海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_16話『忘れ水の都』

※完全にギャグ&お砂糖回
※アルアス……アスアルだよ

 

仲間の勢いというものは凄いものだ。アルザスは、痛感していた。
忘れ水の都。静かな山間にある古都で、水が綺麗で自然豊かな場所としてひっそりと知られている。この場所を仲間にチョイスされたのは、純粋に仲間がこの場所に興味を持ったから、なのだが。
ここへ来るには、少なくとも一週間はかかる。ヴィスマールまで向かい、そこから船に乗ってこの都へ向かうので、かなりの長旅になった。
で、だ。今アルザスがどういう状況下に置かれているかというと。

「んーーー、このチョコレートパフェ美味しいです!」
「はは、それはよかった。ここに連れてきた甲斐があったよ。」


打ち水通りにある喫茶、雨脚。そこに2人きりで、放り込まれている。
完全にがっちがちのシーチキンエルフに、それはもう美味しそうにチョコレートパフェを頬張る癒し手の姿がそこにあった。
こないだの依頼で、アルザスが口走った言葉を覚えているだろうか。仲間が大変盛り上がってしまい、デートプランを作ってそれをアルザスに押し付け、いいからアスティに告白してこいと命令されたのである。
はたから見て、両想いであることは一目瞭然であった。アスティは告白する気配がなかったが、アルザスははっきりと見て取れたし、何より男からリードしてあげるのが筋だろうということで全員はアルザスに告白するように告げた。なお今も仲間は見ている。

「オレンジの酸味と香りが素晴らしいですし、何よりビターチョコに良く合います。このフレークのさくさくも美味しいんですよね……」
「本当にアスティは甘い物が好きだな。好きなだけ……というわけにはいかないが、満足するまで食べてくれ。」
「そんなこと言ってしまったら、私このメニューを全制覇する勢いで食べつくしますよ?」

 

アスティは食べる速度こそ遅いが、限界知らずに食べることができた。特に甘いものとなれば無限に食べれるのでは?と思う程度に胃の中にしまう。実は大食漢のカペラよりも、純粋な食べられる量はアスティの方が上なのだ。
とはいえ、食べられるけれどそこまで食べる気はないそうで、いつもはアルザスと同じ量を食べている。男性一人分、なのでそれなりの量を食べていることには違いないのだが。

 

「って、アルザスも食べてくださいね?アルザスも甘い物はお好きでしょう?」
「え、あ、うん。あぁ、食べるよ。」

 

二人きりで、甘い物を共に食べている。
デートの定番といえば定番だ。このくらいなら何とでもなると、そう思っていたアルザスに仲間の声が届く。

 

「アルアル。あーんは定番だよ。」
「ぶっっっっ」
「!?!?」

 

都に着く前に仲間から支給された小さなイアリングがあった。魔法の品だそうで、対になったイアリングは、離れたところから着用者に声を届けることができるという代物だ。
実はこれは他のパーティから借りてきたものである。ソナチネという冒険者のプレリュードという女リーダーが試作品として作ったらしい。テストプレイをしてほしいとのことで、ロゼが預かり受けた。まさかこんなに素晴らしい使い方になるとは。

 

「あ、アルザス、大丈夫ですか……?」
「あ、あぁ、すまない……ちょっと、喉にチョコレートがつっかえてしまって」
「今パフェ食べてませんでしたよね!?イマジナリーチョコレートパフェですか!?」

 

何それ。
完全に色々やらかしが伺える言い訳になっていない言い訳だが、何かあったんだろうなとは察したアスティ。そっとお水を手渡すと、アルザスはそれを一気に飲み干した。

「何であーんだけで恥ずかしがってんのかなアルアルは。」
「シーチキンエルフだからしょうがないわね。にしても、シーエルフってもっと開放的というか、チャラい雰囲気だったと思うんだけど。アルザスって初心で硬派で奥手よね。」
「閉鎖的な森のエルフに対して、海のエルフは普通に人間と交流してたし……そもそも海で生きるから着こむこともないし。もっと露出が多かったのは確かよね。アルザス君でかなり着こんでる方だと思うわ。」
「ヘタレだから?」
「ヘタレだからじゃないかしら?」

この散々な言われようである。
イアリングを通してアルザスにもばっちりがっつり聞こえている。しかし言い返せない以上、何も反論できないのである。残念な残念な冒険者、シーチキンエルフここに極めり。

(いや、だから流石にまだ、まだ俺とアスティはそういう関係じゃないから!俺は!俺たちは!両想いじゃないからまだそういった行き過ぎた行為はどうかと思うんだ俺は!)
アルザス。」
「んっっっ、ん、なんだ?」

アスティの呼ぶ声で、はっと我に返るシーチキンエルフ。こんな調子で大丈夫なのだろうか。問題しかない気がする。
それに気が付いているのか、いないのか。アスティはチョコレートパフェをスプーンで掬い、アルザスの方へ向けていた。
もしかして。これは。

「美味しいものは、共有すればもっと美味しいですから。だからアルザスも食べてください。
 はい、あーん。」

あーんを。されてしまっている。
自分が仲間からイケイケされたそれを。こともなげに、アスティはやってのけようとしている。
いやというか。というかですね。

「……あ、あの、アスティ???」
「はい?」
「そ、その、そういうのは……その、……こ、こっ……こ、……なっ……」
「?粉ですか?別にチョコレートパフェは粉っぽくないと思いますが。」
「ち、ちがっ、そうじゃなくって、」

めちゃくちゃ こっぱずかしい!!!!
だがしかし、アスティから向けられたスプーンを無碍にすることができるだろうか。この純粋無垢が故にやってのけてしまったこの行動を、アルザスは無視することができるというのだろうかいいやできない。

「いや何でアスアスがやってんの?」
「立場ねぇなーアルザス。」
「リードする側として失格よね。」

うるせぇお前ら燃すぞ。
仲間にしめやかなる殺意を抱きながら、アルザスは顔を真っ赤にしながら差し出されたスプーンに乗ったチョコレートパフェを頬張る。

「ほら、美味しいでしょう?」
「ん……あ、あぁ、美味しい……甘い、けど、くどくなくって、その……」

恥ずかしさのせいで感想がまとまらない。
いつも料理に拘りを持ってべらべら感想を垂れ流す癖が、こんなところで仇となっている。言葉がまとまらなければ不自然だと思われるだろう、そう思い必死に言葉にするも語彙力がエラーを起こしている。

「ふふ、美味しくて感想がまとまらないってところでしょうか。」
「あ、あぁ!そうなんだよ、あまりにも美味しくてつ、つい!」

俺は何を言っているんだろう。
ですよねぇ分かりますよ、とぱあぁと笑顔を見せるアスティ。追い打ち待ったなしだ。無慈悲すぎる追撃に、アルザスは思わずくらりとする。

「……言っとくけど、まだ始まったばっかりよ?」

おまけにロゼからの無慈悲な一言。んなこと分かってる、と誰にも聞こえそうにない小さな小さな声を漏らした。
……追撃は、それだけに留まらない。

「ですが私、やっぱり甘いもの……に限った話ではないんですが。アルザスの手料理が、一番好きです。記憶を失ってから初めて食べたということもあるのでしょうが、やっぱりアルザスの手料理が一番美味しいって思うんです。」
「ま、まぁ……俺は自分の料理には自信があるから、な。気に入ってくれて、俺も嬉しいよ。」
「はい!アルザスの料理は世界一です!私が保証します!」

再び攻めてくる満面の笑顔!純粋無慈悲な笑顔がアルザスを襲う!
ん”、と悲鳴にも似た、カエルが馬車に引かれたときのような声が漏れる。今にもオーバーヒートをして倒れそうだ。
流石にこれには4人の野次馬係も顔を覆う。だめだこのシーチキンエルフ、あまりにも初心がすぎる。

 


チョコレートパフェの10spを支払い、店を出る。上機嫌なアスティと、既にいろんな意味で疲労困憊のアルザスは次に向かったのは雑貨屋だった。
数多くの楽器が取り揃えられており、物珍しそうにアスティはそれらを眺めている。フィドラ、リラなどなかなか見かけない楽器も数多くあり、楽器に興味がある者であればずっと居座ることができてしまうだろう。

「うわぁー……カペラが居たらきっと喜びそうな場所ですね……」
「そういえば、アスティは音楽は好きなのか?」
「はい、大好きですよ。私は歌も嗜んでいなければ楽器も弾けないので、聞く専門になってしまいますが。」

歌ってみたいし楽器も触ってみたいんですよね、と無邪気に笑う。
アルザスも音楽には疎いし、なんなら楽器は弾けなければ歌も上手くはない。

「何となく、歌を聞いていると落ち着くんです。落ち着いた、穏やかな曲も炎のような激しい曲も、私は好きです。個人的な好みだけを言えば、静かで水や海を想起させるものが好きですが。」
「なるほど、お前らしいな。……海のように全てを受け止めて、水のように澄んだお前らしい。」
「……アルザス。」

息をするように吐き出された爆弾発言。
少し赤面しながら、ありがとうございますと照れるアスティ。嬉しいからか、恥ずかしいからか。
少なくとも、これを聞いていた仲間は。

「……口説けるじゃないちゃんと。寒いけど。」
「!? え、あ、いや、お、俺別にそういうつもりじゃなくって!?」
「やー、ちょっと聞いてるこっちは空気が凍ったよね。ポエム?それポエム?そんなこっぱずかしいこと言えるんだったら告白も余裕だね!やったじゃんアルアル!!」
「だから!?だからそういうつもりじゃなくってだなって何も余裕じゃないから!だっ、大体お前ら、俺まだ心の準備してないのに
アルザス君。騒ぐとバレるわよ。
「はっっっ」

屑女のごもっともなお言葉。我に返り、ここでアスティの方を見ると、何やら興味津々でとある楽器を見つめていた。
独特の形をした土笛、オカリナ。オカはガチョウ、リナは小さい、オカリナで小さいガチョウという意味になる。音域は狭いが、演奏はピアノやヴァイオリンと比べると比較的簡単な楽器だ。
それはもう、興味深そうにじーっと見ている。大変大騒ぎしていた、傍から見たらただのやべー人状態だったアルザスを放り出してめぇっちゃくちゃ見ている。

「その楽器が気になるのか?えーと……チェロだったか?」
オカリナですよ、規模も演奏スタイルも名前も文字数も何もかも違うじゃないですか。いえ、なんだか懐かしいもののように思えまして。アルザス、オカリナを吹いたりしていましたか?」
「いいや?触ったこともないが。」

ですよねぇ、と苦笑を返される。オカリナのことをチェロとか言い出す時点でアスティは期待していなかったのだろう。
そもそも何故オカリナを吹いていたのかと尋ねられたのか。どう聞いても発した言葉でそんな期待はできそうにないだろう。皆首を傾げた。

「うーん……このオカリナってこれだけですか?」
『―― はい、楽器は古いものですから、お譲り出来るのは1つだけです。そのオカリナはそもそも1つしかありませんから。』

ここの店員、もとい蓄音機に尋ねる。蓄音機だ。蓄音機がレコードを再生して声を発する。あまつさえ棚を器用にぴょんぴょん跳び回っている。一体どういう原理なのだろうか。
入って驚きこそしたが、アスティはすぐに馴染んでしまった。アルザスは未だに不可解さが強くて慣れない。

「そうですか。……1800sp、は流石に高いですね。皆さんに相談もせずに購入するわけにはいきませんし、使いこなせるかも分かりませんから行きましょうか。」
「いいのか?懐かしいもの、って言っていたが。」
「はい。なぜかは分かりませんが、とても懐かしいもののように思えたのです。とはいえ、私が拾われたのは海でここは山間の古都。関係ないと思いますよ。」

だからきっと気のせいです、とアルザスに店を出るように催促する。
本当は名残惜しいのだろう。しかし1800spは大金だ。自分一人で決定するわけにはいかない。
さて。このシーエルフが、好きな人のために一肌脱げなかったりするだろうか。しかも彼女は普段甘いもの以外に物を強請ることがまずないのだ。無欲、とまではいかないが、アルザスが居てくれればそれでいいといつも言うのだ。

「というわけなんだが。オカリナを買っていっていいか?」
聞いてたけどアスティちゃんに甘すぎか。お財布事情的には殆ど響かないけれど……」
「僕は買っていーって思うな。気になんじゃん、懐かしいって言ってたの。もしかしたら忘れちゃった思い出のヒントがあるかもしれないよ?そーゆー意味でも、お迎えしちゃっていーんじゃないかなーって。」
「カペラ、おめぇがオカリナに触りてぇだけだろ。」
「5割くらいはそうだよ。あっ、でもオカリナ買ってくるんだったら練習用に楽曲も1曲買うんだよ。あんまり難しくないやつね。」

5割は私欲だった。流石カペラ、大変素直だ。いっそ清々しい。
意外と肯定的な意見が返ってきたし、買うことの許可は得られた。店を立ち去ろうとしたアスティをよそに、アルザスは札に『水のオカリナ』と書かれたそれと、『揚げ雲雀』の楽譜を手に取り蓄音機の元まで歩いていく。

「この2つを頼む。」
アルザスーーー!?いや、ちょ、流石に仲間に断りなくそんな大金を積むのはだめ
「許可ならさっき取った。」
「さっき!?どうやって!?」

傍から聞けばめちゃくちゃだが、嘘は言っていないし仲間も同意済である。
揚げ雲雀を選んだのは、置いてある楽曲の中で最も彼女らしいというアルザスの主観だった。難易度もそこまで難しいものではないらしいので、恐らくぴったりだろうと。

「懐かしい、って言っていただろう?もしかしたら無くした記憶の中に、オカリナが関係しているものがあるのかもしれない。それに、その……お前がオカリナを吹くところ、俺も聞きたい、し。」
「なんでんなとこで口ごもんだよはっきり言えよ。」

ゲイルなんかにツッコミを入れられた。なんか腹立つ。
そんな胸の内を隠しつつ、理由の多くはアスティに喜んで欲しいという、至極単純なもの。だから気にしないで受け取ってくれ、と銀貨を支払いアスティに手渡す。

「っ……ありがとうございます!私、これ大事にしますから!ずっとずっと大事にしますから!吹けるようになりましたら真っ先にアルザスに聞かせますから!本当にっ……本当に、ありがとうございます!」

本当に、欲しいと思っていたのだろう。手渡すと、大事そうに握りしめ、心からの笑顔をアルザスに見せた。
あまりにも眩しくて、可愛らしくて。ここまで喜んでくれたことが、本当に嬉しくて。

「あたしの拾った鉱石で買った彼女の笑顔は可愛いか。」
「ん゛ん゛゛゛゛っっっ」

不意打ちのロゼの一言に、思わず咽た。

  ・
  ・

「すっかり楽しんでしまいましたね。なんだか今日という日があっという間でした。」

街の中心から離れて郊外に訪れる。小高い丘に登り、川のせせらぎの音を聞きながら。二人は道を振り返った。
この道を振り返ると、忘れ水の都全体を見渡すことができると聞いてやってきた。神秘的な古都の姿を、2人は振り返った。
……まるで、今まで歩んできた物語を振り返るようだと思った。

「おーっしアルザス!後はキメるだけだぜ!」
「頑張れ頑張れアールアル!ファイト、ファイト、アールアル!」
「お前らはちょっと黙ってくれないかな!」
「誰が!?何が!?」

一体誰に何のツッコミをしているのか、アスティには分からない。場所的にウンディーネでもいるのだろうか。精霊と近しい種族が故に何か交信してしまうのだろうか。考えられる可能性としてはそのくらいだが、自分も見えてもおかしくないような気がしてきっと違うなと思った。だって水の生成とかできるってことは、少なくとも水属性との親和性が高いはずだもの。
こほん、と一つ咳払いをして、アルザスはアスティを真っすぐ見つめる。すでに顔が赤い。

「なぁ、アスティ。」
「? どうしました?突然改まって。」

きょとんとした表情を返す。水のざああと流れる音に、風が凪ぐ音が重なる。騒がしくない、穏やかな自然の音色。

「あの、その、」

その音に負けないように、声を紡ぐ。
が、つっかえて出てこない。上手く言葉にならない。伝えたいことは単純で、簡単なもので。だというのに、初めてのゴブリン退治よりもずっともっと、難儀なものだと感じた。
……仲間から提案された、告白場所。水と風と緑に包まれたそこは、2人にぴったりだろうと。アレトゥーザは少々騒がしくて2人には似合わないと。もう少し手入れのされていない、自然豊かな場所がいいだろうとチョイスされた、この場所。
一体仲間にどんな印象を持たれているのかは分からなかったが、確かにここの空気は悪くなかった。むしろ、居心地がいいと思う程度には気に入った。決して着飾らず、自然と共に、されど田舎すぎないこの場所が、アルザスにとってもアスティにとっても好みに合ったのだ。

「……あっ、勿忘草。確かロゼのお気に入りの花でしたね、これ。」

風に吹かれて、目が逸れてしまった先に咲いてあった、一輪の勿忘草にアスティは気が付いた。すぐ近くに咲いてあったものをしゃがんで、花を散らさないようにそっと摘み取る。
完全に言えたか分からない言いかけた言葉を飲み込むことになったが、アスティの行動はアルザスの予想の遥か上を行った。

アルザス。……あなたに、この花を贈ります。」

優しく微笑んで、勿忘草をアルザスに捧げる。
少女の手から手渡された、可憐な飾らない花束。思わずアルザスは、目をぱちくりさせる。

「……は?……え?……ええと、これは、どういう意味だ?」
「そのままです。……他の誰に忘れられても構いませんが……アルザスだけには、忘れてほしくないのです。これまでも、これからも。」

花言葉は、私を忘れないで。
ロゼが話していたことを、2人共耳に挟んでいた。一度誕生花の話題になったときに聞いたものだったような気がするが、アルザスはそこまで覚えていなかった。アスティは、覚えていたのだろう。

アルザスが、たとえば男でも女でも若くても年寄りでも構いません。それがアルザスなら何でもいいと思うくらいには。アルザスが、好きです。
 ……受け取って、くれますか?」

表情は、そのままだ。穏やかで、どこまでも純粋で、一切の穢れを知らない、少女の表情。
守人は、その告白を聞いていた。しっかりと、一言一句漏らさず聞いていた。
だから。顔をこれ以上にないくらい真っ赤にさせて、完全に身を硬直させていた。これは、夢か何かだろうか。
片思い、だと、思っていた。
一方的な感情だと思っていた。
けれど、今、彼女は自分のことを、好きだと。

「……ふっ、いやですね、そんなに硬くならないでください、なんなら重く受け止めないでください。」

たじろいでいると、ちょっと面白おかしそうに噴き出した。
先ほどと打って変わった表情に、アルザスはえっ?と、思わず困惑した表情。くすくすと笑いながら、アスティはアルザスにおどけた調子で語る。

「先ほどの、オカリナのお礼ですよ。私は覚えていないけれど、懐かしいと思う何かがあった。きっと特別な思い入れがそこにはあった。けれど、それが私には思い出せない。
 だから、覚えていてほしいと思ったんです。あなたに、私のことを覚えておいてほしいって。そうすればきっと、私はもう、記憶を失うなんてことは起こりえないと思ったから。共にこれからも、よろしくお願いしますということですよ。」

完全に固まってしまわれたので、思わず笑ってしまいました。
……つまりこれは。告白でもなんでもなく、ただの先ほどのプレゼントのお礼であって、仲間へのお礼の言葉にしか過ぎない。
そういうこと、なのだろう。

「……あぁ、もう……!」

伝わらない。伝わっていない。
いや、そもそも自分が一切伝えていないのだから仕方のないことなのだけれども。
歯がゆい。もどかしい。
恥ずかしい、断られると嫌だ、彼女を束縛したくない。初心で奥手でシーチキンないつもの胸の内を上回り。

「俺は!……俺はっ、アスティが好きだ!恋愛的に、一人の女として、好きなんだ!」
「っ!」

そのままの想いを、伝える。
何も飾らず、言葉で気取らず。不器用で、真っすぐな、己の想いを口にした。

「お前は気が付いていなかったと思うが、俺はずっと、お前が好きだったんだ……その、それこそ、お前と初めて出会って一目惚れした、ってくらい、には。守るって、いつまでも傍にって、思ってて、でもお前にもし好きな人ができたら、そしたら俺が縛るのも違うなって、思って、だから今の今まで言い出せなくて、でも俺の傍からお前が居なくなるのも嫌でお前に嫌われるのも嫌で、あぁだから、その、俺はお前のことが、ずっと、好き、で、」

段々と恥ずかしくなり、言葉もまとまらなくなってしまった。過去最高に、顔が赤くなっているしなんなら今にも泣きだしそうである。
あぁもう何を言っているんだろう俺は、と無理やり言葉を纏めようとするも、拙い、けれど素直で嘘偽りのない胸の内は、確かにアスティに届いた。

「……アルザス。」

じっとアルザスを見つめ、それから満面の笑顔で、

「知ってました。」

残酷無慈悲な!あんまりにもあんまりな!一言!!

「やっぱ迷惑でしかないよな……って、え?」
「いやですから。知ってました。とっくの昔に。」

他の仲間も、そりゃなぁと全員納得顔。それはそれとして、気が付いていたことには少々驚いてはいたが、分かりにくいか分かりやすいかと問われれば、どこまでも分かりやすい。よっぽど天然か鈍感でなければ気づかずにはいられないだろう。

「え、ど、どこ、か、ら、いや、い、いつ!?いつから気が付いてたんだ!?」
「具体的にいつ、と問われると困りますが……ゼクトの一件があったときには、私愛されてるなぁと凄く実感しました。特に夜、不器用ながらも一生懸命私を慰めようとしてくれて、私にあれの分上書きしてくれようと頑張って
「えぁあああああああああやめてぇぇぇええええええその夜のことは忘れてぇぇええええええええ!!!!」

吠えた。乙女の悲鳴みたいな情けない声が出た。緑の服に緑帽子被った伝説の勇者の上Bみたいな声が出た。
顔を覆って恥ずかしさのあまり悶絶する姿はまさにシーチキン。ここまでくると、見ている方も可哀想になってくる。

「で、まぁ。告白しようとしているんだなーということは伝わりましたので、押してだめなら引いてみろ?ということで、ちょっと誘ってみました。でも嘘はついていませんからね?あれは全部私の本音です。そこは本当ですよ?」

くすくすと、いたずらな笑い声を漏らす。
つまりは、告白だと思ったら仲間としてのお礼でしたかと思ったら告白しやすいように誘うための言葉でした、とうことで。
一切の嘘はないにしても、まさか告白しようと見透かされて、そっと背中を後押し……いや、手を引かれていたなどとは微塵にも思わなかった悲しきシーチキンエルフ。流石にこれには。

「うわぁ、アルザスの面目立たないなぁーーー。」
「ちょっと……っ……これ、これっ……アルザスくっ……ざんねっ……はは、あっははははは……!!」
「これはっ……ひ、ひどっ……アスアス、に、全部、して、やられてっ……!!」
「あっははははははは!!はは、あっははははははざまぁねぇなこのアルザスって野郎!!完全に立場が逆転してらぁ!!」
「お前ら、おっ、お前らーーーーー!!」

流石に仲間にアドバイスをもらっている、という現状には気が付いてないようだ。逐一虚空に向かって放たれる鋭いツッコミの度びくりと身体を振るわせている。というかちょっと引いている。

「……さて、お返事ですが……分かりきっていると思いますが、伝えたいので伝えさせてくださいね。」

これでまだ、フラれると思っているのであれば永遠に語り草にしますよ、とつぶやきながら、癒し手は守人に抱き着く。身長差のある身体で、見上げるように太陽の形を覗き込んで、


「こちらこそ。死が、私たちを分かつまで。そのときまで、よろしくお願いします。
 ……私も、アルザスのこと、ずっとずっと大好きでしたよ。どこまでも優しくて、優しすぎるが故に不器用で。一途に私を大切に想ってくれる、そんなあなたが私は大好きです。
 ふふ、やっと伝えてくれました。凄く、嬉しいですよ、アルザス。」
「…………」
「…………?」

ここで、気が付く。
アスティが思っている以上に。シーチキンエルフは、シーチキンであったと。


「……ちょっとアルザス!?アルザスねぇ!?あなたっ、気絶して!?」
「うわーーー残念がすぎる。はーーーい背中押し班、今から医療班よーーー。」
「どっから出てきたーーー!?!?」

突然茂みからガサァッッッと現れる4人の仲間。
それはもう手際よく残念な残念なシーチキンエルフを回収し、今日泊まる宿へと連行していく。ここまで残念なオチが待っていると誰が思ったであろうか。悲しいなぁ。これは酷いなぁ。
待ってくださーい!と、追いかける癒し手。なんともまあ、カモメらしいと言えばカモメらしいオチであった。

 

 

 

 

☆あとがき
完全にアルアス回です。ただのアルアスお砂糖回です。やっとくっつきました。レベル3でさっさとくっつけるつもりが、意外となかなかくっつくタイミングが見つからず今に至ります。レベル4なのでまだほらセーフセーフ。
ところで。展開的に「これザス君が花渡すんじゃなくってアスティちゃんが花渡すよな?」と思って、アスティちゃんに花を渡してしまったらザス君に_両想い♀がついてしまって死ぬほど笑いました。

☆その他
所持金 18501→15691sp(水のオカリナ、揚げ雲雀、チョコレートパフェ)

水のオカリナと揚げ雲雀はアスティの手持ちへ。
チョコレートパフェ?シナリオ内でごちそうさまでした☆

 

☆出展
指環様作 『忘れ水の都』より

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なぁ、アスティ。その、ごめんな、締まらなくて。」
「いいですよ、アルザスらしいって思いましたし……それに、勇気を出して告白してくれたことには変わりありませんから。だから、私は十分です。」

宿に帰る前日の夕方。2人は再び郊外に来ていた。
帰る前にどうしてもやっておきたいことがあったらしく、仲間にも了承を得て別行動をしていた。穏やかな風が2人を撫で、水の流れる音が心地よく響く。
なんとも、穏やかな世界だ。

「そのな、俺……お前に勿忘草を受け取って、その返事を何も贈っていなかったから。これを受け取ってほしいんだ。」

アスティとしては、オカリナのお礼ということで告白のプレゼントというわけではなかったらしいが。彼としてはそれでもやり直したかったため、改まってそれを手渡した。
一輪の、紫がかった白い花が。どこにでも咲いている花が、その手に握られていた。

「この花は……うぅん、よく見かけるのですが……」
「ハルジオンだ。花言葉は、追想の愛。何を返そうか悩んだが……やっぱり、これが一番俺の答えになるなって。
何があっても、お前を忘れたりしない。例え忘れたとしても、何度だって思い出してみせる。絶対に独りにしないし、これからもお前を守り続ける。
それに、この花はどんなところでも咲くほど生命力が強いとされているらしい。だから、例えこれからどんな苦しいことがあっても……絶対に、お前のことを手放したりしないから。」

ハルジオンは、アルザスの誕生花でもあった。
それを彼は知っている。知っている上で、アスティに贈った。
自分という花を。勿忘草に対する答えとして、自分の言葉として、彼女にぶつけた。

「えぇ、確かに受け取りましたよ。ちゃんとあなたの想いも、受け取りました。
……ありがとう、アルザス。あなたと出会えてよかった。あなたを好きになれてよかった。あなたが……私を、好きになってくれてよかった。」

幸せそうな笑顔を見せて、その花を受け取……ろうとして。
そのままアスティはアルザスの手を両手で包み、そのまま引いて自分の胸元へと触れさせる。

「受け取りました、確かに、この心で。私も、絶対に手を離したりしませんから。繋ぎ止め続けますから。ですから、これからもずっとずっと、よろしくお願いしま……」

あぁ、そうだった。
このシーチキンエルフ、初心が過ぎるんだった。
アスティとしては軽い気持ちだった。心に花を触れさせて、しっかりと受け止めたという粋な計らいをしたつもりだった。ただ、それだけだった。

「…………」

胸に、触れる。
胸元とはいえ、少々このシーチキンエルフには刺激が強かったらしい。

「またかぁぁぁああああああああ!!」

その後、また医療班が駆けつけて、残念な残念な冒険者を回収していって暫らくからかわれることになったのはまた別のお話。