海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_9話『机上の冒険』

※終始ほのぼののロゼラド回です

※かなり短いよ

 

 

「今、あなたは洞窟の中にいます。」
「…………は?」

 

これはオルカの襲撃があってから2日後のこと。つまり、アルザスが依頼を受けて出かけた次の日の出来事である。
岩を投げられ直撃したゲイルと比べ、胸を一突きされ2、3日の療養を絶対とされたロゼの方が本来ならば軽傷でありそうな印象があるかもしれない。だが、ロゼはさほど身体が頑丈ではなく、更にクレマンは『相手が絶命する急所』を的確に見つけ、抉ってくる。今回はずれたが、その急所ギリギリを攻められており、更に吸血鬼の種族としての魔力が込められていたようで。抉られた傷は、治療に少々時間がかかるそうだ。
不幸中の幸いといえば、クレマンの武器は銀でできた短剣だ。そのお陰か、吸血鬼の魔力の影響はかなり小さいものだった。彼女は分かって銀の短剣を使っているだろうし、『そんなものがなくても一刺しすればなんでも殺せるからいらない』とさえ思っているのかもしれない。
で、ベッドに寝かされて暇を持て余していると、ラドワが突然そんな話を切り出してきた。あまりにも突拍子すぎて、ロゼは理解が追いついていない。察しが悪いわね、と言いたげにラドワはあからさまにため息をついた。

 

「そういう設定の話ってことよ。
 あなた、ずっと寝た切りだし話のネタも尽きてきたわ。それで明日には動けるでしょうけど、2日も丸々寝転がってたら鈍ってるでしょう?それで、ここいらで1つ空想の話でもしましょう、と思ったの。」

 

はぁ、と、間抜けな返事をする。イメージトレーニングよ、と一言でまとめるとラドワは人差し指を上に立てながら、空想を語り始めた。
言っていることはギリギリ分からなくもないし、何よりも暇であることには変わりない。ラドワの提案を飲んで目を閉じ、ロゼは空想に身を投じることにした。

 

「……あなたが洞窟内を見渡すと、道が3本あります。どの道を選びますか?
 さあ、目を瞑って。想像してください。あなたは、どの道を選びますか?」
「ねえ、ラドワ、」
「あなたはラドワの事を思いました。しかし、ラドワは今日はいません。
 今日のあなたは、1人でこの洞窟を進まねばならないのです。」

 

いないと言われてしまった。イメトレとはいえ進行形で怪我人を一人で洞窟探索に向かわせるのか。この女クソだな。
これはもう緊張感のない冒険になる予感しかない。いやそもそも空想で冒険をして緊張感が生まれる方が難しい。

 

「……ちなみにその頃ラドワは何をしているのかしら?」
「ラドワならスラム街で手ごろなチンピラをぶちのめしています。」
「あんた空想の中でも脳内お花畑なのね。悪趣味な紅色の。」
「良いじゃないの。空想の中なのよ、自分の好きにしたいじゃない。」

 

自分の好きなようにした結果、人殺しのシチュエーションというのは流石にどうかと思う。今に始まったことじゃないので大した驚きも引く気もないが、悪趣味だとは思ってしまう。
悪趣味と、思える。その事実にほっとしながら、空想の中の洞窟をロゼは進む。

 

「それじゃ、真ん中の道を進むわ。」
「あなたが北に進むと、そこには更に奥へと続く道、それから宝箱が1つありました。」
「……宝箱、ねぇ。」

 

パーティ内で盗賊の役割を持つロゼとしては、やっぱり空想の中と言えど宝箱には興味が生まれるわけで。具体的に、かなり詳細に調べ方をラドワに告げる。流石にそこまでリアリティは求めてないから、と呆れられた。職業病だもん、しょうがないよね。

 

「凄く詳細に調べましたが、罠は特にありません。
 他に気になることは、鍵穴の代わりに、4桁の数字を入力する部分があることだけです。」
「ダイヤルロック?……ちょっと待って、考えさせて。」

 

流石にでたらめな数字では適当に入力した、と認識されてしまって鍵を外れないだろうと判断。それで、納得性のある、ランダムではない何か4桁の数字を伝える必要があるだろう。
暫く考えて、口にした数字は。

 

「……0、9、0、2で。」
「……あら?それは……私の誕生日かしら?」
「そうよ。これじゃ駄目かしら。」

 

目を瞑っているため、ラドワの表情をロゼが知るよしもない。暫く間が開いてから、ラドワは宝箱は開きましたと告げる。絶対こいつちゃんとした答えを設けてなかったな、と内心思っているとラドワは言葉を続けた。

 

「よく私の誕生日なんて知っていたわね?」
「ほら、あんたと一回誕生花の話をしたことがあったじゃない。あんたの誕生花、チューベローズだったから印象に残ってて。快楽殺人鬼の誕生花の花言葉、危険な快楽ってどんな奇跡の合致よって思っちゃってね。」
「あーあったわねぇそんなことも。あなたは2月29日って、そもそも4年に1回しかやってこないからちゃんとしたお祝いがしづらいのよね。私むしろ花よりうるう年の方で覚えちゃったわ。花は何だったかしら。」
「1日前でも後でもいいんだけど。因みにあたしの誕生葉は勿忘草で私を忘れないで、よ。後は真実の愛とかあったわね。」

 

ふぅん、と返すラドワの声はなんとなく明るいような気がした。それから似合ってるわ、と褒められたがロゼにはよくわからず、目を閉じたまま首を傾げた。
暫く考えて、後者はともかく前者はあながち間違っていないかも、とロゼは思った。無関心と無感情を植えつけられ、抗うために自分という感情を忘れずに守ろうとしている。そんなロゼにはぴったりの花言葉だといえるだろう。

 

「それで、宝箱の中身は?」
「あぁ、忘れるところだったわ。宝箱の中身は、なんと……」

 

無駄に長い溜め、からの。

 

「何も入っていませんでした。」

 

大変性格のよろしくない中身だった。

 

「えっ?」
「冒険とは時に厳しいものなのです。」
「……さては中身を考えんのが面倒になったわね?」
「演出にも限度があるんだもの。」

 

くすくす、いたずらげに、大変ひねくれた笑い声が聞こえてくる。
じゃあ最初からそんなイベント作るんじゃないわよ、と文句を言うもまあまあと窘められる。全く悪びれる様子もないので本当にこの女は性格が悪い。
空想の世界の空想の宝箱の中身がまさかの幻で何もない。空想でくらい、いい夢を見させてくれてもいいような気がする。

 

「じゃあもういいわその夢も可愛げもない宝箱は。さっさと奥に進むわよ。」

 

呆れた調子で先に進むと宣言。ラドワはふむ、と小さい声を漏らして続きを紡ぐ。

 

「あなたは洞窟の奥地へと進んでいきます。しばらく進むと、少し開けた場所に出ました。
 そこには……一匹のゴブリンがいました。」
「まあ、ゴブリンくらいいるでしょうね。」
「というわけで。戦ってください。」
「は?」
「もちろん。戦うのです、ゴブリンと。」
「想像で?」
「想像で。」

 

イメージトレーニングだから、むしろここが本番でしょとラドワの無茶ぶり。無茶ぶりというかなんというか、最早ただのロールプレイな気がする。気を遣っているのか面白がっているのか分からない。いや、そもそもラドワが人に気遣いできるはずがないか、そうだな。人の心ないもんな。
えぇーーーと言いたげな様子で、ロゼは仕方なくゴブリンに対して剣を構えた。もちろん想像で。

 

「えーそしたら、ゴブリンと距離があるはずだからまずはクルイロー……弓矢でゴブリンに攻撃をする。ゴブリンもさすがにバカじゃないでしょうからその攻撃を回避。あたしはその行動を取ったゴブリンに対し呪いを行使して素早く近づいて、足元を攻撃して機動力を奪う。ゴブリンには命中。そこで反撃が目の前のあたしに振るわれるから、それを左へ転がって回避した後しゃがみ姿勢から切り上げるような動作。フリューゲルでゴブリンに致命傷を与え、そこにとどめの一撃。
 勝った、ってあたしは思った刹那、ゴブリンはゆらり立ちあがる。なんとそこには死んだはずのゴブリンが生き返り、再びあたしと対峙しているではありませんか。一度命を葬られたことにより、闇の力を手に入れたゴブリン。お願い死なないで!ここを耐えれば仲間の元に帰れるんだから!」
次回、ロゼ死す!って、次回予告で死を宣言しないでよ縁起でもない!」
「いやー、なんか想像で戦ってたら一本三流小説が書けちゃいそうな空想が完成したわ。」

 

ははは、と目を瞑ったまま肩を竦める。思わず悪ふざけに走ったものの、一応ゴブリンを退治したことは退治したので勝利という判定をもらった。この次回予告も実際死んだわけじゃないもんね。

 

「……まあ、うん、勝利ということでいいわよ。ということで。
 おめでとうございます。あなたはゴブリンに勝利しました。ふと、あなたはゴブリンの足元に何か落ちているのを見つけました。あなたはそれを戦利品として拾い、海鳴亭に帰ることにしたのでした。」

 

そう言ってラドワはロゼの手にあるものを握らせた。ロゼは何かを握らされた、という感覚はあったものの、それが何かまでは分からない。首を傾げ、ラドワの次の言葉を待った。

 

「さあ、目を開けてください。あなたは海鳴亭に帰ってきたのです。」

 

あぁ、もう目を開けていいのか。言われた通り、ゆっくりとロゼは目を開ける。ラドワは目を瞑る前に居た場所から動いていなかった。
ロゼがラドワの顔を見ると、草色の髪を揺らしながら満足そうにほほ笑む。

 

「おかえり。」
「……ただいま。」
「あれ。どうしたのかしら、それ。戦利品?」

 

そこまで話して把握する。彼女は海鳴亭で待っていたラドワであって、空想を紡いでいたラドワではない。つまり、まだ物語は続いている。彼女の中で、これはエピローグなのだろう。
仕方ない、もう少し付き合うか。やれやれと思いながら、ロゼも空想の続きに乗った。

 

「……そうよ。夢中で拾ってきたから、実はあたしもまだよく見てないんだけどね。」

 

そもそも目を瞑ってたから見るに見れないし、などと無粋なことは心の中に留めておく。
手を広げてみると、太陽の色をした石のペンダントがそこにはあった。まじまじと見ていると、ラドワが解説を挟む。

 

「ペンダントね。石の部分を引っ掻くと光るらしいわ。」

 

言われた通り、試しに引っ掻いてみる。すると確かに、石は明るく輝き、けれどどこか暖かさすら感じる優しい光を放った。一体どういう仕組みなのかはわからないが、かなり価値があるものだということは分かった。
綺麗、と思った。思うことができた。こうして素直に、作ることなく綺麗だと心動かされることは随分と久々なことだと思う。それに気が付いたのか、ラドワはにやり、したり顔を浮かべた。

 

「前に依頼でもらったのよ、それ。私には必要ないし、あげるわ。」
「え……え、えっ、えええええぇぇぇ!?

 

あげる。あの人畜有害の畜生が。
人に。こうして。物を。あげる。
無感情と無関心を患うロゼをここまで驚かせられたのは、後にも前にもラドワだけだろう。

 

「えぇ……何でそこまで驚くのよ。」
「えっ、いや、いやだって、あのラドワがよ?あのラドワが、ただで、ものをあげようって言うのよ?え、どうしたのラドワ、何か悪いもの食べたの?アルザスの料理が食べれないからって拾い食いでもしたの?」
「してないわよ失礼な。あなたは一体私を何だと思ってるのよ。」

 

全く、とため息一つ。でも仕方ないと思う。日頃の行いからして、見返りなしに何かをプレゼントということが大真面目に考えられない女だもの。

 

「……本当にいいのね?後悔しないわね?後で変なお願いしてきたりしないわね?」
「本当に失礼ねあなた。さっきも言ったけれど、私には無用の長物よ。だからもらってちょうだい。」

 

せっかく面白いものを手に入れたんだもの、売ってしまうのもなんだかつまらないじゃない?とのことだが……この女なら容赦なく売るイメージの方が強すぎる。
同時に、遠回しに絶対売るんじゃないわよ、いいわね?と脅されているようなもので。ロゼとしても売る気は微塵にもないのだが。

 

「なんか、本当にあんたラドワ?って問い詰めたいわねこれ。……ま、そんなに言うんならありがたく貰うわ。ありがとう、ラドワ。」
「どういたしまして。……こんなに言われるのなら、さっさと売っ払っちゃった方がよかったかしら。」

 

だったら日頃の行いをどうにかしなさいよ、と指摘するもそれは嫌よ楽しくないもの、ととんでもなく我儘な答え。だから心がないだとか畜生とか言われるんだぞ。
ここでふと、ロゼは気が付いた。カモメの翼を結成してから、ロゼもラドワも互いに同じ依頼を受け続けているわけで。つまりこのペンダントは、ラドワが冒険者になり、かつカモメの翼が結成される前の依頼でもらったもの、ということになる。
その間に何度か共に依頼を受けたことはあったが、このようなペンダントを貰う依頼を共にこなした覚えはない。それに気が付くと。

 

「ねぇ、ラドワ。その時の話、聞きたいわ。」
「え?その時の?」

 

無性に、興味が沸いた。
自分の知らない彼女の話。そう思うと、ロゼは作り上げた関心が疼いた。それはきっと、どこまでも純粋な好奇心。

 

「このペンダントをゲットした依頼の話よ。ラドワ1人で受けたの?」
「……えぇっと。かなりつまらなくてありきたりな話なのだけれど……」
「そう言われると逆に気になる。」
「え、えぇ……」

 

ラドワは思いっきり困った顔をしていた。困った顔を、悟られないように隠している顔。
あのラドワがつまらなくてありきたりな依頼を受けるなんて逆に気になる。そんな、好奇心に満ちた視線を向けられていて。
……もしこれが、ラドワの話でなければ感情や嘘に敏感なロゼであれば気が付くことができたのだろう。
その依頼の話も、空想だということに。

 

(……困ったわ。これは元からロゼが元気になりますようにって、お見舞いのつもりで用意したもので。でも突然そんなことを言い出したらラドワらしくないとかって、あれこれ言われることが目に見えてたからこんな遠回りな方法を使ったのだけれど……)

 

時間としては昨日。ロゼには少し外の空気を吸ってくるといって傍を離れた時間があった。ロゼが起きている間は互いに会話を交わし、眠っている間は同じく眠るか本を読んで過ごしていた。流石にじっとしすぎていて身体が痛くなってきたので、気晴らしにでかけて……そこでふと思いついたのだった。
お見舞いだとか、贈り物だとか、勿論ラドワはなんで?自分で使えばいいじゃない?と首を傾げてしまうような血も涙もない女だ。けれど、魔法具やアーティファクトとなれば、相応の効果を信じられるわけで。治癒効果のある石ではないが、その太陽の輝きがかの夜の種族の呪いの魔力を払うかもしれない。そう考えると自分の中でも納得がいってしまったわけで。

 

「……ラドワ?」
「……あ、あぁ。ごめんなさい。ちょっと……その時のことを、思い出していたのよ。」
「あー、カモメの翼以前の話だものねぇ、やっぱ懐かしいんだ?」
「あぁうん、そうなのよ。もう数か月も前のことだから、なかなか話をまとめるのに時間がかかっちゃって。」

 

なんとも苦しい言い訳だし、さすがにこんな拙い嘘ではバレるのでは?というかバレてるのでは?
ちらり、ロゼの方を見てみるがバレている様子は一切ない。なんで?なんでこれがバレてないの?仲間内だからって油断しているの?ロゼが?警戒心ゼロでいるの?

 

(こうなったら……もう一つ、架空の冒険譚でも作るとしましょう)

 

回りくどい方法があだとなった。そう後悔しつつも、こうして彼女と話をする時間は存外悪くない。
早く本調子になりますように。そう願いを込めながら、架空の物語を再び紡ぎ始めるのだった。

 

 


☆あとがき
アルアスとゲイカペがなんの話をするか悩んでいた一方、ロゼラドで何の話するよとうんうん悩んでいたところに救いの一手をいただいたリプレイでした。なんか2人用の低レベル冒険シナリオない!?とついったで募集をかけて、これを紹介していただいてこれや!!こんな好都合(ロゼが寝ている状態で一切の問題がない)なシナリオ他にねぇ!!となってこれをプレイしました。
しかしラドワさん。心ないムーブをすれば心ねぇなこの女と言われ、心あるムーブをすればやだぁ心あるやだぁと引かれるという可哀想な言われよう。日頃の行い的にしょうがないよね!

 

☆その他
灯のペンダントはロゼちゃんのバックパックへ。

 

☆出展

塩砂糖様作 『机上の冒険』より