海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_10話『相棒探しの依頼』

※終始ほのぼののゲイカペ回

※緊張感なんてどこにもなかった

 

 

「隣町まで薬草の買い出し。期限は半日。報酬50sp。」
「却下。」
「下水道の定期点検。期限は1日。報酬100sp。」
「却下。」
「ボディビルインストラクターの助手。期間は一か月。日当80sp。完璧な筋肉と薔薇のオマケつき。」
「却下!!」

 

依頼の内容を読み上げるゲイルに、却下と半ギレになりながら吠えるカペラ。
アルザスとアスティが依頼を受けて飛び出し、ゲイルとカペラは依頼探しが難航していた。
もしアルザスよりも依頼に手をつけるのが早かったら、この2人がメトウラ山へ薬草を探しに行っていたのだろうが……そこはまあ、ゲイルが起きるのが遅くなかなか依頼を探すに至らなかったから仕方ない。
2日も無駄に過ごし、今日はそろそろ動きたい。しかし、これという依頼が見つからないのであった。

 

「おや、その張り紙に興味が……なさそうだな。」
「ないよ。」

 

亭主の問いかけにカペラはすっぱり言いのける。はぁーーーと、くそでかため息をつきながら2人はカウンターに突っ伏した。

 

「2人でやれる依頼ってなっとロクなもんねぇな。」
「だねぇー。ロゼロゼも復活しちゃったし、アルアルたちが帰ってくるまでの暇つぶしにしかなんないよこれ。どーしよ。」
「よくアルザスたちゃ美味しい依頼持ってったよな。ちぃと拘束期間が長ぇけど。」
「ま、そこはしょーがないよ。ちょっと安いけど、危険性はなさそうだしそこそこ美味しい依頼だと思う。」

 

実際はこの日帰ってくるのだが、それをカペラたちは知るよしもない。
とにかく、あまりにも依頼が見つからないので親父さんなんかいい依頼ちょーだーいとごねてみる。昨日一昨日もやっているけど、とりあえずごねてみる。

 

「条件として、今日一日潰せるくれぇの仕事量で。」
「あんまり身体を動かさなくて、怪我の心配もないこと。」
「報酬は気前よく。」
「怪しくない依頼人。」
「それかr
「もういい、もういい。お前ら高望みが過ぎるぞ。」

 

だってまだ新米だししょうがないよねー、と顔を見合わせる。
仕事に対してやる気はあるのだけれど、2人だけで受けられる依頼となると限られてくる。確かに高望みをしている部分は否めないが。
亭主もため息をついて、ばんっと依頼を突きつける。今日一日、安全で肉体労働少な目、信頼できる依頼人だそうだ。

 

「なんだって?『僕の相棒を探してください』?」
「人探しかぁ。依頼人はどこー?」
「そこにいる。おーい、ラルゴ!依頼を受けるやつが見つかったぞ!」

 

亭主が大声で、ラルゴという名前を呼ぶ。するとテーブル席の一つから桃色の髪に黒いバンダナを巻いた男性がこちらに近づいて来た。年齢は10代後半くらい、だと思われる。

 

「初めまして。ラルゴと申します。ええと、あなた達が依頼を受けてくださるんですか?」
「うーうん、受けるかどーかは詳しい話を聞いてからだよ。とりあえずは話を聞かせてもらえる?」
「はい!なんでもお尋ねください!」

 

随分とハキハキしてるなぁと思いつつ、堅苦しい依頼人よりは2人にとって随分とやりやすい。
緊張感のないカモメの翼の、特に緊張感のない2人がラルゴにあれこれ尋ねた。

 

「そんじゃま、捜索依頼について詳細聞いてもいーい?」
「勿論です。大まかには、昨日から行方不明になった、僕の相棒を一緒に探してください。」
「行き先に心当たりはねぇのか?」
「多分、リューン近郊の森です。いつもその辺りにいたので。厄介な妖魔の噂もありませんし、危険は少ないかと。」
「ま、何か出たらあたいに任せろ。腕っぷしゃ誰にも負けねぇからよ!」

 

君はただ戦いたいだけでしょ、と横やりを入れる。ミュスカデと対峙してから斧を握っていないわけではない。ゲイルは戦闘狂の呪いの副作用を満たすため、闘技場に足を運んで戦っていた。
ラドワと違い、ゲイルは戦うだけでいいのである。強敵であればあるほど燃えて、接戦になればなるほどその精神は満たされる。戦闘の高揚感が、何よりもの薬なのだ。

 

「期間は今日1日。遅くとも、日が暮れる頃には森を出ます。」
「なるほど。じゃ、次。君について教えて。今日だけかもしんないけど、一緒に行動するんだったら知っておきたいからさ。」
「僕……ですか?」

 

自分のことを尋ねられるとは思っていなかったのだろう。己を指さして、きょとんとしていた。
自己紹介を促すと、何から話そうかと悩み少々間が開いた。

 

「えぇと、僕はあなた方と同じく、ここで冒険者をしています。」
「えっ、マジで?全然知らなかったんだけど。」
「はい、マジです。まだまだ経験は浅いですが……」
「こいつの実力はともかく、人となりはワシが保証しよう。」

 

事実ですが他人に言われると傷つきますよ!?と、ラルゴのツッコミ。わーい新米仲間だー、と、カペラは楽し気な反応をしていた。
カモメの翼よりも先に冒険者になっていたため、アルザスやアスティよりは先輩ではある。ただし、ロゼやラドワの方がもしかしたら彼よりも冒険者歴は長いかもしれないが。

 

「親父さんのお墨付きかぁー。ねぇ、1つ聞いていい?何で仲間に手伝ってもらわないで依頼を出してるの?」
「あぁ、他に仲間がいないからですよ。」
「2人だけでやってんのか。大変そーだなぁ。」
「そうですね。ゴブリン退治も一苦労です。」

 

2人でゴブリン退治がこなせるなら、そこそこの実力はある気がする。
それなりには冒険者やってるんだなぁと思いながら、カペラは次の質問を投げかけた。

 

「じゃ、次。相棒の特徴を教えて。」
「名前はアレグロ。年は僕と同じ、16歳です。いつも元気で人懐っこい性格。歳の割に幼いですね。」
「ふんふん、最後だけカペラたぁ逆だなぁ。あ、外見の特徴は?」
「そうですね……背丈は僕と同じくらい。水色の瞳が印象的。スラッとした体形で、顔は整ってると思います。」
「んー……アルアルみたいな見た目かな。背はもうちょっと低そうだけど。」

 

最も、アレグロという名前だと男か女か分からないが。どちらでも違和感のない名前である。
特徴を聞いて、羊皮紙にカペラは書き込んでいく。ゲイルはメモが残せないのでふーんと聞き流している。冒険者として大丈夫?あ、カペラが聞いてるから大丈夫ってか。そうかぁ。

 

「じゃ、最後。報酬はおいくら?」
「成否に関わらず100spお支払いします。」
「100sp?」
「……ごめんなさい。毎日の生活が大変でこれ以上は……」

 

申し訳なさそうにする依頼人だが、相手はカペラとゲイルである。子供だったら許されたかもしれない。あるいはアルザスやアスティだったら許されたかもしれない。しかし、相手はお人よしとまではいかないショタと何だかんだ面倒見はいいもののあくまで対子供のゲイルである。明らかに渋っている。

 

「ちょーっと100spは安いなー?僕たち今ちょっと大変でさー、ロゼロゼの……仲間の治療費の分働かなきゃいけないんだよねー。だからもーちょっと色を付けてほしーなー?そんな無茶は言わないから。ね、ちょっとだけ、ちょっとだけでいいんだよ。」
「う、すみません、でも、」
「増額『しろ』。」

 

あっ、使った。この人呪いの力を振るったぞ。

 

「ううっ……じゃ、じゃあ150spで……」
「やったあ!わーいありがとー!恩に着るよ!」
「オニか。お前らオニか。」

 

流石カペラさん容赦がない。
嬉しそうにゲイルとハイタッチ。ゲイルは何もしていないような気がするが、そこはまあノリと流れで問題ないだろう。第一彼女は荒事専門なので、今はまだでしゃばるときではない。

 

「よし、そんじゃ森だよな。早速向かおうぜ。」
「受けてくれるんですね!ありがとうございます!」

 

2人は依頼人と共に、リューン近郊にある森へと向かう。
特に何があるわけでもなく、喉かで他の冒険者が鍛錬場所として使うこともある。迷子か何かになったのだろうか、それとも怪我をして動けなくなったとかだろうか。カペラは道中でそんな推測をしながら歩いていった。ゲイル?面白いものが居たらいいなぁくらいのお気楽な思考だよ。

 

  ・
  ・

 

「この辺りですね。」

 

明るい森だった。時々人為的に傷ついた木や、踏み荒らされた地面を見つけることができた。先ほど述べた、冒険者の鍛錬の跡だろう。
カペラやゲイルはこの場所を使ったことはないので、この森の地理情報はない。とはいえそこまで複雑な森でもないので、すぐに戻ってこれるだろう。

 

「風が気持ちいーな。」
「日差しも丁度いい感じだね。」
「この辺歩いて弁当食って、木陰でゆっくり昼寝してぇな。」
「ピクニックだね!アルアルにご飯作ってもらって皆で来るってのいーね、今度そーしよ!」
「……あの、依頼中ですよ?」

 

ごもっともである。その指摘に2人はそうだよ?と言わんばかりに不思議そうな顔を返した。
依頼中だと分かっていてこの雑談である。流石カモメの翼の光の2人組。全くもって緊張感がない。この様子にも、依頼人は不安で表情が引きつっていた。そらあそうだ。

 

「うーん……こんな天気だと眠くなっちゃうからダメだね。」
「いっそ昼寝でもすっか?」
「おっ、いーねいーねぇ。」
「……あの。」

 

思わず挙手。分かってる分かってる冗談だよ、と2人はけらけら笑う。本当にこいつら緊張感がないな。依頼人も不安!と心の中で叫ぶしかできない。
いつもは盛大にツッコミを入れてくれる優しい人がいるのだが、この依頼人にはその役は荷が重いのだろう。いやそもそも依頼人にツッコミを求める方がおかしいのだが。
そんなお気楽一行は特に問題に直面するでもなく迷子になるでもなく、森の深くへとやってきた。深くといってもさほど深い森ではなく、30分ほど進んだくらいの場所に当たる。

 

「どこにもいないねぇ。音がしたら僕が分かりそうだし、気配があったらゲンゲンが分かりそうーなんだけど。」
アレグロはこの辺りがお気に入りだったはずですが……」
「おっけー、じゃあこの辺を重点的に――」

 

探そう、と言おうとして。
響く咆哮。聞いた覚えのない生き物の声。記憶から該当する生物を探し当てようとするも、どれもこれも合致しない。

 

「な……なんだ?一体何の声だこれ?」
「声の方向からして……こっちだ!」

 

ダッとカペラが走り出したので、ゲイルとラルゴはそれに続く。
その生き物は隠れることなく、あっさり3人の目の前に現れた。その生き物を前に、カペラとゲイルの2人は思わず言葉を失う。

 

「…………」
「…………」

 

黒い身体に蒼く光るような模様。不気味に輝く蒼い瞳。長いマズル。鱗で覆われた身体。体長は5メートルくらいはあろうかという、巨大な巨大な爬虫類。


――ドラゴンが、そこにはいたのだ。

 

「はああぁぁぁぁあああ!?ドラゴン!?何でんなとこにいんだ!?」
「あっ、アレグロ!」
「えぇぇぇぇぇええええ!?いや、いやいやいやまってなんの冗談!?いやだってこれ、ドラゴンだよ!?あれが相棒!?」

 

2人の取り乱しっぷりに、あれ言ってませんでしたっけ?と顔色一つ変えず、むしろあれれおかしーなーという表情を浮かべる依頼人。聞いてないよ!!と全力で訴えるもてへぺろしか返ってこない。

 

「だ、大体聞いた外見だって……水色の瞳、スラッとした体形、整った顔、だったけど?」
「合ってるじゃないですか。」
「いやあたいが想像してたんとかんなりかけ離れてんだけど!?」
「てかめっちゃくちゃおっきくないあれ!?僕の知ってるドラゴンより多分ちっちゃいけども!」

 

竜災害のドラゴンは聞いた話によれば、数キロ離れた場所からでもその存在がドラゴンだと認識できるほどの巨大な蛇のような竜だったと聞く。当事者であるアルザスに聞くのが一番手っ取り早いだろう。トラウマ?知らない。
2人は間近で見たわけではないのでドラゴンに対してそこまで恐怖心はない。そもそも他の者たちも、実はドラゴンそのものに対しては特に敵視やトラウマはなかったりするのだが。
それはそれとして、依頼人は見つかって嬉しそうな表情をしているわけで。でも知っているドラゴンとは少々違うかったようで、何でだろうと首を傾げる。

 

「変なものでも食べたんですかね。まあ、性格は人懐っこくて良い子なので安心してください!」
「何を食べたら1日でこーなんのさ……」
「シャギャーーー!!」

 

良い子、というが今にも襲ってきそうな咆哮を上げる。小型といえどドラゴンはドラゴン。あらゆる生物の頂点に君臨する幻想の生命。その気迫に、普通の冒険者であれば威圧されたことだろう。
しかし、そこは頭の呪いを持ち君主に君臨すべく心を持つカペラに、腕の呪いを持ち戦闘に身を投じなければ生きていけないゲイル。

 

「……なあ。ドラゴン退治ってさ。ロマンだよな。」
「それは分かる。凄く分かる。……幸い、相手は小型のドラゴンだし……」

 

タンバリンと、斧を構える。にぃ、と笑ってみせて、

 

「倒すぞ!!」
「いえっさ!!」
「えっ、ちょっとーーー!?」

 

なんということでしょう。依頼人の相棒だというのに、ぶちのめそうとし始めたではありませんか。
流石にドラゴンと言えど相棒は相棒。ラルゴは全力で2人の首根っこを掴み、歌と風の全力の静止を図る!

 

「いやいやいやいや!僕の相棒を倒さないでください!せめて逃げましょうよ!」
「えー。」
「えー、じゃ、ありません!一旦退却します!依頼人命令です!」

 

この依頼人なかなかにツッコミの才能があるな。
しょうがないなぁ、となりながらもカペラとゲイルは応じる。しぶしぶ、されどドラゴンの夕食にならないよう全速力で逃げた。

 

  ・
  ・

 

「はあっ……はあっ……か、帰ってきましたね。」
「だね。じゃ、これからどーしよっか。僕だったら力づくで『言う事聞かせられる』んだけどなぁ。」
「もう手っ取り早くそれでいーんじゃね?」
「よくないです!」

 

カペラの言霊の力は永続ではない。定期的にかけなおしていけば、いずれはそれが精神にすり替わり永続の効果をもたらせるのだが、その前にうっかり効果が切れて宿が崩壊しました、なんてこともあり得るわけで。
ドラゴンのせいで居場所がなくなった、となれば今度こそアルザスが立ち直れなくなってしまう。ロゼも黙ってはいないだろう。後の人たちはなんだかんだ諦めて次の宿を探しそうな気がする。ラドワとか特に。
無理やりでは意味がない。そもそもドラゴンは本来はもっと小さかった。恐らく宿で面倒を見てもいいと言ってもらえる程度のサイズだったと思われる。状況の整理だけは行おっか、とカペラが提案し、ラルゴに尋ね始める。

 

「いくつか聞かせてもらうよ。
 第一。もう一度確認するけど……あのドラゴンが探してた相棒、アレグロだよね?」
「はい!」
「第二。いつの間にかおっきくなっちゃってたけど、連れて帰りたい。」
「そうですね。このままだと狩られてしまいそうですし……」
「あたい狩りたい。」
「やめてください。」

 

うずうずしている。戦闘狂がうずうずしている。
どうどう、とカペラが静止の声を投げかける。こいつもさっきノリノリだったけどな。

 

「てか、そもそも何で行方不明になってたんだ?」
「よく分からないですね……先日奮発していい食事をあげたら、すごく興奮した様子で飛び出しただけですし。」
「それだよバカ!!!!」

 

思わずタンバリンで依頼人の横腹をべし、と殴る。いたっ、殴らないでください!と悲鳴をあげるもお構いなし、問い詰めるように質問を投げる。

 

「そのエサはどこで買ったの?」
「路地裏にある店です。何なら案内しますけど……あっあとエサじゃなくて食事って言ってください!」
「はいはいエサエサ。」
「食事!!」

 

聞く耳を持たない惨い返答。ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、2人はエサを買ったという店へと案内してもらった。
路地裏にある小さな店がそうで、口だけの説明ではまずたどり着けないような、分かりにくい場所にあった。中に入ると銀髪紅目にフードを被った、女性とも男性とも見てとれる推定人間が現れる。どうやら彼(彼女かもしれない)が店主のようだ。

 

「……いらっしゃい。」

 

控え目で、口数が少ないといった印象を受ける。商品を見て見ると、暗殺に使えてしまいそうな怪しい薬や効果の程が分からない惚れ薬など、なんかやばそうな薬がいくつか並べられてあった。こんなもの並べていていいのだろうか。路地裏の分かりにくいお店だし、大丈夫かな。うん、大丈夫と信じよう。

 

「よくこんな店見つけたな。」
「裏通りは安い店も多いから、よく歩くんですよ。」
「……そんなにお金がないの?」
「それもありますし、あとは単純に探検気分で面白いですね。」

 

へぇーと声を上げる。そういえばあまりカモメの翼の皆で遊びに行く、あるいは特定の誰かと共に休日を過ごす、ということは今のところやっていないなと気が付いた。今度アルザスに提案してみてもいいかもしれない。

 

「もしどっかで休日をもらったら、今度この辺散歩してみねぇか?」
「いーねいーね!掘り出し物探そ!」
「チンピラには気を付けてくださいね。」
「あ、それなら大丈夫だよ。全部ゲンゲンが嬉々としてぶちのめしてくれるから。僕後ろで応援してる。ただ殺しそうになったらそのときは止めるけどね。」
「ヒエッ」

 

どっかの誰かじゃないものの、うっかりやりすぎてしまうということは十分に考えられる。
そういう意味でも、カペラはゲイルのストッパー役として傍についている方が皆が安心するのだった。うっかりだって、犯罪に手を染めたってなったら笑えないし。

 

「んー……エサっぽいのがないなぁ。
 店主さーん。この人に売ったエサってどこにありますか?」
「……エサ?」

 

こてり、首を傾げる。覚えていないのか、実は別のところで買ったのか。

 

「僕が先日買ったものですが……あの『とっておきのごはん』です。」
「……ああ、あれかあ。うん、確かに売ったね……君に。
 よく覚えてる……増強剤を多めに入れた、かな?……あれはもう売り切れ。気が向けば作るから……また今度、ね。」
「いや、それが欲しいんじゃなくって……」

 

事情を説明する。その餌を食べたことで急成長を遂げてしまったので、どうにかして元に戻したいのだが術はないだろうか。その説明を受けてなるほど、とがさごそ何かを漁り始めた。

 

「……そういう事。なら、これを食べさせたら……うん、いける……はず。
 ……ドーピングした子も一発でしおしおに。きみたち、良い人そうだし……うん、これはタダであげる。」

 

そう言って、店主はエサの入った紙袋を手渡す。ぱっと見ただけではこれが特別何かの効果があるかどうかは分からないが、ひとまず信じてみるしかなさそうだ。

 

「ありがとな!そんじゃ、早速もっかい森に行ってあのドラゴンに食わしに行くぞ!」
「間違ってもドラゴンを退治しないようにね?」
「あなたもですからね?」

 

さっきノリノリでドラゴンにつっかかっていったのはどこの誰だ。少々怨念が篭りながらの鋭いツッコミ。なんのことかなー?とけらけら笑い適当に誤魔化し、3人は再び森へと向かった。

 

  ・
  ・

 

「そーいやアレグロたぁ付き合い長ぇのか?」
「生まれた時から一緒ですね。」
「生まれたときから!?」
「どんな家庭環境なの!?」

 

生まれたときから竜の呪い持ちだったカペラだが、流石に竜と生まれたときからずっと共に、というのは想像がつかなかった。どうやら同じ日に生まれた竜を友とするという、彼の生まれた場所での習慣があるそうだ。

 

「僕の姉も竜と一緒に冒険者してますし。」
「へ、へぇ……姉貴と組むこたぁ考えなかったのかよ。」
「それは考えましたけど、あのリア充ぶりを見せつけられると殴る壁が足りません。
 ゲイルさん、僕と付き合ってくれません?」
「えっ」
「よかったね、春が来たよ。」
「いや……選ぶ権利ってやつがあんだろ……」

 

ないわーーー、って顔。完全に今のは誰でもいいから付き合いたいのノリである。
ぐっさりダメージを食らっていたが、なよなよした人をゲイルが好きになるはずもなく。少なくとも彼女より強くならなければ、ゲイルは振り向かないだろう。
雑談を交わしながら、森の奥へと進んでいく。初めに発見したときから動いておらず、簡単に発見することができた。

 

「いました!アレグロです!」
アレグロ、ご飯だよ!」
「シャギ……?」

 

袋を開いて、ドラゴンの近くへザーッと撒く。うかつに近づくとがぶりとされかねないので、ちょっと遠くから。
ご飯と認識できたようで、のしのしと近づいてくる。そして、豪快にがつがつと餌を食べ始めた。美味しいかどうかは分からないが、一心不乱に食べている。

 

「……美味しそうだなぁ。」
「分かる。めっちゃ美味しそう。」
「分かんねぇ。食うなよ。」

 

貧乏冒険者と大食い冒険者に、念のため釘を打っておく戦闘狂冒険者。でもそいつだって前に盗賊のアジトで動物を誘き寄せると考えつくべきものを食べようとしたので、あまり人のことは言えない気がする。
ぺろり、完食するドラゴン。何も起きないか?と思われたが、変化はすぐに訪れた。

 

「シャ……?」

 

突然白い光に包まれたかと思うと、そのまま身体がみるみるうちに小さくなっていく。5秒ほどすれば光は収まり、そこには体長は1メートルほどの、くりくりとした瞳の可愛い顔つきのドラゴンが元気そうな姿で存在していた。

 

「ピギャー!」
アレグロ!」
「だいぶチビになった……けど、やっぱでけぇな。」

 

愛嬌ある表情でラルゴに近づき、足元に頬ずりをする姿を見て苦笑した。流石にこのサイズのトカゲにすり寄られれば、うっかり斧を振り下ろしてしまいそうな気がする。
ラルゴは慣れっこなようなので、再開を喜んでいる。種族は異なれど、種族を超えた友情には感心を覚えた。

 

「でも、いつものアレグロです!ゲイルさんたち、ありがとうございます!」
「どーいたしました!そんじゃ、日が沈む前に宿に戻ろーぜ!」

 

空を見ると、日は傾いていた。
森に残る理由も特にないので、森を後にして真っすぐ海鳴亭へと帰っていった。……道中、ドラゴン連れということで大変ざわざわされたが、それはまた別のお話。

 

 


「帰ったぜ!」
「親父さん、見てください!」

 

帰ってくると、まっすぐに亭主の方へ向かう。アレグロが見つかったと、ラルゴは嬉しそうに伝えた。ピギャーと、アレグロも元気のいい声を上げた。

 

「おお、元気そうじゃないか。よかったよかった。」
「……親父、アレグロが竜って知ってたんだな。」

 

勿論だとも、とあっさり答えられる。宿にドラゴンってどうなんだろう、問題じゃないのかな、と色々思うことはあったが、今日この日まで知らなかったということは上手くやっているのだろう。

 

「それより報酬の受け渡しはもう済ませたのか?」
「あっ、まだです。ええと……はい、どうぞ。
 改めて、アレグロを一緒に探してくださってありがとうございました。」

 

袋から銀貨を取り出し、ちょうど150spをゲイルに手渡す。ただ、やっぱり金銭事情がかなり厳しいのだろう。ちらっと2人の方を見ながら、やっぱり100spに減らしてくれたりはしない?と尋ねてみる。
まあ勿論しないんですが。容赦ない、ゲイルのしねぇの一言。無慈悲だ。

 

「うう……分かりました。アレグロ、部屋に戻ろう……今日からまた節約生活だ……」
「ピギー……」
「お前らオニか。」

 

どんなに金銭事情が厳しくても相場以下だし、150spは150spだからね、とカペラからも無慈悲な一言。
ところで、と少々真剣な表情でゲイルは亭主に尋ねる。

 

「竜が宿に居るって、色々と大丈夫なのかよ?」
アレグロは人懐っこくて良い竜だ。飼い主もいるし、追い出す道理はないだろう。
 それに、竜より危険な奴がゴロゴロいる海鳴亭で小さい竜1匹くらい平気だ。」

 

せやな。対生物兵器の2人を抱えていることを思うと、人懐っこくて聞き分けのいいドラゴンの1匹くらい大丈夫って思えてくるな。
依頼を終えると、カペラとゲイルを呼ぶ声がどこからか聞こえてくる。そっちの方向を見ると、ロゼが呼んでいる姿を見つけることができた。ラドワとアスティもそこに居た。

 

「あれっ、アスアスじゃん。戻ってきてたの?アルアルは?」
「はい、少し前に。依頼中に馬を借りれたので、その分早く終わりました。報酬もなかなかもらえましたよ。アルザスは今は部屋で眠っています。そちらの依頼は?」
「150spってしょっぺぇ依頼だったけど、まあ、楽な方だったな。てかびっくりしたぜ、この宿、ドラゴンと冒険者してるやつがいるんだぜ!」
「え……ドラゴン、ですか?」

 

もれなく3人共、驚いた表情になった。害がないと言ってもねぇ、と思わず顔を見合わせる。

 

「まあ……あたし達って、ドラゴンに人生振り回されてるからちょっと受け入れがたいものがあるわよね……」
「え、そうかしら?私は別に構わないのだけれど。」
「あんたねぇ、そりゃああんたは望んでその呪いを手にしたから問題ないでしょーけど。」

 

ロゼは少々気になるものがあったみたいだが、それまでのようだ。ラドワは全く持って気にする様子がない。
ただ、アスティだけは。

 

「……なんか気になっことでもあったか?」
「……ん、あぁ、いえ。多分、何でもないです。」
「?ならいーけどよ。」

 

何かひっかかることがあったのか。どこか、思いつめるような表情を浮かべていた。

 

「じゃ、ロゼの快気祝いにぱーっとやろーぜ!報酬も入ったしよ!」
「さんせー!今日はいっぱい食べるぞー!」
「でしたらアルザスを呼んできます。夕食はまだですし、快気祝いとなれば彼も参加したいでしょう。」

 

そう言って立ち上がり、アルザスを呼びに自室へと向かう。
その頃には、ひっかかりを覚えたことなど忘れ、何事もなかったかのように彼の元へと向かうのだった。

 

 

 

☆あとがき
恋愛関係のなく1点以上経験値の2人用、という決め方だったのですが……これ、割と重要な回になりましたね……?いやこの話自体にはそこまで深いあれそれはないのですが!
今回はゲイカペの軽いお話でした。このシナリオ、いろんな関係性で楽しめるのでここまで普通な関係だとかなり勿体ないやつですね。キノコはこれからのノリのCPとか、主従関係なんかで突っ込むと新鮮さがあって楽しいかもしれませんよ。ゲイカペはゲイカペしました。

 

☆その他
所持金 2650sp→2800sp

 

☆出展

ミナカミ様作 『相棒探しの依頼』 より