海の欠片

わんころがCWのリプレイ置いたり設定置いたりするところです。

リプレイ_1話『ゴブリンの洞窟』

※1回目ということでキャラクターや背景の説明が多めです

※割と自由奔放

 

 

海鳴亭で『カモメの翼』が結成されてから数日経ったある日のこと。
冒険者として生きる以上、依頼を受けこなす必要がある。淡い青緑色の髪を持ち、長い耳を持ったどう見ても人ならざる者の姿。カモメの翼のリーダー、アルザスは、何か手ごろな依頼がないか探していると、一つの張り紙が目に入った。
彼はエルフではあるが、森ではなく海を住処にするシーエルフだ。このパーティに共通して言えることだが、出身は北の海辺の街や村である。今彼らが常駐しているここ、リューンとはかなりの距離がある。

 

「おや、あんた達、その張り紙に興味があるのかね?
 その張り紙は街はずれの農家からの依頼でね。近くの洞窟にゴブリンどもが棲みついたんで退治して欲しいんだとさ。」
「ゴブリンか。いきなり実戦になるな……」

 

アルザスはかつて騎士を務めていたため、実戦にはある程度慣れている。長剣にエルフの魔力を込め、水や風を纏いながらの斬撃を繰り出すことを得意としている。
さて、彼はいいとして。問題は他の仲間たちだ。
カウンターには皆揃っている。丁度いい機会だと思い、全員に確認を取ることにした。もっと早くにしておくべきだったような気もするが、そこは出来立てほやほやの冒険者パーティ。ご愛敬ということで。

 

「まずアスティ。お前は実戦の経験は……あるないより、憶えてないよなぁ。」
「はい……すみませんが、さっぱり。ただ、傷を癒すことはできると思います。」

 

アスティはコバルトブルーの髪を持つ、小柄で吸い込まれそうな紅色の瞳が特徴の少女だ。こちらに来る前に海岸で倒れていたところをアルザスが見つけ、介抱したのが始まりだった。記憶喪失で身よりがなく、独りに強い恐怖心を持つためアルザスにくっついて回ることになった。
戦う術は恐らく持たないが、傷を治す力を保有している。癒身の法にも似た術だったが、聖北の加護による術とは明らかに異なる何かであった。

 

「最悪戦わずに俺たちの傷を治してくれればいいさ。お前は戦うよりも、癒す方が得意そうだしな。
 それじゃあ次、聞くまでもないがロゼ。」
「答えるまでもないけど、実戦から暗殺まで任せて頂戴。」

 

ふふん、と笑ってみせるはエメラルドグリーンの髪を右の方で三つ編みに束ねた、軽装で動きやすそうな服装をした女性。武器は弓と短剣。野外活動を得意とするレンジャーだ。
元々は盗賊業を齧ってたそうだが、その辺りは詳しく話してもらっていない。本人としてもあまり言いたくなさそうだった。また、『海竜の悪魔』と言われる、かつてアルザス達の街を壊滅させた竜が齎したという『呪い』を保有している。これから紹介することになる3人も保有しているのだが、それは『海竜の持っている力の一部を授ける代わりに精神を強く蝕む』というものだった。これに飲まれると、人は正気を失い、力を暴走させるらしい。
カモメの翼は、この呪いの解呪方法の発見、及び呪いの殲滅、アスティの記憶を取り戻すこと、これらの目的を持って結成されたのだった。冒険者であれば、そのうちそれっぽいものに出会うだろうと。
ロゼは、人並み外れた機敏性を持つ一方、誰も縛ることができない無関心と無感情に縛られている。彼女はそれがとても恐ろしく思い、無理やりにでも関心を持ったり感情を取り繕ったりと、必死に抗っているのだった。因みに現時点でそれを知っている者はラドワだけである。

 

「流石元盗賊で冒険者業の経験もあるだけあって頼もしいな。それじゃあ次、ラドワ。」
「前に出て戦うことは苦手よ。後ろからそれはもうじっくりと強火で調理してあげるから、今から楽しみだわ。」
「……途中からお前の希望観測が伺えるんだが。」

 

草色の髪をバレッタで束ねた、琥珀色の瞳の長身の女性がふふっと笑った。
彼女は海竜の悪魔の手で滅ぼされなかった街の出身だが、ロゼと同じく呪い持ちである。ただ、彼女は自ら望んで呪いを手にしたのだから、元々精神がおかしかったのではないか、と疑ってしまう。
魔術師の卵だった彼女は、街で常日頃術の研究を行っていた。それを退屈と感じ、街を去ったことが始まりだそうだ。研究所で聞いた、海竜の悪魔の呪いが封じられている場所へ一人で足を踏み入れ、手を出し、そして……なんてこった、精神的異常も本人はよしとしてしまった。
呪いは魔族にも匹敵する魔力と、その代償にあらゆる生物に対して殺戮衝動を抱くというもの。当の本人は、元々生物に魔法を向けて殺し回ることが好きなため、何にも困らなかった。ただし、自制心も強いため上手く制御はできている模様。
因みに武器は杖で、懐には短剣も潜ませている。最もその短剣は『快楽殺人を満たすために殺す際に主に使われる』ので、戦闘用の武器ではない。

 

「じゃあ次、カペラ。……お前はまだ幼いし、実戦は慣れてないか。」
「え、ううん?そんなことないよ?」
「えっ。」
「ほんとほんと。あ、でもタンバリンでぶん殴るか歌って支援かになるから、後ろに下がってふれーっふれーっ、って応援してるね?」

 

えへへー、と笑ってみせるは10歳という若さの男の子、カペラ。水色がかった銀色の髪を下の方で2つに結び、アクアマリンのような瞳を持つ。少女のような見た目であるが、列記とした男である。武器はタンバリン。あれ?タンバリンって武器だっけ?
吟遊詩人、に近しい能力があるが呪歌ではなく言霊の力に近い。そういえば彼は半年ほど前に旅に出たと言っていた。なんでも住んでいた村で、『神に選ばれた子』ということで旅に出されたとのことらしい。迫害の一種だろうかと思ったが、どうやら本気で村の伝承として信じられていたそうだ。
なお、その神に選ばれた証が海竜の呪いの印であるのだから、伝承の誤りも甚だしいところである。彼の呪いは言葉に様々な作用を含ませることができるが、代償として強い支配欲に駆られるというもの。なお本人がどこまで理解しているのかはさっぱりである。

 

「最後、お前も聞く必要がなさそうだけどゲイル。」
「ゴブリンくれぇなら素手でいける。」
「頼もしすぎて俺の寝首も怖いな。」

 

胸を張り、どんっとそこをグーで叩いてみせる、茶色の瞳に黒髪のポニーテールの大柄な女性、ゲイル。露出の高い服と、鍛えられたその身、更に得物は斧という見事なまでに荒くれものを彷彿とさせた。
実戦経験は最も彼女が豊富だろう。3年前、うっかり呪いに触れてしまい、そこからカペラと同じ村の出身だったため、そうだ旅に出そうという迫害っぽいけど村の人的には神様の仰るままに案件という悲しい事実に振り回された彼女……だが、自分より強いやつに会いに行く精神の持ち主だったため、やはりこちらも一切の苦がなかった。
彼女の呪いは人ならざる怪力の代わりに、強い闘争心を抱き続けるというもの。おかげで彼女は戦闘狂デビューだが、ラドワと同じく元の性格的に何も困っていなかった。呪いが恩恵でしかない。

 

以上、ざっくりとカモメの翼についての紹介だ。この集いを、アルザスは一言でこう言い表している。
緊張感のないパーティだと。


「まぁ、ありがちな仕事だな。どうだい、腕試しがてら挑戦してみちゃ?
 冒険者たるもの、戦えずして成り立たないぞ?」
「一応聞いておくが、報酬はいくらだ?」
「600spだ。ちょいと安いがな。半日もあれば片付くだろうから、それほど悪くないと思うが?」

 

半日で600spということであれば、かなり美味しい依頼だと思った。それに、今のうちに皆の技量を知っておきたいのも、実戦経験を積んでおきたいのもアルザス達にはあった。
油断しなければ、今の自分たちでも十分に手に負える相手だろう。

 

「というわけだ。どうだ?」
「いいんじゃない?ゴブリン相手にも勝てないようじゃ、竜の呪い持ちと渡り合うなんてできやしないもの。」

 

アルザスの言葉に、ロゼを始めとする面々が首を縦に振った。
呪い持ちと戦うというのは、竜の呪いに飲まれた者と、あるいは呪いを狙う者と今後対峙する可能性があるということ。解呪や根絶を目論見るため、野放しにすることもできないのだ。
呪いの数は分かってはいないが、見立てでは20個ほどは存在するとラドワは推測していた。あくまで被害地や呪いの発生箇所からの推測であるため、信憑性が高いわけではない。

 

「分かった。それじゃあ親父さん、この依頼引き受けるよ。」
「そうこなくちゃな。ほれ、これが問題の洞窟の場所だ。歩きでも一時間とかからんだろう。
 じゃ、気を付けて行ってこい。」

 

アルザスは地図を受け取ると、皆を率いて洞窟へと向かった。
さて、一つだけ彼は甘く見ていたことがある。アスティ以外は少なからず実戦経験があり、それなりに戦いの技術を身に付けている。だから、なんだかんだで大丈夫だろうと。

己のその考えが甘かったと。どうしてもっと真面目に構えておかなかったんだと。そう後悔するのはもう少し先のことである。

 

何故ならカモメの翼の仲間は。

―― 皆、我が強いのである。

 

  ・
  ・

 

洞窟に到着するなり、ゴブリンの姿を見つけた。この場所で間違いないようだ。
見張りが一匹。こちらには気が付いていない。あれを片付けないわけには洞窟には入れない。さて、どうしようか。

 

「……さて、あいつどーしよっか。気づかれて援軍でも呼ばれちゃったらめんどくさいよ。」
「だな。それで、皆の意見を聞きたいんだが――」

 

カペラがどうしよっか?と尋ねてきたので、ここでアルザスが一通り皆の性格を読むために意見を尋ねようとして。


ズドォン!!

 

「えっ」
「☆〒♂△!!!」

 

なんということでしょう。
突然味方のいるところから魔法の矢が放たれたではありませんか。

 

「命中……仕留めたわ!」
「…………」

 

どやぁ、と大変ご満悦の表情のこのラドワである。
皆の意見を聞きたいと言った。確かにアルザスはそう言った。だというのに、返ってきた答えは言葉ではない。
魔法で容赦なくゴブリンを仕留めた。この事実である。

 

「よし、じゃあ次に進みま
「よーーーしストップ。ラドワ、ちょっとストップいやむしろ止まってくださいお願いします。」

 

進もうとするラドワをがしっと止める。傍らでロゼが盗賊が前に出ないと危ないものねぇって言いだしたけど違う、違うそうじゃない。

 

「どうしたのかしらアルザス君?私は意見を聞きたいって言われたから答えたわよ。
『魔法で見えないところから燃せば解決』って。」
「意見を出せ、つっただろ!誰も有言実行しろとは言ってないだろ!
 万が一仕留めきれなかったらどうしてたんだ!?お前の魔法の腕の良さはロゼから聞いているが、それはそれとして一通り意見を聞いて選んで、それから実行するのが筋というものだろ!?」
「どうせおびき寄せて仕留めるとか、突撃して援軍を呼ばせるより先にやる、とかそういったものでしょう?だったら私の魔法の矢の方がずっと確実だわ。」
「確実だとか確実じゃないだとかも確かにあるが!今回のこれは!皆に意見を出してもらうことに意味があったんだ!!」

 

と、アルザスが今にもそこに正座ァ!!と、言わんばかりの説教タイムが始まった。
隣にいるアスティがおろおろしながら、何か言いたげにアルザスの服の裾を何度か引っ張るも気が付いてくれない。ラドワはラドワで開き直ったかのような顔をしているので馬に念仏状態だ。
で、だ。こんな状態になって、他のパーティがじっとしているかというと。

 

「報告。東にホブゴブリンが居眠り中、北の方にゴブリンとコボルトの群れがいるわ。」
「群れに気づかれないように奇襲、ってのは難しそーだったよ。正面衝突しかないと思うな、僕。」
「へぇい、ホブゴブリンがめっちゃ気持ちよさそーに寝てたから葬ってきたぜ!」
「お!ま!え!ら! 団!体!行!動!!!!」

 

いつの間にか、ロゼとカペラとゲイルで中に入って下見をしてきたようだ。皆しれっとした顔で当然のように報告してくるし、完全にリーダーのアルザスが置いてけぼりになっている。
そろそろ仲間の言うことの聞かなささに限界突破しそうになっているが、アスティ以外は気に留める様子もない。皆思うがままに、それぞれの意思のまま動くのだ。

 

「えーと……アルザス、これ、どうしましょう……?」
「どうするもこうするも……とりあえず奥に行って、リーダー格のやつを仕留めるしかないだろ……というかこれ、俺の存在いらなくないか……?」

 

あまりにも我が強すぎるあまり、はぁーーーと重たい溜息一つ。
このチームの問題点がすぐに浮き彫りになった。アスティを除く皆がそれなりにやってきている分、それなりの自信を持っているのだ。それがいいことも勿論あるが、今回は完全に悪い方向に働いている。
これでは、パーティをわざわざ組む必要がないのである。役割のない、ただの冒険者の集いで構わないのだ。

 

「うぅ、すみません、私が何かお手伝いできることがあればよかったのですが……」
「いや、アスティはむしろ指示を待ってくれているし、それだけでかなり助かっているよ。
 ……さて、と。それじゃあ皆、奥に進むぞ、問題ないな?問題しかないな?でも問題ないな?」

 

諦観したアルザスの言葉に、残りの面々ははーいと返事した。
……アスティだけは、困ったような表情を浮かべていた。

 

  ・
  ・

 

「あの先、だな。よし皆、準備して――」
「っしゃああああああぁぁぁ!!狩りの時間だぁあああああぁぁぁ!!」
「あっ、ゲイルったらずるい!私にも殺らせなさいよ!」
「はいもーーー準備という概念すら必要なかったーーー!!」

 

ノリノリで敵陣にツッコんでいくゲイルに、やや前に出たところで魔法の準備を行うラドワ。それに追随するかのようにロゼとカペラが動いて、アルザスとアスティが置いてけぼりを食らってしまった。
相手はゴブリンシャーマンが1体に、ゴブリンが2体、コボルトが4体だ。このメンバーなら、おそらくこのまま戦っても勝利を得られるだろう。
だが。

 

「―― くぅ!」
「ぎぃいいぃぃぃ!!」

 

自由陣形。連携も何もないそれでは、互いの動きが互いを邪魔し、いつも通り以下のパフォーマンスしか発揮できていない。証拠に、最も機動力が高いはずのロゼが、ゴブリンの攻撃をモロに食らって膝をついた。
ゲイルが巨大な斧をゴブリンに叩きつけ、一体の息の根を僅か一撃で止める。それを見ておじけづいたのか、コボルトの2体が逃げていった。

 

「……!!」

 

ここだ。ここしかない。
カモメの翼のリーダーは、この状況を見て理解した。『リーダー』であるからこそ、やらなければならない。

 

「アスティ!ラドワ!後方で支援及び魔法攻撃の準備!
 ロゼ!そのまま下がってアスティの治療を受けろ!移動中弓による攻撃を行え、味方の動きをよく見ろ!」
「!はい!」
「分かったわ!」
「っ、……えぇ。」

 

指示を、出す。仲間を、敵を、戦場を。それらの情報を、目から頭へ、そしてすぐさま取るべき行動を考え、判断し、言葉にする。

 

「俺とゲイルは前線維持だ!カペラは一歩引け、後ろにゴブリンの攻撃を通すな!」
「っしゃあやってやるぜ!」
「任されたよ!」

 

穏やかながら強い意志が。
爪を隠しながら残忍な思考が。
地に縛られながら自由な身が。
粗雑ながら豪快な力が。
幼いながら自信げな心が。
全て、全て、一つになった。

 

ラドワの魔法がゴブリンシャーマンを貫き、怯んだところにゲイルの一撃が入る。
そこを襲い掛かるゴブリンに、ロゼがいち早く弓で居抜き、アルザスがとどめを刺す。
残ったコボルトは、逃げる隙も与えられずそれぞれの武器で仕留められた。

 

カモメの翼の初陣は。
あっさりと、こちらの勝利で幕を閉じたのだった。


  ・
  ・


洞窟には続きがあり、ゴブリンが持ち込んだであろう宝箱が置かれてあった。
持ち主が分からないので賢者の杖と200spを丁重にいただき、残党が残っていないかを確認してから宿に帰るのであった。

 

アルザス。その腕の怪我を見せてください。」
「このくらいすぐに治るから心配しなくてい
「だめです!そうやって放っておいて傷が化膿してしまったらどうするんですか!」

 

戻ってきて、アルザスとアスティはカウンターでそんな会話を交わしていた。日が暮れる前には戻ってこれたため、夕食の時間になるまで残りの仲間は一旦部屋に戻っていた。
心配性だなぁ、と思いながら、結局折れて素直に治療をしてもらうアルザスだった。恐らくゴブリンを仕留める前に、相手の得物が掠っていたのだろう。実際大した傷ではなかったし、数日もあればすっかり治っていたと思われる。
治療が終わると、アスティはどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。その表情を見て、どうした?と尋ねる。

 

「あぁ、いえ……私でも、ちゃんとできることがあったって。アルザスや皆さんのお役に立てたって。
 記憶がない、戦ったことがある憶えがない。それをただ守られることの言い訳にしかなるんじゃないかって、どこか思ってて。でも、ロゼの怪我を治せましたし、こうして無事に戻ってきてアルザスの腕を治すことができました。
 そう思うと、なんだか無性に嬉しくなってしまいまして。」

 

そう言って、えへへ、とはにかんだ。
彼女の記憶を失う前のことは一切分からないが、少なくともカモメの翼では唯一実戦を経験したことがない者であった。だからこそ、魔物を討伐することには強い不安があったことだろう。
それでも、彼女にしかできないことを見事にやってのけた。それは少なからず、彼女の自信となったようだ。

 

「そーそー、ほんとに助かっちゃったわ。アスティあのときはありがとうね、お陰で大事にならなくて済んだわ。」

 

ここでひょいと、ロゼが会話に混ざってくる。アルザスとアスティの2人でカウンターで会話をしていたのだが、いつの間にか4人が並んでいた。もう夕食の時間だっただろうか、と思ったが少々早い。
何やら苦笑した表情を浮かべていたが、ラドワが一歩前に出て、それから真剣な表情で頭を下げた。

 

「……ごめんなさい、さっきの依頼では随分勝手に動いてしまって。」
「ん、あぁ……本当にな。皆俺の指示よりも早く勝手に行動するもんだから、俺がかなり焦ったし自分の存在意義を悩
「あなたを試したのよ。うん、あなたになら安心してリーダーを任せられるわ。」
「そうそう、反省しているのなら俺はそれで……えっ?」

 

試していた?
その言葉の意味がすぐには分からず、あっけに取られた顔を返してしまった。対してラドワを始め、残りの3人はくつくつと笑い声を漏らした。
ラドワもラドワで、真面目な硬い表情はすでになかった。やはり緊張感がないチームだ。

 

「ほら、アルザス君とアスティちゃん以外って、結構冒険者っぽいことやっていたし、竜の呪いを持っているじゃない?だから、それを束ねるには相応の『リーダーとしての素質』が必要って考えたのよ。」
「てめぇらんこと、認めてねぇってわけじゃねぇんだけどよ。ほら、やっぱ従うならちゃんとした指示が出せるやつがいーんだよ。少なくとも、あたいはこの身を預けるってんなら相応の器でなくっちゃプライドが傷つくってもんだ。」
「僕としてはどっちでもよかったんだけど……不当に扱われるのはやだなーって。だからラドラド達に加担したんだー。」
「……アスティ、お前は何か聞いていたか?」
「い、いえ、私も初耳でした……」

 

嘘をついているようには見えなかった。見えなかったが、やはり突然の告白にぽかーんとしているアルザスだった。
あの傍若無人、唯我独尊っぷりが演技だったのか?
いや、それはない。恐らく、極限まで素、だったのだろう。それはもう、周りを気遣わずやりたいように己が動いた。周りに合わせようとせず、己が己のままに動いた。
それが、4人の打ち合わせの上で行われていただけで。アスティが省かれたのは、実戦経験のなさから不安を煽るだけだろうとの考えだった。これから魔物との戦闘は必ず起きるのだ。今ここで立ち止まってしまえばチームとして先へは進めない。

 

「というわけ、よ。無事にあたし達を束ねられたら合格、ダメなら不合格。ラドワ辺りに仕切ってもrだめね、必要以上の血を流しそうだわ。
「ちょっと、どういう意味よそれ。」

 

―― ロゼや、ラドワの抱える感情を、まだ2人以外は知らない。
だから、それは単なる冗談に聞こえた。やれやれと笑うロゼも、不服そうなラドワも。なんでもないやりとりなのだと。
言葉を交わしあった後、ロゼはアルザスの方に向く。笑っているが、表情は真剣そのもので。

 

「それじゃ、改めまして。……よろしくお願いするわよ、リーダー。
 海竜の呪いを全て潰すために。解呪方法を知るために。」
「それから、アスティの記憶を取り戻すために。
 ……あぁ、よろしくな、皆。」
「こちらこそ。改めて、よろしくお願いします!」

 

 

カモメは、力いっぱいに羽ばたいた。


高い高い、大空へと羽ばたくために。

 

 

 

 


☆あとがき
びっくりしたよね、3Tで勝負ついたんだ。本当に癒身の法も魔法の矢も回ってきたし、ゲイル姉さんも渾身の一撃でゴブリン葬ったんだ。他のシナリオ一切入ってないはずなのになんだこれ。お前ら本当に新米冒険者の動きか。
このパーティ、楽観的が4人もいるからそれはそれはもう緊張感のないパーティなんですよね!!大体のシチュエーションで笑ってる姿が目に浮かぶわこいつら!!
というわけで、ちょこちょこリプレイを上げていけたらなーと思ってるのでよろしくお願いします。

☆手札や手持ち一覧
アルザス:覇王氷河烈(傭兵都市ペリンスキー より)
アスティ:癒身の法(交易都市リューン より。でも設定上描写は癒身の法とは別扱いにしてます)
ロゼ:なし
ラドワ:魔法の矢(交易都市リューン より)
カペラ:癒身の法(こちらは癒身の法として描写します)
ゲイル:なし

賢者の杖→ラドワへ
所持SP:1000sp

 

☆出典

Ask様作 『ゴブリンの洞窟』より