海の欠片

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リプレイ_13話『Trinity Cave』(2/2)

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ぐるり、円を描くように続いている洞窟はそれぞれ丁度東と西に当たる部分から通路が伸びている。東の方へ向かうと魔物の像があった。耳が長く翼が生えており、蒼色の瞳をした今にも動き出しそうな石像である。大体こういうものは襲ってくるのが相場だ。

 

『……ヨウ人達、ドッカラ入ッテ来ヤガッタ?』

 

注意深く調べようとしたところ、突然話しかけてくる。驚きはしたものの予想はしていた。ファンタジー世界の石像って高確率でガーゴイルだもん。
ただ、襲ってくる様子はなく、石像はカモメの翼たちにこのまま語り続ける。絶賛全員武器に手をかけたままだが。

 

『俺ッチ、精霊力ノ塊。精霊ノ扉ヲ守ル鍵ノ1ツ。精霊ノ部屋ニ入リタイナラ、俺ッチノ出ス謎ニ答エナ。』
「精霊の部屋って……入口になった、大きな扉のことですよね。……ラドワ。」
頑張れ。

 

考えるし分からなかったら助けてあげるけど、最初から答えを言うことはしないわ。
そんな意味を込めて、笑顔で親指を立てた。サムズアップ。あぁ、通常運転に戻った。アルザスが割と危ないというのに一切の慈悲はない。

 

「……はい、わかりました。では問題をお願いします。」
『良ーク聞キヤガレヨ?』

 

勇者の眼は黒い 血を多く浴びすぎたから
賢者の眼は白い 本を多く読みすぎたから
死人の眼は赤い 嘆いて泣くばかりだから
神様の眼は青い 空しか見ちゃいないから

 

『……ジャア、俺ッチノ眼ハ何色ダ?』
「あなたの眼、ですか……?」

 

うーん、と悩み始める。ラドワに関しては5秒ほどでなるほど、と答えが分かったようだったが、他の仲間はそうはいかない。なお、暑さで頭の働かないアルザスと難しいことを考えられないゲイルはすでにお手上げ状態だ。諦めが早い。

 

「そうねぇ、これはロゼが一番軍配が上がるんじゃないかしら。あぁでも、素直なアスティちゃんも分かりやすいかもしれないわねぇ。」
「うわめっちゃ楽しんでる。さっきまであんなに頭痛い思いをしていたのに暫く歩いたらこれよ。あたしが一番気づきやすいのね……うーん?」

 

勇者は黒で、賢者は白で、死人は赤で、神様は青。
その後ろの文章から関連を導こうとするも、あまり見えてこない。特に共通点のようなものはない、ような気がする。

 

「魔物が何を示すか、だよねぇ……うーん……魔物って何を見るんだろう。人間を殺して紅色に染まる?」
「そもそもこの像が何を示しているか、よねぇ。悪魔にも見えるし、グリフォンみたいにも……いや、グリフォンというならこんなに人間らしい姿はしないわよねぇ。」

 

勇者は血を多く浴びすぎて黒になった、とある。ということであれば、この像の瞳は黒ということだろうか。
そもそも、魔物が人を殺すという決めつけも如何なものかとも思う。現にこのシーエルフは人間と共存しているため、人ならざる者がむやみに人を殺すという先入観は実はカモメたちにはあまりない。一番問答無用で誰でも殺す人が人間だったりするし。

 

「魔物……というか、ガーゴイルの瞳なんか石だから石の色だろ。石像に色もへったくれもあるか。」
「いやアルザス、流石に思考を放棄しすぎですよ……確かに石像ですから瞳の色は石の色に必然的に……な……」

 

アルザスの呟きにアスティが苦笑して、ふと気が付く。
さて、この石像の瞳の色はなんだったか。石像を見て、眼の色を見て。気が付いた。

 

「あっ……ああああああああぁぁぁぁぁ!!分かりました、はい、はい!私分かりました!!」
「うわぁびっくりしたぁ!急におっきな声ださないでよ!……それでアスアス、分かったの?」
アルザスのおかげです!わかりました!答えは青色です!」
「え、えっ……あっ、そういうことか!確かにこの石像、眼の部分が青色だ!」

 

石像だから、石の色をしている。
しかしこの石像の眼の色は青色だ。問題文から考えるのではない、見た通りが答えなのだ。

 

『オ見事~~~!!オ前ラ、スゴイナ。ヨッシャ、扉ノ鍵、開ケテヤル。
 精霊共ハ妙ナノモイルガ、ミンナ悪イ奴ジャナイ。セイゼイ頑張ッテ仲良クシロヨ。』
「やりました!やりましたよ私!」
「お見事、素直なアスティちゃんが正解したわねぇ。アルザス君の助けもあって、かしらね?」
「俺の呟きが的を射ていたことに驚いた……よく気が付いたなぁアスティ。」

 

えへへ、と嬉しそうな表情を見せる。自力で解けたことがよほど嬉しいようだ。
ぱちぱち、賞賛の拍手を送る。やっぱりこいつら緊張感がないな。クイズ大会か何かだろうか。
意気揚々としながら、次の謎解きに移る。丁度反対側にある、今度は人物像の元まで歩いて行った。そこでも魔物像と同じように、石像が語り始める。

 

『人達ヨ、コノヨウナ場所ヘナゼ来タ?
 私ハ精霊力ノ塊ナリ。精霊ノ部屋ニ入リタイナラ、我ノ出ス謎ニ答エルガヨイ。』

 

父ノ日記ニハ、コウ書レテイタ。
私はその日、彼女の作ったパイを友人と食べた。初めに私は2切れ食べ、彼女は1切れ食べ、友人は3切れ食べた。
その後、彼は更に1切れ食べ、彼女が紅茶を淹れる間に私も1切れ食べた。パイは全部で2つ、12切れあり、友人はもう1切れ食べ、彼女も1切れ食べ、残りを彼と私とで公平に分けた。
実に美味いパイだったが、暫くパイは食べなくていいと思った。

 

『私ノ食ベタぱいハ一体全部デ何切レダ?』
「……ふむ。これは引き算でしょうか。」
「あ、じゃああたい分かんねぇや。やーーー、こーいった難しいこたぁあたいにゃパスパス。無理。わっかんねぇ。」

 

そうだなぁ、文字も読めないもんなぁ。
それはそれは可哀想なものを見る目でカモメ達はゲイルを見つめた。こいつ、完全に考えることを放棄してやがる。

 

「さーて。これはカペラ君に軍配が上がるかしら?むしろ一番気づくのあなただと思うのよね。」
「えっ、僕?うーん、僕計算できるけどそんなに計算得意じゃないよ?」

 

とは言え、人並みにはできるし四則演算もばっちりできる。
計算力で言えば、カモメ達の中では二番目か三番目にあるのではないだろうか。ロゼといい勝負をしそうだ。

 

「パイが全部で2つ、12切れ。この12切れ、12切れのパイが2つあるのか、それともパイ2つ分で12切れなのかどっちかしら。」
「パイを12等分って頭おかしいだろ。どんだけ1切れ小さいんだ。そんなに小さく、しかもパイを切る方が難しいぞ。大体
「いやそんなリアル事情は求めてないから。……でも、24切れだったら12切れのパイが2つ、って言うわよね……」
「僕だったらパイをホールで2ついける。」
「いかなくていいから。これはこの石像の食べた個数を聞いてるんだから。」

 

変な茶々が入るのはいつものこと。うーん、と4人は考える。ゲイル?飽きたからってどっか遊びに行ったよ。自由だね。

 

「初めに2切れ、紅茶を淹れる間に1切れ、残りは彼と平等に分けた、ですか。純粋に引き算をしていけば、最後に残るのは2切れ。となると……4切れ、でしょうか。」
「もういっそそこの人物像に問いただせれば楽なのにな。お前いくつ食べたんだよって。」
「ですからそれだと問題になりませんってば。問題通り、彼の、石像のお父さんの日記から読み取りませんと。」
「……うん?だったらおかしーよね。だってこれ、お父さんの日記なんだよね。そしたら、『私』って……この石像のお父さんが食べた、ってことになんない?この石像が食べたことになんなくない?」

 

ここで確かに、と気が付く。そう、この日記はあくまでも石像の父親の日記、つまり『私』という人物は彼自身ではない。
ここで、あっという表情を浮かべた。この日記は、あくまで父親のもの。食べたと表記されているのは父親、父親の友人、彼女。目の前の人物像は、どう見ても男性の石像であるため彼女には当てはまらない。つまり。

 

「そっか、これ。あくまで石像のお父さんの日記で、石像のことが一切書かれてないんだ。だから、ここで石像が食べたパイの数は0なんだ!」

 

カペラが声を上げ、答えを言う。ご名答、とラドワは拍手し、石像からも賞賛の声が響く。

 

『ウム、見事ダ。ヨクゾ惑ワサレナカッタナ。良カロウ、扉ノ鍵ヲ開ケテヤル。
 精霊達ハ強キ者ヲ好ム。力ダケデハナク、心ノ強キ者ヲナ。何時ラナラバ、可能性モアロウ。』
「わーいやった、当たったー!これ自分で解けると楽しいね!」
「でしょう?だからこういうリドルを皆で悩むのも悪くないでしょう?」
「急ぎじゃないときや、俺が元気なときにしてほしいな……」

 

問答無用ですぐに答えを出さないんだろうなぁ、と諦めにも近い感情を覚えるアルザスだった。勿論これからも容赦なくラドワはすぐには解答を教えないだろう。見ていて面白いらしいから仕方ないね。
と、ここで戻ってくるゲイル。丁度問題を解いたと同時に帰ってきた。ナイスタイミングだ。

 

「あっ、解けたんだな!そんじゃ、後は北んとこにある石碑だな!」
「ん、あぁそっか、もう一か所あるんだったっけ。そうね、行きましょう。最後の鍵はそれだわ。」

 

仲間の誰もがゲイルの自由行動を叱らなかった。さては端から期待してないな?
どうしようもなく彼女が脳筋であることは知っているため、今更誰も言わなかった。もう敵が出たら殴ってくれたらいいよ、それで十分だよ。皆そんな感じだった。
それから彼らは北の石碑に向かう。予想が正しければ、この石碑の謎解きで扉の鍵は開くはずだ。たどり着いてそれを調べてみると、石碑は風化が進んでおり文字は消えかかっていた。なんとか読める、といった感じでラドワは読み上げる。

 

「『仲間外れは誰? 魔物、人間、精霊』……うーん……」

 

珍しく畜生女が悩んでいる。問題文はたったそれだけで、一見ひっかけも何もないように見える。だからこそ、ラドワはあまり確信が持てずに答えたのだろう。持てたのなら、それこそ仲間に頑張れ頑張れ、と高みの見物を行っただろうから。

 

「……精霊、かしら。」
『……ソノ理由ハ?』
「…………石像が、なかったわ。」

 

やや苦し紛れの言葉だ。確かにここに来るまでに見た像は魔物と人間の姿。精霊の姿をしたものはなかった。
ごくり、唾を飲む。暫くの沈黙の後、石碑から声が響き始めた。

 

『…………当タリ。空デアリ、炎デアリ、海デアリ、陸デアル精霊ノ像ナンテ誰ニモ創レナイ。
 三位一体ノ調和ノ中デ、タダヒトツ、命ト身体ヲ持タヌ者。永遠ヲ過ゴス精霊ハ、人ト魔物ヲ愛シテイル……』
「……そういうものなのか?」
「うぅん……これに関しては私はノーコメントで。だってサラマンダーの石像は作れるでしょう?ただ、精霊の姿って統一性があるわけじゃないし……けれど、偶像崇拝のように存在してもおかしくはないし……あくまでも、ここでは魔物と人間の石像はあったけれど精霊はなかった、ということにしておいてくれない?」

 

イメージとしては、神を彫刻するようなもの、だろうか。確かに見えない神を、イメージから創造し作り上げることはあっても真にその姿を、現界した神をそのまま石像にしました、なんてことはまずあり得ない。あり得たら聖北が黙っていないだろう。

 

『精霊ニ会ウコトヲ望ムナラ、扉ノ鍵ヲ開ケヨウ……』
「うし、なんにしたってこれで全部の鍵が開いたな!入口に戻ろーぜ!」
「あなたは何もしなかったけれどもね。」

 

しゃーねぇだろ頭使うのはあたいにゃ無理なんだからよ、と口を尖らせる。このチームは役割分担が完全に明白になっているので、誰かが欠けた際のサポートが難しい。逆に言えば、それだけ個々の力を最大限に生かし切れるチームともいえるが。
長所もあり短所もある。それを、カモメの翼達は理解している。同時に、それがうちらしいとも思っていた。
緊張感なく入口に戻ってくるなり、扉を開けて中に入る。入った瞬間、全員はうわぁ、という顔になった。
流れるマグマ。宙に浮かぶ岩石。降り注がんとする焔。異世界を彷彿とさせるには十分だった。炎の世界と称するのが最も分かりやすいだろうか。奥には大きな扉が見える。
これはカモメの翼としては生き地獄も同然だった。なんせ皆暑さに弱い。

 

「何ここあっつ!!あっついここ!!」
「あっおれむり」
アルザスーーーー!!アルザスしっかりしてください死なないでくださいちょっとだけ頑張ってください!!

 

どう考えても長居はだめですね本当にありがとうございました。できる限り手短に用事を済まさなければ、シーエルフが蒸発してしまう。冗談抜きにじゅっと逝ってしまう。
調査を開始しようとすると、1体の炎の下級精霊、サラマンダーが扉の向こうから現れた。カモメの翼を見つけると、ゆっくり近寄ってくる。

 

「人間さんなんて久しぶりですぅ……あの、ボク達に何か、御用ですかぁ?」
「……異常気象について調べてる博士から依頼を受けた冒険者です。あなたが犯人ですか?」

 

もう何も驚くものか。精霊がやっほーと話しかけてきても、思った以上に人間味があっても、なんかショタみたいな幼さを感じたとしてももう何も驚くものか。
アスティはトオイメをしながら、一先ず穏便に尋ねた。もう驚くのも疲れた。

 

「いじょーきしょー?はんにん?ボク、よく分からないですぅ……でもきっと、それはセンパイたちのことだと思いますよぅ?」
「先輩、ですか?」
「そうですぅ、イフリートさんのことですぅ。最近イフリートさんのところにシヴァさんが付きまとってて、イフリートさんはカンカンですぅ。」
「イフリートとシヴァ!?炎と氷の上位精霊じゃない!?」

 

なんじゃそら、みたいな表情をする。困ったことに、ラドワ以外本当に魔法知識が誰もない。
呆れた表情を浮かべながら、ラドワは説明をする。精霊にもいくつか属性ごとに種類があり、下位のものから上位のものまで、世界に対する影響力で定められたランクが存在する。サラマンダーは下位であり、イフリートは上位の炎属性の精霊だと説明していると、目の前のサラマンダーは頬を膨らませる。トカゲだけど。

 

「ぷぅ、人が使うぐらいの炎は、全部ボクらがいるお陰で点いてるってのに、酷いですぅ。」
「あぁ、ごめんなさい。……でも、イフリートなどは全くわけが違うわ。確かに彼らが動けば、天候に影響が出てもおかしくはない。」
「なるほどー、炎の精霊と氷の精霊が一緒にいるから寒くなったり暑くなったりするんだね。……ん?でも待って?なんでそんなことになっちゃったんだろ?」

 

確かに、とカモメ達は思案する。全く思い当たるものはなかったが、サラマンダーは知っているようで多分これかな、と思うものを話し始めた。

 

「多分シヴァさんは、イフリートさんの持ってる越境の宝珠が欲しいのだと思いますぅ。あれがあれば、どんな属性世界にでも行けますぅ。
 属性世界はこの世界じゃない、ボクたが本来いる世界のことですぅ。火・水・風・地・光・闇があって、ボクら精霊は、自分の属性世界へしか移動できないんですぅ。」
「つまり、そいつがありゃあたい達も別世界に行けたりすんのか?」
「人間さんは多分無理ですぅ。行けたとしても、きっと生きていけないと思いますよぅ?火世界なんて、ここよりずっと暑いですからぁ。」
「なるほど、じゃあ無理だな。」

 

すでに汗だくである。なんなら暑さに弱いので全員いつ倒れるかわからないくらいにはきつい。正直今すぐにでもここから立ち去りたい。

 

「それで……これからどうするですかぁ?イフリートさんは今、火世界に行っちゃっていません~。シヴァさんはどこにいるのやら……」
「宝珠はどうだっていいのですが、このままですと天気は変わりません。それこそアルザスが死にます。それでは大問題です。」
「そもそも諸悪の根源の宝珠は今どこにあるの?それが無くなったら精霊たちも喧嘩しなくなるでしょ?」
「あぁ、それならボクが…………」

 

笑顔でさらっと口にして、固まってから、

 

「い、イフリートさんが火世界へ持ってっちゃいましたよ?!」
「うわー分かりやすいくらいはぐらかしたわこのトカゲ。」

 

それはもう分かりやすいはぐらかしをした。明後日の方向を向いて、ぷぺーーーとへたくそな口笛を吹いている。一体どうやって口笛を吹いているのか。
可哀想なものを見る目でサラマンダーを見ていると、サラマンダーはぷんすこ、半泣きになりそうな表情で訴える。トカゲの顔でよくわからないけれど。

 

「ぼ、ボクが預けられるはず、無いじゃないですかっ!ボクはただの火トカゲです、下位です、そんなカモフラージュだなんてこと無いんですぅ!!」
「……それはもう、一旦置いておくとしまして。それにしても、何故シヴァは宝珠を欲しがっているのでしょうか?別世界に行く必要なんてあるんですか?」
「シヴァさんはイタズラ好きで、新しい物好きですぅ。だから珍しい物はすぐに欲しがるんですぅ。
 シヴァさんは上位精霊だから、他の世界に行っても暫くの間は大丈夫なんですぅ。だからその間、思いっきり遊び回ると思いますよぅ。」
「なるほど、ラドワみたいなやつね。」
「あなたは一体私をなんだと思っているの。」

 

遠くはないと思う。好奇心に忠実で、自分優先で、他の人が困ろうが大して気にしないラドワらしいと思う。満場一致でラドワらしいと首を縦に振った。
はぁ、とサラマンダーは一つため息をつく。火トカゲのため息。改造素材でありそうだ。

 

「イフリートさん、こっちの世界に来る度にシヴァさんにくっつかれて、とても困っていますぅ……どうにかできないですかねぇ……」
「じゃあやっぱり、宝珠を僕たちが持ってたら僕たちの方に来るよね?イフリートも取り返しに来るかな。」
「多分シヴァさんは行きますぅ……力づくではないとは思いますけど……イフリートさんは、もうこんな面倒は嫌だと思うから、行かないと思いますよぅ?」
「ふーーーーん。」

 

だったら、悪い話ではないのかもしれない。さっさと終わらせるには、それが手っ取り早いのかもしれない。
武器に手をかける冒険者たち。思わずサラマンダーはあとずさりをする。これは……取って食わんとする者の顔だ!

 

「な、なに考えてるですかぁ……?な、なんだか怖いですぅ……」
「あなたたちの事情はどうだっていいのだけれど、私たちが困ってるのよね、天気がめちゃくちゃになって。気温もしっちゃかめっちゃかで。」
「しょーじきこの暑いの、うんざりなんだよねー……人間が困らないところで争ってくれるんなら何も問題ないんだけど、そういうわけにもいかないんでしょ?」
「あたいはもめごと大好き。」

 

約一名ロクな理由ではない。
ピリピリしていた。苦手な暑さに苛まれ、それも一つの宝珠を巡った精霊同士の争い。精霊に勝てる勝てないは分からないが、ここで引くわけにはいかない。引いたら本当に死人が出る。アから始まる人が蒸発する。
満場一致で精霊と戦うという意見だった。アルザスが元気で仲間をまとめることができたのであれば、もう少し平和的な解決ができたのかもしれないが今は死にかけ。止める元気もなければ多少乱暴でも解決を望んだ。

 

「―― さあ、宝珠を渡しなさい!このまま黙っては帰れないんです!」

 

アスティの一喝。それに応じるように、それぞれがそれぞれの武器を抜いて、サラマンダーに向ける。

 

「だ、駄目ですぅ!これは誰にも渡すなって言われてるんですよぅ!」
「実害が出ているんです!このまま引き下がってうっかりアルザスを見殺しにしました、なんてなったらどうしてくれるんですか!あなたたちの問題でアルザスが迷惑しているんです!それを思い知りなさい!」

 

ごもっともではあるのだが、サラマンダーは完全に悪くない。完全に、とばっちりである。
ふえぇ、とぷるぷるしながらも迎え撃つ覚悟を決めたらしい。増援を求めると、新たにサラマンダーが2体現れた。

 

「うわ増えた!?どうすんの、これ勝てんの!?」
「勝てるか?じゃ、ありません!勝つんです!勝って、なんとしても敵を取るんですよ!」
「まって……おれ……まだ……いきてる……」

 

死んだように扱われるシーエルフも可哀想。啖呵を切ったアスティに続き、冒険者とサラマンダーたちとの争いが始まった。

 

「アスティ、アルザスを頼んだわよ!あんたが離れたら十中八九蒸発するから傍に居てあげて!」
「分かりました!ここから皆さんを回復しますので、遠慮なく暴れてください!」

 

物理的な攻撃は通用するようなのでロゼやゲイルの攻撃も通用するが、精霊は素早く、攻撃を当てることは難しい。ここはラドワの魔法が頼みの綱である。

 

「カペラとゲイルは前線の維持に徹してください!それから1体に攻撃を集中させ、的確に数を減らすこと!」
「! ……―― 合点しょーち!」
「あいよ、任せな!」

 

アルザスが指示を出せない分、アスティが指示を出す。その指示に数秒驚いたが、すぐに首を縦に振り、言う通りに動く。
アスティは、いつだって後ろで見ていた。仲間の戦い方を。それから、アルザスの姿を。どの場面でどう指示を出すか。何が適切で、最適解は何か。
戦闘の経験は、カモメの翼に加入してから積み重ねたもの。だというのにアスティは、すでに戦闘に慣れていると言っても過言ではなかった。
経験を積んだから。後ろで見ていたから。だが、数か月でここまで戦闘に慣れるものだろうか。

「てぇーーーーい!」
「あっち……!てめ、このやろ!」
「ふーんだ、そんな簡単に当たってやるもんですかぁ!」
「それじゃあこっちの一撃はどうかしら!」

 

サラマンダーの体当たりを斧で受け止める。とびかかる火の粉に顔を歪ませたところに、ラドワが魔法の矢を打ち込む。小さな悲鳴を上げるが、彼らはその程度では倒れたりしない。

 

「よくもやったなですぅ!これでも喰らえー!」

 

ごう、と口から焔が吐き出される。よけきれず、皆はまともに受ける。
じりじりと肌が焼ける感覚。……それに負けじと、アスティはアルザスの前に立つ。

 

「アスティ……!お前っ……!」
「っ……、平気、ではないです、が……この程度で、やられたりしません!」

 

いつだって。
いつだって彼は、私を守ってきた。
私を守るために傷ついた。私が傷つけば彼は悲しんだ。
……だから、今回は。私の、番だ!

 

「カペラ!水を受け取ったら私の回復を頼みます!私たちが倒れなければ戦線は維持できます!」
「いえっさ!『元気になぁれ』、僕の言葉受け取って!」

 

カペラの励ましは、それだけで立ち上がる力を与え、傷を癒す。
そのお返しと言わんばかりに、アスティは治癒効果のある水を生み出し、カペラに発射した。それを受け取る前にサラマンダーの一撃を受けるが、その傷ごと水は彼を癒した。

 

「もう一撃、喰らえ!」
「その前にプレゼント!受け取れ!」

 

再びブレスの構え。口を開けたところを、ロゼが弓矢で射抜く。

 

「ぎゃ、あっ……!」
「ナイスロゼ!そこに続くぜぇ!!」

 

口を射抜かれ、苦しみもがいているいるところをラドワが斧で吹っ飛ばす。岩石にゴッッッ、と鈍い音を立ててぶつかったそいつは、ジュッと炎が消えるように消滅していった。

 

「あと2!」
「宝珠は渡さないですぅ!喰らえぇ!」

 

残りのサラマンダーも負けじと体当たりにブレスを浴びせてくる。どちらも、負けられなかった。

 

「く、ぅっ……!」
「がぁーー!」
「ロゼ!ゲイル!……私がロゼを癒します、カペラはゲイルを!」
「任され……わぁっ!」

 

回復を行おうとしたところ、カペラもサラマンダーの体当たりに吹き飛ばされる。
傷を癒す時間が足りない。それでも、やるしかない。引けない。引くわけにはいかない。
ぎり、歯を食いしばって。アスティとラドワは、サラマンダーに向く。

 

「どうするです、まだやるですかぁ!?」
「はっ、上等……まだ負けていません!」
「その意気だけは買いますが、いい加減負けを認めろですよぉ!」

 

体当たり。引けば、動けないシーエルフに攻撃が直撃する。
アスティには身を守る術はない。逃げず、手を広げ壁となる。策がないわけではない。直撃する前に、水を浴びせられればもしかすれば

 

―― 俺を無視するな、ほかほかハ虫類の分際が!!

 

一矢報いれるだろう、そう考えたところでアルザスが前に出て攻撃を受け止めた。

 

アルザスっ……!……、……前線は頼みました!私は仲間の治療に専念します!」
「任せろっ……それまで、守ってみせる!」

 

どうか、耐えて。
小さく呟いて、アスティはまずカペラの治療を行う。彼が居れば癒し手の数が純粋に増え、戦線復帰が行える。ただしアルザスは日頃の暑さとここの炎の魔力で長くは戦えない。限界の状態で彼は戦っている。

 

「ふふ、アスティちゃん頑張るわね。私も……頑張らないとねぇ?」

 

にぃ、と笑い魔法の矢でサラマンダーを貫く。そこをアルザスが水を纏った剣をたたき込み、2体目のサラマンダーを沈めた。

 

「あ、あぅ、」
「……さ、覚悟、してもらいましょーか。」
「へへ、ざまぁねぇとこ見せたけど……まだまだ、やってやんよ!」

 

治療が終わり、ロゼとゲイルが戦線に復帰する。それを見届ければ、アスティはアルザスに声をかける。

 

アルザス!ありがとうございました、もう後は休んでいてください!」
「っ……だが、俺はまだやれ
「やれるかもしれませんが、残りは皆さんで大丈夫です!……任せてください、負けたりしませんから。」

 

ね?と微笑みかける。
それを見て、アルザスは何も言えなくなった。なんとも歯がゆい思いをしながらも、アスティの後ろへと下がる。
……守らなくてはいけないのに、守られている。
いつもアスティがいる場所から、アルザスは皆の戦いを見ていた。残り一体となったサラマンダーを倒すことは、もう任せていれば問題ないだろう。
だというのに。なぜか、酷く悔しい思いをした。
俺は何をしているんだろう。どうして下がっているのだろう。
守られている。アスティに傷を負わせた。守れなかった。不甲斐ない。
黒く、どろどろした思いが胸の内を支配する。
それは気が付けば、自己嫌悪のようになってアルザスを襲った。


―― どうして俺は、今ここにいる?
―― 守るべき者を守れない自分なんて、

 

「……ザス、」

 

―― そんなこと、あっていいはずが

 

アルザス!!」

 

はっと、アスティの呼びかけで我に返る。いつの間にか俯いていたようで、静かに顔を上げた。
見ると、きゅう、と地面で伸びているサラマンダーと、いくつもの火傷を作ったアスティたちがアルザスを見ていた。

 

「終わりましたよ。……大丈夫ですか?お怪我はないですか?身体の方への負荷は?」
「……大丈夫。……すまない、まかせっきりにしてしまって。」
「何を言うんですか。……あなたが守ったんですよ、あなたの仲間たちは。」

 

アルザスの隣に並んで、アスティはアルザスに肩を回させる。少しでもマシになりますように、と願いながら。
アルザスがあのときアスティを守らなければ、もっと酷い有様になっていただろう。もしかしたらここで死んでいた可能性だってある。咄嗟の行動が、仲間を救ったのだ。
だから、胸を張って。アルザスは皆を守ったと、そう言っていいと。アスティは、笑った。

 

「……アスティ、俺。」
「ん?」
「……なんでもない。」

 

落ち込んだ様子だということはアスティも伝わった。
けれど、何が彼を落ち込ませるのかは分からなかった。……悩む時間は惜しい。一先ず、サラマンダーに意識を向けた。

 

「……うぅ、負けちゃったです……、……あれ?あれあれあれ?!無いですぅ、宝珠がどっかに行っちゃったですよぅ!!」
「ふふん、それはこれのことかしら?伸びているところちょうだいしたわよ。」

 

いつの間に奪っていたのだろうか。ロゼが空色のような美しい宝珠を手にしてにっこり微笑んでいた。流石盗賊、やることが汚い。

 

「あーっ!ダメですぅ、返してくださいっ!精霊界とこの世界、どこを見ても1つしかない宝物なんですよー!」
「返す必要なんて無いわよ……」

 

ここで、新たな声が響く。大人びた女性の、怪しげな声だ。
同時に荒々しく、力強い声も聞こえてくる。突然の乱入者は、2体の精霊だった。

 

「てんめぇ……邪魔すんじゃねぇ!シヴァ!」
「あらぁ、それはごめんなさいね。でもアナタと一緒に、人間の気配までしたんだもの。一目見に来たらこの様子、もう黙ってはいられないわぁ。」

 

話に聞いていたシヴァとイフリート。シヴァは妖精のような、されど大きさは人間と同じくらいあり、氷でできた翼が生えていた。イフリートは竜にも似た姿で、冒険者よりもずっと大きな存在だった。
ふわり、シヴァはカモメの翼に近づく。それだけで暑さが和らいだ。これが上位精霊の力なのだろう。

 

「ねぇ、アナタ達。ワタシはね、イフリートの宝珠が欲しいの……良かったら、くれないかしら?どうせアナタ達には使えない品よ。」
「……一つ教えてください。宝珠を手に入れてどうするつもりなんですか?」
「フフッ、それはね、ヒミツ……でも、悪いようにはしないわ。それは約束する。……さぁ、どうするの?」
「…………皆さんどうします?正直私は持って帰りたいところですが…」

 

ちらり、返答を求める。下がったところでアルザスを支えながら、まるでリーダー代理であるかのように意見を纏める。
持って帰りたい、というのは不毛な争いに巻き込まれ、大切な人を失いかけたからだろう。しかし、逆説的な言葉を付け加える辺り、持ち帰るのは道理ではないとも考えているようだ。

 

「あたしは……まぁ、サラマンダーたちに返すのが道理かなぁ、っては思うわ。一応それサラマンダーたちのもので、シヴァが奪おうとしたのがことの発端だもの。」
「でもまた争わないかしら?別に追いかけっこは勝手にやってくれて構わないのだけれど、もう一度巻き込まれるのはごめんよ?そうなる可能性がある以上、私は持ち帰るべきだと思うわ。」
「僕はサラマンダーたちに返す意見かな。元々はサラマンダーたちのもので、完全にこのサラマンダーってとばっちりを受けた感じじゃん。ちょっと可哀想かなって。」
「んー……そもそもこれ、なくなるとマズいもんなのか?あたいはそーじゃねぇんだったら持って帰っちまっていーと思うんだけど。」
「……見事、意見が分かれましたね。アルザスはどうですか?」
「……俺は。」

 

じくり、嫌なものが渦巻く。あまりにも我儘が過ぎて、自分で嫌になりそうなそれを押し殺しながら、アルザスは表情を変えず、決断する。

 

「……失うことの怖さを、誰よりも理解しているつもりだ。宝珠にそこまでの想いがないのかもしれないが、大切なものを失うことには変わりはない。俺は、返したいと思う。」
「……分かりました。それではこれはサラマンダーに返しましょう。シヴァも諦めてくださいね、軽く死人が出そうだったんですから。」

 

アスティの決断の言葉を聞いて、ロゼも納得をしてサラマンダーに宝珠を手渡す。それを受け取ると、先ほどまでぐったりしていたサラマンダーは元気を取り戻し、ふわり宙に浮いてくるくる回った。

 

「うわぁい、良かったですぅ!これで怒られずに済みますですぅ!
 そうだ、お礼にボク達を呼び出すための『契約』を交わすですよぅ!いつでも駆けつけますぅ!」
「契約、ねぇ……嬉しい申し出だけど、正式に呼ぶかわからないわよ?」

 

精霊との契約というものは、特定の精霊を必ず呼び出すための一つの手段である。普段は親和性の高い精霊を呼び出し、同属性の魔力でその場に留めさせるというものだ。例えばサラマンダーであれば、無数に存在するサラマンダーの内ランダムで1体、という形になる。
対して契約を交わした場合、契約を交わした精霊を強制的に呼び出すことが可能である。これは複数の精霊を呼び出すことは不可能だが、親和性を無視して召喚することができる。つまり、契約を結び、呼び出すだけであれば己の扱う魔力の適正や属性を無視することができるのだ。最も、精霊を呼び出すことは可能だが、その精霊を維持させるためには同質の魔力を必要とするため、完全に宝の持ち腐れになってしまうのだが。そもそも精霊に気に入られ契約を交わす、という時点で精霊と仲良くなる必要があるので今回の件はかなりイレギュラーだ。

 

「いいですよぅ、ボクたちで言うところの『また会いましょう』、みたいなものですぅ!なので、あまり気にしないでくださぁい。」
「それならいいのだけれど。あぁ、契約は私が交わすわ。他の人達、そもそも魔法にそこまで詳しくないから結んだところで扱えないでしょう。」
「それならアナタ、ワタシとも契約を結びましょう?そしたら宝珠は諦めてア・ゲ・ル……だって、もっと面白いもの、見つけちゃったものね。アナタ達と居た方が楽しそう!」
「あら、あなたも来る?いいわよ、私、あなたのことは気に入ったし……それに、氷なら海竜の魔力も、私の親和性もある。使いこなせるわ。」

 

あぁ、そうだラドワとシヴァ、この自由奔放で我儘で自己中心な考えをする性格、そっくりだ。
精霊は性格面での相性も重要視される。これが親和性であるのだが、契約を交わさなくても十分使いこなせる気がする。なんだこれ、手を組んだらあかん1人と1精霊組が出来上がったんちゃうかな。

 

「それでいいんですかあなた……とにかく、これで事件は解決ですね。さっさと帰りましょうか。早くしないとアルザスがそれこそ蒸発してしまいますよ。」
「さーんせっ。もう暑さでへとへとだよ……早く帰って水浴びしたいね。」

 

これで異常気象は収まることだろう。そうしてカモメ達は巣に戻ろうとして、ふとラドワが足を止めた。

 

「……ねぇ、アルザス君。もうちょっとだけ動ける?ちょっと調べ損ねたところがあるのよ。」
「ん……あぁ、構わない。皆もいいか?」
「えぇ、私たちは構いませんが……一体何をする気で?」
「まあちょっとついてきて。……もしかしたら、まだ面白いものがあるかもしれないわ。」

 

  ・
  ・

 

あの後、石碑があったところには一つの道ができており、もう一つ謎解きが生まれていた。それをこなし、カモメの翼達はとある炎の剣と氷の鎧を見つけることができた。
何故道ができていることに気が付いたのか。ラドワ曰く、魔力の流れに変化が生まれていた、とのこと。ただ問題は、誰も炎の属性を扱わなければ鎧を着ていないのだが。
それから宿屋に帰ると、亭主を経由してパスカルに連絡をした。数日後、海鳴亭に再び怪しい博士が現れ、報酬を受け取る。それから洞窟内で見つけたものを売り、拾った鉱石を売りに遠方へと向かい、いつの間にか一週間以上経っていた。

 

ラドワは再びベゼイラスの元へと足を運んでいた。階段を降り、開くことのない扉の前に立つ。それからコンコン、とノックをした。

 

「いらっしゃい、ラドワ。海竜の魔力の解析、終わってるわよ。凄く面白い魔力ね、これ。こんな魔力見たことないわ。」

 

調べつくしただろうのに、未だに強い好奇心を孕んだ声だった。相変わらずだと思いながら、ラドワは結果の尋ねる。扉の向こうの女性は、楽し気に語った。

 

「まず属性に関しては、水と風の基本属性、それから氷と雷の亜属性を持っているわ。早い話、海そのもの、ともいえる魔力ね。それで、光と闇の属性には面白い性質があったわ。
 この魔力、光にも闇にも変質するの。さっき挙げた属性を持ったまま、外部の力や感情的なものからどちらかの性質を持つようになるわ。更に面白いのが、一度属性を持ってもまた消えたりどちらかに偏ったりするの。こんな魔力を見るの、初めてだわ。」
「可逆性のある魔力!?そんなもの、単なる無属性の魔力とは違う……打ち消されることはあっても、一人でに属性の変化を行って、しかも相反する属性を持つなんて、聞いたことがない……!」
「えぇ、本当にね。試しに十字架を当ててみれば、光の属性を持つようになっていたわ。反対にアンデッドの一部だったものを当ててみれば、闇の属性を持つようになった。人の中にある魔力は分からないけれど、外に出た魔力は時間経過では属性の変化はないみたいよ。」

 

無属性の魔力。それが、魔力の基本だ。そこに術を通して属性を持たせ、属性を持つ魔法を発動させることができる。帯びる属性や扱える属性に個人差こそあるが、無属性の魔力は基本的に何の属性にもなることが可能だ。
しかし、一度属性を持てばそれが変化することは基本的にはあり得ない。相反する属性の魔力は互いに相殺されるし、類似する属性の魔力は互いに増長される。勿論相反する属性を複合させた魔法は存在するし、同系統の魔力をぶつけても抵抗されるだけ、という場合もあるので一概には言えないが。
ベゼイラスは、この性質には覚えがある。魔力ではありえないだけで、他の力であれば、成立する性質。

 

「……この属性部分。霊力に似ているのよね。陰陽を闇と光に見立てれば、光と闇のどちらかに振れる性質も、感情に左右される部分も、全部説明が付くのよ。」
「それは、そうですが……でも、そんなことあり得るのですか?魔、妖、霊、これは三すくみにあたるから、同時保有なんてできない話、だけれども……」
「ありえなくはない話、ね。魔物が崇め奉られ、神に昇華する話は稀にある話だもの。そうなった場合、魔でありながら神……霊の性質を持ち合わせられる。」
「……つまり。」

 

ラドワは、ゆっくりと深呼吸をして、呟いた。

 

―― 海竜は、神である。信仰を向けられていた可能性がある。

 

 

 

☆あとがき
なんか後半めっちゃシリアスになったな???なんか戦闘に入ってからいきなりシリアスになったな???何があったんだ???
今回も世界観のお話としてとてもやりやすかったので設けました。あとは……お金が、欲しかったので……はい……しかしザス君よ。君……アスティちゃんに守られるのダメなんだな?初耳やぞ?え、なんで?どうして???なんで???
因みに私の拘りなんですが、謎解きはできるだけ『読んだ人も解けるように』書いてます。石像の謎解きは割と困って蒼色の瞳と地の文に入れたという、なんとも苦し紛れなことをやってのけましたてへ。

そして謝罪。
まず。稼ぎすぎました。依頼の報酬を合わせて10000sp、のつもりが依頼の報酬なしで10000spを稼ぎました。ごめんね!!
そして、もう一つ。最初は宝珠を奪い去るルートを書いてたんですが、諸事情によりサラマンダーに返すルートに後から変更しています。諸事情は諸事情が来たら明かします。覚えてたら。
で、なんですが。宝珠の売却分、がっつり手持ちに入っちゃってます。その分鉱石を拾った、ということにしていただければ……!!
ともあれ。アホみたいに稼ぎました。許してね!!

 

☆その他
所持金250sp→ >>16451sp<<

~鉱石内約~
金鉱石2、碧曜石3、黒曜石2、緑曜石
あとフローラの黒い森でゲットした金鉱石1

 

~シナリオ内売約~
生焼け肉 500sp
火トカゲの尾 2500sp
超越の宝珠 3000sp

 

レベルアップ
ロゼ、ゲイル 3→4

精霊召喚の類や武器防具はカード置き場へ。多分……シヴァ以外、眠ることになるんちゃうかな……

 

☆出典

傷影 飛鳥様作 『Trinity Cabe』より

 

 

 

 

 


☆おまけ(没になった宝珠奪取ルート)


「嫌です。」

 

判断は一瞬だった。そう言い放ったのは狡猾で人の心がないラドワでもなくリーダーで一番決定権を持っているアルザスでもなく、なんとアスティ。
アルザスはえっ?って顔をしていたが、残りの5人は完全同意らしい。

 

「あなたたちねぇ、どれだけ私たちが振り回されたと思ってるんですか!私たちだけならいいですが、あなたたちのせいでアルザスが死ぬところだったんですよ!?こんな不毛な争いに巻き込まれて命失った、とか洒落にならないでしょーが!というわけでこれは私たちが持って帰ります、もうこれで喧嘩しないでしょう!」

 

きしゃー、と、キレた。軽いお説教モードだ。というか精霊にお説教できるとかすごいな。
サラマンダーは完全にあうあうしている。怯んでいる。

 

「え、えぇぇやめてくださいよぅ!……で、でもボクじゃ力が足りないしぃ……シヴァさん、止めてくださいよぅ!宝珠、持っていかれちゃいますよぅ。」
「ねぇシヴァ、私たちについて来なさいよ。そうじゃないと、ロゼがうっかり手が滑ってこれを割っちゃうかもしれないわよ。あるいは私がここから宝珠をどーん、とかって……」
「えっ」
「フッ、アナタ達、精霊を脅すとはイイ度胸ね。いいわ、その交渉、ノった。面白そうだから行ってアゲルわ。」
「えっ」

 

誰が氷精まで連れ帰るつったよ。
そんな表情をしたが、ラドワとシヴァは互いに笑顔を交わす。あぁ、そうだこの2人。

 

「ふふ、契約成立ね。大丈夫よ、私は面白いことが大好きなのよ。だから、絶対に退屈させないって約束するわ。」
「まぁ、それは楽しみだわ!えぇ、えぇ、アナタとは凄く、気が合いそうだもの……ウフフ。」

 

性格が ものすごく 似ているのだ
精霊は属性の親和性だけでなく、性格の親和性も求められる。随分と性格的に相性がいいのだろう、完全に悪い笑顔を浮かべていた。もしかしたらとんでもない選択をしてしまったのかもしれない。そう思ったときにはすでに遅かった。

 

「もうっ!人もシヴァさんも……!世界の秩序が狂ってもボク達何も知りませんよぅ!早く帰ってください!」
「えぇ、帰ります。さて、喧嘩の原因も無くなったようですし、さっさと帰りましょうか。早くしないとアルザスがそれこそ蒸発してしまいますよ。」
「さーんせっ。もう暑さでへとへとだよ……早く帰って水浴びしたいね。」

 

これで異常気象は収まることだろう。そうしてカモメ達は巣に戻ろうとして、ふとラドワが足を止めた。

 

「……ねぇ、アルザス君。もうちょっとだけ動ける?ちょっと調べ損ねたところがあるのよ。」
「ん……あぁ、構わない。皆もいいか?」
「えぇ、私たちは構いませんが……一体何をする気で?」
「まあちょっとついてきて。……もしかしたら、まだ面白いものがあるかもしれないわ。」

 

 

ここまで。