海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_17話『解放祭パランティア』(2/2)

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「…………」
「…………」

 

書物区では、2人の冒険者がにらみ合っていた。
ある品物を、同時に掴んだ。たった、それだけのあるある光景。バーゲンセールにおばちゃんが群がり、たまたま一つの服を二人同時に掴んでしまった、まさにそんな光景。それだけなのだが、2人は冒険者。負けられない戦いがそこにはあった。

 

「あんた、目が腐ってんじゃないの?明らか今あたしの方が先に掴んでたでしょ。」

 

片方は皆さんお馴染み、カモメの翼の苦労人になるつもりはなかったのに相方のせいで大体苦労人になってしまう悲しきサガを背負ってしまったレンジャー、ロゼ。

 

「はぁ?どー見たってあんたの方が後だったでしょーが、変な言いがかりはやめてくんない!?」

 

もう片方は紅の瞳に銀色の髪の、肌の色素が随分と薄い女の子。背はロゼよりかなり低く、何となく子供っぽさを感じる身姿だ。

 

「おいフロランス、その辺にしとけ。こんなところで喧嘩をおっぱじめたらいらねぇ騒ぎになるだろうが。」
「うっさいほっとけオッサン!こいつは、この飄々とした冷めたおっぱいは三枚に下ろさないと気が済まない!!」
「あら、随分とよく吠えるわ。それじゃああたしはなます切りにしてお返ししてあげるわ。さ、どっからでもかかってきなさい。」
「お前も喧嘩売らねぇでくれるかなぁ!?どっちが悪いとかじゃなくってなんで仲良くしようとできねぇかなぁ!?」

 

オッサン、と呼ばれた中年男性のガタイの大きい男性は、2人の間に割って入っていた。必死に二人を止め、この喧騒を丸く収めようと努めているが焼石に水。全く大人しくなる気配がないのである。
さて、ロゼがいるのならば屑女ことラドワもいるはずだ。勿論いる。少し離れたところで、紅茶を啜りながら、

 

「……あの本、プラスマイナスゼロといった価値だしうちでは有効活用できないから、どっちに転んでもいいのよねぇ。
 あ、終わったら言ってちょうだい。待っているから。」
「見てねぇでお前も止めるの手伝えーーー!!」

 

優雅なアフタヌーンティーと洒落こんでいる屑女に、屑とは知らず……いや、現時点で屑だと実感しながら叫ぶ。完全に他人事に構えている。完全に関わる気ゼロである。

 

「だって……殺しちゃだめでしょう?それ以前にそこの子は殺せないでしょうし、真っ赤な血を流してくれなさそうなのだもの。」
「殺すな!?お前フロランスの正体を多分見破ってるんだろうけどそれはそれとして人として疑いそうなんだけど!?なんだお前、悪魔かなんかか!?」
「残念ながら人間よ。ちょっと人の鮮血や苦しんでいる姿が大好きな一般魔術師よ。」
「絶対それは一般魔術師詐欺だぁーーーー!!」

 

魔術師がこんなやつばっかりだと世界が壊れる。一般魔術師に大変失礼である。
あらゆる方向にツッコミを入れ続けるが、事態は一切改善されない。龍と虎のごとくにらみ合う女2人をどうにかけん制させる程度の仕事はしている。しかし、観客がだんだん集まってきており、このまま停滞していても無駄にヤジが増えるだけだ。

 

「あんた気にいらないのよね……怒るでもなく脅すでもなく、淡々としたその様子が……なんか舐められてるみたいですっごいむかつくのよ!」
「あ。」
「……。……別に、あんたみたいに感情的になる方が盗賊業は務まんないでしょ?熱くなって周りの罠を見落として、仲間を残らず殺すのが関の山よ。」
「あ。」
「…………」

 

互いに 互いの 地雷を 踏んだ
銀色の髪の少女……フロランスの言葉を聞いて、ラドワが声を漏らして。ロゼの言葉を聞いて、中年男性の冒険者……ヴォルフが声を漏らした。
時はなんちゃって中世ヨーロッパ。世界は地雷の炎で包まれた。

 

「かくじつに おまえは ころす」
「やれるもんなら やってみなさい うけてたつわよ」

 

あっだめだ、終わった、あかんやつだ。
そう、オッサンが悟った刹那、なんということでしょう。どこからともなく奇声を上げながらこちらに向かって何やら走ってくる人がいるではありませんか。

 

「うぉあっぁぁああああああああああすいませんでしたぁぁあああああああああ!!」

 

駆けつけるなり、ロゼに一発ツッコミチョップをぶちかます。痛っ、と睨む矛先が変わったが、お構いなしにその男、アルザスは頭を下げる。綺麗な90度の一礼。

 

「うちの!!盗賊が!!ご迷惑をおかけしました!!本当にすまない申し訳ない!!
 ほらロゼ、お前も謝れ!なんかやらかしたんだろ!?」
「失礼ねリーダー、あたしは何もやらかしてないわよ。むしろあっちが勝手に喧嘩売ってきてんのよ、あたしはその喧嘩を買っただけで
「そういうところ!!お前そういうところ!!何でラドワのストッパーだと信じてたお前が騒ぎを起こしてるんだ!!どうするんだあいつ目を逸らしてたら人の1人2人は殺るかもしれないだろう!?」
「ちょっとアルザス君、それは流石に正当防衛でない限りしないわよ。堂々と犯行したらバレるでしょう?」

 

そこで堂々と宣言するのも如何なものだろうか。
そうヴォルフは胸の内でツッコミを入れたが、あまりにも目の前のエルフが頑張っているので暖かく見守ることにした。

 

「やれやれ、一人で突っ走るものですから置いてけぼりを食らいましたよ。」
「ゆっくり、きたけど、何のさわぎだったの?」
「……!フロランス、君も一体何をしてるんだ!」
「あっ、リーダー!聞いてよこいつがさぁ!!」

 

オトハ、ノウェム、アスティが遅れて登場する。どうやらフロランスはオトハの仲間だったらしく、オトハの事情徴収が始まった。ノウェムはその隣にちょこんと立っている。

 

「うわー、めっちゃ見知った顔の喧騒だったーーー。」
「まさか身内の失態であったとは。全く恥ずかしい話だ。」

 

そして最後に登場するはカペラ、ゲイル、アトリア、マイラの4人。ロゼとフロランスの喧騒をきっかけに、カモメの翼にウィンクルムが大集合してしまった。
時刻としては夕方。バザーも終わりが近づいているので、あまり問題がないといえば問題ないのだが。
大集合を果たした2組の冒険者は、互いに謝りこそしなかったが一応実は構えていた武器は仕舞った。やれやれとリーダーがほっとして、取り合いになった本を見つめる。
それを横からラドワが摘み上げ、

 

「まあぶっちゃけ、その本は内容が難しいから私たちが扱うには早すぎるし、売ってもそこそこの値にしかならないからあまり利益は出ないわよ。」
「えっ」
「えっ」

 

なんとも酷い現実を明かした。
どうして先に言わなかったんだ、とウィンクルムの皆さん。屑なんだすまない、と謝罪するカモメの皆さん。分かってて黙っていたのだから本当にたちが悪い。

 

「というわけで、私なら買わないのだけれどもどうする?」
「……なんか、凄い下らないことで争ってたってことに気が付いたわ。でも謝らない。何故ならあたしはこいつが気に入らないから。」
「ふんっ、あたしだって謝らないわよ。誰が、なんで、あんたなんかに謝んなきゃいけないのかしら!先に手を伸ばしてたのはあたしの方だったんだから!」
「うちの参謀が気が付いていたのに話さなかったことが全ての元凶だからどうか落ち着いてほしい。」

 

実際判明してすぐに話せばもっと丸く収まったはずなのに。そう思うけれど、屑女はえっ酷い私のせいにしないでよ、と不満そうな顔をする。どこからどう見ても8割くらいこの屑が悪い。
まだ険悪そうな空気をどうにか破ろうと、マイラがおずおずと声をあげた。

 

「そ、それにしても皆さんがそれぞれ知り合うなんてすごい縁ですね……」
「ほんとほんと、すっごい縁だよ!ねぇねぇ、せっかくなんだし交流会やろーよ!僕たちが拠点にしてる宿、海鳴亭はけっこー近いからさ!」
「ふむ、面白そうだな。ほかの冒険者の話を聞くというのも面白い。とはいえ、オトハがよければ、だがな。」

 

決定権はリーダーだからな、とウィンクルムの一行はオトハ達を見る。カモメの翼の一行は、アルザスを……別に見なかった。

 

「あぁ、そうだな。これも何かの縁だ。カモメの翼、せっかくだから君たちの宿で一緒に飲まないか?そっちがよければになるけれども。」
「いーよなリーダー!おっしゃー今日は飲むぜ!」
「やったーーー皆のお話聞きたい!やろーやろー!」
「君たちリーダーの決定は!?」

 

アルザスがやろう、と言うより先に皆が喜んでいる。なんかやることが決定している。
こういうやつだから、と苦笑を漏らすアルザス。とはいえ、誘いに乗るつもりだったしそれを仲間も知ってのことだろうから、特に咎めないそうだ。
一種の信頼の形だ。決してリーダーに威厳がないからではない。断じて。そう、断じて。

 

「……苦労人だな、君は。」
「ははは、もう慣れた。」

 

オトハは語る。
そのときのアルザスの表情は、全てをあきらめた顔だったと。

 

  ・
  ・

 

バザーが終わり、それぞれが戦利品の一部を物々交換し。海鳴亭に戻った頃には、すっかり星空に変わり街は夜闇に包まれていた。
戻るとすぐに娘さんが髪飾りのお土産を確認。無事に気に入ってくれ、他の冒険者がツケ代わりに置いて行ったという技能書を2冊譲ってくれたので、それを受け取る。ここでやたら人数が多いことに気が付き、事情を伝えると快く打ち上げ会の準備を引き受けてくれた。
それを聞いた同じ宿を拠点とする者は、カモメの翼やウィンクルムに便乗し、気が付けば全体を巻き込んでの宴会へと発展していった。この宿、皆がどこかしらゆるい疑惑がある。
知っている人知らない人は関係ない。飲み食いできれば彼らはそれでいいのだ。

 

「随分とこう、自由な宿だな、ここは……」
「それが海鳴亭、だからな。誘ってくれたのはロゼだが、この自由さが俺たちには合っているんだ。」

 

緊張感のなさではトップレベルを誇るからな、とオトハの言葉に笑うアルザス。それでいいのか、と言いそうになったが胸の内にしまった。
大人数の料理が必要になったため、アルザスが亭主の手伝いをする。落ち着いてきたので残りを亭主に任せ、アルザスはアスティと並んで席についた。テーブル席3つを借りて、バザーでそれぞれが出会った同じ分かれ方で席についている。

 

「俺からすれば、お前たちは随分しっかりとした冒険者だと感じる。あぁ、だからといって硬すぎず、冒険者らしくやっていると思うのが俺の見解だな。」
「そうだな、ちょっと事情が特殊な者が多いから……どうしても、君たちのようにはいかない。どこまでも自由で楽しそうに冒険者をする君たちが、ちょっと眩しく見えるよ。」
「俺からすれば、仲間はお前たちのところのようにもう少し落ち着いてほしいから羨ましさがあるぞ。」

 

とはいえ、互いに今のパーティが一番だと思うので、眩しい羨ましいと思ってもこのままを願う。明るく楽観的なウィンクルムも堅苦しく真面目なカモメの翼も、きっと似つかわしくないだろう。

 

「……そういえば。アルザスと、アスティは、おつきあいは、ながい?」
「ンッッッッッ」

 

ノウェムの質問に、アルザスとオトハが噴き出す。アスティは全くダメージを受けず、恥ずかしがることもなく笑って答える。

 

「いいえ、ついこの間やっと両想いになったところです。互いに互いが好きだった期間になりますともっと長いと思います。両片想いっていうそうですが、どう考えても両想いに違いありませんでしたし
「ストップ!!ストップアスティやめて!!やめて分かってる俺がヘタレだったことは分かってるだからもっとお手柔らかく!!頼む!!頼むから!!」

 

あれぇどっちが男性でどっちが女性だったっけ。
大変楽しそうに話すアスティに、赤面して恥ずかしそうにするアルザス。それをふむふむと至極真面目に聞いているノウェムに、オトハも待ったをかける。

 

「の、ノウェム、君はどうして、そ、そんな
「気になった、から。アスティのはなし。」
「ふふ、いくらでもお話しますよ。それに……私も、オトハやノウェムのお話を聞きたいです。境遇が似ていますから、他人事とは思えなくて。」

 

海竜に街を滅ぼされたシーエルフに、竜の因子を持つ東方の人間。
記憶なき拾われた少女に、同じく記憶なき買われた少女。
特にアスティとノウェムの境遇はかなり似ていると言えるだろう。大切な人に拾ってもらい幸せに冒険者としてやっている、という点まで含めて。

 

「……わたしは、オトハをたすけたい。オトハは、わたしをまもってくれるから。わたしを連れ出してくれて、わたしを助けてくれたから。だから、わたしも……オトハを、たすけたい。
 アスティは、そういうのに慣れてるきがしたから。だから、お話をききたい。」
「……ノウェム。」

 

オトハが思わずノウェムの名を呼ぶ。冒険者としての実力は、オトハやノウェムの方が現時点では上である。
しかし、感情面ではアルザスやアスティの方が先輩と言えるだろう。両想いと両片想いだ。いや両想いになってからまだまだ間もないんだけども。

 

「ふふ、本当に……似ていますね、私たち。私も、アルザスに助けられて、アルザスを繋ぎとめることを願いますから。
 自分も大切に想われている。それを忘れなければ、大丈夫。自分という存在は、私はアルザスを、ノウェムはオトハを繋ぎとめていると分かっていれば大丈夫です。」

 

穏やかに、優しく笑う。
自己犠牲という行為を癒し手は嫌う。その行為は残された者を悲しませる行為であり、一種の裏切り行動だと。『二人が生き残るため』であれば目を瞑るのだが、『片方が犠牲になってもう片方を生かす』という行動を、アスティは許さない。
二人一緒でなければ意味がない。そう考えるから。

 

「いるんですよねーーー、そんな思いを無視して自己犠牲して愛する人を守れたらいいやーって考える愚か者が。ねぇーーー、どこの誰のことでしょーーーねーーー、何度も私言ってるんですけどねーーー、無茶しようとしますよねーーーどこぞのシーチキンエルフはーーー」
「にこやかに俺の方を見て言わないでくれ!?そろそろ水に流してくれないか!?もうあの森の出来事から随分と経つだろ!?」
「精霊窟も割と無茶しようとしたの私忘れませんからね?ストップかけなければ倒れるまで、下手すればそれこそ蒸発するまで戦っていたでしょうが。」

 

それを言われると反論できない。よっぽど相方は心配をかけているんだなとオトハは考えていると、隣でノウェムがじっと見つめていた。
彼と似ている、ということは。オトハも同じようなことを考えているのではないか。そんなノウェムの胸の内を汲み取って、彼は真っすぐ少女の、自分の相方の紅の瞳を見て強く言った。

 

「俺は君を守るけど、独りにしたりしない。絶対に二人で生きて帰る。守り抜くけれど、俺一人が犠牲になって君を助けるなんてやり方はしない。約束するよ、ノウェム。」
「……うん。わたしも。絶対に、なにがあってもオトハといっしょにいるから。どちらかが欠ける、なんてことにならないように。わたしも、オトハを助ける、から。」

 

ふ、と笑って少女は答える。東洋の剣士は、その笑みに頷いて答えた。
まあ、そんなやり取りができたてほやほやカップルの目の前で絶賛行われているわけで。

 

「式には呼んでくださいね。」
「まっっってそんな関係じゃないから俺たち!!」

 

親指を立てて、いいぞもっとやれと言わんばかりの笑顔を癒し手は見せた。それはもういい笑顔だった。
そう、この癒し手。恋バナが大好きなのであった。

 


「マイラも歌をかじってたんだ、そしたら吟遊詩人見習いの僕と似てるね!」
「わ、私はまだそんな、大した歌は歌えませんよ。カペラさんは歌で仲間のサポートをしているんですよね。」
「んー、正確には歌というより声なんだよね。僕が頑張れーって言えば皆頑張ってくれるし、元気になぁれと言ったら傷が治るの。えっへん、凄いでしょー。」
「ふむ、呪いの力とは聞いたが……お前の力は言霊のようだな。言葉の力で仲間を鼓舞し、力を引き出す。リーダーのような力だな。」

 

頂点に立ち、人に命令し支配する。この呪いは人に支配欲を与えるのだが、カペラに関してはあまりその作用が見受けられない。時々黒い内面が見えるが、それだけだ。
僕はガラじゃないよー、と照れた様子を見せたが、ジュースの入ったグラスの氷をカランカランと鳴らして語り始める。

 

「僕ね、本当はもっともっと好き勝手やるつもりだったんだよね。それこそ誰かの言いなりなんてごめんだー、いつかおっきくなったら見返してやるー、小さいからってバカにすんなーって。でもねー、ゲンゲンのお陰でそんな考えふっとんだんだよね。だから今は、リーダーとかてっぺんとか、そんなのはどうだっていいんだ。」
「えっ待てよんな話あたい聞いたことねぇぞ?」

 

何したっけ?と首を傾げる。一生知らなくていいよ、とけらけらと笑った。

 

「アトリアさんはなんだか随分と逞しそうだし身を亡ぼすー、なんてことはなさそうだけど。マイラはいつかいい答えが見つかるといいね。あるいは、変わる気がなくてもいつの間にか変わってたり、ね。」

 

どっちに転んでも、僕は君が満足だったらそれでいいと思うよーと目の前の料理に手を付ける。パスタを2人前、あげじゃがを3人前、鳥のソテーを2人前食べてから、更に全員へと振舞われたイカリングをつまんでいる。
ゲイルには彼の言っていることの意図が理解できず首を傾げているが、アトリアとマイラは理解した。ちらり、アトリアがマイラを見ると、彼はどこか思いつめた表情になっていた。だというのにカペラの表情はいつもの無邪気で幸せそうな顔だ。

 

「ま、あれだよ。僕としてはマイラと一緒にお歌歌って、アトリアさんとアスアスに演奏してもらって大合奏とかやってみたいなって話。凄く楽しそうじゃん?」
「なるほど、それは面白そうだな。楽器が触れなくなって一度は離れたが……冒険者としての、ただの楽しみだけの演奏か。くく、私は構わないぞ?」
「えぇーーーなんか話がすっごい飛躍したんですけどーーー。そしてアトリアさんがめちゃくちゃ乗り気なんですけどーーー。」
「えっ、あたいすっげぇ疎外感なんだけど。なんだなんだ、こりゃああたいも便乗して楽器を演奏すっしかねぇか?」
「何?戦闘音?斧で相手の脳天かちわる音?」
「それ楽器じゃないですしめちゃくちゃ物騒ですよね!?」

 

どっと笑うカペラとゲイル。笑ってる場合とちゃうぞ。
カモメの翼内だからこそこの過激会話は普通に扱われるけれど、外部に持ち出した瞬間やばいやつ認定待ったなしだということを忘れてはならない。

 

「お前たちは本当に楽しそうだな。過去のしがらみもなければ、今を楽しく生きているように見える。私はそういうやつ、嫌いではないぞ。」
「そりゃあだって、暗い過去なんてないもんねぇ?」
「だなー、なんか生まれつき海竜の呪いがあったやつと気が付いたら呪われてたやつだもんな。」
「なんて楽観的なんですか。」

 

自由奔放の代名詞だもん仕方ないね。
ただ、マイラとしてはだからこそカペラが何故考えを改めるようになったのか。何があったのか、聞いてみたくなった。

 

「カペラさんは、どうして上に立つ意識がなくなったんですか?」
「あっそれあたいも聞きてぇ。」
「えぇー、この話僕の黒歴史だからあんまりお話したくないんだけどなぁ……まいっか、吟遊詩人見習いとして、そのときのことお話しちゃうよ。」

 

アトリアも興味があるようで、話を聞こうと真っすぐ見る。恥ずかしいんだけどなぁとぼやきつつも、ある意味彼を更生させることになったお話を、歌い手は語り始めるのだった。

 


「感情的になれない理由があったのね、あんた……感情がないなんて言ったことは謝るわ、あの言葉はごめん。」
「あたしも、本当に仲間が全員死んで一人生き残ったなんて過去があったなんて知らなかったわ。ごめんなさい、軽率だった。」
「でも!!」
「取り合いになったことは謝らないわ。」
「お前らいい加減仲良く飯食ってくんねぇかなーーー。」

 

多少険悪さはマシにはなったものの、互いに変な意地を張り合うことには変わりはなかった。
お陰でヴォルグの胃はマッハで今にも吐き戻しそうだった。それを、屑女は

 

「大変ねあなた。」
「仲裁に手を貸してくれてもいいんだけどな?」
「え、嫌よ、何で私がそんな面倒なことしなくてはいけないわけ?」

 

心にもない同情の言葉を投げるだけ投げて、ただ静かに見守るという屑行動を取っていた。これはヴォルフさん怒っていい、怒っていいのよヴォルフさん。

 

「この女本当に屑だな……」
「よく言われるのよね、どうしてかしら?ちょっと人を楽しく殺したり、ちょっと面倒なことを避けていたり、ちょっと自分に正直に生きているだけだというのに。」
「だから屑だって言われるんだろ、認めろ自覚しろ悔い改めろ。」

 

えー、と心底嫌そうな顔をする。馬に説法とはまさにこのことか。

 

「しょうがないでしょう?同族嫌悪みたいなものじゃない。取り合いになっていなかったとしても、あれはソリが合わなかったと思うわ。あとは無い物ねだりかしらね。
 ロゼは感情的になれるフロランスが羨ましくて、フロランスは感情的にならず冷静に仕事をこなしていくロゼが気に入らない。どうしようもないわね。」

 

だからといって匙を投げるのはどうなのか。そもそもこいつ人のために何かするということはなさそうだな、と察するのが少々遅かった。

 

「にしてもお前は随分とロゼのことを見てるんだな。ほかの冒険者なんざどーだっていい、ってタイプだど思ってたんだけどよ。」
「あぁ、合ってるわよ。ロゼは面白いから見てて飽きないし、それに私に構うもの好きだもの。初めて興味深いって思った人間だったのよね。だから気が付いたら殆ど一緒に居るようになってたのよね。」

 

ふぅん、と相槌を打ってからエールを口に運ぶ。それから数秒ほど思考を巡らし、ヴォルフはラドワに尋ねた。

 

「お前にとって、ロゼってなんなんだ?」
「そうねぇ……戦友、かしら。あまり私の中でもどう表現すれば正しいのかが分からないのよ。
 あなたはフロランスとは親しい関係なのかしら?」
「俺とフロランスはただの仲間だぜ。ただ、ちょっとばっかし事情を知ってるっつったらいいのかな。ま、特別な関係ってわけじゃねぇさ。」
「なんだ、つまらない。」

 

つまらない。吐き捨ておった。
人としてどうなんだ。こいつ本当に屑だな。人の心がないな。出会ってまだ1日も経っていないのにヴォルフの中ではラドワはばっちりしっかり屑認定となってしまった。

 

「ちょっと横で聞いてたんだけど、オッサンとあたしに変な関係性見出そうとすんのやめてくんない?誰がこんなオッサンに好意を寄せなきゃなんないのよ。」
「ってことはすでに好意を寄せた相手がいると。」
「…………」
「えっ」

 

ロゼの、割と適当に言った言葉。まさか当たってしまうとは思っておらず、ただでさえ作り物の表情だというのにそれすらなくなり真顔になってしまった。
うわぁどうしよう。気まずい空気にしてしまった。流石に険悪な相手とはいえ、この手の話題は面倒ごとになりやすい。上手く空気を変えて気まずい空気なんてなかったことに

 

「えっ、好きな人要るのなぁーんだそれはそれで面白いことになりそうじゃない誰?あなたのチームの人?あなたのチームの人だと面白いことになりそうだし教えてほしいのだけれども誰かしらねぇねぇ。」

 

屑ーーーーーー!!
これ恋愛話に興味があるというより予想外の抉られ方をして困っている姿を見るのが楽しいってタイプのタチの悪いやつだーーーーー!!

 

「だぁれが教えるか!!言わないから、絶対に言わないから!!あんたらなんかに教えてたまるか!!この想いは墓まで持って行
「おいおいどうしたんだ、また喧嘩か?」
「喧嘩と聞いた、いいぞもっとやれ!」
「だぁーーー外野は黙ってなさいよ!!あーもーあたしに構うなーーー!!いーからほっときなさいよーーー!!」

 

カモメの翼とウィンクルムの交流会。再びフロランスを中心に、わいわいと人だかりができていった。
結局深夜まで盛り上がり、ウィンクルムは一晩海鳴亭で過ごして朝食を共にし、また朝に酷いやりとりが行われ、宿の親父は後にこう語るようになった。

 

混ぜるな危険、と。

 

 


☆あとがき
虚空を這いずる狂信者さん(@f_in_vanity)とこのウィンクルムとの交流会のお話でした!わんころさんはウィンクルムはフロランスちゃん推しです。めっちゃ健気頑張り屋で切ないんだよフロランスちゃん、私が書いたらなんか凄いけんかっ早いつっかかり癖のある子みたいになっちゃったけど!!本家ではずっともっと健気ないい子なんですよ!!
それからアルアスとオトハさんノウェムちゃんの共通点が多くて、2組の絡みに重点を置かせてもらいました。詳しくは言えないんですが、狂信者さんが思っている以上にアスティちゃんとノウェムちゃんは似ているぞ、とだけ言っておきますね!!
素敵なお子さんたちとのクロスオーバーを許可してくださった狂信者さん、ありがとうございましたー!!私が書くとノリが軽くなるので、ヴォルフさんがすっごいツッコミ魔になっちゃったりアトリアさんがめちゃくちゃ横暴になったりしたけど許せ!!


☆その他
所持金15691sp→25386sp→8886sp

覚えている限り書くと、
・高潔の光→売却
・刹那の閃き→売却
・逆さ十字→悪意のナイフ→売却
・白銀の麗刀→売却
・金鉱石2つ→売却
・ミカエル→アスティへ
・ミューズの涙→ラドワへ
・名前忘れたけどあの竪琴→物々交換にて売却

魔剣工房にて獲得したバロの眼鏡、バロの右手、魔崑石は本リプレイでは使わないので売却。早足の靴はロゼに。
あと売却忘れていたものをちらほら売却。


技能
アルザス→風の双剣、有翼の剣(『アークライト傭兵団』より)
アスティ→命の雫(『水と共に』より)、嵐と紫の記憶、翔と透の記憶(『彼方に霞む記憶』より。翔と透の記憶はキーコード『飛行』を利用するシナリオにて差し替え利用を行います。ここで癒身の法(『交易都市リューン』より)を売却)
ロゼ→縫い止め(『追憶の書庫』より)、茨針(『武闘都市エラン』より)
カペラ→spiritoso、passionato、amoroso(『歌え、君だけの歌を』より)
ラドワ→氷の咆哮、狂想の雷(『四色の魔法陣』より)
ゲイル→雷光の一閃、鎧砕き(『斧と槍斧』より)

 

☆出展

Djinn様、Y2つ様作 『解放祭パランティア』より