海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_2話『フローラの黒い森』(1/4)

※割と全体的にほのぼの。緊張感ないよ。

※ただし長いよ

 

 

まだ夜が明けて間もない頃。
アルザスとアスティが起きてくると、カウンターにはすでに残りのメンバーの姿が並んでいた。駆け出しの冒険者は新しい依頼が更新される頃に起きて、できるだけたくさんの依頼書に目を通す。そもそも遂行できる依頼が少ない今は、こうでもしないとまともに依頼にありつけず、仕事ができない。
まだ眠そうな仲間におはようの一言を投げかけ、皆に並ぶように座った。

 

「おはよう。待ってろ。今コーヒー淹れるからな。
 ……っと、カペラにはミルクの方がいいかな。」
「うん、僕コーヒーは苦手だから、ミルクの方がいいな。親父さん、ミルクちょーだい。」
「あ、私紅茶がいい。娘さん、紅茶淹れて頂戴。」
「はーい、紅茶の方がいい人は言ってくださいね。」

 

カペラは子供らしい趣味嗜好をしている。こういったところでは素直なので、幸せそうにミルクを口にした……かと思うと、なんと一気飲みをしておかわりを申し出る。いい飲みっぷりである。
ラドワが紅茶を頼むと、それじゃああたしもロゼが挙手。私も、とアスティが手を上げ、残りの2人はコーヒーをもらうことにした。傍らでアスティが砂糖を5杯ほど入れていたが、そっと見なかったことにする。いつか糖尿病になりそうだなぁ。

 

「あー……目が覚める。早起きは気持ちいいな。
 ところで、他の連中は?」

 

これを毎日続けてくれりゃな……と、親父さんのぼそぼそとした声。それから、他の連中はまだ寝ているということを教えてくれた。
先ほども言ったが、これが狙いである。誰よりも先に依頼を吟味しようとした、そのときであった。
宿に向かって、慌ただしい足音が聞こえてくる。少しずつ大きな音になってくるそれは、配達員のものではないと推測した。朝一番に依頼を持ち込んできた人だろうか。アルザスは目くばせすると、皆こくり、首を縦に振った。
入ってきた女性は、眼鏡をかけたそれなりに歳のいった女性であった。急いでいただけあって、喉が渇いていたらしい。亭主から水を貰うなり、それを一気に飲み干した。

 

「落ち着いたかね?」
「えぇ、どうもありがとう。
 すみませんが、今すぐに動ける冒険者はいますか?」
「俺たちでよかったら、話を聞かせてくれ。」

 

アルザスは、女性にそう声をかける。
他の面々も、話を聞くために女性の方を向いた。

 

「事は急を要します。迅速にお願いいたします。
 私はルオートという土地の領主様の館に勤めております。その方にはお一人……ご子息がいらっしゃいます。ロバート様……そのご子息は大変好奇心の強い方で……」
「好奇心のあまり呪われたやつがいたな、うちにも。」
「あら、呪われて後悔はしていないわよ?」

 

ゲイルの小言に反応するラドワ。
少なくとも、それは胸を張って威張ることではない。好奇心猫を殺すという言葉を知らないのか。

 

「ルオートに『黒い森』と呼ばれる大きな森があることはご存知ですか?」
「あぁ、いわゆるルオートの黒い森……だろ?」
「えぇ。今は忘れられていますが、昔は妖精が出るなどという噂もありました。」
「へぇ……それは初耳だ。」

 

いつの間に知ってたの、とパーティの皆が驚いた表情を浮かべていた。
こちらに来て地図を見ていたときに、たまたま目に入って少々調べたそうだ。土地勘がなければ依頼も受けづらいだろうと。このリーダー、意外と勤勉で真面目である。

 

「それを……根拠もないのに屋敷の者がロバート様に吹き込んだのです!
 ロバート様は大変好奇心の強い子です。その話に興味を持ち、たった一人で森に入っていってしまった……!!」
「へぇ……あんたのこととそっくりねぇ。」
「しょうがないじゃない。だってつまらなかったのだもの、成功すると分かっている魔法の実験を繰り返すことは。」

 

意地悪な表情でくすくす笑うロゼに、開き直るラドワはたいして悪びれもしなかった。一切反省していないな、両親心配しているだろ、と色々言いたかったが、まあ、それはもう過去の話だ。
お母さん、お父さん、貴方の娘さんは立派に冒険者になり下がっています。本人は楽しそうなので許してあげてください。

 

「私どもはそれに気づき、ロバート様を連れ戻すべく村人や屋敷の者を森にやり、探させました。
 しかし……!!ロバート様はおろか……探索に出た全員が一晩たった今でも帰ってこないんです!」
「つまり……彼らを見つけ出し、無事に連れ戻して欲しいという依頼ですね……」
「えぇ……」

 

彼女の言葉に、アスティは酷く悲し気な表情を浮かべた。ただでさえ独りになることを恐れる彼女だ、顔を知った者や親しい者がいなくなることは、耐えがたい苦痛に感じるだろう。おまけに依頼人はずっと泣いている。どうにかしてあげたいという気持ちが強くにじみ出ているようだった。
同時にその気持ちはアルザスも同じだった。バカのようなお人よし、とまではいかずとも、どちらかと言えば彼も人がいい方だ。とはいえ、感情的になりすぎるのもよくない。落ち着いて、更に話を聞くことにしよう。

 

「まず始めに。報酬はいくらだ?」
「800spを予定としております。」

 

人探しでこの報酬は悪くはない。危険がなければ相応だと言えるだろう。
逆に、危険な森である場合、危険手当を追加でいくらか貰いたいところではある。

 

「……先に教えてほしい。ルオートの森の危険性だ。内容によっては報酬の値上げもあるんだが……」
「あの森に魔物がいるということは聞いておりません。狼などの動物はいるようですが……」
「おっ、そりゃあいいねぇ、狼とやり合うってんならあたいも俄然やる気が出るぜ!」
「バカ言ってんじゃないわよ。今回はあくまで捜索の依頼よ、探し出す人が狼の餌食になってるなんてごめんだわ。」

 

あまりにも不謹慎よ、とロゼが一言釘を刺した。性格的に仕方がないとはいえ、仮にも依頼人の前でこの発言は慎むべきだ。
流石にまずったと思って、悪ぃ、と申し訳なさそうな表情を浮かべた。分かればいい、と小さくため息をついて、続きを促した。

 

「緊張感のないチームでごめんなさいね。そういえば、依頼主ってどんな人なのかしら?」
「ルオートの領主であるジョアン・カイン様です。旦那様は知らせを聞いてすぐに冒険者の方を呼ぶようにおっしゃいました。今頃館にもお着きになっているでしょう。」
「親が留守にしている間に子供が行方不明になった……ということか……」
「えぇ、まあ……そういうことです。普段から館には滞在されない方でしたが……」
「…………」

 

ここでラドワに目線を配ってしまうのは何回目だろうか。
本人は相変わらずくすりと笑ってみせるのだが、彼女の親のことも本気でいたたまれなくなってきた。

 

「……危険性は低い、目的は森に入った者らの捜索。なるほどな。
 皆、俺はこの依頼を受けていいと思っているがどうだ?」
「個人的な我儘で言えば、受けたいです。この方の力になってあげたいですから……」
「あたしも賛成。今のあたし達の技量を考えても、ちょうどいいんじゃないかしら。」
「私も異論はないわ。どうして帰ってこないのか興味があるし……」
「僕もさんせー!妖精のお話が僕すっごく気になるもん、行ってみたい!」
「捜索、だけならあたいは乗り気じゃねぇんだけどな。狼がいるってんなら話は別だ、乗った!」

 

全員の意見が一致した。
彼らの言葉を聞いて、依頼人のマリアもほっとした表情を浮かべた。大丈夫か?こいつら緊張感がないぞ?

 

「感謝いたします。
 ではさっそく私とともにいらしてください。表に馬車を待たせてあります。」
「準備いーね!じゃ、さっそくいこっか!」
「あぁ。」

 

カモメの翼は、皆彼女の後に続いて宿を出る。
気を付けてな、という亭主の声を背に受けながら。

 

  ・
  ・

 

ルオートはリューンから程遠くない土地である。黒い森に沿って村などがちらほらあるらしい。北海の近辺出身の彼らは誰一人として行ったことがない。そもそも話題でに出ることもなく、アルザスがリューンに来てから地図で目を通しただけの場所なのだ。ただ存在だけを知っていた、ということになる。

 

「わぁーわんわんだ!毛並みよさそー!なでなでしたい!」

 

馬車から降り、領主へ会いに行く前にざっと村を見渡す。田舎で寂れたところ、という感想が第一印象だった。更に森に入って戻らない者もいるのだから、余計に静まり返っているといえるだろう。
黒い毛並みを持った犬を見かけるなり、きゃっきゃっとカペラがはしゃぐ。わんわんと吠える犬にしゃがんでおいでおいでとするが、やっぱりわんわんと吠え返される。

 

「あはははははは!元気いーねこの子!」
「……噛まれるぜ?」
「だいじょーぶ、そのときは『言うことを聞かせる』から。」
「ひえっ。」

 

こんなに恐ろしい言霊の使い方があるだろうか。
純粋な笑顔のはずなのに、どこか黒いものが見える。彼は無意識なのだろうが、時折そんな黒い片鱗を見せるのだ。

 

「ペル!……!!」
「くぅ~ん……」

 

そんな吠える声を聞いてか聞かないでか、飼い主と思われる女の子が犬を抱き上げ、それから冒険者達に気が付くと慌てて走って行ってしまった。行っちゃったー、とカペラが残念そうに唇を尖らせる。

 

「カペラは犬が好きなんですか?」
「うん、大好き!村で僕が旅に出るまでずーっと一緒だった子がいるんだけど、その子を思い出すんだ。とってもお利巧ないい子だったよ!」

 

こーんなにおっきかったんだ、と両手をばっと広げる。なるほど確かに、犬に対する扱いが慣れているような気がする。めっちゃわんわん吠えられてたけど。番犬わんわん状態だったけど。
そんな雑談を交わしながら、カモメの翼は領主の館にたどり着いた。なるほど領主ということだけあって、他の家屋とは比べ物にならないほど大きい建物だ。

 

「私です。冒険者の方をお連れしたと伝えなさい。」
「はい!!」

 

従者であろう一人にマリアは声をかけ、それから冒険者たちにどうぞと中へ案内する。お邪魔します、と館に上がらせてもらい、周囲を見渡した。
違和感、とは少し違うのだが、ラドワが気になったようにぽつり、アルザスの近くで言葉を漏らす。内緒話、というには少し声が大きい。

 

「すごく静かよね……あの一件のせいかしら。」
「そう、だと思うが……どうかしたか?」
「ん、いいえ、なんとなくね。」

 

あるいは、という可能性を考えて、飲み込んだ。
別に全部が全部、自分と同じであるとは限らない。こちらに来る前に皆にからかわれたせいだということにして、そのままマリアの後に続いた。
領主の部屋にたどり着くと、入りたまえの一言が扉の向こう側から投げられる。それから部屋に入って、暗い部屋だと思った。窓から差し込む僅かな明かりが、まるでろうそくの炎に感じる程には。

 

 

 

「よく来てくれた……私はジョアン・カインという。ここルオートで領主をしている者だ。
 もう知っていると思うが、私の息子のロバートが森に入ったっきり戻ってこない。君たちは来たばかりでなんだが、すぐに息子の捜索を開始して欲しい。必要な物があったらいってくれ。こちらで用意しよう。」
「いや、それより……方角とか、息子がどのあたりへ行ったか分からないのか?」

 

淡々としている。
そう感じ取ったアルザスは、少し探りを入れるように尋ねた。まるで、息子に対して無関心であるかのように聞こえたから。

 

「さあ……そもそもなぜ森に入ったのかさえ分からんのだ……もっとも、私が息子について知っていることなどほとんどないが。」
「…………」

 

アルザス以上に、ロゼが複雑そうな表情を浮かべていた。
ロゼは、呪いのせいで人に対して関心が持てない。それを彼女はよしと思わないため、人に対して無理やりにでも関心を持とうとするのだが……この領主は、息子に対して何も理解していないように聞こえた。
実際そうなのだろう。酷く、冷たい印象を誰もが抱いた。

 

「それでは、よろしく頼んだよ。」
「あぁ……」

 

 


領主との会話は短く、すぐに終わった。
館から出るなり、ロゼとラドワが館の壁にどんっ、と腕を付けて、はぁーーーーーと大きなため息をついた。

 

「あ、あのー……」
「はーーーーーーーあの領主ぶん殴りたいわーーーめっちゃぶん殴りたいわーーーえーーー何あの息子に対しての無関心っぷり。ちょっと一発グーでパンしたいわーーー。」
「なんというか、自分の立場を客観的に見るってなかなかに辛いものがあるのねぇって、今、痛感しているわ……えぇ……ちょっと実家に戻りたい気分よ……」
「ロゼはともかく、ラドワは顔見せに行け。いやいっそ宿に戻ってから帰るか?」
「冗談。今更戻れないわよ。戻る気もないわ。」

 

そこは戻らないんだ、と思わずアルザスのツッコミ。
家出した後悔は、実際さほどない。むしろよかったと思う部分があまりにも強すぎた。戻るという考えは一切ないようだ。それはそれとして、客観的に見ると自分の屑っぷりを再認識して血反吐を吐きそうになるようだが。

 

「しかし、ロゼ。お前、そんな顔するんだな。」
「何、意外?あたし結構許せないものって多いのよ。今回もその一つね。無関心は敵だわ、敵。」

 

はーやだやだ、と首を横に振りながら謎ポーズをやめ、アルザス達のところに戻る。さっさと行きましょ、と先に進むことを催促されたので、とりあえず森に向かうことにした。

 


ところで森って迷うよね。何もなしで突入するとか自殺行為だよね。
その辺り、この冒険者もちゃんと分かっているようで。

 

「ところでさ。……マーキングできるもの必要だよね?」
「……あっっっ」

 

カペラの一言で、皆あっちゃーの顔。
森や洞窟といった場所に入る経験がさほどなかったアルザスやアスティ(彼女の場合、記憶を失う前がどうかは分からなが)はともかくとして、そういった場所に慣れているはずのロゼやカペラ、ゲイル達が抜け落ちていたのはやっぱり、緊張感のないの一言に尽きる気がする。実際こいつらに緊張感なんてものはない。

 

「もー、ちゃんと気を付けてよねー?」
「いやいやいや何言ってんのさ、皆だって忘れてたじゃんか!僕だけの責任じゃないですー、皆で仲良く同罪ですーーー。」
「ま、まぁまぁ……確かに俺たちも忘れてたわけだし
「でしょ?ってことでアルアルのせいね。」
「待て俺だけの責任じゃなだろ。」

 

さらっと罪を擦り付けてきた。
というか本当に緊張感がないせいだと思うんだけどどうだろう。

 

「……こほん。そういえば、領主が要るものがあったら言えと言っていたな。」
「えぇーーーこっからお屋敷まで戻るのー?やだやだ遠いよーーー。」
「えぇーーーそんなごねられても困るんだけどーーー。」

 

実際、領主のところまで戻るには少々歩く必要がある。それにこれから森を歩くことを考えると、あまり無駄な体力を使うことは得策ではない。
冒険慣れをしているのであればともかく、まだまだ駆け出しのひよっこなのだ。必要以上の無理をして依頼を失敗してしまえば元も子もない。

 

「そうよねぇ、遠いわよねぇ。
 ……紐くらいならどこでもあるっしょ。聞いてみましょっか。」

 

ロゼの言葉に、皆頷いた。それから元来た道を戻り、何かマーキングに使えそうなものがないか尋ねる。
一件目は年老いた男性が出迎えてくれた。マーキングに使えそうなものはないとのことなので、二件目に移る。こちらはやや老けた女性が出迎え、やはりないということなので次に移る。
三件目は中年くらいの女性だろうか。事情を話すと断られそうになったが、奥からかなり年老いた女性が現れ、入れて差し上げなさいとの言葉。その言葉に甘えて、部屋へ上がらせてもらうことにした。

 

「わざわざ悪いわね。私たち、領主の依頼を受けた冒険者なの。
 これから森に入ろうとして、探索の目印になるものを忘れたことに気が付いたのよ。色のついた紐か何かを余らせてないかしら?できれば沢山。」
「そうですね……確か赤い布がありましたね。それを切ってお使いなさい。」
「ありがとう、助かるわ。」

 

ラドワの、というよりパーティの頼みを老婆は快く承諾してくれる。赤い布を傍らに居た女性に持ってこさせ、それを冒険者たちに手渡した。それを受け取り、荷物袋の中に仕舞った。これでマーキングの準備は整った。
それじゃあ、とこの場を後にしようとすると、ぽつり、老婆が呟いた。

 

「大丈夫よ。ロバートちゃんはフローラが守ってくれてるから……」
「?フローラ、とは?」

 

足を止め、疑問を老婆に投げかける。すると彼女は目を細め、どこか懐かしむように目を細めながら話し始めた。

 

「黒い森に住む妖精のことよ。
 私がまだ小さいときにね、一度だけ会ったことがあるの。」
「!!」
「奥様……!!」

 

森に住む妖精。話を聞いた冒険者は皆驚いた表情を浮かべた。
ロバートは妖精に会いに行くために森に入った。そしてそのまま行方知れずとなり、村や館で捜索隊が組まれて森へ向かうも、彼らも同じく戻らなくなってしまった。存在の真偽こそ分からないが、実在するという話がある以上、存在の偽を証明する方が難しい。
傍らに居た女性がその話に待ったをかけようとするが、昔話をするだけよ、ところころ笑った。

 

「あれは私がまだ12のときだったかしらね……私には妹がいてね。両親は自分たちのことに忙しくて全然私たちの相手をしてくれなかったわ……だからかしらね……私と妹は、いつも二人で遊んでいたわ……
 ルオートに避暑に来たときも、それは変わらなかったわ……でもその時……妹が熱を出して寝込んでしまったの……」

 

うつるといけないからと、部屋に入ることも許されなかった。
私は退屈でした。遊ぶ相手がいないのですから。
お医者様は私を楽しませるために、妖精フローラの物語を聞かせてくださいました。
私はわくわくした……とっても……
ですから、そのフローラがいるという黒い森に入ったのです。たった一人で。
そこで妖精を見たのです……

 

「……無謀すぎるわ。」


あまりにも危険な行動に、終わったこととはいえ思わず呆れてため息が出た。
老婆はゆっくり頷き、それから続きを語り始めた。

 

「私は妹が回復してすぐ、その話を彼女に聞かせました。
 妖精のパーティやダンスやおしゃべりや……妹は楽しそうに聞いていました……
 すると、妹は私もフローラに会いたいと、森へ一緒に行くことを頼んできました。危険があるかもしれない、子供2人で森に入るなんて危なすぎる。それに……。
 ……分かってはいたのだけれど……私は妹の頼みを断り切れませんでした。私たちは森に入り、妖精を探しました。するとすっかり日が暮れ、夜空には満天の星空になっていました。ひょっとしたら今日はもういないのかもしれない、と諦めて帰るように妹に言うも、妹は見つかるまで帰ろうとしませんでした。」

 

いないよ、もう帰ろう。
再び妹にそう言葉にした、そのときでした。

 

―― お姉ちゃん、前見て!!
―― !!

 

「……それからどうやって戻ったかは覚えてないの。
 でも……フローラは本当にいるのよ。あの森に……みんなフローラと一緒に居るんだわ……だから大丈夫。」
「…………」

 

なんとも疑いたくなるような話だ。あまりにも現実的な話ではない。
が、まあ。カモメの翼は困ったことに。

 

「すっごーーーい!!ねえねえ、やっぱり妖精は居るんだよ!!」
「あぁ、もしかしたらこれは、本当に妖精がいるのかもしれないな……」
「今回のこれも、きっと妖精が関わっているんですよ!うわぁ……見て見たいなぁ……」
「……マジで?3人信じたわ。」

 

ロマンチストが、多いのである。
いや一人はちょっと違うのだが。いや違わないか、結構ロマンチストなところがあったわこいつも。

 

「……カペラやアスティはわかっけど、アルザスも信じるってのは意外だなぁあたい。」
「森住まいじゃないがエルフだからな。エルフは精霊や妖精と近しい。だから、居ても不思議じゃあないと思うんだよ。」

 

なるほど価値観の違いだったか。
比較的人の容姿をし、人間離れしすぎていないとはいえ、確かに考え方や常識は違うのだ。人間臭い性格のせいで忘れそうになるだけで、彼にはしっかりとシーエルフの血が流れている。
と、ここでふと気になったことがあったようで。アルザスは口元に拳を当てて、それからぽつりと呟いた。

 

「……そういえば、ロバートは妖精がいると聞いて森に入ったんだよな。どんな話だったか教えてくれないか?」
「えぇ、ちょっと長くなるけれど大丈夫かしら……?」
「構わないさ。何かしらのヒントになるかもしれない。」

 

いいよな?と、周囲に目を配る。異議なし、と皆頷いた。
それを見て、老婆も頷き、妖精フローラの物語を語り始めた。

 

―― 昔々、ルオートにはフローラという妖精が住んでいました。とても花の大好きな妖精だったのでそう呼ばれていたのでしょう。
彼女の友達は森に住む虫や花、そして冬に訪れる雪の妖精。
でも、虫たちがどこかへ行ってしまい、花たちが枯れてから、雪の妖精が舞い降りるまでの間、フローラは独りぼっちです。
そんなある日、森に一人の子供がやってきました。


『なんて嬉しいこと。きっとよいお友達になってくれるでしょうね。』


フローラはそう言うと、快く子供を迎え入れました。
それからしばらく楽しいときが過ぎました。森にはいつも笑い声が響いていました。
しかし、ある日子供はフローラにとても困った頼み事をしました。それは、その子の親を生き返らせてほしいというものです。フローラは何度も断りました。死んだものを生き返らせることはやってはいけないと、妖精の王様に言われていたからです。
でも子供は何度も何度もお願いしました。大切な友人の頼みでしたから、フローラもとうとう承諾してしまったのです。また森に来てくれると期待もしていました。でも親と再会した子供は二度と森に来ることはありませんでした。
フローラはまた独りぼっちになってしまったのです。

 

「……と、こういうおはな
「そんなの悲しすぎます!!」

 

話し終わるなり、そう吠えたのはアスティだった。

 

「そんなの悲しすぎます!!フローラが可哀そうです!!大切な友人だからって禁忌まで犯して願い事を叶えてあげたのに、こんな終わり方ありますか!!」
「おおおアスティ落ち着け!あくまで物語だから、伝説だから!な、な!?」

 

がっつりばっちりトラウマでした本当にありがとうございました。
わあ、と泣き出したアスティに、なだめるように背中をとんとんと叩くアルザス。こんな調子で冒険者をやっていけるのか、大分不安である。

 

「でもこーゆーのってさ。大体裏があったりすんだよね。なんかの事象や事件を物語や歌にして後に残す、ってけっこーある話だもん。」
「あー、てめぇってなんちゃって吟遊詩人だもんなぁ。今回もそうなのかい?」
「さあ?でも僕としては十中八九そうだと思うけどね。流石に現時点で何が込められているんだー!って聞かれても、さっぱりわかんないけど。」
「……妖精を信じる割にゃけっこー現実見てんな、てめぇって。」
「え、妖精は妖精でいるといーなーって思ってるよ?僕見たいし。」
「えっ」

 

きょとんとして、くりくりとした瞳をゲイルに向ける。ちょっと何言ってるか分からない、といったリアクションだったが、何かを残すための物語である可能性は十分にあった。

 

「カペラ君の線もありそうね……これ以上は足を動かさないと分からないかしら。
 それじゃ、そろそろ行きましょう。あとアスティちゃんはいい加減に泣き止みなさいね?」
「うう……だって……あんまりにも可哀そうだったんですもん……」
「じゃあこないだ、あたしたちがゴブリンを倒した後は?」
「あれは平気です。」
「この差は何だ……」

 

そういえば、びっくりするくらい平気そうな顔をしていたなぁ、と今更ながら気が付いた。
記憶をなくしてから恐らく初めての『暴力』の跡だろうというのに、平然とした表情で最後まで着いてきたのだ。肝が据わっている、のかと思いきや、フローラの物語を聞いてこれである。

 

「……やっぱり、独りになることが怖いのか?」
冒険者として、大分致命的欠点よね。」

 

鼻で笑うような調子だが、実際その通りである。冒険者である以上、どこかで一人にならざるを得ない場面はあるはずだ。
ロゼの言葉に困った表情を浮かべるアルザスだったが、今は依頼をこなすことが先決である。カモメの翼はお礼を伝え、家を離れると森へと向かっていった。

 

 

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