海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_12話『四色の魔法陣』

※最早うちの世界観説明だよ

※覚えておくと今後リプレイが読みやすいかも程度なので覚えなくていいよ

 

 

「……ここが最下層、ね。」

 

ラドワは一人、階段を下りていた。正確には自分ともう一人、鎧の男。
ここはリューンにある監獄。そこへラドワは一人でやってきていた。

 

「ああ、はい。罪人ベゼイラスは、その牢に収監されています。
 話は通してありますので、後はどうぞ。」

 

兵士はそう言うと、螺旋階段下の暗がりに入り、道を開けた。
罪人、ベゼイラス。禁術に触れ、地下の牢獄に入れられた。彼女の行おうとした魔術で村一つ消え、唯一の生存者であった彼女が捕らえられた。
本来ならば死刑だったのだろうが、賢者の塔の人間が彼女の持っている知識に興味を持ち、身の安全を保証する代わりに彼女の知識を提供し続ける契約を交わしたそうだ。
それから、彼女は。

 

「久しぶり、ベゼイラスさん。」

 

ノックをする。暫くすると、扉の向こうから女性の声が聞こえた。

 

「話は聞いているわ。……ラドワ、久しぶりね。」
「まさか、あなたが捕まっているという話を聞くなんて思いませんでした。1年くらい前、でしたか?」
「えぇ、そのくらいだったと思うわ。それにしても……あなたがまさか海竜の呪いを手にして、冒険者をやるなんて思いもしなかったわ。」

 

敬語で、尊敬の念を込めてラドワは話す。
彼女は、ラドワの恩師でもあった。ラドワの家は一家で魔術の研究を行っており、研究者も幾人か雇っていた。父母も魔法が使えたが、ラドワに魔法を教えたのは主に彼女だった。
親と上手くやっていなかったわけではない。むしろ円満な家庭だった。ではなぜ彼女なのかというと、とても馬が合ったのだ。禁術を手にし村を一つ滅ぼし、一切の反省も後悔もそこにはない。
彼女は、どこまでも好奇心旺盛だった。それが満たされるのであれば、手段は択ばない。
ラドワは生まれながらにして、今の性格とは大差がなかった。彼女の両親は、魔法の研究で世の中をよりよくしたいだとか、魔物への対抗手段をより簡単に得られるようにしたいとか、『人のために』魔術の研究を行っていた。それが、ラドワは理解できなかった。
知りたいと思うのは自分の心。それを満たせるのも自分の心。なぜ、人に構うのか。
それが、ラドワという女には分からなかった。だからこそ、ベゼイラスの考え方ややり方は、とてもラドワに合ったのだ。

 

「それで?私の術を教わりに来た、わけじゃないわよね?あぁ、安心して、あなたの両親にあなたの居場所は言わないわよ。そもそも、ここから出られないのだから、教えようがないわ。」
「はい、ベゼイラスさんならそうはしないと知っていますから。
 ……2つ、調べてほしいのです。1つは、『私の扱える魔力の属性』について。」

 

この世界には、霊力、妖力、魔力の3つの力が大気中を動き、またあらゆる生命が保有している。
霊力は、幽霊や神といった精神に関する存在が持つ力。感情的な力で、属性は陰陽の2種類。感情に左右される性質は、想いの力と呼ばれている。聖北の奇跡もこの世界では霊力によるものとされている。
妖力は、東洋に住まう妖怪が持つことが多い力。物理的な力であり、属性は厳密にはない。物理干渉を行う力で、妖力で炎を出すと、それは物理現象としての発火になる。水のある場所で、妖力による発火は行えない。分かりやすく例えると、水の中で炎を発生させられない。
魔力は、西洋に住まう魔物が持つことが多い力。属性を持ち、物理干渉を伴わない。つまり妖力と違い、魔力では水の中で炎を発生させることができる。最も、威力は弱くなるし発動させてからすぐに消える、なんて場合もある。
この3つの力には、それぞれ優劣がある。霊は妖に、妖は魔に、魔は霊に強い。じゃんけんのような強弱関係があり、この3つの力を覆す力が第四の力、科学である。古代文明が、この科学の発達によるものだったとされているが、今現在は滅びている。

 

「それは知っているわ。あなたは水と闇。亜属性で氷の適正もある。」
「あなたが知っているのは、海竜の呪いを手にする前の私の属性です。もしかしたら、変異しているかもしれない。」
「……なるほど。わかったわ、調べてみる。」

 

魔力には7つの属性がある。火、水、風、土、光、闇、無の7つ。更にその属性をいくつか組み合わせることにより生まれる亜属性がこの世界には存在する。
例えば氷は、水と風の亜属性になる。2つの属性の適正は必要なく、どちらかの適正を持っていれば扱える可能性はあるのだ。ただし、2つの適正を持っていれば亜属性を扱うことも容易になり、コントロールしやすくなる。
基本属性は、種族や体質、用いる魔具によって変化する。シーエルフは海の魔力、つまり水と風属性の魔力を生まれながら保有している。しかし、人間の魔力は無属性で微かに有する程度。そこで、魔具を用いて魔力を仕舞い、仕舞った魔力を元に術の行使をするのだ。ただし、人によって使える属性の親和性があるため、扱う際に得意不得意が生まれてくる。
ラドワは生まれながら水と闇、氷属性の親和性がある。……ラドワの睨みでは、これに変化が起きている、と。
ベゼイラスは暫く何かをつぶやき、扉越しにラドワを見つめる。やがて、口を開いてラドワに告げた。

 

「察しの通り、適正が変わっているわ。今は、水と風と闇の基本属性に、氷と雷の亜属性が加わっている。それから、火と土の基本属性、それから樹の亜属性の適正が死んだわ。死んだ分の適正は扱えないと思った方がいいわね。」
「……光の適正は、どうなっていますか?」
「光?……うーん、可もなく不可もなく、ってところかしら?適正があるかどうかって話なら、はっきり言うとないわ。」
「……そうですか。」

 

おかしい。ラドワは、考えこむ。
適正に変化が出ることは当然だ。海竜の魔力を宿したのだから、その魔力による適正が生まれることは至極当然のことで。土や樹が扱えないのも、海の要素としてまずありえないものなのでそれも分かる。

 

「それと、ラドワ。もう一つは?」
「……これ、なのですが。ここに含まれる属性を、答えてほしいのです。」

 

そういって、扉の前でラドワは一つの小瓶を差し出す。
以前、アルザスが魔王を倒す際に放った攻撃……の、飛び散った水だ。依頼人宅から帰るのが遅れたのは、それを回収していたからだった。
ベゼイラスは分かったわ、と短い返事の後、同じようにその小瓶に入った水の属性を、扉越しに調べた。

 

「……水属性と、光属性ね。聖水……じゃ、ないわね。聖水にしては水属性の力が強いわ。魔法で作り出したもの、かしら。」
「はい、まあ、魔法というか、魔力なんですが。……やっぱり、光属性がある。」

 

何か腑に落ちないことでも?と尋ねられる。暫く話すか話さないかを考え……暫くの沈黙の後、語った。

 

「……光属性がある。それが、私にもわかったんです。けれど、私には光属性の適正はない。
 更に言うと、その水……私の仲間が生み出した水なんですけど。その水だけ、光属性があることが見えたんです。試しに精霊宮にも行ってみました。光属性の魔力は、読めなかった。」

 

精霊は、特定の属性の魔力体であると考えられている。光属性の精霊、フォウを呼び出してもらったが姿は見えど属性を感知することはできなかった。
属性を見出すためには、同じ属性の適正を保有している必要がある。あるいは、そもそも属性を調べる術を身につけるか。他にも方法はあるが、基本的にはその2つになる。
それらを踏まえて考えれば、あまりにもおかしなことが起きていた。ラドワは光の適正を持たないが、アルザスの生み出した水に光属性があることを見出せた。これは、本来あり得ないことである。
そして、その水の作り手も、光属性の適正はないはずだ。アルザス、アスティ、それから海竜の呪い。因果関係こそ分からないが、全て同質の魔力であることは分かっている。それならば、自分の適正と、彼らの適正は同じになるはずだ。しかし、自分には光属性の適正はない。よって、必然的に彼らにも適正はない、という結論になる。
だというのに、今もなお色濃く光属性が残る水を作り出せたのだろうか。そう考えると、あまりにも腑に落ちない。聖剣の属性が残っているのだろうか。もし仮にそうだとすれば、自分が光属性を感知できた理由が見当たらない。

 

「なるほど。私としても興味深い現象だわ。……ねぇラドワ、その水、預からせてもらっていいかしら?それと、あなたの言う海竜の魔力も。お代は……私の魔法を何か買ってくれたら、それでいいわ。」
「いいんですか?それはむしろ、私にとってはありがたい話なのですが……」
「いいのよ。私の好奇心が満たせるし、それに私の方でも何かプラスになることがあるかもしれないもの。」

 

ベゼイラスは恐らく、これからも魔術の研究を扉の向こう側で行うのだろう。中には禁術に関係するものもあるのかもしれない。だが、ラドワにとって、それはどうでもいい話だった。
好奇心に駆られれば、その好奇心を満たすまで止まることができない。それでいいし、ラドワもそういう人間だ。

 

「ありがとうございます。それではこのペンダント、あなたにお返しします。」

 

ラドワは首から下げていたペンダントを取り外し、己の魔力を、海竜の魔力を注いだ。
人間は魔力を微弱にしか有しない。そのため、魔力を勝手に備蓄する魔石や、魔力を含んだ魔石を用意することで魔力を用意し、そこから魔力を取り出して魔法を行使する。
元々ペンダントはベゼイラスから譲り受けたものだった。魔力を備蓄する魔石が嵌められており、海竜の呪いを得る前はその魔力を使って魔法を行使していた。だが今は珠の呪いにより、海竜の魔力を自前で用意できるようになってしまったため、不必要となっていた。
扉の下の隙間から水の入った小瓶と一緒に忍ばせる。受け取ったわ、と返事が返ってくると、何か行っているのか数分ほど時間が経過した。何をしているのだろう、と尋ねようとして、術書と先ほどのペンダントが返ってきた。

 

「そのペンダントはあなたが持っていて。多分あなたのことだから思い入れなんてものはないのだろうけれど、師と弟子の思い出の品、ということで私が持っておいてほしいの。魔力の方は、私の持っている魔石の方に移したからちゃんと受け取ったわ。」
「……わかりました。それでは、このペンダントはまた私が預かります。」

 

断る理由はなかった。確かにラドワは、思い入れと言われてもあまりピンとは来なかった。
魔法を使うためにもらって、不必要となったから返す。彼女にとってはたったそれだけだったのだ。
一週間後には解明しておく、と口約束をしたところでラドワは術書をぺらぺらと捲った。
彼女は簡単な氷を生み出す術や死霊術であれば扱うことができる。しかし、戦闘になった際に使える術を彼女は魔法の矢しか会得していない。速度や威力、複雑性。その調整を行う前の魔法であれば、多数知っていた。
内容は単純で扱いやすいものから、複雑でまだ手に負えそうにない術まで様々。属性も効果も数多い中、ラドワは一つの呪文が目に入った。
臓腑より穿つ血潮の刃。敵体内の血液を凝固、剣上に変化させ、血肉を内から貫く術……血塊の刃。

 

「これにします。これがいいです。」

 

なんともまあ、ラドワらしい術である。できるだけ惨劇に、血をまき散らせたい彼女らしい術である。
何となくそれを選ぶ気がしたわ、と扉の向こうから呆れるような声。快楽殺人鬼を自覚したのは家出後なので、ベゼイラスはそもそも知らないはずなのだが。直感からか、それともどこかで聞いたのか。
術の指南は、ラドワには必要がなかった。ベゼイラスの魔法の仕組みの基礎は、彼女の中にすでにあった。後は彼女の魔法の術式と、その術の仕組みさえ知ることができれば十分に扱える。

 

「この状態だと指南に時間がかかって仕方ないのだけれど……あなたなら、私の術の前知識がある分簡単に済んでいいわ。」
「あなたの魔法は、私が一番理解していますから……とは言っても、基本中の基本のことだけ、ですが。」
「十分。それさえ分かっていれば、あとは当てはめるだけだから。」

 

術式の詳細を貰い、こちらの当初の目的も終わった。そこそこ長居をしてしまったので、今日は帰るとベゼイラスに伝える。

 

「それではまた会いましょう、ベゼイラスさん。」
「えぇ、また会いましょう、ラドワ。」

 

師に対して、随分淡泊だった。今でも尊敬しており、気が合うのは確かだが、彼女に対して執着というものがなかった。自分がよければそれでいい。ワールドイズマインの世界で生きる彼女にとって、両親や師に対してさえ思い入れを感じることがさほどなかった。
……ただ、今は一人、例外がいるが。

 

「ふーん。監獄に何の用事だろうって思ってたんだけど、そういうことだったのね。」

 

牢屋を出て、日の光を浴びて暫く。昼食をどこで済まそうかと考え始めたところで、後ろから声をかけられた。誰よりも自由で何でも縛ることのできないエメラルドグリーンの娘、ロゼだ。

 

「やっぱりあなた付けてたのね。気配を消していても、同質の魔力を持っている以上私には筒抜けよ。」
「バレてても追い払わないじゃない。ついてこないで、って言われたら別の手で探りを入れるわよ。」
「結局探りを入れようとしてるじゃない。あなたそういうところよ。」

 

いやラドワには割と言われたくないと思う。
それで、と、ロゼはラドワの隣に並ぶ。共に歩きながら、ロゼは顔を見ないままラドワに話しかけた。

 

「怖い?」
「何が。」
「自分のことが分からないことが。腑に落ちない属性の話。よくわからない何かが起きている。あんたでも怖いって思ったりすんのかなーって。」
「いえ別に。全然そんなこと一切ないんだけれど。」

 

よねぇ、と鼻で笑う。腑に落ちないから気になって、興味があるから調べつくす。今回の行動はそうだということは知っている。
知っているから、あえて聞く。

 

「じゃあ、何で他の仲間には黙ってるのかしら?」
「いや……私の興味や趣味に他の人を巻き込んだら私が面倒くさいじゃない。中途半端にしかわからないことで勝手に不安になられたら、その質問全部私に投げかけられるでしょう?冗談じゃないわ、それだったら黙って調べる方がずっといい。」
「うーーーーーんやっぱそういう人よねぇあんたって人はぁーーーーーー」

 

はーーーーー、と、それはもう大きなため息が出た。なんのこと?どういうこと?と、ただひたすらラドワは困惑した表情を浮かべていた。
ちょっと人間らしいところを見せてくるようになったかなー、と思ったが、なんてこったいやっぱり人の心がなかったよ。賭けに勝利できる日はまだまだ遠そうだ。

 

「そういうわけだから、宿の皆には黙っておいてちょうだいね。全部分かったら話すから。」
「はいはい、分かったわよ。あ、そうだ、一緒にお昼食べていい?嫌だったら別のとこで食べるけど。」
「いいわよ、一緒でも。それじゃあ、リューンの木の葉通りで何か食べて帰りましょう。」

 

そう言って、2人は木の葉通りの適当な喫茶店でたわいもない話を交わし、食事をして海鳴亭に帰るのだった。

 

 

―― 海竜の魔力
海に関する属性を持つ。水と風の基本属性、氷と雷の亜属性を持つ。火と土の基本属性、樹の亜属性の適正が消える。光と闇の属性は不明。ただし、元から自身の体質的に存在する闇属性は消えていない。

―― 今回の光属性の一件
アルザスがスライプナーに魔力を通し、生み出した水が光属性を持っていた。スキを見てアルザスの聖剣にアルザスごと水をぶっかけてみたが、水に変化はなし。海竜の魔力が光属性に関して何か特別な性質があると考えるのが妥当か。最も、現時点でこの推測を証明する手立ては今のところ思いつかない。
余談:その後めちゃくちゃアルザスに怒られた。

―― 光属性の感知
精霊宮に足を運び確認。自分自身は不可。また、光属性の術を扱おうとしたが上手く行使できない。自分の光属性の適正はないと見てほぼ間違いないだろう。

―― その他、気になること
・アスティの魔王に対する攻撃への耐性
・クレマンの銀に対する耐性(水に対する耐性に関しては海竜の魔力の性質から十分理解できる)

 


「…………」

 

夜、全員が寝静まったころ。ぱたり、ラドワは本を閉じる。
己が分からないことに対する恐怖も特にはない。仲間への気遣いも彼女にはない。
ただ、興味があるから調べ、好奇心のままに動く。相変わらずだ、と言われてもこればかりは仕方ない。

 

「さて。新しい術を試させてもらおうかしら。……紅い花を効率よく狂い咲かせられる、この術の、ね。」

 

黒色の外套を纏い、できる限り静かに部屋を出る。
今日も、名前も知らない誰かが、紅い花を咲かせて殺された。

 

 

 


☆あとがき
普通に次のシナリオの導入の一部として書いたつもりが、なんか普通に長くなったので1話として確立させました。うちのカードワースの世界観(というよりも、全世界に対する説明なんですが)というか、仕様をお話しさせていただきました。覚えておいてもなくても問題はない内容ですが、多分覚えておいてくださる方がうちのリプレイは読みやすい気がします。とりあえずは、

 

・霊力、妖力、魔力の3つの力があるよ
・↑は科学で覆せるよ
・神様とか幽霊は霊力、妖怪や妖術は妖力、魔物や魔法は魔力だよ
・霊は妖に、妖は魔に、魔は霊に強いよ
・霊力は陰陽の2属性だよ
・魔力は火、水、土、風、光、闇、無の7属性と氷、雷、樹、毒、金等々、基本属性から派生した色んな亜属性があるよ(もう1種類属性があるけどそれはまだでないよ)

 

これ覚えておくとうちの創作や定期っ子の把握に役立ちます。

そして、四色の魔法陣のベゼイラスさんは、このカードワース世界ではラドワさんの恩師ということにさせていただきました。魔法が扱えて、程よくアレな感じな人がほしかったので……さほど明記されている設定もないので凄くこう、ありがたくってですね……

 

☆その他
・所持金
4150sp→250sp
『血塊の刃』をラドワへ

 

・キーコード(すまない私はキーコードをスキルで持たない派なんだ……!!)
『鑑定』『開錠』→ロゼ(バックパック
『解読』→ラドワ

(キーコードは『鍵のない庭』より。1つ1000sp)

☆出展

飛魚様作 『四色の魔法陣』より