海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_17話『解放祭パランティア』(1/2)

※うちよそ交流会です

※大変明るいお話

 

 

忘れ水の都でリア充爆誕を見届け、カモメの翼が鳴海亭に帰ってきた2日後のことだった。
そろそろ真面目に依頼をこなすか、と依頼の束をぺらぺら捲っていると、明らかに依頼の紙ではないものが混じっていた。それが目に留まったアルザスは、これなんだろうとまじまじと手に取って見ている。

 

「何だお前たち、その張り紙に興味があるのか?」
「親父、これはなんだ?」

 

ぱらり、広げて亭主に尋ねる。あぁそんなところに混じっていたのか、と皿を拭きながら説明をする。

 

「これは年に一回開かれる大バザーの広告だな。かなり大きな催し物で、色んな国から掘り出し物が集まる一種の祭りみたいなもんだ。それにしても、凄いタイミングで帰ってきたなお前たち。これの開催は今日だぞ。」
「えっ!?」

 

掘り出し物が集まるお祭りと聞いて、黙っていられるカモメの翼ではなかった。基本的にお祭り騒ぎは好きだし、皆でどこかへ出かけて羽を伸ば……してばっかりだな最近。なんなら忘れ水の都へ向かったのだって、元々はアルザスとアスティをくっつけるためだったわけで。
まだ開催までに時間はあり、今から行っても余裕はあるらしい。仲間に意見を聞こうとしたアルザスだったが、既に皆行く気満々だった。

 

「面白そうですね、行きましょう!」
「いい小遣い稼ぎができるかもしんないわね。いいわ、あたしもついてく。」
「私も、何か興味深いものが見つかるかもしれないから行くわ。」
「わーいわーい皆でお買い物!もちろんいくいくー!」
「あぁ、もしかしたらとんでもねぇお宝に出会えるかもしんねぇし、あたいも行くぜ!」

 

既にここがお祭り状態である。催し物大好き人間達に苦笑をしながら、アルザスは亭主に場所や詳細を聞く。すると宿で働いている亭主の娘も寄ってきて、アルザスに話しかけた。

 

「ねえ、バザーに行くの?だったらちょっと頼まれてくれない?
 新しい髪飾りが欲しいのよ。ね、お願い!すっごい感謝するから買ってきて?」
「え、あ、その、」
「じゃ、頼んだからね。おみやげ楽しみにしてるわ、いってらっしゃい!」
「ご、強引だーーー!!」

 

びっくりするくらい 強引である
親父さんもこれには苦笑。相変わらずだなぁと言いながら、覚えてたらでいいぞとアルザスに伝える。尻に敷かれる男として、また磨きがかかってしまったような気がする。
別に買ってくるのは構わないんだが、アルザスとしては複雑なものがあった。

 

「……なぁ、アスティ。娘さんに髪飾りを買ってプレゼントしてもいいか?」

この辺り、ちゃんと気が回る男であった。仲間もあーーー、という顔をした。アスティははじめは分からなかったが、あぁと納得して微笑む。

「構いませんよ。そういう意味ではないと分かっていますから。もしアルザスが気にするのであれば、あなたが選んで私が娘さんに手渡す、ということにしてもいいと思いますよ。」
「あぁ、それなら何も問題ないか。うん、それがいい。頼んでもいいか?」
「任せてください。あ、でも物色は一緒にお願いしますよ?あくまで娘さんに渡す役を買って出るだけですから。」

どうみたって両想いだったが、正式に両想いになったことには違いない。男性から意中でなくても別の女性にプレゼントをするのはいかがなものか、とアルザスの中で待ったがかかった。
事情を知っていれば妥協案も持ち出せたので、そのあたりは丸く収まった。多分アスティなら知らなくてもさほど気にしないような気もしたが。

「やー、ちゃんとアルザスってその辺気が回んのねぇ。なんか意外だわ。」
「いやいや、むしろアルアルはその辺硬いっしょ。だって硬派で真面目で初心だよ?気にしないわけがないじゃん。」
「お前らー、俺を何だと思ってるんだーーー。」

相変わらずの緊張感のなさである。いや、これには緊張感はいらないか、いらないな。
仕事でいけない娘さんも大変だなぁと思いつつ、いつもお世話になっているお礼ということで一つ買ってこよう。それじゃあ行ってきます、と木漏れ日通りのバザー会場へと向かった。

  ・
  ・

会場に着くと、既にかなりの数の人で賑わっていた。大きい広場が開演前の待合い場として使われているが、それを埋め尽くすほどの大勢の人が今か今かと開演を待っている。
実はカモメたち、こういった人が集うイベントに総じて不慣れである。北海地方は村や集落が多く、都会だと言える場所は少数だった。都会育ちと言えるアルザスとラドワだが、アルザスは幼い頃から騎士になるため修練鍛錬そして見事騎士団入りのため祭りごとには参加したことがない。ラドワも興味を持たなかったようで、やはり参加したことがないのだった。

「凄い……人が、こんなにたくさん……」
「ここで間違いないみたいだけど……どこへ行ったら何があるのか、全く分かんないわね。」

どうしたものか、と悩んでいるとどうした?と声をかけられる。それなりに顔が整っている、黒髪の男性にカモメたちは声をかけられた。どこに行ったらわかんねぇって顔してるなと言われ、図星ですと苦笑を漏らす。初めてのことだからね。
すると男は得意げに笑い、胸をとんと叩く。

「あんたら運が良いぜぇ。この会場で一番の情報通のこの俺様に出会えたんだからな。」
「うーわ胡散臭い。」
「待て口に出てる。」

アルザスが小さく肘で黙らせる。慈悲があるのでそこまで痛くはない一撃が鳩尾に入った。非難の視線を向けられたが、正直情報が欲しい。

「へへ、まあ初心者のあんたらに基本を教えてやるからありがたく聞けよ。おっと、これは基本料金だから金はいらないぜ。」

つまり基本じゃないことは金をとるのか、逞しいなこの男と考えながら話を聞く。
バザー会場はとてつもなく広く、全部を一人で見て回ることはとてもできない。その地区のアイテムを全て見ようと思えばかなり時間がかかってしまう。
売り場は武具区、道具区、書物区。最初から参加しない者、途中で帰る者、売り子にも事情は様々。時間によって売り物が変わることも、バザーの面白いところだ。そしてお宝中のお宝もあれば、大変がっかりアイテムもあるのでそこはロゼがいい感じに仕事してくれることだろう。
また、時間によっては安売りを行う区画があるそうだ。そのタイミングで買い物ができればいい儲けができることだろう。

「ねぇアルザス。提案なんだけど、2人3組に分かれて買い物しない?あたしたち、こういうイベントには慣れてないから人よりも時間がかかると思うのよね。ってことで、どうかしら?」
「本音は?」
「いい感じに金儲けできそうだから自由に動きたい。あとあんたらが絶対リア充するでしょ。」

なんて理由だ。
気遣い2割、自分の腕の見せ場として張り切ってる8割、だろうか。実際目利きはロゼとラドワ以外できないため、この提案は乗ってもいいのかもしれない。

「まあ、せっかくだしそしたら2人3組に分かれるか。分かれ方はいつものメンバーでいいな?」
「えぇ、勿論。ラドワにも働いてもらうつもりだから助かるわ。」
「こき使う前提って酷くないかしら?」

と、軽口を叩くラドワだがどこか嬉しそうにしている。なんだかんだで仲がいいことを、アルザスたちは知っている。ラドワとしても、端からロゼと行動を共にするつもりだったのだろう。
ゲイルとカペラも賛成、と乗り気だ。解散するということでチーム財産を3つに分け、ロゼたちには一つ働いてもらうということで多めに手渡す。

「じゃ、いい報告待ってなさい。いい感じに稼いでみせるわ。」
「全く、人遣いが荒いんだから。ってことで、朗報を待っててちょうだい。脅してでも稼いでみせるから。」
「頼むから騒ぎは起こさないように。特に人殺しは絶対ダメだからな。」

バザーに来て人殺し禁止、なんて注意をする冒険者がどこにいるだろうか。ここにいたわ。
颯爽と去っていくロゼとラドワの背を見送り、次はカペラとゲイルもバザーを見に行こうとする。

「じゃ、僕たちも見てくるよ。何か楽器が置いてあるといーなー!」
「あたいは武器が見てぇな。なんか掘り出しもんあっかなー。」
「無駄遣い厳禁な。カペラ、よーーーく見ててくれよ。」
「えっ、あたいが面倒見る側じゃなくて!?」

カペラとゲイルのブレーキ役はカペラである。まっかせといて、と親指を立てて意気揚々と武具区へと向かっていく。多分変な買い物はしない、と、信じたい。

「それでは、私たちも行きましょうか。ふふ、早くも2回目のデートですね。」
「!? や、これはで、でー、で……っ……なの、か!?」

2人でお買い物、なので間違っていない気がする。
アルザスの手を握り、行きましょうと手を引っ張る。アスティの一言で完全に意識してしまっているので、もうすでに糖分高めな気がする。顔を真っ赤にしたシーチキンエルフは、そのまま癒し手に手を引かれて道具区へと歩いていった。

  ・
  ・

道具区は現在セール中だそうで、全ての品が半額で買えるそうだ。
ついてるな、と、思う余裕なんざシーチキンエルフにはなかった。一目に付くこの状況で、手を繋いで、二人仲良く物色しているのだ。それも、二人とも顔がいい。皆買い物が目的な上どう見てもそういう関係ということもあるので、口説かれることこそないがそれでも視界には入れられる。

「……あ、アスティ、せめて、手は離さないか……?」
「え、どうしてですか?もしかして、こうしているの嫌でした?」
「い、いや、そういうわけじゃ、ないんだが……」

対してアスティは、周りの視線など一切気にしない。せっかく2人で平和な一日を過ごせるのだから、という心とはぐれそうだと思って不安だから、の2つの理由から手を繋いだ。多分アルザスは意識しすぎて前者しか頭にない。残念だなぁ。

「……私、こういう催し物、初めてなので。あぁ、もしかしたら覚えていないだけで過去にはあったのかもしれませんが、なんというか、凄く新鮮なんですよ。だからちょっと浮かれています。」

ぎゅっと、手に力を籠める。……そんなことを言われてしまえば、アルザスとしても手を放そうなんて言えないわけで。それはもうリア充になるしかないわけで。恥ずかしそうにしながら、代わりにアルザスも手の力を強めた。
それに、アスティは心から嬉しそうな顔をする。おいお前ら。お前ら、ここに何しに来たんだ。買い物していけよ。

「素人目になってしまうので、何がいいものか分かりませんが……あっ、この竪琴、業物ですよ!使い込まれているというのに全く弦が緩んでいません!このオカリナと同じか、それ以上に特殊なものか……そこまでは分かりませんが、このお値段以上の価値は約束します。」

見つけた竪琴を手に取り、試しに音を鳴らしてみる。澄んだ美しい音色が響くが、アルザスにはいまいちそれがいい音色なのかそうでないのかが分からない。困ったことに、分からない。楽器に詳しくないのでさっぱりであった。

「な、なるほど?……お前、本当に楽器に詳しいな。記憶を失う前、何か演奏していたのかもしれないな。」
「かも、しれないですね。うーん……演奏していた、うーん?」

首を傾げている。演奏していた、ということに違和感を覚えたのだろうか。暫く悩んでいたが、やっぱり思い出せないと言いかけたところで、

「―― !?」


ばっと、アスティがある一点を見つめ始めた。
視線の先に居たのは、2人の冒険者。銀色の長い髪を後ろで束ね和服を着た東洋風の男性と、金色の髪を持った小柄な少女が商品を物色をしていた。……それ以上に不審な点はなく、特に何も変わったものは感じ取れなかった。

「どうした、アスティ?」
「いえ、何でしょう。なんだかこう、ざわつくといいますか……いえ、悪いものではないのですが。」

冒険者の悪い予感、というものはよく当たる。が、今回はざわつくだけで、その予感というものは感じないらしい。だからこそ不思議そうに見つめていたが、その正体はアスティには分からなかった。


「……?ん、俺たちに何か用ですか?」


どうやら凝視してしまったことに気づかれてしまったようで。何でもない、と言おうとしてあちらの少女がぽつり、呟く。


「……なんだろ、あのひと……なんだか、ふしぎなかんじ。」
「えっ、私が、ですか?えぇ、でも私はそちらの男性の方の方が何やら不思議な気配がしますが……いや、その女性の方も、ですが……」
「俺?いや、俺はただの冒険者なんだが……あ、確かにそっちの人からは何か不思議な気配がするというか……」
「…………」

うーん、と3人が不思議そうに首を傾げている。何かを探り合っているようにも見えるこの光景。
完全に アルザスだけ おいてけぼりである
シーエルフ なのに 完全に 蚊帳の外なのである
あれ おかしいな 俺 人間だっけ

「あ、あのー……」
「っと、すまない!その、随分と君たちがこちらを見ていたから気になったんです。俺はウィンクルムというチームのリーダー、オトハ。」
「わたしは、ノウェム。傷ついた仲間を、たすけるの、得意だよ。」

気まずそうにしていたアルザスの言葉に謝罪するオトハ。どうやら人がいいらしく、自己紹介をしてくれた。これも何かの縁だろう、そう思ってこちらも自己紹介を行う。

「俺はアルザス。カモメの翼というチームのリーダーをしている。あぁ、気楽に接してくれていい。まだまだ俺たちは冒険者を初めてそこまで日が経っていないからな。」
「私はアスティといいます。カモメの翼では癒し手を務めています。よろしくお願いしますね。」
アルザスにアスティだな。分かった、気楽でいいとのことだったらそうさせてもらう。それに、俺たちもまだそこまで長いわけじゃないからな。」


冒険者の実力としては、向こうの方が少々上だろうか。カモメの翼はまだ中堅と言い難いが、あちらはそのレベルには達していそうだ。とはいえ、ロゼやラドワなんかは数年前から冒険者をやっているので一概には言えないが。

「それにしても、リーダーに癒し手か。同じ立場同士の者がこうして出会うとはな。しかも、東の国出身はうちには居ないからなんだか新鮮だ。」
「俺も、凄い偶然だって思った。俺のところにはシーエルフが居ないから、君のことが凄く新鮮に思う。ただ、エルフは閉鎖的な種族だって聞いた。君はどうして冒険者に?」
「俺の住んでいた場所のシーエルフは、随分と開放的で人間と共に暮らしていたからな。お前の考えているエルフの暮らしとはかけ離れていると思ってくれ。
 で、冒険者になった理由はアスティの記憶を取り戻すため。それから、海竜の呪いを解く方法を調べるためだ。」
「……海竜の、呪い?」

向こうからすれば、聞きなれない単語だったのだろう。アルザス達は簡単に海竜が現れた出来事や、呪いについての詳細を話した。
街が滅んだこと。一人生き残ったこと。多くの犠牲者が出たこと。楽しい話ではないため、あちらの顔を少々曇る。背景を見れば、間違いなくアルザスの過去は『重い』。けれど、とアルザスは微笑む。

「今は、新しい仲間と楽しくやっている。それにこうして、いつまでも傍に居てくれる人がいる。だから今は前を向けているんだ。」
「って言いながら、思いっきり自己犠牲をやってのけたり突然うじうじ悩んだりと、なかなか困った人なんですよね。」

くすりと笑うアスティに、何も反論できないアルザス。過去を克服できたわけではないが、冒険者としての生活に後悔しておらず毎日を楽しく過ごしている、ということには間違いないのだろう。オトハ達は、そう察した。

「それで、オトハ達はどうして冒険者に?」
「俺か?俺は……家出、といったらいいのかな。飛び出して、宛もなく旅をしていたらリューンに流れついて。右も左も分からなかった俺に、ヴォルフという仲間の一人に破軍の剣星亭を紹介してもらったのが始まりだったんだ。」
「わたしは……売られてた。奴隷として売られて、そしたら、オトハがわたしを買ってくれた。ノウェムってなまえも、オトハがくれた。
 それより前のことは、覚えてない。だから、わたしも、アスティとおなじ。きおくが、ないの。」

ノウェムは、アスティと同じだと言った。
何かとこの2人には共通点が多かった。記憶がないこともそうだが、他にも。

「本当です、同じですね。癒し手で、記憶がなくて。見つけてもらえて、名前をもらって、そんな人に傍に居てもらえる。幸せ者ですね、私たち。」

そう言って、アスティは何となく嬉しそうに笑った。
過去のことは分からないが、少なくとも今こうして大好きな者と共に居られるということほど嬉しいことはない。その言葉にノウェムも同意して、うんと嬉しそうに頷いた。
……ただ一つだけ、アスティは勘違いしていた。

「ところでぜひとも参考に聞きたいのですが、やはりそういった関係での冒険者は特別なものですか?」
「え、そういう関係って?……いや、奴隷とその主人という主従関係は俺たちにはないが……」
「いえそうではなく。同じということは、お二人も恋仲ではないのですか?」
「ちょっとまてアスティ。」

え?ときょとんとしている。大してオトハとノウェムは思いっきり噴出した。もちろんアスティは静止させられた理由は分かっていない。
が、このリアクションからあぁ、と推測できたものはあったので。

「あぁ、なるほどそういう関係でしたか。それはそれは大変失礼しました、どうやら私は未来のお話をしてしまったようですね。」
「え、いや、待って、まってあの俺たちは別にそういう関係じゃなくって」
「すみません、どうやら私たちの方が先輩だったようです。とんだ早とちりをしてしまいお恥ずかしい限りです。」
「あ、あの、わたしたち、そういうのじゃ」
「しかしその未来はきっと遠くはないですよね?というわけで、是非ともその暁には私にも詳しいお話をぜひお願いしたく
「お前は頼むから落ち着けぇ!!」

ロゼやラドワならツッコミチョップが入った。しかし相手はアスティ、このシーチキンエルフがそんなことできるはずがない。
恐らく相手は両片思い、というやつなのだろう。そう推測をして大変楽しそうにお話をするアスティだったが、絶賛3人がいたたまれなくなって(内1人は羞恥心より困惑している気持ちの方が強そうだが)静止の声を投げかける。もちろん一番顔が赤いのはシーチキンエルフ。

「すまない。うちの連れが本当にすまない。」
「い、いや……え、俺たち、そんな風にみられている……の、か?」
「いや本当にすまない。そんなに深刻に受け止めないでくれ。本当にすまない。」

必死に謝罪。あながち間違ってないと思うし、そこまで気にすることもないと思うんだけどな。
と、ここで一つ頼まれごとをしていたことを思い出す。髪飾りを娘さんに買って帰る、という約束をすっかり忘れるところであった。思い出してバザーの買い物に戻る。

「じゃあ、俺たちはまだ買うものがあるからな。また会うことがあったらそのときは酒の一杯でも飲みかわそうか。……本当にアスティの言葉は気にしないでくれよ?」
「そ、そこまで念を押さなくてもいいと思うが……あぁ、もしまた縁があったら、そのときは頼むよ。それに、君たちとはなんだか近いうちにもう一度顔を合わせそうだからな。」

流石に会話が会話だったので、苦笑と紅潮を隠し切れないオトハだったが、あちらが買い物に戻るということでここで分かれる。またね、とノウェムは手を振り、2人から離れていった。

「さて、それじゃあ……娘さんへの髪飾りを探すとするか。」
「危うく忘れるところでした。丁度いいものが見つかるといいですね。」


その後、アクセサリーや女性ウケするデザインが分からないアルザスは、結局アスティの意見をフル活用して殆どアスティが選ぶことになったことはまた別のお話。


 

武具区に来たカペラとゲイル。最もこの中で目利きができない面子だが、武器となれば話は別だった。
常に闘争心を燃やし、命のやり取りにその身を捧げる戦闘狂。目利きこそできなくても、自分に使いやすい、使いにくいといった手ごたえはむしろ専門家だ。


「うーーーーーん。使いにきぃからゴミ。」
「雑。あ、でもこっちの綺麗な剣、装飾品として売ったら高そう。買って高値でうっぱらっちゃおう。」


吟遊詩人見習いは、タンバリンを武器にしている時点でお察しください。全く武器の知識も扱う知識もない。しかし、芸術的観点で言えば別である。
美しいものを見極め、美術品としての価値を見抜く。専門とまでいかなくても、カペラにはそれができた。つまり、案外悪い組み合わせではなかったのである!

「何言ってんだよ、重要な判断材料だろーが。って、おめぇのその剣なんだなんだ、使わせろよ!」
「えぇー、これ武器的な機能性は知らないよ?装飾品として売ったらかなりいい価値しそーだなーと思って買ってきちゃったから、君のお目にかかるかは
「かっるい、切れ味悪そー、ゴミ。」
「話聞いてた???ねぇ???人の話聞いてた???」

全く持って人の話聞いてねぇなこいつ。獣女の相変わらずさにため息をつきながら、武器防具を見回っていた。
そんな中、明らかに異色な冒険者を2人は見つける。片方は目に光のない、それなりの身長で軽装な女性。もう一人は大人しそうな灰色髪の、大変可愛らしい子供。どちらも武器を取って戦うようには見えず、なんとも場違い感が否めなかった。
と、ここでうん?と気になったことがあったらしく、カペラはじーっと見つめる。暫くしてあーーーっ!?と声を上げて、その冒険者を指さした。

「アトリアさんだ!!アトリアさんだよあれ!!」
「あ、アトリア???誰だそれ、てめぇの友達か?」
「友達だなんて恐れ多い!っていうか君知らないの!?アトリア・クロンヘイム。芸術の都ラグダナの豪商で、詩歌と舞踏の腕前は天下一!そんな人を知らないなんてこの罰当たり!!」
「や、指さすてめぇも罰当たりだと思うんだけど。」

ごもっともである。この上なく的確なツッコミである。


「なんだ騒がしい。そこのお前か、やけに騒がしいのは。」

流石にここまで大きな声で名前を呼ばれれば嫌でも耳に入る。一つため息、何事だと言わんばかりの形相で指さされた女と、どこかおろおろしたような子供がその後をついてくる。
周りもざわざわしている。有名人なの?とか、あーなんか聞いたことあるよーなーだとか、そんな声は聞こえてくるがカペラほど騒ぐ者は幸い居ないようだ。

「わーーー!わーーー!アトリアさんだ!本物のアトリアさんだ!まさかこうして出会える日が来るなんて思わなかったよ!サイン、サインしてっ、この本にサインして!!あっでも視力なくなっちゃってるんだよね、大丈夫かな?」
「すでにサインをもらう気満々な辺りたくましいな。しかし、人にお願いする際は相応の謝礼を用意するのが筋だと思うが?」
「あ、アトリアさん、相手は子供ですよ!そんな大人げない!」

子供から謝礼金をぶんどる、といえば聞こえは悪いが、仕事に相応の対価を払う、といえば特に問題はない。ふん、と一つ鼻を鳴らして変わらぬ威圧感を持ってカペラに言葉を投げる。

「子供とはいえ冒険者には違いないのだろう?だったらタダで依頼するなど無礼にもほどがあるというものだ。大体こんな人の多い中で人の名前を大声で呼ぶなどとんだ無礼であろうが。」
「そんじゃあこのさっき買った綺麗な剣を譲るよ。剣としての機能性はイマイチらしーけど、綺麗から売ったらそこそこの価値にはなると思うよ。」
「てめぇあたいがびっくりすっくれぇ自由奔放に振舞うな!?」

にへらーと笑いながらさっき買った剣を手渡す。まぁまぁ、と言いながらカペラはゲイルを宥めた。あれ?ブレーキ役ってどっちだっけ?
受け取り、指でなぞる。それだけでその剣の装飾を把握し、カペラの言葉が嘘ではないことをアトリアと呼ばれた女性は読み取った。その動作を行っているときの少年は大変キラキラした表情をしていた。

「ふむ。この少年が言っていることに嘘はないようだな。」
「えっこの子少年だったんですか?」
「僕男の子だよー。恰好のせいか、よく女の子と間違えられるけど列記とした男の子だよー。」


髪が長く、2つくくりにしており、変声期はまだまだ先の明るく子供らしい声は少年の性別の判断材料を割と困らせる。隣に居た子供は完全に少女だと思っていたらしく、驚いたような表情を上げていた。

「……何故にそのような見たをしているのだ?」
「んー?特に理由はないけど、女の子みたいな外見に生まれちゃったから?男だったら生意気言うクソガキがー、とかって思われがちだけど、女だったら可愛いと思ってみる目変わるでしょ?利用しやすいじゃん。」
「で、出たーーーカペラの時々見える黒い本音ーーーー!!」

けらけら、面白おかしそうに笑う。実際大した意味はないのだろう。強いていえば、それが少年の趣味だから、と言えるかもしれないが。
でもさー、と。無邪気な表情ながら。彼は、見逃さなかった。

「君はどっち?女の子?男の子?僕はどう見たらいーかなー?」
「っ……!」

見抜いている。
少女を振舞う少年だと、見抜いている。
カペラの力は、直接精神に命令を下すもの。その力のせいで、人の精神を見抜く力を自然と身に着けていた。また、吟遊詩人は人の心に作用させる歌を扱う。その分、人の声や心には敏感だった。とはいえ、ここまで把握できるのは呪いによる相乗効果がかかったからだろう。

「……私、は、
「あっ名前聞いてなかったやー!アトリアさんは分かるんだけど、この『女の子』の名前、まだ聞いてなかった!教えて教えてー!」

言い淀んでいると、空気を読んでか読めないでか、遮るように言葉を挟んだ。
恐らく、全て分かったが故の言及で、全て分かったが故のごまかしなのだろう。気が付いたけど、その真意を追求する気はない。それが、この少年の意見だった。

「やれやれ、この少年は敵に回すと厄介極まりなさそうだな。」
「……えぇ、全くです。あ、私はマイラって言います。あなたたちは?」
「僕はカペラ。で、こっちはゲンゲンだよ!」
「ゲイルなゲイル。お前初対面のやつにゲンゲンつったらゲンゲンで通じちまうだろ。てめぇだから許してんだからなその呼び方。」

流石に初対面でゲンゲンです、と言ったら首を傾げられそうな気はする。名前というにはあまりにも妙な響き、というかトンチキな名前に聞こえる。あだ名ということであれば、それだけ仲良しなんだなーと微笑ましく思える。

「ところで、アトリアさんはどうしてバザーに?ここ、冒険者的に役に立つものがあったとしてもあんまし舞台や芸術に関するものはないよーに思うけどなぁ。」
「そうでもないぞ。確かに冒険者が扱うものばかりが流通しているが、その中には随分と立派な楽器や装飾が混ざっていることもある。故に、無関係とは言い難いのだ。
 まあ私が今は冒険者をしているから、という理由もあるのだが。」
「なるほどー、確かに吟遊詩人やってた人の道具だとか、マジックアイテムだったりが混ざってるか。納得したよ、それに冒険者になったんなら猶更だねー。」

と、けらけら笑う少年。失明して舞台に立つことができなくなった先が、冒険者。なるほどなぁ。
…………。

「何で冒険者してんの!?!?」

ほんとにな。どうして危機感知能力や人間的な欠陥を患って、それで危険が伴う冒険者になってしまったのか。コレガワカラナイ。

「周りからは同情的な目で見られる上、親の仕送りに頼り切った生活をするなど虫唾が走る。それならば、私自身の手で私自身生き延びてやろうと考えた、それだけだ。」
「なんつーか、逞しーなてめぇ。ま、そのくれぇ強気じゃなきゃ、冒険者なんざやってらんねーよな。」

相当負けん気が強い、プライドが高いのだと2人は感じた。それに対して、ただ傲慢に振舞うだけではなく、相応の力を得ようとする姿勢には好感が持てた。
面白い冒険者に出会うことができたので、このまま話を聞こうとして……何やら、書物区の方が騒がしいことに気が付いた。

「ざわついてる?なんだかあっちが騒がしい?んー……流石に人が多くて誰が何を言ってるかまではわかんないや。」
「や、何で分かるんですか!?ざわついている……って言っても、特に変わりなく見えるんですが……」
「それはよそ見している暇があれば、買い物をして少しでも欲しいものをわが物にしようという魂胆があるからであろう。それに、この区ではないのだろう?ならば、殆どの者は関係のないことと割り切り、目の前の品定めを行うはずだ。我々を含め、買い物に来ているのだからな。」
「あたいは乱闘大好きだから混ざりに行きてぇ。」
「君ねぇ。」

流石戦闘狂。流石脳筋
実際見るものは大体見たので、茶化す目的で書物区に向かってもいいかもしれない。そう思ったカペラは、2人にも提案する。

「お買い物は大丈夫そう?せっかくだから何が起きているか見に行きたいな、僕。優秀な買い物班がいることだし、それより買い物してるより面白そーなのが見れそうだし。」
「あなたも人のこと言えませんよね!?あ、私は構いませんが……アトリアさん、どうしましょう?」
「私も、何が起きているのかは興味がある。このバザーで喧嘩するほどの目玉商品が出たか……くくく、興味深い。」

わかるー、と同意のカペラ。マイラは同意を示したものの、こっそり胸の内で思った。
もしかして、とんでもない人たちに囲まれているのではないか、と。実際四面楚歌 ~渡る世間はやべーやつ~ になってしまっているので、どう足掻いても世紀末であった。

 

 

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