬱陶しーだろーが!」
「えぇこれあたしのせい……?ヘタレのネガティブうじうじ引っ込み思案引きこもり陰湿野郎だったアルザスに大体の否がない……?」
「正論で殴らないであげてください!?どうするんですか歩きながらのの字を書くという器用なことをやってのけ始めたじゃないですか!アルザスーーー前を見てくださいーーー!棒に当たってしまいますからーーー!」

 

犬かな?アルザスも歩けば棒に当たる。さらっとアスティも否定せず正論と言ってしまうあたり余計にダメージが跳ねている。
その後、仕方ないのでアスティに手を引っ張られながら帰るシーチキンエルフの図があった。可哀想。どうしてこうなった。

 

 

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