海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_19話『惨劇の記憶』(1/5)

※予想以上にギャグが多い

※シリアスシナリオがギャグになる人だめだったら絶対に回れ右

 

 

「親父、この依頼なんだが……ただ事じゃなさそうだな。」

 

アルザスは依頼書を一枚手に取り、訝しげに内容を確認する。
山間の小さな村、オーエンが一夜にして焼き尽くされた。しかも、唯一生き残った村人は、原因不明の記憶喪失に陥っているという有様だ。一体、村に何が起きたのか。冒険者諸君には、その原因を探ってほしい。
報酬は800sp用意している。経験豊かな、腕の立つ冒険者を求む。
―― ルネス村村長

 

「あぁ、それか。お前たち、行ってくれるのか?一筋縄ではいかない依頼のようだが。」

 

あまりにも不可解なことが多かった。小さな村なのだろうが、それにしたって一晩で焼き尽くされるなどよほどのことがなければあり得ないだろう。魔法にしては規模が大きすぎるし、火事にしても全てが燃えるなどとは考えにくい。
何より、生き残りがおらず、たった一人のそれが記憶喪失となっている点も不可解だ。うーん、とラドワも依頼の内容を隣で確認し、手に顎を乗せる。

 

「私でもやろうと思えばやれなくもないけど、呪文の詠唱も規模も大きいから時間がかかるわ。その間、誰にも見つからずになんてとてもじゃないけれども無理ね。
……あまりにも得たいが知れなさ過ぎて、あまり私からはおすすめできないのだけれども。手に負えるかどうかすら分からないわよ?」

 

いつもなら死体がたくさん!?わぁい見に行く依頼受けるー!と喜びそうなものだが、それよりも自分の命が最優先なラドワはあまり乗り気ではなかった。死んでしまえば何もかも意味がないのである。
ただ、アルザスとしてはこの依頼を放っておくことはできなかった。己の住んでいた街は、突如海竜に滅ぼされた。討たれるまでの間、一体どれほどの時間が流れたのかもアルザス自身は分かっていない。それどころではなく、目の前で消えてゆく命を見ていることがやっとだったから。

 

「……俺は、放っておけない。一日にして街が壊滅した。その悲惨さは……俺が、よくわかっているから。」
アルザスならそう言うと思いました。私は賛成です。アルザスが言ったから、ではなく……やはり、私も放っておきたくはないんです。アルザスがどれだけ辛いか、よく知っているから……」

 

残りの仲間は、顔を見合わせる。ラドワは得たいが知れなさすぎる、ということで反対意見から変える気はないようだ。3人の内、2人の顔は唸り声を上げ、眉間にしわを寄せていた。

 

「あたしはどっちかっていうと反対。ラドワと同じく、得たいが知れないってのが強い。でも、滅ぼしたやつがのうのうと生きてるってのも放っておきたくない。だからそうね、一度依頼人と話がしてみたい、ってのがあたしの意見かしら。」
「僕は割と反対。僕たちに手が負える気がしないんだよ。こんなよく分かんない依頼を受けるくらいなら、もうちょっと相手や依頼内容が具体的に分かるような方がいいと思うんだ。……アルアルの気持ちも汲み取りたいから、あくまでも割と反対、だよ。」
「あたいは強ぇやつに会いに行きてぇ。」
「うーーーーーーん相変わらずの脳筋ーーーーーーーーーー」

 

聞く前から分かっていたようなものではあるが。改めて聞くと、この珍しくぴりぴりしていた雰囲気が完全に台無しである。流石ゲイル、空気をも己の発言で木っ端みじんにしてくれた。

 

「てかあのさあ、まだ相手が強い奴かどうかもわかんないんだけど?」
「だとしても、村を滅ぼすなんかがあるってことは確かだろ!?じゃあそいつと、そんな力と戦ってみたくね!?めっちゃ楽そうだって思わねぇ!?」
「概念と戦おうとしてるんだけどお前!?大丈夫!?ちゃんと戦う相手見えてる!?」
「見えてないでしょまだ何の情報もないんだから。」

 

ロゼの会心のど正論のツッコミ!むしろゲイルよりもアルザスに5点のダメージが入った!
とはいえ、意見としては半々だ。反対意見が多く、その理由はとても合理的である。賛成意見が感情論に偏っているところを見ると、依頼としては放棄するべきなのだが。

 

「せめて、話を聞いてみよう。手に負えなかったら……そのときは、依頼を途中放棄することも考える。それでいいな?」
アルザス君あなたそんなことできるのかしら?」
「いちいちお前たちはツッコミが鋭いな!?鋭利すぎて俺の心はズッタズタなんだが!?」
「死ぬ気がないから依頼を選べってことよ。」

 

全く持ってその通りである。そして性格的にも逃げるという考えが無さそうなシーエルフである。
そこそこ付き合いが長くなってきたせいで、各々の考え方はある程度分かるようになっていた。……付き合いが長くなくとも分かりそうなやつもちらほらいるが。

 

「とりあえず親父、場所を教えてくれ。依頼人はどこに居る?」
「受けてくれるか、流石アルザスだ。依頼人はリューンの西の、ルネス村という場所にいる。今から出発すれば、日が暮れるまでには着くだろう。」
「よし……皆、この依頼、何があるか分からない。気を引き締めていくぞ。」
「……多分この依頼を受けると言い出してるアルアルが一番気が緩んで
「気を引き締めていくぞ!!」

 

なんだかんだで、やはり緊張感のない冒険者集団なのでした。
……仕組まれたこともしらないお気楽冒険者たちは、ルネス村へ向かうためにリューンから西へと伸びる街道を歩いていった。

 

  ・
  ・

 

時刻は夕方。目的の村が見えてきた。なかなか繁栄しているようで、石造りの頑丈な家が、通りに軒を連ねている。カモメたちは一番に村長の家に向かい、依頼についての話を今日の内に聞くことにした。野宿は嫌だもんね。
仕事帰りの村人を呼び止め、村長の家を尋ねる。村人は親切に応じてくれた。どうやら、街道沿いの村のためか冒険者は見慣れているようだ。

 

「ここが村長の家だな。誰かいないか、貼り紙を見てこの村に来た者なんだが!」

 

大声で尋ねる。間もなく扉は開かれ、ややしかめっ面になった老人が出迎える。すっかり髪は抜け落ち、濃いしわが目立っていた。

 

「騒々しいわい。そんなに大声を出さんでも聞こえておるよ。さあ、中に入りなさい。」
「失礼します。」

 

一礼して、家の中へと入れてもらう。中は優しい暖気に満ちていた。居間の中央にすえられた暖炉が快適な空間を提供している。
……本来なら、そう感じるのだろうが。カモメ達はもれなく魔力的に、あるいは呪いの性質的に熱に弱かった。止めてもらうほどではないのだが、少し暑いものは暑いのだ。

 

「これアルザス蒸発したりしねぇよな?」
「流石にそこまで熱に対して虚弱じゃないから。……ちょっと暑いが。」

 

小さな声で本音が漏れた。早く宿に逃げられるといいね。
勿論暑いと思われているなんて微塵にも疑えない村長。悪気はないから仕方ないね。

 

「いやしかし、よう来なすった。知り合いの旅商人に頼んでおいたんだがね……ほら、客人にお茶を出しなさい。」
「はいはい、言われなくとももう用意してますよ。さあ、遠慮なく召し上がれ。」

 

キッチンから眼鏡をかけた上品な老婦人が現れる。暖かい紅茶とシフォンケーキを運んでくると、かぐわしい香りが腹の虫を目覚めさせた。

 

「食べます!いただきます!遠慮なく!」
「うーーーんこの食いつき。まともな人がまともでなくなる悪魔の食べ物甘い物。
 ……ごめんね?うちの、甘い物に目がなくて。」
「どうぞどうぞ、むしろそうやって喜んでくれる方が作り甲斐がありますよ。」

 

いい人だ……と、心の中で全力のありがとうございますを唱えながらシフォンケーキをいただく。暖かいレモンティーと紅茶のシフォンケーキだ。主に甘い物スキーと食べるのスキーが大変幸せそうな顔をしているが、あくまでここには依頼の話をしにきた。おやつを貰いに来たのではない。
食べながらでいいから聞いてもらえるか、と切り出してきたのは村長だ。正しい。大変正しい。

 

「このルネス村は茶の交易で、随分と繁盛させてもらっとる。じゃが実は、となりのオーエン村のことでのう。」

 


3日前のことじゃった。
うす暮れの時分じゃったかな。ある行商人が、血まみれになってこのルネス村へたどり着いたのは。

 

「うああ……!た、助けてくれ!何も分からない、どうなっているんだ!?お、俺は……何を……?」
「ど、どうしたんじゃ!?落ち着くんじゃ、何があったか話しておくれ!」
「わ、分からない……助けてくれ、助けてくれ!あ、あおぉ……あ、ぐ、ぉ……」

 

そのときじゃ。突然、男は白目をむき、気でも違ったようにこう、叫びだしたんじゃ……!

 

「ワ、我ハ……異形ノ神の予言を伝えし者……オーエン村に、火をたてまつる……我の願いを……キキイレヨ……!
 ワレ……戦士ノタマシイヲ欲シタリ。我ノモトヘ呼ビ寄セヨ!呪ワレシ儀式ノ生贄トナレ……!
 聖ナル大地ニアテガイテ、血ノ涙ヲホトバシラセヨ……」

 

 

「それきり、男はこと切れよった……
 わしは翌日、オーエン村を訪れた。しかしそこにあったのは、焼け野原となった村の跡と、もの言わぬ死体だけじゃった。一体全体オーエン村で何があったのか……わしには皆目見当がつかなんだ。
 ただ確実なことは、もう……オーエン村は滅びた、という事実だけなんじゃ……!」

 

あまりにも不可解で、同時に悲惨な話だ。ふむ、とラドワが何かを考えるように紅茶のカップを持ち上げ、くるりくるり中身を波立たせる。

 

「……焼け野原は好きじゃないのよ。真っ黒こげの死体なんて美しくないもの。血も出ないし。そもそも一気に殺すというのが私としては気にいらな
「殺戮の感想なんか求めてないから!くっそ真面目に黒幕を考えてるかと思いきや全然そんなことなかった!相変わらずだった!相変わらずの屑だった!」
「お友達になれそうかなれなさそうか。そこは、重要でしょう?」
「和解の余地があるかないか、ならな!?でもお前の場合共犯者になりたいかどうか、だからな!?言われなくても全力で止めるからな!」

 

おかしいな、確実に真面目な雰囲気にはなっていましたよ。甘い物スキーと食べるのスキーだって真面目に聞いていましたよ。それが崩れ落ちましたよ。どうしてこうなった。
流石に村長も困惑顔。ロゼがどうぞ続けてくださいと、いつもこうなんですとフォローを入れる。果たしてこれはフォローなのだろうか。

 

「……頼みがあるんじゃ。この意気地の無い老いぼれに代わって、オーエン村が滅んだ理由を解明してほしい。そして、事の顛末をおぬしらの目で確かめてほしい。死んだ行商人の予言通りにな……」
「…………ふむ。」

 

一体オーエン村で何が起きたのか。この時点では何の手がかりもない。
ただラドワは、何か思うことがあるのか。顎に手を当て、考え込むようなしぐさを見せていた。
その口は開かれなかったが、じゃがなと代わりに村長の口が開いた。

 

「まだ希望は残っておるんじゃ。……実は、生き残った村人が一人だけいての。
 ユリンという名前の子じゃが、記憶喪失にもめげず元気でな。会ってやるといい。」

「―― 記憶喪失!?」

 

アスティが大声を上げ立ち上がる。己も記憶喪失であるがために、反射的に反応してしまったのだ。
すぐにはっとしてすみません、と席に着く。その表情をじっと、アルザスは見つめていた。
きっと彼女なら、これを放っておけないと言うと思ったから。

 

「行商人だっけ?その人とユリンって子、何か関係はあるのかな?」
「それは分からん。しかし、不憫なもんじゃよ。自分の事も、家族の事も、何も知らんのじゃからな……」

 

そう呟くと、村長は階段を上がり、2階へと消えていった。恐らくユリンの元へと案内するつもりなのだろう。カモメたちもついて行こうとすると、老婦人がぽつりと話した。

 

「ユリンちゃんは、自分の記憶を取り戻したいっていつも言っているの。でも、あの子の家族はもういないのよ。あの子の故郷も、もうどこにもないのよ。
 あの子が記憶を取り戻して、全てを知ることと……記憶の無いままと……どちらが、幸せなのかしら?」
「っそんなの――!」

 

全てを知る方がいいに決まっている。癒し手は叫ぼうとしたが、続きの言葉が出なかった。
記憶がなくなり、歯がゆい思いをしてきた。思い出したい。自分に何があったのかを知りたい。それは、誰も何も知らないから。
しかし、彼女の場合は周りの者は知っている。もう住んでいた場所がないことも、家族が居ないことも。あまりにも、受け止めるにはつらい現実。それを思い出したところで、本当に幸せだと言えるのだろうか。

 

「……全てを知る方がいいに決まってるじゃない。」

 

それを補うように口にしたのは、翼だった。
真っすぐな、一切の揺らぎのない純粋な瞳で、癒し手の紅の瞳を射抜いた。

 

「真実から目を逸らしたとして、それは果たして自分だと言えるのかしら。過去を失って、何も知らずに生きる自分を果たして真の自分だって胸張って言える?
 それに。アスティ、あんたは思い出せない歯がゆさを知ってんでしょ?ユリンも同じだって分かってんでしょ?なら、あんたがその気持ちを肯定してあげなきゃ。……あんたの、記憶を取り戻す気持ちが揺らいだわけじゃないんでしょ?」

 

その言葉に対する返事に迷いはなかった。

 

「当たり前です。私は、私が何者であったかを知る覚悟はできています。……そうですよね。真実を知っていて、それを隠すというのはお門違いでした。もし私が知らず、周りが知っているとなるときっと私なら怒りますから。
 ……ありがとうございます、気づかせてくれて。何か、力になれることはなりましょう。」

 

とん、と己の胸を叩く。相変わらず強い、癒し手の言葉だ。立ち止まりそうになっても、周りが言葉を少し投げかけるだけですぐに前を向く。逞しいよ、とアルザスがほほ笑みながら呟いた。
その言葉に背を押されるように、カモメ達は二階へと上がった。それを確認してから、村長は女の子の名前を呼んだ。

 

「ユリンちゃん、お客様がおいでだよ。」

 

部屋の中には、14、5歳くらいの女の子がベッドに寝かされていた。顔は少しやつれてはいるが、若い生気が感じられる。紫色の、菫の花のような綺麗な髪をしていた。

 

「ユリンはオーエン村の村長の孫なんじゃ。この子が小さいときからよう知っとる。じゃから……なんとしても、この子の家族の仇を討ちたいんじゃ。
 記憶も無く、家族の死さえも知らぬこの子を見ておるのは不憫でならん……」

 

わしには、この子が唯一の希望じゃよ。弱々しく呟く村長の表情は、とても悲痛なものだった。
大してユリンは本当に何も知らないのであろう。子供特有の幼さを持った、無邪気で純粋な声で冒険者たちに声をかけた。

 

「あなたたち、だれ?わたしの家族の事、知ってるの?
 わたし、分からないの……わたしには、何も分からないの……」

 

語る。焼け野原となったオーエン村にたった一人、呆けたように座っていたのだと。彼女は何も覚えていないが、一つだけ事件の手がかりがあった。
腕に、傷がある。何か太い針で刺したような、醜い傷跡があった。まだかさぶたも取れておらず、かなり痛々しい。

 

「ただの刺し傷に見えっけどな……」
「わしも、最初は気にしとらんだ。だがの、この刺し傷は、奇妙な言葉を残して死んだ、あの行商人にもあったのじゃ。わしには、偶然とは思えん……」

 

再び、口元に手を当てながらラドワが考え込む。出るぞ、傷跡が美しくないだとか、芸がしょぼいとか、なんかそんな感じの事を口にするぞ、と全員で口をふさぐ準備をする。

 

「偶然ではないでしょうね。それに、心当たりが何も浮かばないわけでもないわ。……うん、この線から捜査を進めましょう。記憶喪失の原因も分かるかもしれないし。」
「期待しておりますぞ。皆さんだけが頼りなんじゃ。」
「…………」

 

屑がまともだったーーー!!すっごいまともだったーーー!!疑ってごめんなーーー!!

 

「でもやっぱりやり方が美しくな
「やっぱり屑だったーーー!!案の定屑だった畜生3秒前まで我慢できて偉いって思ったのにお前ってやつはーーーーーー!!」

 

アルザスの渾身のツッコミチョップ!ど安定もど安定の屑だったよ!!
何すんのよ、と不機嫌ににらみつける。自業自得なんだよなぁ。

 

「わたし、このおじいちゃんに助けられてから、全然記憶がないの。おじいちゃんもおばあちゃんも優しくしてくれるけど……記憶がないということは、とても寂しいものなの。楽しい思い出も、悲しい思い出も、何もない……だから、私は……記憶を、取り戻したいの……」

 

茶番が行われている隣で、女の子の胸の内の吐露。記憶がない、それがどれだけ辛いかを……カモメの翼には、理解できる者がいる。
同じく、記憶喪失になった者が、ここにはいる。だから。

 

「その気持ち、痛いほど分かりますから。何も分からず、どうしていいかも分からず……周りがどれだけ優しくしても、自分が何者かが思い出せない歯がゆさは、私がよく分かりますから。
 大丈夫。必ず、私たちがあなたの記憶を取り戻しますから。ですから、安心して待っていてください。」

 

ね?と、ユリンの手を取りながら、アスティは穏やかに笑ってみせた。
……村長は語る。彼女は記憶を取り戻すことを唯一の希望としている一方で、生命力の高さには感心している。
まるで、何者かに生かされているようだ、と。

 

 

次→(5/16 更新予定)